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後日譚
結ぶ
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告白や恋愛、恋人としての付き合い。そういうものをすっ飛ばしたのか事実上そのような状態だったのか、とにかく僕は唐突に好きな人と結婚の二文字を意識することになった。
好きな人ってのは勿論メルノだ。
とりあえず、正式な申し込みからは一旦逃げてしまった。
情けないのは百も承知だ。
その上で、言い訳を聞いてほしい。
まず、メルノの気持ちを確認していない。
〝嫌っているわけはなかろう〟
ヴェイグちょっと静かにしてて。
本人の口から直接、僕とそういう仲になってもいいのかどうか、本当にいいのか、後悔しないのか、後のことは考えてあるのか、隅々まで確認しないと不安なわけだ。
〝確認すれば良いではないか〟
ヴェイグちょっと静かにしてってば。
僕がメルノに直接尋ねても、メルノはどこか遠慮して、全てに「はい」で答えてしまいそうで、無理やり言わせるのは違うから。
〝本人が良いと言うなら……おい、アルハ。遮断するな〟
ヴェイグとの感覚遮断に失敗した。ヴェイグが本気で抵抗すると、僕の意思を跳ね除けられるようだ。
ともかく、何のフィルターもないメルノの率直な考えを知りたい。その方法が見つかるまでは……。
「そんな方法は存在しない」
ヴェイグに身体を乗っ取られた。そのまま、意識状態で正座させられる。
「今更メルノの好意を確認する行為自体が失礼だとは考えないのか。それに、普段のアルハは悩む時間を嫌悪し、物事を潔く決めてきたではないか。一体どうしたというのだ」
ガチの説教を頂いても、僕の考えはまとまらない。
全部自分でも分かっている。
〝もう一晩だけ、時間をください〟
既に、ハインの前でお酒を飲んで酔いつぶれて丸一日過ごしている。
「俺ではなく、メルノに言え」
〝……ヴェイグ〟
「俺からは言わんぞ。身体は返す」
ヴェイグがいつも以上に厳しい。
トイサーチの家の前で、何度か深呼吸する。
マリノは昨夜からラクの家へ泊まりに行っていて、ここにいない。
家の中はメルノだけのはずだ。
意を決して、扉に手をかけて……メルノの気配が家の中にないことに気付いた。
今は真昼だ。今日はクエストへ行く日でもない。
念の為に家の中に入り、呼びかけてみる。返事はない。
気配を探ろうとしたら、後ろにラクとマリノが現れた。転移魔法で飛んできたようだ。
「アルハ、すまぬ」
ラクの顔が青ざめてる。
「どうしたの?」
ラクが逡巡している間に、いつになく慌てた様子のマリノが一息に告げた。
「おねえちゃん、拐われちゃった!」
記憶が飛んだ。
マリノの言葉を聞いたところまでは覚えている。
家の前に居たはずなのに、今は辺り一帯は瓦礫だらけだ。
人が何人も倒れていて、全員ひどい怪我をしているのにヴェイグが治癒魔法を使う気配がない。
そして、何故か腕の中にメルノいる。
ぐったりした様子で、綺麗な藍色の瞳いっぱいに涙を浮かべて僕を見上げていた。
「メルノ?」
「アルハさん! もうやめてください!」
メルノが僕の胸のあたりに縋り付く。麒麟に食い破られた後、黒く変色してしまった肌がちりちりと痛んだ。今まで何が触れても痛みなんて感じなかったのに。
「アルハさん、もう、大丈夫ですから」
「え?」
〝アルハ、聞こえるか〟
「ヴェイグ?」
何が起きたのか、ヴェイグに教えてもらった。
◆◆◆
後でラクに聞いた経緯も合わせて纏める。
メルノは、アルハの煮え切らない態度について以前からラクに相談していた。
そして先日のことだ。マリノが結婚式の話をしたのは、ラクの入れ知恵だった。
メルノとマリノは、アルハが逃げたことをラクに話をしがてら、ラクに誘われて町で食事を取ることにした。
トイサーチの町で、メルノらに手を出す人間はもう居ないと油断していた。
アルハはつい先日、エイブン国の王座奪還を狙う先王一派から一方的に恨みを買っている。
その手先が、トイサーチの町に潜伏していた。
道で倒れこんだ男に、メルノが心配して声をかけた。
男は、路地裏を指差し、何事かつぶやいた。
