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第四章
勝利、そして・・・・・・
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やがて、その笑い声は涙声になっていく。彼がまだ少年だった頃、父が主催するパーティーに出席することになった。そこで運命的な出会いをする。パーティーに出席していた地方貴族の令嬢だった彼女は、美しく天真爛漫な少女だった。一目惚れだった。
リュシアンは何度か会うためになんとか理由を捻り出し、彼女と話す機会を作った。話していくうちに彼女の心も少しずつリュシアンに惹かれていった。やがて、ふたりは恋に落ちる。それまで、色の無かった人生が一気に色づいていくような、一瞬一瞬が夢のような時間だった。
そして、その夢のような時間は、突然終わりを迎える。彼女はラザールの目に留まり、全てが破壊されてしまった。文字通り全てを。彼女はショックの余り自死を選び、リュシアンは絶望に突き落とされた。
やがて、涙も枯れ果てるほどの年月が過ぎていく。そのうちに彼は全てに諦めてしまっていた。国の制度に抗うなど、まして国王に抗うことなど出来るわけがない。そう思って封印してきた想いを、このふたりはあっさりと解いてしまった。彼が到底口にし得なかったことを平然と言ってのけるふたりに、何故か笑いが込み上げてきたのはそのせいだ。
「私にもあなたたちのような強い意志があれば・・・・・・違う結果になっていたのかもしれない」
アルスとミラの言葉は、リュシアンを突き動かした。
「・・・・・・わかりました、協力させていただきます」
リュシアンは、城の最上階にある書庫からレーヘの詳細な戦略地図をアルスとミラに渡した。そこには、ミラでさえ知らなかったレーヘ国内の狼煙台の位置や、城や砦についての情報が載っていた。
ミラは2000の兵をアルル城に常駐させる決定をする。水で被害を受けた城塞を、今度は一刻も早く元に戻さなければならない。サン・セ・ルーヌで得た物資と合わせて、万が一のための防衛体制を再構築していく。
「アルス殿下よ。もしかしたら、サン・セ・ルーヌからイヴニール経由で情報が漏れるかもしれん。それを見越してジヴェルーニから狼煙を上げておくよう命じておいた。グラン・セッコの中央軍と東のロアールの連中にはここが落ちたことが伝わるはずじゃ」
「ありがとう、ミラ侯爵。次の僕らの目標はイヴニールだ。ここも出来るだけ迅速に取りたい」
「わかっておる、狼煙が伝わればリザが動くじゃろうて。ふふふ、やつら驚くぞ、まさかアルルが落ちるとは夢にも思っておらんじゃろうからな」
ミラは愉快そうに笑うと、早速出兵準備に取り掛かった。
中央でイヴニールを牽制していたリザ将軍に報告が入ったのは、アルスたちがアルル城を落としてから僅か三時間後のことだった。
「リザさん!黄色の狼煙が上がってますよ!」
サシャが南の方角を見ながら叫ぶ。声を掛けられたリザも後ろを振り返ってみると、はるか遠くに黄色の煙が狼煙台からもくもくと上がっていた。
「黄色・・・・・・勝利の色。ということは、アルル城を抑えたのか!」
リザは意味を理解すると、驚きの声を上げる。レーヘ国内では最も難攻不落の城と呼ばれてきた。そんな城をまさかこんなに短期間で落とせるとは思ってもいなかった。
「っていうことは、あたしらはもう行っちゃっていいのかな!?」
サシャがキラキラと期待した目でリザを見る。攻城戦に何を求めてるんだコイツは?とリザは思いつつも頷いた。
「城塞都市イヴニールを守るのは3000から5000、対して我らは5000。今のうちにおびき出して数を減らしておくのも良いかもしれないな」
「ミラさまっていつここに着くんだっけ?」
「アルル城からここまで一日ってところだな」
「大軍で囲まれたら絶対閉じこもっちゃう!でも、こっちがかよわ~い乙女ふたりってわかれば、敵は全員出てきますよねっ?ねっ?」
「ん・・・・・・?」
こんな巨大な弓背負った筋肉ムキムキのデカい女のどこに“かよわい”要素があるんだ?コイツが“かよわい”なら、もれなくゴリラも“かよわい”生き物のカテゴリーに入るぞ・・・・・・。リザはサシャの同意の求めには応えずに、さらりと話を変えた。
「ともかく行くぞ!ここからだってイヴニールまでは距離がある。早く行かないとミラさまの方が早く着いてしまうかもしれないからな」
リザはシャルミールの州境を離れてイヴニールに向かって軍を前進させる。その動きは、城塞都市イヴニールの監視の目にもかかった。イヴニールの守備を任されているのは、マクシミリアン公爵のふたりの部下スラス・マイヤールとドレン・ショニエである。彼らふたりに課せられた任務はイヴニールの守備と、レバッハへの糧食の輸送である。
「斥候より報告です!南のグラン・セッコよりシャルミールの軍がこちらに向かって来ています!」
城塞都市、イヴニールの主塔に居たふたりに斥候から連絡を受けた兵士が報告をする。主塔からは遠くを見渡せるが、まだ敵影の姿は視認できなかった。
「ここ数日、州境に張り付いていた部隊が動いたか。数は?」
「はっ、5000前後かと思われます」
「ドレン、どうする?こちらも打って出るか?」
「そうだな。ここが囲まれたら、前線に送るための輸送路も抑えられてしまうのはまずい。俺が出るからおまえはここの守りを頼む」
それから、すぐにスラスとドレンは動いた。
「レバッハのマクシミリアン公爵に状況を伝えてくれ」
