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第三章
15 竜の棲む里
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“人が食える飯はあるだろうか”
「携帯食料ばっかりじゃ飽きるよね。ラク、ちょっと市場に買い出し行ってからでいい?」
「ま、待て待て! アルハ、ヴェイグまで何故そんな行く気で満ちておるのじゃ!?」
竜の里に行くというから、準備をしているのに。何故そんなにあわあわしているのだろう。
“当然ではないか?”
「もしかして僕らを置いていく気だったの?」
心底どうして?という顔でラクに尋ねる。
だって、竜の里ってことは、竜がたくさんいるんだよね?
次元のつなぎ目がどうとか言うってことは、普通は行けない場所なんだよね?
行きたいじゃん、そんなの!
「里の竜の中には人を嫌う者がおる。儂など足元にも及ばぬほど強い者も一竜二竜ではない。そんなところにアルハ達を連れていくわけには」
ラクが尤もらしい事を言い始めたので、僕も真面目に話すことにした。
前述の理由も本音だけどね。
「ラクは同胞に追われてこっちの世界に逃げてきたんでしょ? 絶対危ない。僕はラクのこと、仲間だと思ってる。仲間が危ない目に遭うのを見過ごせない」
ヴェイグは僕と同じ意見の時は、何も言わない。
「で、ラクが里へ戻る理由は?」
今度はこちらの質問に答えてもらう番だ。
ラクは一瞬ぐっと言葉に詰まったようになり、しばらく葛藤した後、話し始めた。
「チオがこちらに来て儂の前に現れたということは、あやつらは未だ儂に執着しておる。もし、あやつらが皆こちらへ来るようなことがあれば……」
“その時はアルハに任せればいいだろう”
「うん」
せっかく答えてくれていたのに、ヴェイグが流れるように僕任せを提案し、僕も頷いてしまった。
「だが、お主らは……ああ、もう」
話をしている間も、僕は準備の手を止めなかった。というか、既にフル装備を身につけているし、あとは市場で日持ちする食材を買い込むだけだ。
そんな僕を見て、ラクはついに諦めた。
「急く道ではない。買い物なら、儂も行く」
まずは[異界の扉]で異界へ。この過程はラクがやるより、僕がやったほうが手っ取り早いとのことだった。
それから、ラクが異界であたりを見回し、少しだけ歩いて、立ち止まる。
しばらくして、ラクはなにもないような空間を指でつついた。
「これじゃ。見えるか?」
「いや、何もわからない」
“さっぱりだ”
ラクが指差すところに、次元のつなぎ目とやらがあるそうだ。
「アルハでもだめか」
「お忘れかもしれませんが、僕は人間です」
“魔力や他の力も感じぬな。ラクはどうやって見分けている?”
「視えるから視えるとしか」
“その手のものはアルハにできぬなら無理だ”
「お忘れかもしれませんが、僕は人間です」
大事なことだから二回言っちゃったよ。
ラクがなにもない空間に両手を差し込み、ぐぐっと開くと、空間が裂けた。
その向こうには、人の世界と変わらない草原が広がっていた。
竜の里があるこの世界は、僕らが普段暮らしている世界とは、軸が違うんだとか。
つまり多分、時間軸とか空間軸とか、SFチックな話なんだろう。
説明を聞いてもよく分からなかったので、そういうことにしておく。
「時の流れは全く同じじゃ。そのあたりは心配ない」
浦島現象は起きないようだ。一安心。
“こちらのほうが飛びやすそうだな”
「よくわかるね」
里に入ってすぐ竜の姿になったラクの案内で、ラクが以前棲んでいた場所へ向かっている。
ラクが飛ぶ姿は、荘厳の一言に尽きる。
ヴェイグは竜の威圧に怯まなくなっていた。本当に慣れて、耐性がついたのかな。
人の世界で飛ぶ練習はなかなかできなかったので、この機会に実践しながらレクチャーしてもらった。
浮く、は自力でどうとでもなったのに、そこから任意の方向へ移動するのが難しく、武器を創って掴まるのと大差ない飛び方になってしまっていた。
ラクには飛ぶ時の体勢、早く飛ぶためのコツや、魔力の動かし方を教えてもらえた。
「魔力で飛ぶの?」
「いや、魔力は補助的な要因じゃ。だがアルハの場合はそのほうがわかりやすかろう」
確かに、竜の力と言われても僕が殆ど拒否してしまっているためか、浮いている理由すら不明だ。
魔力ならこれまで散々使っているから、まだ馴染みがある。
それと、人里より竜の里のほうが、なぜか飛びやすい。と言っても本当にごく僅かな差だ。ヴェイグよく気づいたなぁ。移動方法ソムリエ恐るべし。
メデュハン東の山の倍はありそうな高い山が徐々に近づいてきた。
どうやら、その山の天辺を目指している。
