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第2章
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どうやら今夜のステラは、イグナスにとって合格点を与えるにふさわしいようだった。
イグナスの表情からは相変わらず感情は読めないが、ステラはその言葉に嘘はないように思えた。
だからこそ、ステラの中の疑問は膨らんだ。
「もったいないお言葉です。ですが、その……私の働きとは、何を指してのことなのでしょう」
ステラは今夜の出来事を振り返る。
言われるままロベール侯爵邸へ向かい、イグナス対策にと気合を入れた装いで注目を集め、ルドルフに絡まれてからは、イグナスの誘導に従うまま振る舞った。
因縁の相手とも言えるルドルフの不興を買ったことで、発生したイレギュラーの対応のため、イグナスは立てていた計画の変更を余儀なくされたのではないだろうか。ステラはマイナス評価を覚悟していたのだ。
ステラの反応が思ってもないものであったのか、イグナスは思案を巡らす。首を傾けた拍子に、はらりと前髪が乱れ、その隙間から深い鳶色を たたえた眼差しがステラを見つめていた。
少しの間をおいて、イグナスは答える。
「すべてだが」
「すべ……へ!?」
ステラは思わず淑女らしからぬ間抜けた声を上げてしまい、慌てて口元を隠した。
すべてとは、及第点どころか満点評価ということだろうか。
もしかして、意外と大らかでいらっしゃる?
ステラの頭に甘い考えがよぎったが、そんなわけがないと頭を振る。そんなステラにお構いなしにイグナスは続けた。
「ルドルフ・ロベールが下位貴族に横暴に振る舞っていることは把握していた。ただしそれは常に、表に出ない範囲に収められていた。君を含む特定の相手に危害を加える時は、必ず自邸だ。悪いが、証拠を引きずり出すのに、君とルドルフの関係を利用させてもらった」
「では、今夜の目的というのは」
「ロベール侯爵家の過ちを公にし、制裁を課す。それが今夜の目的だ。君という格好の標的が、上等な装いで招待に応じれば、ルドルフ・ロベールは無視できない。そして、上位貴族の目がない自邸で彼は思うままに振る舞う。あとは、君の婚約者が姿を見せればいい。それで片が付く」
「……!」
「これまで一度としてロベール家の招待に応じなかった私が、君の婚約者として現れる。それは、あの場にいた誰にとっても予測不可能だったはずだ。明日にはこの事実が国中に広まる。噂を流す手間も省けるというわけだ」
なるほど、すべてだ。
ステラには、今朝手紙を受け取ってからの自分の行動のすべてが、イグナスの掌の上であったかのように思えた。
成り行き任せだったステラとは対照的に、イグナスの行動は冷静で、公正な視線のもと、すべてを見通していた。
王の従弟にして、貴族社会の秩序を支える統治の要――その役目の一端を、今夜ステラは担ったのだ。
逆に、何も知らされていなくてよかったかも。
ステラは、イグナスのように何食わぬ顔で演技ができるほど、器用な性格ではない。流れに身を任せられたからこそ、すべてが上手く運んだのだろう。
もはや生まれ持った才能と呼んでもいい不憫体質が、ステラを今夜の成功へと導いた。
イグナスは、その特性を彼のために振るえと言った。そして同時に、ステラを害する全てから、必ず守るとも――。
(公爵は、その約束を決して違えなかった)
だからこそ今、ジークバルド公爵家の家紋を掲げた、最も安全と言っていい馬車で、ステラを自宅へと送り届けている。
その事実を意識した途端、イグナスが対面ではなく隣に座っていることにまで、意味を見出してしまいそうになり、ステラは気恥ずかしくなる。
「公爵の仰る私の才能とやらが、お役に立てたのであれば何よりでございます。その……今回はたまたま上手くいきましたが、何分コントロールできるものではありませんので、いずれご迷惑をおかけしてしまうかもしれません……」
「その制御も含めて、私の役目だ。ステラ、君はありのままで構わない」
「ありの……ままで……」
生まれてこの方、何度、自分の間の悪さを呪ったことだろう。
その日々を許すかのようなイグナスの言葉が、優しい錯覚となってステラを包み込む。胸が熱くなり、こみ上げた感情が瞳から零れ落ちそうになる。
