ニコイチート~チート持ちとニコイチで異世界転生させられたので、手探りで冒険します~

桐山じゃろ

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第四章

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 即座に断ろうと身を乗り出した僕を押し留めたのは、ヴェイグだ。
「トーシェ。アルハは精霊の事情に疎いのだ。言い聞かせるから、少し待て」
 ヴェイグが僕の保護者みたいになってる。いや、責任者? 飼い主? とにかく、そういう感じ。
 僕も悪い気はしない。
 そんなヴェイグが言い聞かせてくれたとしても、今回ばかりは断る方向でいきたい。

 ヴェイグは立ち上がった僕を連れて、トーシェ達から少し離れた。
「何を言われても僕は」
「おそらくそういう誤解をしているだろうと思ってな。一度、話を聞け」
「はい」
 再び正座モードになりそうな僕を立たせたまま、ヴェイグは話を続けた。

「精霊には各々役割や性質がある。例えば拒魔犬こまいぬは、召喚者の命令を聞き忠実に尽くす性質だ。俺がマリノに借りているコマは、マリノに『俺の命令に従え』と命ぜられている」
 ここまでは、いつも見ていることだからよく分かる。
 精霊は大体、そういうものだと思ってた。
「ウーハンは、特定の誰かに仕えているわけではない。俺やマリノのように、複数の精霊を喚ぶもののところに来て、精霊たちの世話を焼いてくれている」
「そうだったんだ。普通は複数喚ばないの?」
「大抵は、一種類しか喚べぬ。マリノは拒魔犬の他にガルムを喚ぶし、他にも喚ぶようだ。あれほど精霊に好かれる人間を、他に知らぬ」
「マリノすごいね」
「そうだな」
 三千の精霊を従えてるヴェイグのことは、一旦置いておく。
「少し話がそれたな。他にも、召喚者の目や耳の代わりをする者、召喚者の不得手な魔法を使う者、そして、召喚者の命を守るために自身を捧げるもの、様々だ。その中には、召喚者と融合する性質を持つ者もいる」
「トーシェが?」
「融合すれば、精霊はそこまでだ。召喚者が死ねば、精霊も消える。だが、それで良しとしている」
「良くないでしょ」
「良いのだ。むしろ、役割を果たせぬ精霊ほど不幸なものはない。トーシェのような役割の精霊は、誰かと融合して、はじめて精霊として成り立ち、完成する」
「……いくらヴェイグの言うことでも、納得できない」
 死んだり、消えたりするのは辛いことだ。本人も、周りも。
 僕が俯いて黙り込むと、ヴェイグは一旦会話を切り、トーシェを呼んだ。

「一通り説明した。あとはトーシェがアルハを納得させろ」
「えっ!? ……は、はい」

 困惑する僕と、まだ少し怯えているトーシェを残して、ヴェイグはウーハンのところへいってしまった。
 怯えてるのは瞳の色のせいかと思い出して、竜の力を引っ込めた。たぶん黒に戻ってる。

 トーシェはバレーボールぐらいのサイズしかない。僕が胡座をかいて、なるべく目線の高さを合わせてみる。
 それでも僕を見上げているので、右手のひらを差し出したら素直に乗ってくれた。毛糸玉みたいな感触で、重さは感じない。
 僕の目の高さまで持ち上げても、おとなしい。もう怖くないようだ。

「ウーハンにも話を聞きました。アルハ様、この世界のひとじゃないんですね」
 ウーハンにそんな話したっけ。マリノかヴェイグが教えたのかな。
「うん。ヴェイグが話してくれたけど、役割上、誰かと融合するのが良いんだって?」
「はい。おれの最終目標、それなんです。もう五百年、相手がみつからなくて」
「五百……」
 結構お歳を召してた。精霊は見かけによらないなぁ。ウーハンやコマちゃん達は、どのくらい生きてるんだろう。
「同い年で、おれだけなんです、まだ見つかってないの。ヴェイグ様でもだめで」
「ヴェイグが駄目って、何故? 僕は精霊召喚使えないよ」
 大事なことなら余計に、ヴェイグの方が適任のはずだ。
「ヴェイグ様はもうすぐ、いっぱいになっちゃうし。アルハ様はまだ余裕があって、この先も余裕がなくなることはないから」
「いっぱい? 余裕?」
 ヴェイグが前に言ってた、器がどうのって話かな。
「そんなに力を持ってて平気な人間、他にいませんよ。ヴェイグ様でも無理」
「自分じゃよくわからないんだ」
 ただ、思い当たる節はある。

 竜の力を受け入れた時、少しだけ、物足りなさを感じた。
 十分強いはずなのに、もっといけるだろうって思ってしまう。
 スキルをせっせと能力へ移行しているのも、その延長線上だ。
 こういう気持ちが沸き上がってくる理由はわからない。

「お願いします、アルハ様。おれ、このままじゃ精霊として不安定なんです」
「五百年、精霊だったんでしょ?」
「五百年ずっと、不安定だったんです。この前、コマに取り憑いたときは……近くに融合できるひとが居るってわかって、それで自分でも抑えられなくて」
 どうやら呪術の影響ではなかったらしい。一つ安心した。
 でも、僕に影響を受けたことは変わらないのか。
「トーシェが消えたら、悲しむひと、いるでしょ」
「いませんよ。おれが融合できたら、皆喜んでくれます」
 トーシェの声に、嘘とか悲しみとか、そういう感情は含まれていないように聞こえた。

 トーシェを手に乗せたまま、ふぅー、と長く息を吐く。

「この五百年、なにをしていたの?」
「たまに人界に出て、おれと融合できるひとを探してました。それ以外は、なにもしてません」
「なにも?」
「はい。ほかにすることもできることも、ないですから」
「僕が断って、トーシェがこれからも誰とも融合しなかったら、どうなるの?」
「いつか他の誰かと融合するか、消えるまで、そのままです」
「消える……」
「さすがに、もう五百年したら消えるかなって」
「……僕からしたら、到底理解できない『役割』なんだ。トーシェは本当に、僕に取り込まれるのが幸せなんだね?」
「はい」

 なにもできず、何も成せずに消えてしまうのか。
 だったら……少しはマシな選択肢なんだろうか。

 さらに少し悩もうとして、やめた。悩む時間は無駄だ。どうせ、やるかやらないかの二択なんだから。
 心を決めた。


「僕でよかったら、おいで」
 トーシェの小さな黒い点のような目を見て、了承した。
 トーシェは手のひらの上で一瞬硬直し、それから飛び跳ねた。
「ありがとうございます、アルハ様! ありがとうございます!」
 何度も跳ねて手のひらの上でくるくる周り、ぴたりと静止すると深呼吸みたいな素振りをした。
「では!」
 一言そう告げると、僕の胸元に飛びついて……そのままフッと消えてしまった。

 トーシェの消えた辺りを眺めていたら、心臓が跳ねた。竜の力を受け入れたときより、激しく、何度も。
「う、あ……っ!」
「アルハ!」
 ヴェイグが駆け寄ってくる。差し伸べられた手をとる前に、暗闇が覆った。
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