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第三章
シャルミールの魔女2
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執事がそう言うと、ミラは額の血管をピクピクさせながら言葉を返した。
「ふふふ、シャルよ。どうしてじゃろうな?時々儂はこの国のブタ国王よりおまえに対する殺意が上回るときがあるんじゃがな?」
シャル・ドゥ・ベルトランは絵に描いたような美青年であるが、ミラの父の代から執事を務めている。普通に考えれば相応の歳であるのだろうが、見た目はせいぜい二十代前半である。
以前は物静かな執事であったが、ミラが侯爵として領地を治めるようになると、こうした冗談を言うようになり始めた。そんなやり取りをしていると、ひとりの少女が慌ててミラとシャルが話している部屋にノックもせず慌てて入って来た。そして、何もないところでコケる。
「何をしておる、エルザ?」
「イデデ、あ、すみません。ミラさまぁ、先ほど聞こえてしまったのですがラザール陛下の出兵要請をお断りするつもりだとか?」
「うむ。そのつもりじゃが、何か問題があるか?」
「理由はなんとするのですか?」
「貴様みたいなブタが儂に指図なんかするのは気に入らん!勝手に行って取り敢えず百回くらい死んで来い!というのはどうじゃ?」
「それ、ただの罵詈雑言ですよね?しかも、出兵要請を断るどころか喧嘩売ってますよね?」
「良い断り文句だと思うんじゃがな?」
エルザは呆れたような顔をしながら、小さく溜め息をついた。この侯爵嬢は前からこうなのだ。頭が良くて最適な解決策はすでに出ているのに、性格的に嘘が付けない。イヤなものはイヤなのだ。交渉には全然向かないタイプである。
そのことを、ミラ自身もわかっているからこそ、このエルザ・ポニャトフスキという少女には、彼女が気乗りしない交渉事は任せている。
「病床に臥せっているとでも伝えておきますね。そうでもしないと、内戦になっちゃいますよ」
「儂はむしろ内戦になればいいと思っておる。正々堂々と奴をぶちのめせるんじゃからな!」
ミラは意地の悪い顔をしながら右手でグーを作り、左の掌でパチンと受け止めて殴る素振りをしてみせる。それを見てエルザはもう一度溜め息をした。
「じゃがな、まじめな話。ここら辺が潮時かもしれんの」
「どういうことですか?」
「ローレンツと戦になるのなら、いっそのこと奴らに協力するというのも手かもしれんじゃろ?」
「はぁ・・・・・・」
エルザは、それ以上ミラと会話するのをやめることにした。
ノルディッヒ州にいたソフィアの父はレーヘと国境を接しているため、レーヘの国内事情についても耳にする機会が度々あった。そこから娘のソフィアが得られる情報は断片的な情報のみであったが、彼女はシャルミールの魔女とレーヘ王族が対立していることを知る。
その対立自体はレーヘ国内では有名である。しかし、そこから別の情報を組み合わせていくと、その対立は相当深刻なものであることを悟ったのだ。アルスはソフィアから詳しい提案内容を聞いて、すぐに行動を起こす。フリードリヒと会い、ソフィアの提案を元にレーヘ国内に対してある交渉をするよう頼んだのだ。
そして、同時にベルンハルトとブラインファルク家の動きにも注視するよう進言をする。その話し合いをする最中、アルスはフリードリヒがレーヘに送ったという使者の様子について尋ねた。フリードリヒの表情が曇る。
「おまえの想定通りだと思うが。ラザール国王は激怒していたそうだ」
「でしょうね・・・・・・」
「殺されずに帰って来ただけマシと思えば良いのかもしれんが・・・・・・」
「彼女に動いてもらうしかなさそうですね。シャルミールの魔女に」
「レーヘのことは私に任せておけばいい。アルス、おまえはベルンハルトのことに集中しておいてくれ」
そして、フリードリヒは一方で、アルスには知らせずレーヘ国内にある工作を仕掛けた。同時に、彼はブラインファルク侯爵領への往来を禁止する命令を出す。
一通りの仕事を終えたアルスたちは、思ったよりも長い間留守にしてしまっていたエルン領に帰ることになる。帰る前に今まで泊まっていた邸宅に寄ると、リヒャルトとソフィアが待っていた。アルスはソフィアとリヒャルトにフリードリヒとの話し合いの内容を伝えた。
「なるほどですわね。そういうことでしたら、やはり陛下は間違いなくレーヘ国内に工作すると思いますわ」
「つまり、シャルミールの魔女と交渉するのではなく工作を入れるということか」
「そのことは、陛下は一言も殿下にはおっしゃらなかったのですか?」
リヒャルトが、不思議な顔をしてアルスに尋ねる。
「言わなかったよ。というより、言う必要が無かったということかな。だって、僕らが目指していることとは反対だからね」
そのアルスの言葉を聞いて、妙に納得したようにリヒャルトは何度も頷いた。
