ニコイチート~チート持ちとニコイチで異世界転生させられたので、手探りで冒険します~

桐山じゃろ

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第四章

39 空白

◇◇◇



 僕の胸元に何かが覆いかぶさっていて、そこに水気を感じる。
 まぶたをこじ開けると、当たりは真っ白だ。
 どうしたんだっけ、と思考を巡らせる。じわじわと思い出した。

 麒麟にやられて、死んだはずだ。
 なのに意識がある。これは一体?

「アルハぁぁぁ……ごめんねぇ……」
 僕の横で、カリンがべちゃりと座って僕の胸元に突っ伏し、べそべそに泣いていた。水はカリンの涙だったようだ。
「なんでカリンがここに?」
 身体を起こしても、カリンは僕にしがみついたままだ。
 何か言おうとしているみたいなんだけど、混乱気味なのと嗚咽のコンボで要領を得ない。
 よしよし、と背中をなでてやって、落ち着くのを待った。
 自分の格好をよく見ると、日本で死んだときの状態になっていた。
 髪は短めでボサボサ。ヨレヨレのグレーのパーカーに、くたびれたジーンズ。
 冒険者業でついた筋肉まで、以前の貧相ボディに逆戻りしていた。微妙にショックだ。

 自分の身体の具合を確認している間に、カリンが少し落ち着いた。まだヒグヒグ言ってるけど、ちゃんと喋れそうだ。

「アルハが、こうなるの、わかってて。ごめんね。痛かったで……」
 語尾になるにつれ、また何かこみ上げてきたらしい。今度は両手を顔に当ててシクシク泣き出した。
「未来も視えちゃうって言ってたもんね。こうなったのカリンのせいじゃないし。気にしないでよ」
 完全に僕のミスだった。ヴェイグにも悪いことをした。
 最期に今までのお礼が言えなかったのだけ、心残りだ。
 カリンの頭をぽんぽん撫でると、カリンは首を横に振った。

「今これどういう状況?」
 カリンが顔から手を外したので、訊いてみる。
「ここのこと、覚えてる?」
「何度か来たことがあるというか、視たことがあるというか」
 いつもの白い世界としか思えない。
「そう。アルハはね、生き返るの」
「また?」
 死ぬのは嫌なことだけど、だからってそうぽんぽん生き返っていいわけじゃないよね?
 最初の時も今も、自己責任で死んでしまったわけだし。聖者みたいに善行を積んだ覚えもない。
 そんな僕が、なんでまた。
「アルハは、こっちが勝手に呼びつけたのに世界を救ってくれたのよ。十分な理由でしょ」
「救ったっけ」
「四魔神に麒麟、アルハにしか倒せなかったのよ。放っておいたら世界が滅んでたの。それに、最期に大地の浄化までしてくれたじゃない。その力を自分の治療に充ててたら、ワンチャン生き残れたのに」
「解呪効いたんだ、よかった。自分にできることをやっただけだよ。救ったなんて、大袈裟だ」
 僕が言うと、カリンはまた顔を覆い、今度はすぐに手を外した。
「善行は、本人に自覚が無いほど良いんだった……」
 それから、困ったような顔で笑った。

「で、今回はどうなるの?」
 前回は、ヴェイグが使う身体の持ち主としての復活だった。
 ヴェイグが僕の魂を追い出すのを拒否したから、僕まで生き返るというイレギュラーが発生した。
「もうじき来るから、待ってて」
「来る?」


 とっ、とブーツが地に着く音がした。
 振り返ると、最初の装備を身に着けたヴェイグが立っていた。
「ヴェイグ!?」
 立ち上がると、ヴェイグは僕めがけてずんずんと近づいてきた。せっかくの美形が、眉間の皺とこめかみに立った青筋で台無しになっている。
 そして僕の胸ぐらをつかむと、いきなり頬を拳で殴りつけた。

「って! 何するんだよ!」
 今はスキルやチートがまったくない状態で、防ぐことも避けることも出来ず、地面に転がってしまった。
 再び胸ぐらをつかまれ、無理やり立たされる。
「大馬鹿者が……何故真っ先に己を犠牲にする」
「ちょっと、ヴェイグっ」
 カリンが止めに入ろうとするも、ヴェイグに睨まれて竦んでしまった。
「だからって殴ることないだろ!? 大体どうしてヴェイグがここにいるのさ」
「俺のことはいい」
「よくない! まさか……」
 急に何かの光景が視えた。僕の身体の中のヴェイグが、僕の心臓に黒い剣を突き立てていた。
 僕の心臓にいた竜に、魂を還すための行為だとはいえ、やってることは自害だ。

「何してんだよ! 人のこと言えないじゃないか!」
 胸ぐらを掴み返して、ヴェイグを殴った。ヴェイグは元から冒険者をやっていた人だから、僕ごときモヤシの拳なんて全く通じない。
 なのに、ヴェイグは僕に殴られた後、俯いた。
「あ、ごめん……」
 痛いところに当たったのかと思わず謝っても、ヴェイグは下を向いたままだ。
 そのうち、くぐもった音が聞こえてきた。
「ヴェイグ?」
 下から覗き込むと、声を殺して泣いてた。
「どれだけ、絶望したか……」
 掴んだままだった胸ぐらから手を放すと、ヴェイグはその場に崩れ落ちた。


 ヴェイグは、カリンみたいにべそべそには泣かなかった。
 すぐに嗚咽は止んだけど、目は真っ赤になってる。
「二度と、するな」
 いつもの毅然とした口調で、僕に命令した。
「そっちこそ」
 ヴェイグに泣かれるなんて、二度とごめんだ。



 カリンはいつの間にか居なくなっていて、どこからともなく厳かな声が聞こえてきた。
 厳かな声は、僕とヴェイグに確認をとってきた。
 今回の復活に、呪術は関係ないこと。それ故、もう次はないこと。
 さらに、ことわりを捻じ曲げる行為であるから、身体は僕のものしか使えないこと。

 どうしますか? と問われて、僕とヴェイグは顔を見合わせた。

 最初の頃は、この状態は良くない、という意見で一致してた。
 ヴェイグはこの身体からの脱出方法を考えていたし、僕はいかにヴェイグにプライベートを見られないようにするかに心を砕いていた。
 次第に、ヴェイグは『居心地が良い』と言って僕の中で悠々自適に寛ぎ、僕はヴェイグが昼間に眠ってしまうと物足りなさを感じるようになっていた。
 もしどちらか一人しかいない状態で、魔法とスキルを両方とも持っていても、上手く使えなかったと思う。
 世界を救ったらしいことも、ひとりだけじゃ出来なかったはずだ。
 
 身体一つに魂二つ。歪な現象かもしれない。

 でも、もうこれ以外は考えられなかった。


 僕とヴェイグ、合図なんてしなかったのに、全く同時に返事をした。



「ニコイチで」



◆◆◆



 気がついたら、地面の上に寝ていた。
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