メルノが訝しみながらも路地裏の方へ向かうと、その姿が消えた。
その場所に転移魔法のようなものの痕跡があったと、ラクは言っていた。
突然消えたメルノに慌てたラクが、倒れていた男を問い詰めると、男は「返してほしくばアルハを呼べ」と。
ラクとマリノは男を放置して、アルハに知らせた。
メルノが拐われたと聞いた瞬間、アルハは持てる全ての力を[気配察知]に割いた。この時、既にアルハの意識は飛んでいたのだろう。ラクやマリノはおろか、俺の声すら届いていないようだった。
「見つけた」
一言つぶやくと、景色が揺らめいた。
飛んだり走ったりしたようだが、俺の感覚では突然目の前にメルノと、メルノを押さえつけ服に手をかけようとする男どもが現れた。
アルハは男どもを[威圧]し動きを止め、メルノを取り返して左腕で抱き上げた。
「怪我は」
メルノを気遣う台詞にもかかわらず、感情が抜け落ちていた。
「……!? アルハさん!? 今、どこから……」
「ヴェイグ」
メルノの動揺を他所に、俺の存在を覚えていたらしいアルハから治癒魔法を要請される。メルノは無傷であったが。
「メルノに、何をしようとした」
今度は男どもに話しかけた。アルハの[威圧]と、それ以上の怒気に当てられ、呼吸もままならない連中から、声は出ない。
それに気付いているのか、どうでもよかったのか。
まず、ひとりの右足がぐしゃりと潰れた。
「!!」
そいつは出ない声で悲鳴を上げた。
アルハは動いていない。
次に、別のひとりの肩が砕けた。
更に別の、腕が、足が、次々に砕け、潰れていく。
〝アルハ、やりすぎだ〟
全身から、魔力と竜の力、精霊の力が混ざったアルハの力が溢れている。それはメルノを包んで守りつつ、周囲の男どもを傷つけ、今いる廃屋らしき建物を破壊していく。
〝やめろ、アルハ〟
「もう少し遅かったら」
返答はあったが、俺の言うことを聞く気はなさそうだ。
「取り返しのつかないことになってた」
周囲の男どもは今や、生きているのが奇跡だ。
〝アルハっ〟
「アルハさんっ!」
腕の中のメルノが叫んだ。
「メルノ?」
それでようやく、いつものアルハが帰ってきた。
◆◆◆
メルノを拐かすような連中にヴェイグの治癒魔法は勿体ないから、僕が時間をかけて治してやった。
治しながら、犯行動機と黒幕を吐かせた。
エイブン国の先王は本当に愚王だ。
メルノを餌に、僕を味方につけるか、でなければ僕が現王に近づけないようにしたかったらしい。
「でもさ、それメルノが無事じゃないと、意味なくない? 何しようとしてた?」
治癒魔法を中途半端に止めて、まだ折れた状態の足を指で軽く突く。
「わ、悪かった!」
「許さないよ」
足のすぐ横の地面をどん、と殴りつけたら、そいつは失神してしまった。
全員を粗方治し、意識を刈って、縛り上げておいた。
エイブン国からトイサーチへは、海路と陸路で約ひと月もかかる。
一先ずトイサーチの牢に預かってもらった。
「あの、アルハさん。私ほんとうに大丈夫ですから」
左腕で抱き上げたままのメルノが、下ろして欲しいと言ってくる。
奴らを治療中から、トイサーチの警備兵に連中を引き渡している間を含め、帰路についている今もそのままだ。
もう危険そうな気配はないとはいえ、少なくとも家まではこうしていたい。
その意味を込めて、両腕で改めて抱え直した。
「メルノ、こんな時に言うのもあれなんだけど」
メルノが危ない目に遭った直後だからこそ、僕は自覚した。
このひとに何かあったら……。
「メルノに何かあったら、僕は自分を保てる自信がない。僕のせいでメルノが巻き込まれることもある。その全部から必ず守る。……だから、それでえっと……メルノが僕を嫌じゃないなら」
もっと言いたいことまとめてから言い出せば良かったと後悔は先に立たなかった。
でも今更自分を飾り立てたところで、メルノとはずっと一緒に暮らしていたから僕のことなど全て筒抜けだ。
「一目惚れだったんだ。最初からずっと、メルノは僕にとって大事な人だ」
それでも、伝えなくちゃいけないと思ったことを口に出す。
「メルノが好きで、愛してる」
腕の中のメルノが僕の胸元をぎゅっと掴む。黒い痕のちりちりした痛みは、もうない。
「もう既に家族として一緒に暮らしてるけど、その関係性を、夫婦に変えたい」
