異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第1章:異世界と吸血姫編

第21話:同郷

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 アリシエーゼ・エンフェンフォーズ。
 エンフェンフォーズ伯爵家長女として生を受ける。
 エンフェンフォーズ伯爵家はエバンシオ王国に古くから仕える貴族家の一つであり代々エバンシオ王家に忠誠を近い、国の発展の為に尽力して来た。
 そんなエンフェンフォーズ家は今代でもエバンシオ王家との仲は良好であり、自領の経営状態も至って良好であった為に、アリシエーゼも両親の愛情を多分に受け何不自由無く過ごしていた。
 容姿端麗、家の家格も申し分無いとなれば独身貴族や同格、格下、更には格上の貴族家の男子との見合い話は事欠くことが無い。
 父も母も兄も弟も皆アリシエーゼを愛していたし、アリシエーゼ自身も家族を愛し、信頼していた。
 しかしアリシエーゼには一つだけ家族にも親しい友人にも打ち明けていない事があった。

「それが異世界転生者だったって事だろう」

 焚き火を囲んで並んで座るアリシエーゼを見る事無く俺は語り掛ける。

「ふんっ!やはり妾の頭の中覗き見たな。ゲスい奴じゃ!」

 アリシエーゼはそう言って俺に小石を投げ付ける。

「ゲスいってお前・・・お前がどこまで知ったか聞きたがったんだろうが」

 そう、アリシエーゼは正気に戻るとすぐに自分の状態を把握した。自身に制約が課されている事も、そしてその制約の内容も。

「まあ同郷の好で許してやらん事も無い。まさか妾も同じ地球人に出会えると思ってなかったしの」

 俺もまさか地球人に出会えるとは思ってもみなかったよ
 まあ地球人と言ってもアリシエーゼは一度死んでこっちに転生して来たみたいだから微妙に立場は違うんだが

「そりゃどうも。それにしてももしかしたら俺と同じ転移者はいるかもとは思ったが、転生者に出会うとはなぁ」

 俺が突然転移したんだ
 他にも転移した奴が居ても可笑しくはない
 絶対にあのが原因な気がするし

「まあ妾はお前を一目見た時からそうだと思っていたがな!」

「なんでだよ?」

 さっきは泣く程怒ってた癖に今はケロッとして得意げだ。
 何だかイラつく顔してるな。

「その服じゃよ。そんな服この世界には無い。どう見ても可笑しいであろう。お前バカなのか?」

 オイ、コラ

「お前な・・・まあ確かに言われてみればそうだな。服にまで気が行かなかったのは事実だ」

「そうであろう?お前はバカでゲスなのだ」

 またその二チャリ顔かよ…
 やっぱりこいつこの世から消し去るべきかな…

「あ、今こいつ生かしておかない方が良かったなとか思ったであろう!?」

「その通りだよ」

「なにぃ!?」

 喧しい奴だな

 でもまあ、いきなり異世界に転移させられ魔力無しの穢人の異世界ハードモードに突入していた為に何だかんだ気を張っていただけに少しばかりホッコリしているのも事実だ。

 認めたくは無いがな

「とりあえずさ、俺、今日異世界に引越して来たばっかりで右も左も分からん訳よ」

「うむ」

「だからとりあえず色々レクチャーしてくれると有難いんだが」

「人の頭弄り回しておいて言う事かの…」

「そうは言っても実害なんて無いだろ?」

「あるわい!乙女の心を何だと思っておるんじゃ!」

 実際、アリシエーゼには一つだけ制約を課した。

 俺に害を成さないこと

 ただこれだけだ。
 直接的にも間接的にも俺に敵対行動は取れないし、俺が不利になる行動、言動は出来ない様にした。
 それ以外はまったく何も弄ってはいない。

「俺に害を成さなけりゃ別に今までと変わらず生活出来るし、ちょっと記憶とか盗み見た事は謝るよ」

「お前を殺す事は出来ないし乙女の心は丸裸じゃし、全てお前有利ではないか!」

「いや、そりゃそうだろ・・・何で態々自分が不利になる状況を作り出さなきゃならないんだよ。そんなマゾプ趣味俺にはねぇよ」

「ふん!いつか絶対に後悔させてやるからのう!それに秘密をちょっとばかり知り得たからと言って妾がお前の思い通りになると思うなよ!」

「いやそんな事思ってねーよ…」

「どうだかのう。きっとゲスい事を考えてるに違いない。なんならお前の頭の中覗いてやろうか?うん?」

「やれるもんならやってみろよ。お前じゃ俺の攻勢防壁破る事なんて不可能だろうがな」

 そう言って鼻を鳴らすとアリシエーゼは苦虫を噛み潰した様な顔をした。

「絶対後悔させてやるからな…」

 アリシエーゼは小さく呟いていたが、聞こえてないとでも思ってるんだろうか?
 なのじゃロリキャラがイマイチ定着して無い様にも思えるし、やっぱり色々と残念だとため息混じりに思った。

