ニコイチート~チート持ちとニコイチで異世界転生させられたので、手探りで冒険します~

桐山じゃろ

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第一章

35 船旅

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 ディセルブまでは飛空船で3日かかる。
 僕らだけ[異界の扉]で先回りしようかっていう案もあった。でも、意気揚々と出掛けていったこの船が、イーシオンを倒した相手を乗せて帰る、というシチュエーションのために同行した。

 そのイーシオンはというと。

「たのもう!」
「……またか」

 懐かれた。



 船旅の間、僕らは兵士と同じ部屋で雑魚寝することになった。
 豪華な船室は2部屋しかなくて、1部屋はイーシオンが占領し、もう1部屋は最初に入った応接セットしか置いていない部屋だ。

「本当に申し訳ない……」
 ものすごく恐縮されたけど、タルダさんも同じ場所で寝ている。それに、寝心地はそんなに悪くなかった。

 兵士、と言ったけど、実際は強引に徴兵された町民たちだ。やたらと華美な鎧を一人で着ることができないし、武器を持つのも初めてという人もいる。戦闘訓練なんて殆ど受けていない。
 イーシオンとやりあった時、動きが妙に鈍かったのはそういうことかと納得した。

 1日目。甲板で景色を眺めるのにも飽きて室内に入ろうとしたら、イーシオンが船室からこちらを覗いていた。
 僕が気づいたことに気づくと、ツカツカと寄ってきた。
「おい」
「何?」
「なんでそんなに細いのに強いんだ」
「細……」

 この世界の人で戦士系の冒険者と言えば、皆ガッチリ体型以上はある。それに比べれば細いほうなのは認めるよ。
 僕は筋肉も脂肪も付き辛いのが密かな悩みなんだ。

「それと強さは関係ないんじゃない?」
「勝負しろ」
「えー……。君、泣くじゃん。やだよ」
「もう泣かない! いくぞ!」

 イーシオンは何故かバク転して距離を取り、前と同じく真正面から突っ込んできた。

「あ、そうだ」
 ワンパターンな攻撃を躱しながら、イーシオンに聞きたかったことを思い出した。
「身体能力強化ってどういうスキル?」
「はあ!? それよりっ! なんで! 当たらない!?」
「避けてるから」
「そういう、意味じゃないっ! っ!?」
 何度も同じパンチは当たらないと悟ったのか、自棄気味に回し蹴りを放ってきた。速さはともかく威力は軽いし、動きは単純だ。足首を掴んで、そのまま持ち上げた。
 イーシオンをぶら下げたまま、もう一度尋ねる。

「身体能力強化のこと、教えてよ」
「はーなーせー!」
「教えてくれるなら放す」
「わかったよっ!」

 イーシオンを降ろしてやった。また飛びかかってくるかな、と一瞬身構えたけど、そんなことはなかった。

「でも、聞いてどうするんだ? このスキルは僕にしか使えないんだぞ」
「見たことないからさ。好奇心だよ」
「そ、そうか」

 少し得意げな顔になると、突然その場で逆立ちをした。両手じゃなく、片腕で楽々と立っている。
 次に片腕だけで高々と飛び上がった。空中で回転しながら降りてきて、綺麗に着地をきめた。

「こういうこと!」
「おー」
 パチパチと拍手した。なるほど、体幹とかバランス感覚とか、そういうのなのかな。

「同じ筋力補正を持ってるゼータ達にも出来ないことなんだ」
 腰に手を当てて胸を張るイーシオン。スキル情報、参考になります。
 ただ、僕には『スキル:全』があるので……。

「よっ」
 まずは片腕逆立ち。からの、飛び上がって回転。着地。
「できた」
「……なんで……」
 イーシオンは腰に手を当てたまま、口が閉じなくなっていた。

 以前、ヴェイグに楽しんでもらうために街道をアクロバティックに走行したことがあったけど、更に身体に捻りが入れられそうだ。
“さすがに此処では拙いか”
 移動方法ソムリエ、何も言わずとも察したようです。


 それからというもの。暇さえあれば僕の近くへやってきて、勝負を挑んでくる。
 僕が負けることはない。というか、イーシオンも本気じゃないようだ。
 攻撃を止めるために持ち上げれば、すぐに降参する。その後、僕に「もっと高く跳べないか」とか、「指だけで逆立ちできるんじゃないか」とか要求してくるようになった。指逆立ちは左の人差し指ならできた。小指は怖いです。


 3日目の朝になった。予定通りなら、この船旅も今日までだ。

「オイデア、聞こえる? ……返事ないね」
“うむ……”
 甲板の端で、薄黄色の通信石に声をかける。
 先にディセルブへ行っているはずのオイデアとは、ずっと連絡がつかない。
 タルダさんには、オイデアはもうディセルブにいるはずだと伝えてある。
 僕らには別の目的があるとはいえ、オイデアの安否も気になる。だから、到着したらまず[気配察知]でオイデアを探すことにした。

「アルハ」

 通信石をポーチに仕舞っていると、イーシオンが近づいてきた。
 また勝負かと思いきや、真面目な顔をしていた。

「アルハと僕は、敵だ」
「うん」
 何度目かの勝負の時に、そういう話もした。その時は「うるさい、今はいい」とか言っていたのに、彼なりに考えていたようだ。

「船を降りたら、僕は兄上たちのところへ行く。……なるべく、話はしてみる」
 話で済むならそれが一番いい。ただ、それが出来てたら今こんなことになっていない。
「無理はしないようにね」
 イーシオンは力強く頷き、踵を返すと船室の方へ去っていった。

“王族を指導するとはな”
「そんなつもりはないよ」
“わかっているさ”
 ヴェイグが愉快そうにクククと笑った。



 船は、この船のために造ったという平らな地へ降りた。近くに町と、朽ち果てた城のようなものが見える。
“しぶとく残っていたか。アルハ、あの城に人は……いや、それよりオイデアだな。どうだ?”
「……城にいる。弱ってる」
“なんだと?”

 タルダさんを呼んで、城にオイデアが居ることを伝えた。
「なんと。しかし、弱っていると?」
「はい。……僕、行きますね」

 呼び止めるタルダさんの声が聞こえた気がしたけど、僕はもう走っていた。


 城は近くで見ると、思ったよりしっかり建っていた。扉や壁は補修された跡があり、掃除して装飾すれば、古城として観光名所になりそうだ。
 オイデアの気配がある場所へ真っ直ぐ向う。しかし、内部は複雑で、行く先々を壁で阻まれる。しっかり建っていても僕が壁を壊したら全体が崩れかねない。

“アルハ、気配はどっちだ”
「この先の、左のほう」
“ならば一旦戻れ。次の角を右だ。初めから俺が案内すればよかったな。すまん、気が回らなかった”
「僕もヴェイグがこの城出身なこと頭から抜けてた」

 ヴェイグの指示通りに進むと、大きな扉があった。オイデアと、他に5人がそこにいる。

 扉を開け放つと――。


 血の海に倒れているオイデアの姿があった。
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