最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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決意の覚悟編

55話「聖女と共に」

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 アルスとハルトの旅立ちの準備が整い、ルーピンとアルファもしっかりと2人と共に旅立てる準備が終わったのでエテルナと共に旅立つ時を迎えていた。2人と合流したエテルナは護衛である男性の中の1人にペンダントらしき物を手渡して長老に挨拶をする。
 長老を始めとするエルフ達はエテルナ達を見送りに来て里の広場に集まっている。エテルナから預かったペンダントらしき物を使って道を開いたのは魔導師の様な男性。
 彼の合図で道を示している異空間を繋ぐゲートは安定したのを確認した魔導師の男性が男性達を連れて先に入って行った。そして、エテルナとアルスとハルトも長老達の視線を背に受けながらゲートの中へと進んでいく。
 視界が開けたと同時に着いたのは周囲に鎧を来た騎士達が集まる大広間。アルスとハルトはルーピンとアルファを大人しくさせて状況の把握に務めていると、エテルナを呼ぶ青年の声が聞こえてきた。

「エテルナ姫」
「リルーズ卿、お迎えご苦労様です。すみません、急にいなくなってしまって」
「いいのです。彼らが神託にあった運命を掴む者達ですか?」
「恐らくは。彼らにも力を与えようと考えています。それがルーディス神の為だと信じて」
「分かりました。初めまして。私はエテルナ姫の婚約者でこのローガド国の神官のリルーズと言います。運命を掴む方々、ようこそ」
「初めまして。エテルナさんはお姫様だったんですね」
「まぁ、聖女って王族に多いもんな」
「正確に申しましたら、このローガドに王族は存在しません。聖女、それだけで姫扱いされているだけですね。リルーズ卿はそんな私を公私共々支えてくれる私の一番の理解者なんです。彼の存在が私に神々との戦いへの勇気になっていると申してもいいでしょう」
「はははっ、神官の癖に神々へ反旗を翻すと思われるかと思いますが。このローガドは堕ちた神と言われているルーディス神の信仰が主にある国。国民や貴族を始めとする国中の人々がルーディス神の加護を求めているのです。私はその加護を与える役目に近い神官職を選んだだけの男でございますよ」

 エテルナが被っていたフードを降ろしてシルバーの髪の毛をフワリと見せて微笑む姿はまさに聖女と呼ばれるに相応しい外見と雰囲気であった。そのエテルナを支える様に寄り添うリルーズも漆黒色の長い髪の毛を耳に掛けてエテルナの右手を握り締めている。
 そんな2人の姿を見つめる騎士達や護衛の男性達は皆微笑ましい表情を浮かべていた。アルスは少し羨ましそうな瞳をしていたがハルトは何も思っていないのかルーピンとアルファを見ている。
 2人とアルファ達に用意される部屋の準備が整うまでの間に、アルスとハルトはローガドの地図を貰ってガルガル支部とギルド支部へと赴く事にした。ガルーダのアルスの家族に真実を伝える事にしたのである。

「信じてもらえるといいね」
「親父達だって歴史の事は多少なりとも知っているし違和感を持っていたのも知っている。ちゃんと事実を知らせれば何かしらの行動は起こすだろう」
「それと……少し離れてもいい?」
「どうしたんだ?」
「ローガドって死者への想いを断ち切る場所があるって聞いて。……アレスさんの事を断ち切ろうと思うんだ」
「……大丈夫か?」
「うん。この旅で得てきたもの、失ったもの、色々とあるけれど……ちゃんと向き合わないと後悔すると思うから。だから行ってくる」
「あぁ……待っている」

 ハルトは地図を確認してローガドの中心から少し南に降りた場所にある公園のあるエリアに歩いて行った。ハルトの心を考えればアルスには同行を言い出すだけの勇気は持てなかったので見送る事にする。
 公園のエリアにまで来たハルトは周囲を見回して目的の場所を探し出す。それは教会が定期的に行っている死者へのレクイエムを歌うミサの会場。
 ハルトはエゾッフェ街で亡くなったと聞いた育ての親のアレスの事を近くの神父へと話す。神父はハルトの話を聞いて静かに想いをミサに乗せて天国へ送る為の歌を歌ってくれた。
 ミサの終わりに神父からある物を手渡される。それは亡くした人の名前を書いて燃やす為の木札。

