最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

文字の大きさ
上 下
85 / 105
聖戦前編

85話「決戦の幕開け」

しおりを挟む
 リーデル台地の両側に陣取っていた両陣営、しかし、神々の奇襲を受けて微かに動きを見せた反乱軍はすぐにこれを迎撃し動きを静かにして相手の出方を伺う姿勢を見せていた。ルーディス神が前線にいる事もあって3神中の1神であるダラズ神が鎧に身を包んだ姿で地上に降り立つ。守護を受けている人間達はその降り立ったダラズ神に頭を下げて忠誠を誓う姿を見せてダラズ神の怒りの矛先から逃れていた。

「奴等には我々の加護はない! 恐るべき相手ではない! 我々の方こそが正義! いざ行け! 勇気ある神々の兵士達よ!!」

 ダラズ神の持っていた聖遺物が光を帯びて反乱軍へと向かって放たれる。だが、これをルーディス神が魔法で中和し開戦の合図と言わないばかりに反乱軍上空に自分の力を具現化した大きな剣を出現させる。
 これを見た反乱軍の攻撃部隊を指揮するアルスがルーピンに飛び乗り上空に上がって指示を出す。それに合わせて反乱軍の移動が開始、コル率いる獣人軍は東から、ハンター軍率いるベリオは西から神軍を包囲するように動き始める。
 神軍はこれに守護者達が先頭に立って応戦し均衡が取られる、しかし……ダラズ神は怒りと焦りを感じていた。思っている以上にルーディス神の力が守護者達の力を削りつつあるのに気付いたからだ。

「我が力を与えん! この力で反乱軍を押し返し捻じ伏せよ!」

 ダラズ神の身体から神力が生まれて人々に力を与えていく。守護者達を始めとする神軍の者達は力を受け取り徐々に反乱軍を押し返し始める。
 これに対してコル、ベリオがルーディス神の加護の力を解放し押し返されていた戦況をまた均衡となる位置にまで押し戻す。空の部隊である竜騎士部隊はアルシェードを中心に高高度からの攻撃を始める。
 竜達のブレスを高高度から浴びて死んでいく者達も出るが、大半の人間達がブレスに対しての魔法で凌ぐシールドを展開。アルシェードを中心に竜騎士達は竜達から跳躍して落下攻撃を仕掛け地上戦にもつれ込ませる。

「いいか! この戦線を維持して力を奪え! 俺達には後はない!」
「竜騎士相手に接近戦をするなー! 弓兵で応戦しろ!」

 戦場と化している台地の上で幾多の血が流れ、そして数多の人間達が命を落としていく。これを生み出して餌だと言っている3神はまだ足りない攻撃に怒りを見せている。
 ルーディス神のいる反乱軍後方の本陣では奇襲攻撃で動きを見せていたが、騎士達は警戒をしたままエテルナの祈りを守り続けていた。ティドールとハルトもエテルナの周辺を、ガルディア達アルスの肉親がエテルナ本人の護衛に付いて厳重な守備態勢を決めている。
 エテルナが狙われるのは予想の範囲ではあった。ルーディス神の力である人々の力、「生きたい」との強い願いが祈りに乗ってルーディス神の力となる事は3神も知っているから。

「前線が上手い事、均衡を維持している。このまま時間を潰せればいいのだが……」
「アルスやコル君達の動きに掛かっています。でも、大丈夫だと信じています。彼らは幾度の戦場を生き抜いてきた者達。この程度の戦術を果たせない様な人間達じゃありません」
「エテルナ様の護衛に関してもハルト君の意見が通ったと聞く。何か作戦があるのかな?」
「エテルナさんを狙ってくるのは元々から分かっていた事です。それを逆手に神軍の力である神力を削る為の布陣を組んだだけですよ。僕よりティドールさんの方がこの布陣の実力をご存知じゃないですか?」
「はははっ、それは見抜かれているなら素直に答えよう。確かにこの布陣なら前線が崩されてもこの本陣は生き残れるだけの守備力を持つ。だが、同時に切り札である禁呪の発動に関わる魔力の増加も見込めるとなれば的にされる訳にはいかないのが現実だ」
「はい。僕や他の人間が使う禁呪はいざって時に使えるだけの魔力が必要になりますが、この布陣ならその魔力を補う事は出来ます。ただ標的にされてしまえば魔力を練り上げる事も困難になりますから、前線の動きに合わせる必要があるのが欠点です」
「ハンターとしての知識がここまでさせているのかい?」
「経験ですよ。アルスと共に旅をしてきて色々な経験をしてきた。それを活かしているだけです。そんなハンターとしての知識は使えてません」

 照れくさそうに微笑むハルトはティドールにそう告げると報告に意識を向ける。ティドールにはこの布陣を提案するだけの覚悟と確信を持っていたからだろうとの推測が立ったが、言葉にして言う事はなかった。
 戦況に新たな動きがあった。アルドウラ神から指示を受けたレジャ神が戦場に君臨し、神軍に加護を与え始めたのである。
 これによって均衡していた前線は徐々に神軍有利の体勢になっていく、が。これもまたルーディス神の力を受けた竜騎士達の奮闘もあって押し戻される。
 一向に有利な状況に持ち込めない事で怒りを露わにする2神をルーディス神は冷静に見ていた。ルーディス神の出番はアルドウラ神が出てきて3神が揃った時、そうハルトに言われている。

