ニコイチート~チート持ちとニコイチで異世界転生させられたので、手探りで冒険します~

桐山じゃろ

文字の大きさ
184 / 219
後日譚

白と緑4/4

しおりを挟む
 表舞台から干された二人と対象的に、僕の方は更に目立つことになってしまった。

 立会人を最小限にしたというのに、人の口に戸は立てられなかった。
 しかも伝言ゲームのように、事実と異なる尾ひれがいくつも生えた。

 英雄ヒーロー二人を一人で圧倒したのは、まあ事実だ。
 シーラに渡した剣は、以前の剣を僕が壊してしまったお詫びであって、敵に塩を送ったわけじゃない。
 シーラの両足を触れただけで折った、というのは言いすぎだ。思い切りやったら切り落としてしまうから手加減したのが、手を抜いたように見えたらしい。
 アイネの魔法を握りつぶしたのは一回だけだ。どうしたらあれが、立会人を含めたその場の全員を飲み込むほどの闇魔法に一人で立ち向かったことになるんだ。
 失神したのはアイネだけで、しかもスキルを使用してのことだ。僕は眼力だけで人を倒せたりしない。
 シーラとアイネの処遇に差があるのは、それまでの彼女ら自身の素行のせいであって、僕はシーラを想ったりしていない。

 ドゥークの町に滞在したほんの五日の間に、難易度Sの魔物を二体倒し、英雄ヒーロー二人のストーキングをやめさせ、噂の真偽を問われて否定し、立会人たちに改めて事実のみを伝えるようお願いして……。

 トイサーチへ帰り着いてからも、シーラに関する色恋の噂をどこかから耳にしたメルノの誤解を解くのが一番大変だった。
 メルノも半信半疑で僕を信じてくれていたようだけど、僕の口からはっきり否定しておいた。


「しんどかった……」
 久しぶりの自室のベッドで大の字になると、思わず口から出た。
〝誰でも疲れる〟
 ヴェイグはこの五日間殆ど出ていないのに、僕につられるように疲れている。
「大丈夫?」
〝俺は問題ない。だが、しばらく休んでもいいと思う〟
「うん」
 ギルドも僕の心労を酌んでくれたのか、この後ひと月ほど、呼び出されずに過ごせた。



 騒動から十日ほど経ち、トイサーチの自宅でメルノたちと夕食をとっている。

「溶ける」
「消えました」
「おいしい!」

 僕、メルノ、マリノの感想だ。
 それぞれ目の前のお皿には、大きなステーキが載っていた。今は一切れから半分以上減っている。
 日本で言うところのブランド牛とかA5等級にあたる高級肉だ。
 程よい脂に柔らかい肉質。厚めに切り両面を軽く炙って塩コショウしただけで、全員のこの感想だ。マリノは猛然と食べ続け、メルノは一口一口噛み締めるように味わっている。
「このような肉が存在するとは……人間の食に対する執念は凄まじいのう」
 高級肉を持ってきてくたのはハインだ。そのハインもこの場にいるのだけど、黙々とフォークを口に運んでいる。感想を述べたのは、一緒に来てくれたラクだ。
「ハイン、すごく美味しいよ」
「……はっ。ああ、そうだな。すまん、夢中になっていた」
 ハインもつい最近まで以前のヴェイグと同じく、食事は腹に溜まれば良い派だった。
 飲み会……じゃなくて、ギルドの歓待で料理に対してあれこれ言っていたのは、英雄ヒーローたるもの食にも気を使っている、というパフォーマンスだったそうだ。
 なんでも美味しそうに食べるラクにのために美味しいものを探すうちに、食事の楽しみを知ったのだとか。
 ちなみに竜は生命維持に食事を必要としない。ラクが人間と同じものを食べるのは、完全に娯楽だ。

 ハインがこんな高級肉を持ってきてくれたのは、先日の騒動に関連したお礼だそうだ。
 お礼をされるようなことしたっけ、と僕が首を傾げると、ハインが真面目な顔で話してくれた。

 ハインもあの迷惑な二人に絡まれかけていたのだそうだ。
 僕が二人と遭遇したのは、全くの偶然だった。しかも、これから所在がほぼ掴めているハインのところへ旅立とうとするその日だったとか。
 遠くの、会えるとも限らないハインのもとへ行くより、今目の前にいる伝説レジェンドを捕まえたほうが手っ取り早い。そう考えたアイネが、シーラをけしかけた、というのが大まかな流れだ。
 襲撃を予告されていたハインの元に二人が来なかった上、マルア国に呼び出されて行ってみれば僕と二人が試合をすることになっていて、ハイン自身は見届人を頼まれた。
 結果はご承知の通りだ。アイネの不実が暴かれ、シーラもおとなしくなり、ハインが被るはずだった迷惑は立ち消えた。
 それで、ハインは僕がトイサーチでのんびりしているのを見計らって、お礼を届けに来てくれた。