「これに名を書いて、あの祈りの火へくべて下さい。そして願うのです。死者の新しい命への転生を」
「分かりました」

 木札にアレスの名を書き込んでから少し見つめて、祈りの火と呼ばれる場所に木札を投げ込んだ。パチパチ燃えていく木札から出る煙が空に上がっていくと同時にハルトの中にあったアレスへの罪悪感も上っていく、そんな感じをハルトは感じ取っていた。
 アレスへの想いを断ち切る為に訪れた教会からアルス達の元に帰ろうと歩くハルトは、腰から下げている聖剣エクスカリバーが鈍い光を帯びているのに気付く。これは元々アレスがハルトの守護者としての片鱗を見て、アルドウラ神の神託を受けて聖遺物として生み出した剣。
 それが鈍い光を帯びているのにはきっと理由があるのをハルトは知っている。エクスカリバーの柄を握ってハルトは1人言葉を吐き出す。

「神々に敵対する事はアレスさんの苦労と時間を無駄にする事になる。でも、きっとアレスさんも理解してくれるって信じている。僕が下す判断が間違っていない事を……」

 ハルトの中で神々へ戦いを挑む事はアレスの生き様を否定する事に繋がると思っている。だが、それでもハルトには譲れない決意がある。
 アルスと共に未来を掴む為にも、この戦いに身を投じる覚悟を持たないといけない事。そして、死を恐れては自分の心に向き合えない事をハルトは察していたのだ。
 そう、ハルトはエテルナと話をする必要があった。この戦いでアルスを守る為に自分に出来る事を知る為に。

「それではエテルナ様のお部屋にご案内致します」
「リルーズさん、少しお願いがあるんですが」
「私にですか?」
「はい、愛する人の力になりたい、その想いを持っているリルーズさんにしか頼めない事だと思うので」
「分かりました。私で力になれる事でしたら。それでは歩きながらお話ししましょう」
「ありがとうございます。実は……」

 エテルナのいる教会本部に戻ってきたハルトはすぐにリルーズに会ってエテルナに会いたい旨を伝えて案内を頼んだ。そして、そのリルーズに自分の願いを託す事にしたのである。
 ハルトの願いを知ったリルーズは真剣な顔をしながらエテルナの部屋に到着するとハルトに向き合った。それは愛する存在を持つ者同士だから分かる言葉。

「貴方は彼を愛しているのであれば生きる、それが絶対では?」
「それが叶う状況なら叶えます。でも……僕の本能的な直感で分るんです。この戦いで僕には未来がないって事が。なら最愛の存在を残していく事になるのであれば、その最愛な存在を願う為に出来うる事をしていくのが一番の愛情だと思っているので……」
「それが貴方の願いだとして、彼はそれを?」
「知りません。でも、伝えるつもりはありません……彼、アルスには未来を生きてほしいと願っているので」
「悲しき事です……愛する者と共に未来を生きれないと悟る事がこんなにも悲しみをもたらすなど……」
「それでも最後の時まで僕はアレスを愛し続けます」

 リルーズはハルトの強い覚悟を聞いた上でハルトの願いを引き受ける。エテルナの部屋にノックをしたリルーズはエテルナの部屋から入室の許可が聞こえたのを受けて中にハルトを導いた。
 エテルナはハルトの訪問を読んでいたのだろう、驚きはしないで部屋に入ってくるハルトの為に温かい紅茶を用意して待ってくれていた。リルーズはエテルナにハルトの願いを話、エテルナはそれを踏まえた上でハルトと向き合う為に話をするのだった。
 一方、用意された部屋で1人ハルトの帰りを待ってたアルスはベッドの上で寝転んで、右手の甲に刻まれた模様を眺めていた。この模様が自分を反逆者にしているのも重々理解はしている。
 実家の家族に真実を記した手紙を送ったので、届くのは最低でも1週間後だろう。アルスの中でこの戦いにおける自分の役目について考えていた。
 ハルトは命を落としてでも神々の暴挙を止めたいと言っていた。それはアルスとの別れを考えているのも分かっている。
 だからこそ、アルスだって考えていた。アルスもハルトと一緒に死ぬ事を。

「俺1人生き残って何が幸せになれるんだ。俺の世界はハルトありきの世界だって言うのに」

 アルスの想いは叶わない。ハルトの運命とアルスの運命は交差する事が叶わないまでの距離が開いてるのを知っているのはエテルナのみだからだ。
 そして、同時にエテルナはハルトとアルスの関係に悲しみを覚えてしまう。2人が出逢った事が運命だと言うのであれば、死こそ2人の本当の幸せだとルーディス神は告げるだろうと知っているから。
 アルスはハルトの存在を失う未来を知る事はない。そして、ハルトは自分の未来を知り残された時間をどうアルスの為に使うのかを考える事になる。
 残された時間はそう多くはない。そのタイムリミットは確かに落ち始めている砂時計が示しているのだから――――。
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