目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ

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第一章

19 亜院紅の妄執

 目の前で、横伏が化け物の首に剣を突き立てた時、おれの中で何かが変わった。
 気がついたら、夢中で化け物どもに止めを刺していた。

 頭の中で妙な声がする。レベルアップって何だ?
 椿木に尋ねると「レベルアップはレベルアップだよ。強くなったんだ」と当然だとばかりに言われた。
 なんだそれは。人は厳しい鍛錬を積むことでしか強くなれないのじゃなかったのか。
 化け物を殺すだけでいいのか。こんな簡単なことで。

「ここは異世界だから、元の世界とは常識も何もかも違うんだよ。ステータス見れるでしょ? ボクと土之井は魔法が使えるでしょ? 日本じゃそんなことできなかったでしょ?」

 おれは教科書とスポーツ関連以外の本を読まないから、ライトノベルや異世界というものの知識に疎い。
 椿木に教えを請うと、惜しみなく話をしてくれた。ありがたい。


 おれたちを召喚したという男は、おれたちに魔物と呼ばれる化け物を討伐することを強要した。
 スキルというものの効果で、この世界の者たちよりも、魔物を倒すことで得られるものが多いらしい。
 倒せば倒すだけ、体の中から力が湧き上がる。
 幼い頃から励んできた柔道を否定され、武器を握らされたときは憤慨したが、今となっては剣のほうが都合が良い。

 確実に魔物を殺せる。

 言われるまま、言われなくても、魔物を殺し続けた。
 本当におれは強くなっていった。
 おれだけではなく、同じ場所からこの世界に来た人間は皆、魔物を殺すだけで強くなれた。


 横伏だけは、得られた「スキル」の勝手がわからず、伸び悩んでいた。
 何度か剣の練習に付き合ったが、そもそも格闘技に向いていない。
 上背だけはあるが、筋肉がない。気概もない。
 心根が優しいのは良いことだが、魔物を殺す必要があるこの世界で、半端な優しさは邪魔なだけだ。
 おれへの反発でも良いから奮起すればと必要以上に痛めつけても、それすら「仕方ない」と受け入れてしまう。

 弱さを認めることは、強さではない。ただ情けないだけだ。

 不東が「横伏を捨てよう」と持ちかけてきたのは、いくらやっても強くならない横伏に、おれも諦めかけた時だった。


 この世界は「魔王」という悪の存在に脅かされているらしい。
 おれたちが召喚された理由は、その「魔王」とやらが異世界から来た人間にしか倒せない存在だから、と聞かされた。
 故に「魔王」を倒さねば、おれたちに安寧は訪れない。
 全員のレベルが40を超えたら魔王を倒しに行こうという話になっていたのに、横伏だけがどうしてもレベル10から上がらなかった。

 おれたちは横伏に見切りをつけることにした。


 魔物討伐の訓練兼任務だと偽って森へ連れ出し、適当な魔物と遭遇したところで、うまい具合に横伏が攻撃を食らった。
 魔物は思わず倒してしまったが、怪我をした横伏をそのまま置き去りにすることはできた。
 魔物の死体をそのままにしておけば、新たな魔物を呼ぶ。
 横伏はその魔物に食われて死ぬだろうとわかっていて、おれには何の躊躇いもなかった。

 当然だと思ったのだ。
 この世界では、弱ければ死ぬ。
 その時が早まっただけだ。



 横伏を森に置き去りにした二日後、土之井が城からいなくなった。
 土之井だけは横伏を捨てることに賛同していない様子だったから、横伏を探しに行ったのだろう。
 だが、横伏は生き延びていようがいまいが、死んだことになっている。
 今更生きていては困るが、どのみち死んでいるだろうに。

 土之井を探しに出て二日後に見つけ、翌日城に連れ戻した。


 さらにその数日後、土之井は再び城を出た。今度はおれを監視につけるという制限付きで、城の人間を説き伏せた。

 土之井の目的は、生き延びているはずの横伏を探すというものだ。
 馬鹿げている。
 死んだ証拠がないときはどうするのだと尋ねれば、横伏は必ず生きていると言い切った。

 森の周辺にある町や村をいくつか尋ね、生きている証拠がでてこねばそのうち諦めるだろうと、仕方なく付き合ってやることにした。


 どんな世界でも、「まさか」という事態には遭遇するものだ。


 イデリクという村で、節崎月子を見かけた。


 節崎はおれのことを知らないだろうが、おれは節崎を知っている。
 凛とした雰囲気を漂わせた美しい女性だ。
 クラスも違うし、合同授業もことごとく別だった。
 だからおれは、何か用事をつくっては節崎のいる教室に近寄り、そっと眺めていた。