「あっ、そうですわ!アルスさま。例の物は手に入りましたか?」
「ああ、これだね」
「ふふふ、シャルよ。どうしてじゃろうな?時々儂はこの国のブタ国王よりおまえに対する殺意が上回るときがあるんじゃがな?」
シャル・ドゥ・ベルトランは絵に描いたような美青年であるが、ミラの父の代から執事を務めている。普通に考えれば相応の歳であるのだろうが、見た目はせいぜい二十代前半である。
以前は物静かな執事であったが、ミラが侯爵として領地を治めるようになると、こうした冗談を言うようになり始めた。そんなやり取りをしていると、ひとりの少女が慌ててミラとシャルが話している部屋にノックもせず慌てて入って来た。そして、何もないところでコケる。
「何をしておる、エルザ?」
「イデデ、あ、すみません。ミラさまぁ、先ほど聞こえてしまったのですがラザール陛下の出兵要請をお断りするつもりだとか?」
「うむ。そのつもりじゃが、何か問題があるか?」
「理由はなんとするのですか?」
「貴様みたいなブタが儂に指図なんかするのは気に入らん!勝手に行って取り敢えず百回くらい死んで来い!というのはどうじゃ?」
「それ、ただの罵詈雑言ですよね?しかも、出兵要請を断るどころか喧嘩売ってますよね?」
「良い断り文句だと思うんじゃがな?」
エルザは呆れたような顔をしながら、小さく溜め息をついた。この侯爵嬢は前からこうなのだ。頭が良くて最適な解決策はすでに出ているのに、性格的に嘘が付けない。イヤなものはイヤなのだ。交渉には全然向かないタイプである。
そのことを、ミラ自身もわかっているからこそ、このエルザ・ポニャトフスキという少女には、彼女が気乗りしない交渉事は任せている。
「病床に臥せっているとでも伝えておきますね。そうでもしないと、内戦になっちゃいますよ」
「儂はむしろ内戦になればいいと思っておる。正々堂々と奴をぶちのめせるんじゃからな!」
ミラは意地の悪い顔をしながら右手でグーを作り、左の掌でパチンと受け止めて殴る素振りをしてみせる。それを見てエルザはもう一度溜め息をした。
「じゃがな、まじめな話。ここら辺が潮時かもしれんの」
「どういうことですか?」
「ローレンツと戦になるのなら、いっそのこと奴らに協力するというのも手かもしれんじゃろ?」
「はぁ・・・・・・」
エルザは、それ以上ミラと会話するのをやめることにした。
ノルディッヒ州にいたソフィアの父はレーヘと国境を接しているため、レーヘの国内事情についても耳にする機会が度々あった。そこから娘のソフィアが得られる情報は断片的な情報のみであったが、彼女はシャルミールの魔女とレーヘ王族が対立していることを知る。
その対立自体はレーヘ国内では有名である。しかし、そこから別の情報を組み合わせていくと、その対立は相当深刻なものであることを悟ったのだ。アルスはソフィアから詳しい提案内容を聞いて、すぐに行動を起こす。フリードリヒと会い、ソフィアの提案を元にレーヘ国内に対してある交渉をするよう頼んだのだ。
そして、同時にベルンハルトとブラインファルク家の動きにも注視するよう進言をする。その話し合いをする最中、アルスはフリードリヒがレーヘに送ったという使者の様子について尋ねた。フリードリヒの表情が曇る。
「おまえの想定通りだと思うが。ラザール国王は激怒していたそうだ」
「でしょうね・・・・・・」
「殺されずに帰って来ただけマシと思えば良いのかもしれんが・・・・・・」
「彼女に動いてもらうしかなさそうですね。シャルミールの魔女に」
「レーヘのことは私に任せておけばいい。アルス、おまえはベルンハルトのことに集中しておいてくれ」
そして、フリードリヒは一方で、アルスには知らせずレーヘ国内にある工作を仕掛けた。同時に、彼はブラインファルク侯爵領への往来を禁止する命令を出す。
一通りの仕事を終えたアルスたちは、思ったよりも長い間留守にしてしまっていたエルン領に帰ることになる。帰る前に今まで泊まっていた邸宅に寄ると、リヒャルトとソフィアが待っていた。アルスはソフィアとリヒャルトにフリードリヒとの話し合いの内容を伝えた。
「なるほどですわね。そういうことでしたら、やはり陛下は間違いなくレーヘ国内に工作すると思いますわ」
「つまり、シャルミールの魔女と交渉するのではなく工作を入れるということか」
「そのことは、陛下は一言も殿下にはおっしゃらなかったのですか?」
リヒャルトが、不思議な顔をしてアルスに尋ねる。
「言わなかったよ。というより、言う必要が無かったということかな。だって、僕らが目指していることとは反対だからね」
そのアルスの言葉を聞いて、妙に納得したようにリヒャルトは何度も頷いた。
「あっ、そうですわ!アルスさま。例の物は手に入りましたか?」
「ああ、これだね」
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