先にラクがたどり着き、そこの景色を目に入れた瞬間、息を呑んだ。
隣に並び、同じ景色を見る。
山の天辺は平たくて途轍もなく広かった。しかしそこには、小型の隕石でも落ちたかのように、深いクレーターがいくつもあった。
「これは?」
クレーター同士は、天辺全体に規則正しく並んでいる。隕石や自然現象ではなく、誰かが意図的にやったとしか考えられない。
「まあ、想像はついておったが、しっかり壊されておるのう。ここが無事であれば、アルハ達も少しはましに過ごせただろうに」
「野営なら、どこでもできるよ」
「今お主らがどういう場所におるのか、わかっておるか? 竜のナワバリの内なれば、他の竜はめったに手を出してこぬ。そういう意味じゃ」
「それでか」
僕たちからギリギリ視認できるほど離れて、数十体もの竜がついてきている。
更にそのうちの何体かは、殺気に似た威圧を放っている。
落ち着かないし、僕に向けるだけならまだしも……。
「追い払っていい?」
「やってくれるなら助かるが」
竜になることは拒んだ。でも、その力を使わないと決めたわけじゃない。現に今も、人ならざる力で飛んでるわけだし。
ついてきた竜たちの中から、殺気を向けてるやつをターゲットにする。
空に放り出され、一瞬だけ竜になった時のイメージを思い出す。
身体の奥底で燻っていた火種が、一気に燃え広がった。自分が吐く息まで熱く感じる。
全身が総毛立つような力をそのまま、[威圧]に変換する。
僕に用事があるなら後で相手してやる。だから、ラクにまで殺気を向けるな。
どおん、どおん、と地を揺るがすような音がした。
音の方を見ると、はるか地上に竜が何体か落ちている。
殺気は、もう向けられていなかった。
“今のは、[威圧]にしては強烈だな。何をした?”
「その[威圧]だよ」
“人に向けたら死人が出るぞ”
「大袈裟な」
「くく……」
ラクが俯いて苦しそうな声を上げた。
「ラク!? 当てちゃってた?」
威圧のターゲット設定をミスったのかと、慌ててラクの顔あたりまで飛ぶ。するとラクは口をがばりと開けた。
「ははははは! アルハは、人にしておくのは惜しいのう!」
大きな口から笑い声が衝撃波みたいに出てくる。あえなく吹き飛ばされながら、空中で攻撃された際に踏みとどまる方法を知らないことに気づいた。
「携帯食料ばっかりじゃ飽きるよね。ラク、ちょっと市場に買い出し行ってからでいい?」
「ま、待て待て! アルハ、ヴェイグまで何故そんな行く気で満ちておるのじゃ!?」
竜の里に行くというから、準備をしているのに。何故そんなにあわあわしているのだろう。
“当然ではないか?”
「もしかして僕らを置いていく気だったの?」
心底どうして?という顔でラクに尋ねる。
だって、竜の里ってことは、竜がたくさんいるんだよね?
次元のつなぎ目がどうとか言うってことは、普通は行けない場所なんだよね?
行きたいじゃん、そんなの!
「里の竜の中には人を嫌う者がおる。儂など足元にも及ばぬほど強い者も一竜二竜ではない。そんなところにアルハ達を連れていくわけには」
ラクが尤もらしい事を言い始めたので、僕も真面目に話すことにした。
前述の理由も本音だけどね。
「ラクは同胞に追われてこっちの世界に逃げてきたんでしょ? 絶対危ない。僕はラクのこと、仲間だと思ってる。仲間が危ない目に遭うのを見過ごせない」
ヴェイグは僕と同じ意見の時は、何も言わない。
「で、ラクが里へ戻る理由は?」
今度はこちらの質問に答えてもらう番だ。
ラクは一瞬ぐっと言葉に詰まったようになり、しばらく葛藤した後、話し始めた。
「チオがこちらに来て儂の前に現れたということは、あやつらは未だ儂に執着しておる。もし、あやつらが皆こちらへ来るようなことがあれば……」
“その時はアルハに任せればいいだろう”
「うん」
せっかく答えてくれていたのに、ヴェイグが流れるように僕任せを提案し、僕も頷いてしまった。
「だが、お主らは……ああ、もう」
話をしている間も、僕は準備の手を止めなかった。というか、既にフル装備を身につけているし、あとは市場で日持ちする食材を買い込むだけだ。
そんな僕を見て、ラクはついに諦めた。
「急く道ではない。買い物なら、儂も行く」
まずは[異界の扉]で異界へ。この過程はラクがやるより、僕がやったほうが手っ取り早いとのことだった。
それから、ラクが異界であたりを見回し、少しだけ歩いて、立ち止まる。
しばらくして、ラクはなにもないような空間を指でつついた。
「これじゃ。見えるか?」
「いや、何もわからない」
“さっぱりだ”
ラクが指差すところに、次元のつなぎ目とやらがあるそうだ。
「アルハでもだめか」
「お忘れかもしれませんが、僕は人間です」
“魔力や他の力も感じぬな。ラクはどうやって見分けている?”