 近づきたいだとか、恋仲になりたいなどとは考えていない。おれのような男では釣り合わない。
 ただ、視界に節崎がいるだけでよかった。

 元の世界に心残りがあるとすれば、家族のことでも柔道のことでもなく、節崎のことだけだった。


 その節崎を、おれが見間違うはずがない。
 土之井に「日本の他の誰かがこの世界にいる可能性」を確認した。
 有り得るという答えだった。

 ならば、あれは節崎だ。

 土之井の監視役を忘れて追いかけたが、すぐに見失ってしまった。

 土之井はまだ村にいてくれた。おれを待っていたのだという。
「亜院が俺を見逃してくれるっていうなら俺にとっても都合がいいけど。その場合、亜院はどうするつもりだ? あまり考えなしに動かないでくれよ」
「すまなかった」
 後先考えずに突っ走ったおれが全面的に悪かった。
 素直に謝罪すると、土之井はおれの行動について尋ねてきた。

「他にも良槃高校から、こちらにきている人間がいる」
 節崎であることは明言したくなかったから、ややぼかして答えた。
 土之井は興味を示したが、その人間を探すとは言わなかった。
「気にはなるけど、目下の目的は横伏だ」
「横伏の情報はつかめたのか?」
「ああ。モルイという町に行くつもりだよ。亜院は、どうする?」
 土之井は別行動を提案してきた。
 お互いに居場所を把握するため、定期連絡を欠かさないようにさえすれば問題ない。
 提案に乗ることにした。


 モルイで宿を決め、一週間に一度は必ず居場所を宿の主人に言付けることにして、俺は土之井と別れた。
 早速節崎を探した。

 黒髪黒目の長身の女、という情報では、節崎は見つからなかった。
 この世界の人間は、日本人より背の高い人間が多い。女も例外ではない。

 節崎探しは土之井に頼み込んで任せることにした。だいぶ渋られたが、おれは土之井をあえて監視しないと言うと、即座に了承した。

 そしておれは、魔物を倒すことに専念した。

 イデリク村で節崎の隣にいた男が厄介なのだ。
 日本人のような風貌をしていたが、かなりの強さを感じた。
 あれは不東なんぞより数段上の実力を持っている。
 万が一あの男が節崎の前に立ち塞がったら、おれでは太刀打ちできない。

 異世界に来ても、節崎はおれの手の届くところにいる。

 おれが、節崎の横に立つ人間に相応しいはずだ。

 そのためには、あの男よりも力をつけねばならない。



 幸い、この世界は魔物を倒せば倒すだけ強くなれる。
 野営の道具はある。水と食料は現地調達する術を身に着けてある。
 先日、経験値を十倍取得できるスキルとやらが消えていたが、十倍狩ればよいだけの話だ。

 魔物を追い求めるうちに、だいぶ北の方へ入り込んでいた。

 そこで、魔物をひたすら殺した。
 確かに強くなる速度は落ちたが、何百も倒せばレベルは上がる。
 遂に50になった。不東よりも上だ。

 これだけあれば、あの男が相手でもなんとかなるだろう。
 おれは最強を手に、モルイへ戻った。

 土之井でさえも節崎の情報は掴みきれていなかった。
 ならばと、おれはもう一度イデリク村へ向かった。

 一度会えたのだから、二度目があるかもしれないと。


 イデリク村の宿に泊まろうとして、断られた。
 満員だという。

 苛立たしい。

 なんでも良いから泊めろと詰め寄ると、相手はおれを侮ったのか力ずくで追い払おうとした、
 その手を掴んで、捻り投げた。
 騒ぎになり、止めに入ってくるやつも、背負い投げ、足を払い、絞め落として無力化した。

 柔道技では、ものたりない。
 血が見たい。

 剣を抜き、手近なひとりを斬ると、立っていたものは逃げ出した。

 あとを追いかけて、手当たりしだいに斬った。
 逃げ込んだ家に踏み込み、剣を振り回した。


 この世界には魔法がある。人の怪我が魔法で治るところを何度も見たし、おれも実体験した。
 殺さなければいい。

 おれに逆らったことを、節崎を探す邪魔をしたことを後悔すればいい。


 村民を老若男女問わず殆ど斬り伏せた頃、荷馬車がやってきた。
 御者台から降りてきた男が、黒髪の女に何か指示をして何かをもってこさせ、血を流して倒れている男を介抱しだした。

 あいつもおれの邪魔だ。
 近づいていくと、黒髪の女が目に入った。

 節崎だ。

 探さずとも、おれの前に現れてくれた。


 節崎を顎で使う無礼な男は殴り飛ばした。

「やっぱり、節崎だな。探した」

 節崎に手を伸ばした。


 何故、怯えている?
 おれは、節崎だけは傷つけない。
 信じてくれ。
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