「ジークバルド公爵」
あふれる感情を堪え、頭を深々と下げてステラは口を開いた。
イグナスの表情からは相変わらず感情は読めないが、ステラはその言葉に嘘はないように思えた。
だからこそ、ステラの中の疑問は膨らんだ。
「もったいないお言葉です。ですが、その……私の働きとは、何を指してのことなのでしょう」
ステラは今夜の出来事を振り返る。
言われるままロベール侯爵邸へ向かい、イグナス対策にと気合を入れた装いで注目を集め、ルドルフに絡まれてからは、イグナスの誘導に従うまま振る舞った。
因縁の相手とも言えるルドルフの不興を買ったことで、発生したイレギュラーの対応のため、イグナスは立てていた計画の変更を余儀なくされたのではないだろうか。ステラはマイナス評価を覚悟していたのだ。
ステラの反応が思ってもないものであったのか、イグナスは思案を巡らす。首を傾けた拍子に、はらりと前髪が乱れ、その隙間から深い鳶色を たたえた眼差しがステラを見つめていた。
少しの間をおいて、イグナスは答える。
「すべてだが」
「すべ……へ!?」
ステラは思わず淑女らしからぬ間抜けた声を上げてしまい、慌てて口元を隠した。
すべてとは、及第点どころか満点評価ということだろうか。
もしかして、意外と大らかでいらっしゃる?
ステラの頭に甘い考えがよぎったが、そんなわけがないと頭を振る。そんなステラにお構いなしにイグナスは続けた。
「ルドルフ・ロベールが下位貴族に横暴に振る舞っていることは把握していた。ただしそれは常に、表に出ない範囲に収められていた。君を含む特定の相手に危害を加える時は、必ず自邸だ。悪いが、証拠を引きずり出すのに、君とルドルフの関係を利用させてもらった」
「では、今夜の目的というのは」
「ロベール侯爵家の過ちを公にし、制裁を課す。それが今夜の目的だ。君という格好の標的が、上等な装いで招待に応じれば、ルドルフ・ロベールは無視できない。そして、上位貴族の目がない自邸で彼は思うままに振る舞う。あとは、君の婚約者が姿を見せればいい。それで片が付く」
「……!」
「これまで一度としてロベール家の招待に応じなかった私が、君の婚約者として現れる。それは、あの場にいた誰にとっても予測不可能だったはずだ。明日にはこの事実が国中に広まる。噂を流す手間も省けるというわけだ」
なるほど、すべてだ。
ステラには、今朝手紙を受け取ってからの自分の行動のすべてが、イグナスの掌の上であったかのように思えた。
成り行き任せだったステラとは対照的に、イグナスの行動は冷静で、公正な視線のもと、すべてを見通していた。
王の従弟にして、貴族社会の秩序を支える統治の要――その役目の一端を、今夜ステラは担ったのだ。
逆に、何も知らされていなくてよかったかも。
ステラは、イグナスのように何食わぬ顔で演技ができるほど、器用な性格ではない。流れに身を任せられたからこそ、すべてが上手く運んだのだろう。
もはや生まれ持った才能と呼んでもいい不憫体質が、ステラを今夜の成功へと導いた。
イグナスは、その特性を彼のために振るえと言った。そして同時に、ステラを害する全てから、必ず守るとも――。
(公爵は、その約束を決して違えなかった)
だからこそ今、ジークバルド公爵家の家紋を掲げた、最も安全と言っていい馬車で、ステラを自宅へと送り届けている。
その事実を意識した途端、イグナスが対面ではなく隣に座っていることにまで、意味を見出してしまいそうになり、ステラは気恥ずかしくなる。
「公爵の仰る私の才能とやらが、お役に立てたのであれば何よりでございます。その……今回はたまたま上手くいきましたが、何分コントロールできるものではありませんので、いずれご迷惑をおかけしてしまうかもしれません……」
「その制御も含めて、私の役目だ。ステラ、君はありのままで構わない」
「ありの……ままで……」
生まれてこの方、何度、自分の間の悪さを呪ったことだろう。
その日々を許すかのようなイグナスの言葉が、優しい錯覚となってステラを包み込む。胸が熱くなり、こみ上げた感情が瞳から零れ落ちそうになる。
「ジークバルド公爵」
あふれる感情を堪え、頭を深々と下げてステラは口を開いた。
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