「視えるから視えるとしか」
“その手のものはアルハにできぬなら無理だ”
「お忘れかもしれませんが、僕は人間です」
大事なことだから二回言っちゃったよ。
ラクがなにもない空間に両手を差し込み、ぐぐっと開くと、空間が裂けた。
その向こうには、人の世界と変わらない草原が広がっていた。
竜の里があるこの世界は、僕らが普段暮らしている世界とは、軸が違うんだとか。
つまり多分、時間軸とか空間軸とか、SFチックな話なんだろう。
説明を聞いてもよく分からなかったので、そういうことにしておく。
「時の流れは全く同じじゃ。そのあたりは心配ない」
浦島現象は起きないようだ。一安心。
“こちらのほうが飛びやすそうだな”
「よくわかるね」
里に入ってすぐ竜の姿になったラクの案内で、ラクが以前棲んでいた場所へ向かっている。
ラクが飛ぶ姿は、荘厳の一言に尽きる。
ヴェイグは竜の威圧に怯まなくなっていた。本当に慣れて、耐性がついたのかな。
人の世界で飛ぶ練習はなかなかできなかったので、この機会に実践しながらレクチャーしてもらった。
浮く、は自力でどうとでもなったのに、そこから任意の方向へ移動するのが難しく、武器を創って掴まるのと大差ない飛び方になってしまっていた。
ラクには飛ぶ時の体勢、早く飛ぶためのコツや、魔力の動かし方を教えてもらえた。
「魔力で飛ぶの?」
「いや、魔力は補助的な要因じゃ。だがアルハの場合はそのほうがわかりやすかろう」
確かに、竜の力と言われても僕が殆ど拒否してしまっているためか、浮いている理由すら不明だ。
魔力ならこれまで散々使っているから、まだ馴染みがある。
それと、人里より竜の里のほうが、なぜか飛びやすい。と言っても本当にごく僅かな差だ。ヴェイグよく気づいたなぁ。移動方法ソムリエ恐るべし。
メデュハン東の山の倍はありそうな高い山が徐々に近づいてきた。
どうやら、その山の天辺を目指している。
先にラクがたどり着き、そこの景色を目に入れた瞬間、息を呑んだ。
隣に並び、同じ景色を見る。
山の天辺は平たくて途轍もなく広かった。しかしそこには、小型の隕石でも落ちたかのように、深いクレーターがいくつもあった。
「これは?」
クレーター同士は、天辺全体に規則正しく並んでいる。隕石や自然現象ではなく、誰かが意図的にやったとしか考えられない。
「まあ、想像はついておったが、しっかり壊されておるのう。ここが無事であれば、アルハ達も少しはましに過ごせただろうに」
「野営なら、どこでもできるよ」
「今お主らがどういう場所におるのか、わかっておるか? 竜のナワバリの内なれば、他の竜はめったに手を出してこぬ。そういう意味じゃ」
「それでか」
僕たちからギリギリ視認できるほど離れて、数十体もの竜がついてきている。
更にそのうちの何体かは、殺気に似た威圧を放っている。
落ち着かないし、僕に向けるだけならまだしも……。
「追い払っていい?」
「やってくれるなら助かるが」
竜になることは拒んだ。でも、その力を使わないと決めたわけじゃない。現に今も、人ならざる力で飛んでるわけだし。
ついてきた竜たちの中から、殺気を向けてるやつをターゲットにする。
空に放り出され、一瞬だけ竜になった時のイメージを思い出す。
身体の奥底で燻っていた火種が、一気に燃え広がった。自分が吐く息まで熱く感じる。
全身が総毛立つような力をそのまま、[威圧]に変換する。
僕に用事があるなら後で相手してやる。だから、ラクにまで殺気を向けるな。
どおん、どおん、と地を揺るがすような音がした。
音の方を見ると、はるか地上に竜が何体か落ちている。
殺気は、もう向けられていなかった。
“今のは、[威圧]にしては強烈だな。何をした?”
「その[威圧]だよ」
“人に向けたら死人が出るぞ”
「大袈裟な」
「くく……」
ラクが俯いて苦しそうな声を上げた。
「ラク!? 当てちゃってた?」
威圧のターゲット設定をミスったのかと、慌ててラクの顔あたりまで飛ぶ。するとラクは口をがばりと開けた。
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