「お前が妾の秘密を暴露しようと痛くも痒くもないわ!ばーか!!」

 そう言ってアリシエーゼは舌を出し俺を挑発して来た。

「そうか?お前結構ヤバいと思うけどな。ってかマジで今もドン引きしてるんだが」

「異世界転生したなんて話、何処の誰が信じるんじゃ。お前の頭がどうかしてると思われるのがオチに決まっておる!」

「そんな事無いと思うぞ。クソヴァンパイアでショタ好き変態サイコパスの須藤恵梨香さん」

「・・・・・・・・・」

 俺がそう言うとアリシエーゼの顔から表情が消えた。そしてジッと俺の顔を見詰めて一言呟いた。

「殺すぞ」

 その瞬間、アリシエーゼの体内から凄まじい勢いで何かが溢れ出した。
 それは物理的な圧力を有しており、余りの勢いに地面に腰を降ろしていた俺は無様にも転がった。

「テメェ!いきなり何すんだ!」

 そう言ってアリシエーゼを見ると、体育座りの格好のままこちらに顔だけ向けてーー

 ーー笑っていた。

 ひえ!怖いよ何あれ!?
 めっちゃ笑ってんじゃん!?
 って言うか、何か身体の周りから出てない?
 メラメラと出てない?

 アリシエーゼの身体からは蜃気楼よりもハッキリとした何かが凄まじい勢いで吹き出しているの分かった。

 これはあれか
 魔力が可視化されてんのか
 トイズが魔力を展開させて魔力障壁を作り出した時にはそんなもん見えなかったけどこれはレベルが違うな…

「姫様ぁぁ!」

「姫様ご乱心んんんん!!」

「どうしました姫様ぁ!?」

「あぁっ!姫様が笑っておられる!」

「その顔、その顔ですよぉ!姫様ぁぁ!」

「おい、馬が暴れてる!どうにかしろ!」

 周りでは傭兵団の面々がいきなり暴走し出したアリシエーゼに戸惑い叫んでいた。

 若干名なんか別の意味で興奮している輩が居るな…

 アリシエーゼとの邂逅後、傭兵団の面々には
 アリシエーゼは元から居た事にし、俺も元々傭兵団員だった事にしたのだ。

 改めてアリシエーゼを見てもまだ怒りの矛先は俺に向けられていて、傭兵団等気にも止めていない。

「なんかマジだなぁ…明らかに殺そうとしてるよなぁ…」

 可笑しい
 俺に害を成さない様に設定しているはずだが本気で殺そうとしている
 でも殺意を抱く事自体は制限してないから魔力を展開、放出しただけでは俺がどうこうなる訳じゃないからセーフ機能は動作しないのか?
 たぶんここから何か行動しようとするとセーフ機能が働くはず

 そんな事を考えていると、アリシエーゼは音も無く立ち上がり俺に向き直って右手を正面に突き出した。
 その瞬間アリシエーゼが放出していた魔力がもう一段階勢いを増した。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 ちょっとビビって身構えていたが特に何も起きない。それどころかアリシエーゼが纏っていた魔力もいつの間にか霧散していた。

 ちょっとヒヤヒヤしたがちゃんと機能してそうだな

 アリシエーゼも我に返り、自身に課せられた制約の力を思い知った様で地団駄を踏みキーキー騒いでいる。

「あー!もう!なんのよこれ!ムカつく!!」

「キャラが崩壊してるぞー」

「うっさい!全て見透かされてるって思ったら恥ずかしいじゃない!」

「まぁそうだな」

「そうだな、じゃないわよ!」

「同胞の好だ、許してくれ」

 そう言って俺はアリシエーゼに手を差し出す。

瀧田暖タキタハルだ、よろしくな」

 俺が差し出した手と顔を交互に見返してアリシエーゼは鼻を鳴らしながら手を振り上げてーー

「嫌よ!」

 パンッと乾いた音をさせて俺の手を弾くのであった。

 似非ロリキャラの次はツンデレかー
 ダルいわー
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