顔が熱い。多分耳まで赤い。
メルノが何も言わなかったのは、ほんの数秒なのに、ずいぶん長い時間に思えた。
「はい。私もアルハさんのことを愛しています」
好きな人ってのは勿論メルノだ。
とりあえず、正式な申し込みからは一旦逃げてしまった。
情けないのは百も承知だ。
その上で、言い訳を聞いてほしい。
まず、メルノの気持ちを確認していない。
〝嫌っているわけはなかろう〟
ヴェイグちょっと静かにしてて。
本人の口から直接、僕とそういう仲になってもいいのかどうか、本当にいいのか、後悔しないのか、後のことは考えてあるのか、隅々まで確認しないと不安なわけだ。
〝確認すれば良いではないか〟
ヴェイグちょっと静かにしてってば。
僕がメルノに直接尋ねても、メルノはどこか遠慮して、全てに「はい」で答えてしまいそうで、無理やり言わせるのは違うから。
〝本人が良いと言うなら……おい、アルハ。遮断するな〟
ヴェイグとの感覚遮断に失敗した。ヴェイグが本気で抵抗すると、僕の意思を跳ね除けられるようだ。
ともかく、何のフィルターもないメルノの率直な考えを知りたい。その方法が見つかるまでは……。
「そんな方法は存在しない」
ヴェイグに身体を乗っ取られた。そのまま、意識状態で正座させられる。
「今更メルノの好意を確認する行為自体が失礼だとは考えないのか。それに、普段のアルハは悩む時間を嫌悪し、物事を潔く決めてきたではないか。一体どうしたというのだ」
ガチの説教を頂いても、僕の考えはまとまらない。
全部自分でも分かっている。
〝もう一晩だけ、時間をください〟
既に、ハインの前でお酒を飲んで酔いつぶれて丸一日過ごしている。
「俺ではなく、メルノに言え」
〝……ヴェイグ〟
「俺からは言わんぞ。身体は返す」
ヴェイグがいつも以上に厳しい。
トイサーチの家の前で、何度か深呼吸する。
マリノは昨夜からラクの家へ泊まりに行っていて、ここにいない。
家の中はメルノだけのはずだ。
意を決して、扉に手をかけて……メルノの気配が家の中にないことに気付いた。
今は真昼だ。今日はクエストへ行く日でもない。
念の為に家の中に入り、呼びかけてみる。返事はない。
気配を探ろうとしたら、後ろにラクとマリノが現れた。転移魔法で飛んできたようだ。
「アルハ、すまぬ」
ラクの顔が青ざめてる。
「どうしたの?」
ラクが逡巡している間に、いつになく慌てた様子のマリノが一息に告げた。
「おねえちゃん、拐われちゃった!」
記憶が飛んだ。
マリノの言葉を聞いたところまでは覚えている。
家の前に居たはずなのに、今は辺り一帯は瓦礫だらけだ。
人が何人も倒れていて、全員ひどい怪我をしているのにヴェイグが治癒魔法を使う気配がない。
そして、何故か腕の中にメルノいる。
ぐったりした様子で、綺麗な藍色の瞳いっぱいに涙を浮かべて僕を見上げていた。
「メルノ?」
「アルハさん! もうやめてください!」
メルノが僕の胸のあたりに縋り付く。麒麟に食い破られた後、黒く変色してしまった肌がちりちりと痛んだ。今まで何が触れても痛みなんて感じなかったのに。
「アルハさん、もう、大丈夫ですから」
「え?」
〝アルハ、聞こえるか〟
「ヴェイグ?」
何が起きたのか、ヴェイグに教えてもらった。
◆◆◆
後でラクに聞いた経緯も合わせて纏める。
メルノは、アルハの煮え切らない態度について以前からラクに相談していた。
そして先日のことだ。マリノが結婚式の話をしたのは、ラクの入れ知恵だった。
メルノとマリノは、アルハが逃げたことをラクに話をしがてら、ラクに誘われて町で食事を取ることにした。
トイサーチの町で、メルノらに手を出す人間はもう居ないと油断していた。
アルハはつい先日、エイブン国の王座奪還を狙う先王一派から一方的に恨みを買っている。
その手先が、トイサーチの町に潜伏していた。
道で倒れこんだ男に、メルノが心配して声をかけた。
男は、路地裏を指差し、何事かつぶやいた。
メルノが訝しみながらも路地裏の方へ向かうと、その姿が消えた。
その場所に転移魔法のようなものの痕跡があったと、ラクは言っていた。
突然消えたメルノに慌てたラクが、倒れていた男を問い詰めると、男は「返してほしくばアルハを呼べ」と。