「まだアルドウラは出てこない、か……よっぽど慎重さに磨きを掛けたな」
「ルーディス神」
「アルス、どうした」
「少しルーピンと話してくれ。何か伝えたいらしい」
「ほぅ? 竜よ、私に何を伝えたい」
『クオキュウ』
「ほほぅ、レジャの付けている装具にアルドウラの力が宿るのを見た、のだな? そうか……どうも勘違いをしていたのかも知れんな」
「勘違い? どういう事だ?」
「まずレジャとダラズは恐らく……アルドウラには捨て駒にしか見えてないのだろう」
「神様同士で捨て駒扱いか。それで、勘違いの原因はアルドウラ神か?」
「あぁ。アルドウラ……もしかしたら切り札を用意しているのやも知れん」
「どんな切り札か先に見極めないとヤバそうだな……」
「エテルナかアルスかハルト辺りだろう。アルドウラには気の流れを見る力がある。私の気を断って弱らせたいのが本心だろうからな」

 ルーディス神は空を見上げて持っていた片手剣を空に翳す。その片手剣に光が差し込むと片手剣から光の線が生まれ、その線は戦場を包み込む様に伸びていく。
 アルスとハルトにはいざって時に戦う力があるがエテルナにはそれはない。危惧しておく必要もあるが、ルーディス神は遅れを取る考えはない。
 線が戦場全体を結んだのを確認したルーディス神は線に乗せて戦場全体に魔力を送った。その結果、3神の加護を受けていた守護者達は無力化されてただの人間と化し、兵士達の力も無力化されてルーディス神の力を受けているコル達は逆に強化されて戦況を一気に動かす。
 アルスはルーディス神の戦略を見て思った。「この神様、ジワジワと痛めつけるの好きな神様だな」と。

「このまま一気に押し切りたい所ではあるが、アルドウラがそれを許すとは考えられない。手札を見せてない奴の動きには要注意しろ」
「それじゃ俺も最前線に出て士気を上げる為に血祭りに参加してくる。タイミング間違うなよ」
「お前もな」

 ルーピンと共に最前線に向かうアルスの背を見送ってルーディス神は瞳を伏せる。アルドウラ神の動きを掴む為に意識を大陸全体に添えているのだ。
 本陣ではエテルナの一時的な祈りがあって騎士達の体力も回復していた。本陣が危険になると言う事は同時に前線が崩された事を意味する。
 ハルトは適時戦略を指示しながら本陣の守護にも要注意していた。そろそろルーディス神は動き出すと伝えてきてもおかしくない。
 そこにアルス達神々の武器の保有者達が前線を押し上げた、との報告を受けて騎士達も気合いが入り始める。アルスの名を聞いたハルトは拳を握り締めて沸き立つ感情を戒める。
 ここで自分まで浮かれたら危ない、そう言い聞かせて冷静に戦況を伺っていた。そこに強大な力を感じ取る。

「来たか!」
「全員聖女様をお守りしろ! 来るぞ!」
『このような雑魚に守られし聖女など聖女として認めん。来るがいい私の元に。そして私の為に祈れ、我が聖女』
「お断りします。私は身も心もルーディス神様に捧げた聖女。アルドウラ神の聖女ではありません!」
『そのルーディスは過去に人間の女を食い物にした神ぞ。そんな神に身も心も捧げたお前が裏切られぬとは思わないのか』
「エテルナさん! 聞いたらダメだ!」
「大丈夫です。私はその事実を知っています。貴方の言う通りルーディス神様は過去に聖女だった女性を妻にしようとした事があります。勿論聖女の女性は私と同じ身も心も捧げました。でも……ルーディス神様の力を奪ったのは貴方ではありませんかアルドウラ神!」
『……そこまで知っていてなおルーディスの味方となるか。愚か。その様な聖女など力にならぬ。ここで死ぬがいい! せめてもの慈悲だ!』
「そんな事をさせると思うな!」

 エテルナに伸びる白い手を切ったのはガルロだった。ティドールに借り受けた聖騎士の剣を使ってエテルナの守りを始める。
 ハルトとティドールも武器を構えてアルドウラ神と対峙し始めるが、アルドウラ神はハルト達の事は眼中になかった。あるのは……。

『私の聖女はお前ではない。ここにいる……そこの娘よ!』
「っあぁぁぁぁぁ!!」
「ルル様!」
「ルル義姉さん!!」
「ルル姉様!」

 予想外の事にハルトもエテルナも動きを止めるが、ティドールがすぐにエテルナからルルを引き離す。意識を失ってるルルをアルドウラ神の神力が包み込んでティドールが奪い返そうとしても既に力に飲まれたルルはアルドウラ神の前で伏せていた瞳を開き、自我を持たない操り人形と化していた。
 まさかの事態にハルト達は混乱するが、すぐに現実を見る。このままだとルルの命も危ない。
 ハルトの決断が下される事となる――――。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

馨の愛しい主の二人

BL / 連載中 24h.ポイント:248pt お気に入り:99

この想いを声にして~アナタに捧げる物語~BL編

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:12

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL / 完結 24h.ポイント:1,698pt お気に入り:156

いつから魔力がないと錯覚していた!?

BL / 連載中 24h.ポイント:29,892pt お気に入り:10,494

幽閉王子は最強皇子に包まれる

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:95

鬼騎士団長のお仕置き

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:27

Make A Joyful Noise!

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

処理中です...