父への手紙

オオトリ

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三枚目※

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私は、生まれたばかりの頃からよく眠る子供でした。
姉がぐずるのをなだめる為に、食卓の上に置いてしまった私が、気がついたら静かに寝ていた。というエピソードもあるそうです。
さすがに、赤ん坊の頃の記憶はありませんが…。

今も、基本的によく眠りますし、夜も滅多にトイレに行くこともありませんから、本当のことでしょう。

小学生のころには、12時間くらい寝続けることもありましたし、それこそトイレに起きることはおろか、並大抵のことでは目を覚ましませんでした。

そんな私が、ある日の朝目を覚ますと、家になぜか母方の叔母がいました。

そして、父と母の姿は見当たりません。

疲れた顔の叔母と、強張った顔をした姉から聞かされたのは、夜中に心臓の発作を起こした父が病院へ運ばれた。という話でした。

父が苦痛の声を上げ、慌てた母が救急車や親戚に連絡をし、姉がパニックを起こしている最中。
私は目を覚ますこともなく、眠っていたのでした。

私が目を覚ましたころには、父の容態も安定してきている…と聞かされ、衝撃と共に安堵も覚えました。

しかし、当時の病院の決まりで、父の病床には幼い子供の私は入ることも出来ませんでしたので、直接父から「大丈夫」と聞けたのは、退院してきてからでした。

母は病院に泊まり込みの看病で手いっぱいなので、私達の面倒は母方の祖母が我が家に泊まってくれました。
母も祖母も、幼い子供である私には直接は父の病状の詳細は話しません。

それでも、然程親密でもなかった親戚や、近所の大人達は、私に会うと「お父さんはどう?大丈夫?」と声を掛けてくるのです。

それは、父のことを心配してのことかもしれません。
幼い私を放っておけずに、話しかけてくれただけかもしれません。

しかし、携帯電話も持っていない時代。学校にいる間に何があっても、細かい情報など知り得るはずもなく。
むしろ、一番情報を得たいのは私である…という急ぎ足の学校帰りに声をかけられる。
そのたびに私は本心を飲み込んで「お陰さまで、大丈夫です」とほほえみながら大人顔負けの返答をしていたのですよ。

そんなやり取りが数え切れないほどあったことを、大人は誰も知らないかもしれませんね。

直接母に何かを尋ねて煩わすことができず、しかし、私が近くにいても、母は周囲の大人には詳細を話すので、私は色々ちゃんと理解していたのですよ。

父の心臓が一度は完全に止まっていたことも。
一人で歩いて退院できることが奇跡に近いことも。
しかし体に無理がきかず、今の仕事は辞めなければならないことも。
私たちの生活が、これまで通りにはいかないことも。


そうして、私は何事もない顔をして、自然に情報を集約して整理する技術を身につけられたのですけどね。
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