ドレンは、そう言ってレバッハで包囲戦を展開しているマクシミリアン公爵に向けて伝令を飛ばす。同時にイヴニールからは救援を求める狼煙が上がる。
ドレン軍とリザ軍が相対したのはその日の夕刻であった。
リュシアンは何度か会うためになんとか理由を捻り出し、彼女と話す機会を作った。話していくうちに彼女の心も少しずつリュシアンに惹かれていった。やがて、ふたりは恋に落ちる。それまで、色の無かった人生が一気に色づいていくような、一瞬一瞬が夢のような時間だった。
そして、その夢のような時間は、突然終わりを迎える。彼女はラザールの目に留まり、全てが破壊されてしまった。文字通り全てを。彼女はショックの余り自死を選び、リュシアンは絶望に突き落とされた。
やがて、涙も枯れ果てるほどの年月が過ぎていく。そのうちに彼は全てに諦めてしまっていた。国の制度に抗うなど、まして国王に抗うことなど出来るわけがない。そう思って封印してきた想いを、このふたりはあっさりと解いてしまった。彼が到底口にし得なかったことを平然と言ってのけるふたりに、何故か笑いが込み上げてきたのはそのせいだ。
「私にもあなたたちのような強い意志があれば・・・・・・違う結果になっていたのかもしれない」
アルスとミラの言葉は、リュシアンを突き動かした。
「・・・・・・わかりました、協力させていただきます」
リュシアンは、城の最上階にある書庫からレーヘの詳細な戦略地図をアルスとミラに渡した。そこには、ミラでさえ知らなかったレーヘ国内の狼煙台の位置や、城や砦についての情報が載っていた。
ミラは2000の兵をアルル城に常駐させる決定をする。水で被害を受けた城塞を、今度は一刻も早く元に戻さなければならない。サン・セ・ルーヌで得た物資と合わせて、万が一のための防衛体制を再構築していく。
「アルス殿下よ。もしかしたら、サン・セ・ルーヌからイヴニール経由で情報が漏れるかもしれん。それを見越してジヴェルーニから狼煙を上げておくよう命じておいた。グラン・セッコの中央軍と東のロアールの連中にはここが落ちたことが伝わるはずじゃ」
「ありがとう、ミラ侯爵。次の僕らの目標はイヴニールだ。ここも出来るだけ迅速に取りたい」
「わかっておる、狼煙が伝わればリザが動くじゃろうて。ふふふ、やつら驚くぞ、まさかアルルが落ちるとは夢にも思っておらんじゃろうからな」
ミラは愉快そうに笑うと、早速出兵準備に取り掛かった。
中央でイヴニールを牽制していたリザ将軍に報告が入ったのは、アルスたちがアルル城を落としてから僅か三時間後のことだった。
「リザさん!黄色の狼煙が上がってますよ!」
サシャが南の方角を見ながら叫ぶ。声を掛けられたリザも後ろを振り返ってみると、はるか遠くに黄色の煙が狼煙台からもくもくと上がっていた。
「黄色・・・・・・勝利の色。ということは、アルル城を抑えたのか!」
リザは意味を理解すると、驚きの声を上げる。レーヘ国内では最も難攻不落の城と呼ばれてきた。そんな城をまさかこんなに短期間で落とせるとは思ってもいなかった。
「っていうことは、あたしらはもう行っちゃっていいのかな!?」
サシャがキラキラと期待した目でリザを見る。攻城戦に何を求めてるんだコイツは?とリザは思いつつも頷いた。
「城塞都市イヴニールを守るのは3000から5000、対して我らは5000。今のうちにおびき出して数を減らしておくのも良いかもしれないな」
「ミラさまっていつここに着くんだっけ?」
「アルル城からここまで一日ってところだな」
「大軍で囲まれたら絶対閉じこもっちゃう!でも、こっちがかよわ~い乙女ふたりってわかれば、敵は全員出てきますよねっ?ねっ?」
「ん・・・・・・?」
こんな巨大な弓背負った筋肉ムキムキのデカい女のどこに“かよわい”要素があるんだ?コイツが“かよわい”なら、もれなくゴリラも“かよわい”生き物のカテゴリーに入るぞ・・・・・・。リザはサシャの同意の求めには応えずに、さらりと話を変えた。
「ともかく行くぞ!ここからだってイヴニールまでは距離がある。早く行かないとミラさまの方が早く着いてしまうかもしれないからな」
リザはシャルミールの州境を離れてイヴニールに向かって軍を前進させる。その動きは、城塞都市イヴニールの監視の目にもかかった。イヴニールの守備を任されているのは、マクシミリアン公爵のふたりの部下スラス・マイヤールとドレン・ショニエである。彼らふたりに課せられた任務はイヴニールの守備と、レバッハへの糧食の輸送である。
「斥候より報告です!南のグラン・セッコよりシャルミールの軍がこちらに向かって来ています!」
城塞都市、イヴニールの主塔に居たふたりに斥候から連絡を受けた兵士が報告をする。主塔からは遠くを見渡せるが、まだ敵影の姿は視認できなかった。
「ここ数日、州境に張り付いていた部隊が動いたか。数は?」
「はっ、5000前後かと思われます」
「ドレン、どうする?こちらも打って出るか?」
「そうだな。ここが囲まれたら、前線に送るための輸送路も抑えられてしまうのはまずい。俺が出るからおまえはここの守りを頼む」
それから、すぐにスラスとドレンは動いた。
「レバッハのマクシミリアン公爵に状況を伝えてくれ」
ドレンは、そう言ってレバッハで包囲戦を展開しているマクシミリアン公爵に向けて伝令を飛ばす。同時にイヴニールからは救援を求める狼煙が上がる。
ドレン軍とリザ軍が相対したのはその日の夕刻であった。
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