「僕の関与って、ものすごく間接的じゃない?」
 お礼をされる程のことはしていない気がする。
「俺も食べたかったものなんだ。ここなら美味しく料理してくれるだろうと思ってな。礼はついでだ」
 礼がついでじゃないのは明らかだ。なぜなら、僕とメルノが「是非一緒に」って言わなかったら、肉を置いてすぐラクと帰ろうとしていた。

 その夜は遅くまで、これまで食べた美味しいものの話で盛り上がった。



〝何を思い出していた?〟
 寝るために自室へ入るなり、ヴェイグに囁かれた。
 やっぱり隠し事はできない。他の皆には気づかれなかったと思いたい。
 美味しいものの話をしながら、僕は少し郷愁に浸っていた。
「両親の最後の晩餐も、高級ステーキだったなぁ、って」

 両親は僕の大学合格祝いに、少しお高いお店へ連れていってくれた。
 フルコースのメインがフィレステーキだった。
 美味しかった、と感想を言い合いながらの帰り道、親戚に差し向けられた車に、両親は。

 昔の記憶というのは、楽しい思い出に浸って心を落ち着かせるか、同じ失敗を繰り返さないためにあると思ってる。
 過去の出来事のせいにして、現状を嘆いたり、自分は不幸だと可哀想がる考え方は苦手だ。
 せっかくの楽しい時間の最中に、両親や親戚のことを思い出して、自分で自分を不愉快にしている。

〝他人には優しいくせに、自分には厳しいな〟
「どうかな」
〝辛い記憶なのだろう。過度の同情を引くために自ら披露する輩は俺も嫌悪するが、アルハは外に見せまいと閉じ込めている。それだけで、十分よくやっている〟
 本当に、ヴェイグは優しい。
「ありがとう」
 素直に出たお礼を、ヴェイグは無言で受け取り、続けて少し妙なことを言い出した。
〝ディセルブの食事にあまり良い思い出はないが、俺の親は自称美食家だった。城の書物に美味や珍味の本が残っているはずだ。すぐとは言わぬが、見に行かないか〟
「えっ?」
 美味しいものを食べて辛い記憶を揺り起こした、という話の直後に、一体何を。
〝アルハのその記憶は大事なものだが、そのせいで美味いものを食い逃すのは惜しい。肉以外の美味ならば、影響は少なかろう〟
 つまり、別の美味しいものを食べて欲求を満たそうってことか。

 美味しいものを食べるのは、楽しい。確かにその通りだ。
 僕が少々辛いことを思い出したぐらいで、諦めていては勿体ない。
「明日はメルノたちとクエストを請ける日だから、明後日はどうかな。明日中にタルダさんに連絡しておくよ」
〝うむ〟

 ベッドへ横になりながら、ふと疑問が頭をよぎった。
「そういえば、何のお肉だったんだろ。……いや、まさか……」
 ハインはメルノに包みを渡し、包みを少し開いたメルノがハインを見てこくこく頷き、そのままキッチンへ持ち込んでしまったから、調理後の肉しか見ていない。
 思い返せば、食後の話のときも何の肉だったかという話を絶妙に避けていた気がする。

 こっちの世界では、日本どころか地球ではお目にかからない、独自の進化を遂げ人為的な改良を施された家畜がいる。
 嫌な予感がする。
 美味しかったけど。
 その美味しさが、時につらい。

 そして、ヴェイグが残酷な真実を告げる。

〝マルアオオウサギだと思ったが〟

 マルアオオウサギは、牛ぐらいのサイズに改良された家畜ウサギだ。近年になって更に改良を重ね、肉質も良く美味しいと評判だ。
 家畜ウサギは、ジャッカロープみたいなウサギ型の魔物みたいに怖い顔はしていない。夢みたいに巨大なウサギだ。
 もふもふで、耳も長くて、とても可愛い。
 一度、牧場を見学させて貰って、思う存分もふもふしたことがある。大人しくて、温かかった。
 あの時のウサギも、食肉用だったから、理解はしてる。
野ウサギと違って味がよく、値段も手頃だから、我が家では、よく、食卓に。

〝アルハ? 大丈夫か?〟
「う、ん……」

 僕はまた別のトラウマを抱え込むことになったのだった。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」 「え?」 「は?」 「いせかい……?」 異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。 ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。 そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!? 異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。 時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。 目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』 半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。 そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。 伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。 信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。 少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。 ==== ※お気に入り、感想がありましたら励みになります ※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。 ※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります ※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

処理中です...