【R18】傲慢な王子

やまたろう

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第六章 愛民の王太子  メイヴィス VS 仮面伯爵

1・檸檬ティーと側近選び

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 遠隔魔法陣を使ってキュリアスを助けた後、執務室へ戻ったメイヴィスの顔は強張っていた。


 帝国とは実に恐ろしい国だ、様々な欲望に狂った奴ばかりではないか。ジャスティンは男に襲われており、キュリアスは殺されそうになっていた。


 メイヴィスの機嫌は底を彷徨っていた、眉間には深々とシワが刻まれ、重々しい空気を纏っている。


 メイヴィスの傍らで書類を片付けつつ、それとなく様子を伺っていたウィリーは立ち上がり、いつものアレを準備した。


「殿下、どうぞ」


 メイヴィスにレモンを添えて紅茶を差し出す、赤茶金色をしたレモンティーはメイヴィスの機嫌を直す魔法の飲み物だ、既に彼の表情は和らいでいる。


「有難う、ウィリー」


 メイヴィスは紅茶にそっと檸檬レモンを浮かべる、香りを楽しみ赤茶金色の紅茶を優しい目で見つめている、レモンティーはメイヴィスの大好きな飲み物だ。


「予定ではそろそろ帰って来る頃だね、何か連絡はあったか?、ウィリー」


「いえ何も、いつも通りです」


 メイヴィスはレモンで赤茶金に染まった紅茶を見つめる。それは親友の髪や瞳と同じ色で、見るだけでメイヴィスの心を癒してくれる。主に外務を担当して諸国を外遊している彼とは暫く会えていない。


「そうか、早く会いたいな。キース」


 久し振りに親友に逢えると思うと、冷えていた心が温まりメイヴィスの心は踊りだす、レモンティーは体も心も温めてくれる魔法の飲み物だ。


 気分が上昇したメイヴィスは仕事に戻ったウィリーを眺めて、彼と初めて会った日の事を思い返していた。あれは僕が13歳、ダルトンが10歳のお茶会の時だったな・・・・




 ◇◆◇◆◇◆




「メイヴィス、今日がどういう日か分かっていますね?」


 庭園で同年代の子達を眺めていた僕に母上が確認をしてきた。僕の両隣には心配そうな顔の母上と笑顔のダルトンが座っている。


「勿論です母上、今日はダルトンの友人兼側近候補の選定を行う日です」


「ああ、やはり。いいですか、ダルトンよりも先に貴方の友人兼側近候補を選ぶのです。本来なら貴方が10歳の時に済ませておく事なのにダルトンが10歳になる迄は決めないと貴方が言うから、一緒に行う事になったのですよ」


「仕方がありません母上、可愛いダルトンに残った者を与えたく無いですから、ダルトンの友人を選んだ後で僕の方を選びます」


「ああ、そういう所が心配なのですよ、メイヴィス。貴方はいずれ王になるのです、貴方につく側近は一番優秀な者を選ぶべきです、ダルトンの方は後になさい」


 母上から厳しい口調で注意を受ける僕を見たダルトンは シュン として僕を見上げる。


「兄上、僕は後で良いです」


 星を散りばめた夜空の瞳がちょっぴり潤んで きらきら してる、ああダルトンは今日も可愛い。僕はダルトンを ぎゅっ と抱きしめた。


「メイヴィス!、放しなさい」


 半分以上扇で隠れた母上の顔が引き攣っている、僕はダルトンを解放して母上を安心させる事にした。


「ご心配には及びません、ダルトンの友人に求める事と私の友人に求める事は違いますから、優秀な人材の取り合いにはならないでしょう」


 母上は疑わしげな眼付きで僕を見ているが本当の事だ。ダルトンには性格が良くて、可愛くて、頭も良い子を選ぶつもりで実はもう候補も絞っている、僕の方は好悪の感情がほとんど無いから誰でも良い。


「ダルトンはどんな子とお友達になりたいかな?」


 候補は絞っているが、僕は一応ダルトンに聞いてみた。

「僕は良く分からないから、でも兄上が選んだ子なら大丈夫です。兄上が信頼出来る子なら僕もきっと仲良くなれます」


 ダルトンが きゅるん とした瞳で僕を見てくる、ああ可愛い。僕はダルトンを ぎゅっ と抱き締める。


「んんん、メイヴィス!」


 どうやらまた母上のご機嫌を損ねたらしい、扇から出ている顳顬こめかみに浮かぶのはもしかして青筋だろうか、ここは素知らぬ顔でやり過ごそう。


「実はダルトンの側近候補の一人はロランに決まりました、先に顔合わせをして制圧も問題がない事を確認しています。もう一人はジャスティンが良いと考えています」


 母上は頷いて少し思案すると自身の考えを僕に提示してくる。


「そうですか、ロランはそれで良いでしょう。ですがジャスティンは貴方の側近候補に相応しい子だと私は考えています。ダルトンには他に良い子を選び直しなさい」


 僕もここは譲れない。何しろジャスティンは、容姿は可愛くて性格は素直でちょっと天然で卑屈さの欠片もない明るさで頭も良い、彼ほどダルトンに相応しい子は居ないからだ。


「母上、僕はもう決めたのです。ジャスティンはダルトンの側近にします」


「・・・・・」


 母上は何も言わなかった、今までの経験から多分言っても無駄だと判断したからだろう。僕は自分の事はともかくダルトンに関する事だけは自我を押し通すからだ。


 僕は遠くに居るジャスティンを眺めていた、すると近くいた子がジャスティンに足を引っ掛けた。転びそうになった彼を兄のウィリアムが助けて事なきを得たが、逆にウィリアムは自分の足が縺れて転んでいる。


「ふふっ」


 僕は思わず笑った、あそこにも弟を護る兄がいる、僕の笑い声にダルトンが反応する。


「兄上、どうかされましたか?」


「ん?、いや、僕の側近候補が見つかったかも知れない」


 ダルトンと話している間に諍いが大きくなったのか、ジャスティンが今度は噴水へ突き飛ばされた。僕は思わず席から立ち上がる。水に浸かりそうだったジャスティンを間一髪でウィリアムが引き上げて、その反動で代わりに噴水に落ちた。


「ぷっ、くっ、あははははは」


 ウィリアムは泥だらけの上に水浸しになって、ぐちゃぐちゃだ、一方ジャスティンは綺麗なままで二人の対比は笑える。


 頭脳も容姿も地位も全てに恵まれているジャスティンは人の嫉妬を買いやすい、なのに性格が歪まないのはウィリアムがああして護っているからだろう。


「母上、僕の友人兼側近候補を決めました。一人はキース・ランバート、もう一人はあそこに居る、ウィリアム・シーリーです」


「・・・・・」


 泥と水でぐちゃぐちゃのウィリアムを見た母上はため息を付いたが諦めた様だ。


「・・・・好きになさい」


「はい、では新しい友人に着替えを提供したいので、ダルトン共々これで失礼します」


 僕は側仕えに指示を出し、ダルトンを連れて新しい友人に会いに行く、弟を愛するウィリアムならきっと良き友人になれるだろう。


 その予感は正しく、私とキースとウィリーは密かに兄同盟なるものを作って語らう友人になった。


 キースが戻るのが待ち遠しい、目の端にはウィリーの姿がみえる、メイヴィスは三人が揃う日が楽しみで心が浮かれて自然と微笑んでいた。


 それを目の端に捉えたウィリアムも人知れず微笑みを浮かべる、二人が醸し出す穏やかで心地良い空気が執務室を満たしていた。


 そこにイオニスが入って来た。







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