ニコイチート~チート持ちとニコイチで異世界転生させられたので、手探りで冒険します~

桐山じゃろ

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第二章

29 急がば回れ

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 城へ向かってきた数十体の魔物は、僕とイーシオンですぐに蹴散らした。
 問題はその後だ。
 魔物がいた方へ向うと、地面にまた魔法陣が描かれていた。

「ヴェイグ、どう?」
 ヴェイグに少しずつ教わってはいるものの、僕は未だに魔法陣の読み方がわからない。
 記号一つ一つに固定の意味はあるのに、組み合わさると全く別の意味になるっていうパターンが多い。ヴェイグはよく覚えきれるなぁ…って感心しきりだ。

“先程の魔物はここから喚ばれたのだな。ここは『一度だけ』という意味だ”
 魔法陣の一部を削り取って機能させなくしてから、ヴェイグ先生の講義が始まる。初見の記号についての軽い説明だけで終わった。
「これが魔法陣かぁ…」
 イーシオンは魔法陣を初めて見るようだ。
「呪術はどこまで知ってる?」
「少し前は御伽噺でしか知らなかったよ。その…ラムダ兄様が使った後から、城の本を読んでる」
 ラムダは、呪術で魔物化したところを僕が殺した。僕が負い目を引きずっているのを感じ取ったのか、イーシオンが慌てて言い募った。
「ねえ、アルハは気にしないでよ。前にも言ったけど、始末をつけてくれて、その、変な言い方だけど、感謝してるんだ」
「うん」
 気を遣わせるのは心苦しい。無理矢理、笑みを作った。

「こんなのを見ちゃうと、アルハを引き止められないな」
 ヴェイグの申し出で、イーシオンも即席の魔法陣講座を受講した。
 この魔法陣の効果と、これがこの場につい先程描かれたであろうという事実。
 イーシオンもことの重大さと緊急性を感じ取ったようだ。
 
 「それじゃ、僕は行くよ。タルダさんによろしく」
 城には戻らず、このままノルブへ向う。
「アルハ、ヴェイグ。気をつけてね」
 イーシオンがヴェイグにも声をかけると、ヴェイグは右手を使って軽く手を振って応えた。


「やっぱりさ、狙われてるのは僕らだよね」
 魔法陣と、それで喚ばれる魔物のことだ。
 最初はオイデアだけの仕業だと思ってた。それなら僕を狙う理由は十分あった。
 オイデアがいなくなった後も、僕らの行く先々で魔物が現れる。
 全てが呪術絡みではないけど、それにしては引きが良すぎる。
“いい度胸ではないか。全て返り討ちにして、黒幕に相応の報いを受けさせてやろう”
「それはやるけど」
 自分の口から当然のように報復を肯定する言葉が出る。こっちの世界に来てから、僕はかなり好戦的になった。
 チートやスキルのせいじゃなく、これが自分の本性なのかな…かなりよろしくない人間だな、僕は。
 いや、今は凹んでる場合じゃない。
「周りが巻き込まれるのは、許せないよ」
“同感だ。相手は周囲のことなど考えておらんようだ”

 ノルブへは、馬で1日の距離と聞いてきた。それなら、すぐだ。



▼▼▼



「やっぱりアルハは強いな…」
 あっという間に小さくなった背中を見ながら、イーシオンは呟いた。

 魔物の殆どはアルハが倒していた。イーシオンが倒したのは、ほんの数体。
 それも、他の魔物を倒しきったアルハが、イーシオンの周囲だけ残し、倒すのを待っているように見えた。
 
 ただ、魔物を屠っている時のアルハは、苦しそうだ。
 顔からはいつもの、相手の心まで落ち着かせるような笑顔は消え、時には眉間にシワまで寄せている。
 
 あれだけ強くても、心根の優しいアルハにとって、魔物を倒すのは辛いことなのかもしれない。
 
 アルハには助けてもらった。アルハはそれを鼻にかけたり、自分から恩を着せるようなことはしない。
 だからって、こっちが助けない理由にはならない。
 
 アルハにはヴェイグがいる。どういう関係性を築いているかはわからないが、友人や仲間ともまた違ったものなのだろう。
 惜しむらくは、ひとつの体に入ってしまっていることだ。
 
 ヴェイグだけでは、アルハの助けになれないことがあるかもしれない。
 その時、どうすればいいか。

 良くも悪くも単純なイーシオンは、まずは強くなろう、と決意した。



◆◆◆



 フードを目深に被ってノルブの町の門をくぐる。
 門番に止められてギルドカードを提示したが、
「この町でそんなものは意味がない」
 と鼻で笑われた。

「意味がない、ってどういうことですか」
「そのままだ。この町に冒険者ギルドなんて御大層なもんはねぇ」
「魔物が出たらどうしてるんです?」
「余所者のあんたが知ってどうする。ほら、もういいから通れ」
「え、いいんですか」
「一応決まりで止めはしたが、あんたみたいな無害そうなやつを追っ払ったんじゃ、こっちが弱虫扱いされるんでな」

 嘲笑を背に町へ入った。
“随分失礼な奴らだな。これは町のほうも心したほうがよさそうだ”
「それよりギルドがないって困ったね。情報収集はどこでやろうか」
“酒場だろう”
「ああ、そっか…」
 酒の苦手なアルハが渋い顔をする。
“交代したいところだが、体質の問題ではな…”
「うん。僕がやるよ。酔っ払いの相手なら多少は慣れてるし」

 そんな会話をしながら歩いていたら、人にぶつかった。
 アルハがなにかにぶつかるとは珍しい。体調でも悪いのかと心配になったが、そうではなかった。

「どこに目ぇ付けて歩いてやがる」
「痛え! 折れたかもしれねぇ」
「あーあー、どうしてくれんだよぉ」

 ただ面倒くさいのに絡まれただけだった。

 ぶつかったのは一人のはずだが、なぜか3人の男に囲まれた。
「うわー、チンピラ・オブ・ザ・イヤーを差し上げたいな」
 アルハが妙なことを言い出した。本当に体調が悪いのだろうか。
“大丈夫か、アルハ”
「僕はなんともないよ。ていうか、あっちが故意に近寄ってきたんだ」
“それでも避けきれぬことは無いだろう”
「こんなのでも切っ掛けになるかな、って。想像以上にアレだけど」
 何の切っ掛けかは聞きそびれた。

「おいぃ、誠意見せろってんだ、誠意!」
「すみませんでした。怪我なら治しますので…」
「そうじゃねぇよ! 分かるだろ、ほら」
 直接言わず、かばんを指差して何かを抜き差しする仕草をする。端的に言えば、金を寄越せということだ。
「誠意、ですか…わかりました」
 アルハは治癒魔法を使おうと出した手を引っ込め、両手を体の脇にぴたりと付けて、腰を折り曲げて深々と頭を下げた。

「申し訳有りませんでした」

 俺が教えたわけではないのに、最上級の謝罪の礼をとった。
“アルハがそこまでする必要は…”
「いいから」
 ぼそりと会話すれば、俺にだけ聞こえる声で返事をする。いったい何がいいというのだ。
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