ラクとマリノは男を放置して、アルハに知らせた。
メルノが拐われたと聞いた瞬間、アルハは持てる全ての力を[気配察知]に割いた。この時、既にアルハの意識は飛んでいたのだろう。ラクやマリノはおろか、俺の声すら届いていないようだった。
「見つけた」
一言つぶやくと、景色が揺らめいた。
飛んだり走ったりしたようだが、俺の感覚では突然目の前にメルノと、メルノを押さえつけ服に手をかけようとする男どもが現れた。
アルハは男どもを[威圧]し動きを止め、メルノを取り返して左腕で抱き上げた。
「怪我は」
メルノを気遣う台詞にもかかわらず、感情が抜け落ちていた。
「……!? アルハさん!? 今、どこから……」
「ヴェイグ」
メルノの動揺を他所に、俺の存在を覚えていたらしいアルハから治癒魔法を要請される。メルノは無傷であったが。
「メルノに、何をしようとした」
今度は男どもに話しかけた。アルハの[威圧]と、それ以上の怒気に当てられ、呼吸もままならない連中から、声は出ない。
それに気付いているのか、どうでもよかったのか。
まず、ひとりの右足がぐしゃりと潰れた。
「!!」
そいつは出ない声で悲鳴を上げた。
アルハは動いていない。
次に、別のひとりの肩が砕けた。
更に別の、腕が、足が、次々に砕け、潰れていく。
〝アルハ、やりすぎだ〟
全身から、魔力と竜の力、精霊の力が混ざったアルハの力が溢れている。それはメルノを包んで守りつつ、周囲の男どもを傷つけ、今いる廃屋らしき建物を破壊していく。
〝やめろ、アルハ〟
「もう少し遅かったら」
返答はあったが、俺の言うことを聞く気はなさそうだ。
「取り返しのつかないことになってた」
周囲の男どもは今や、生きているのが奇跡だ。
〝アルハっ〟
「アルハさんっ!」
腕の中のメルノが叫んだ。
「メルノ?」
それでようやく、いつものアルハが帰ってきた。
◆◆◆
メルノを拐かすような連中にヴェイグの治癒魔法は勿体ないから、僕が時間をかけて治してやった。
治しながら、犯行動機と黒幕を吐かせた。
エイブン国の先王は本当に愚王だ。
メルノを餌に、僕を味方につけるか、でなければ僕が現王に近づけないようにしたかったらしい。
「でもさ、それメルノが無事じゃないと、意味なくない? 何しようとしてた?」
治癒魔法を中途半端に止めて、まだ折れた状態の足を指で軽く突く。
「わ、悪かった!」
「許さないよ」
足のすぐ横の地面をどん、と殴りつけたら、そいつは失神してしまった。
全員を粗方治し、意識を刈って、縛り上げておいた。
エイブン国からトイサーチへは、海路と陸路で約ひと月もかかる。
一先ずトイサーチの牢に預かってもらった。
「あの、アルハさん。私ほんとうに大丈夫ですから」
左腕で抱き上げたままのメルノが、下ろして欲しいと言ってくる。
奴らを治療中から、トイサーチの警備兵に連中を引き渡している間を含め、帰路についている今もそのままだ。
もう危険そうな気配はないとはいえ、少なくとも家まではこうしていたい。
その意味を込めて、両腕で改めて抱え直した。
「メルノ、こんな時に言うのもあれなんだけど」
メルノが危ない目に遭った直後だからこそ、僕は自覚した。
このひとに何かあったら……。
「メルノに何かあったら、僕は自分を保てる自信がない。僕のせいでメルノが巻き込まれることもある。その全部から必ず守る。……だから、それでえっと……メルノが僕を嫌じゃないなら」
もっと言いたいことまとめてから言い出せば良かったと後悔は先に立たなかった。
でも今更自分を飾り立てたところで、メルノとはずっと一緒に暮らしていたから僕のことなど全て筒抜けだ。
「一目惚れだったんだ。最初からずっと、メルノは僕にとって大事な人だ」
それでも、伝えなくちゃいけないと思ったことを口に出す。
「メルノが好きで、愛してる」
腕の中のメルノが僕の胸元をぎゅっと掴む。黒い痕のちりちりした痛みは、もうない。
「もう既に家族として一緒に暮らしてるけど、その関係性を、夫婦に変えたい」
顔が熱い。多分耳まで赤い。
メルノが何も言わなかったのは、ほんの数秒なのに、ずいぶん長い時間に思えた。
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