異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第1章:異世界と吸血姫編

第25話:初異世界ちゃんと飯

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 飯と風呂の準備が出来るまでの間、アリシエーゼと地球の事やこの世界の事を話し込んでいると、キッチンに居た男が声を掛けてきた。

「姫様、お食事のご用意が出来ました」

「うむ、ご苦労。では早速食べるかの!」

 アリシエーゼに促されて俺もダイニングの方へと向かう。
 途中で退室しようとする男に声を掛けて感謝を伝える。

「すみません、急に俺の分まで用意して貰っちゃって」

「いえ、お気になさらず。姫様がご友人をお連れになるなんて初めてなのでこちらも嬉しくなってしまいました」

「あぁ、コイツ友達居なさそうですもんね」

「ハハハ・・・」

「なんじゃとッ失礼な奴じゃ!」

 アリシエーゼはプンスカ怒っているので男はそそくさと退散して行った。

「あーあ、怖がって行っちゃったじゃないか」

「誰のせいだと思っておるッ」

 等とくだらないやり取りをしつつダイニングテーブルにたどり着いた。
 テーブルは八人程で食事が出来るくらいには広く、イスもテーブルに合わせた作りのものが八脚置いてあった。
 アリシエーゼはリビングから見ると横長のテーブルの右側お誕生日席に座る。
 俺はその対面にある左側のお誕生日席に料理が並べられているのでそこに座った。

「・・・・・・」

 アリシエーゼは座った俺の顔を真顔で見ている。
 俺もなんだ?とアリシエーゼを見る。
 暫く無言で見つめ合うが先に根を上げたのはアリシエーゼであった。

「何でじゃッ!」

 突然叫ぶアリシエーゼに本当に意味が分からなくなりちょっと困ってしまう。

「何がだよ?」

「何がじゃない!お主は気にならんのかッ」

「だから何がだよ?」

「この距離じゃよ!こ・の・距・離!」

 アリシエーゼはそう言って自身と俺を指さし癇癪を起こしている。

「はぁ?距離が遠いって事か?」

「そうじゃッ分かってるならさっさとこっちに来んかッ」

 そう言ってアリシエーゼは胸の前で腕を組みお怒りだ。

 コイツ、こんなキャラだったか・・・?
 いや、昨日初めてあったばかりだけど・・・

 何だかなぁと心の中で呟く。
 ただ、先程の男も言っていたが初めて友人を連れて来たと言っていたし、吸血鬼になった時からアリシエーゼは家族も友人も捨てて関係を断ち切っているはずだ。
 そうなるとアリシエーゼはこの異世界で天涯孤独の身と言ってもいいし、不老不死できっと周りとは時間の共有も出来ない。
 そう考えると、同郷の、しかも生きた時代も近い人間と予期せず出会い、舞い上がってしまったと考えるとあまり邪険にも出来ないなと思った。

「はいはい、分かったよ。そっちに行くよ」

 そう言って俺は料理が盛られた皿をアリシエーゼの近くに運んで行き、アリシエーゼの左前の席に座る。

「これでいいか?」

「うむ!食事はこうでなくてはの!」

 そう言って笑ったアリシエーゼは素直に可愛いと思ってしまった。

 くッ!不覚ッ

「あぁ、そうだな。もう腹が減って死にそうだったんだ、早速食べようぜ」

「うむ!いただきます!」

「いただきます」

 そう言って二人手を合わせる。
 何だかこの光景を客観的に見てると想像したら異世界で2人で手を合わせていただきますってと少し笑えて来た。
 そんな事を頭の隅で考えながら目の前の料理を見る。

「おぉ、今日は猪肉か」

 アリシエーゼが言っているのはたぶんメイン料理の如く鎮座しているステーキみたいな料理の事だろう。
 それは分厚いステーキの様で、二ミリくらいの感覚で切れており、焼き加減はウェルダンと言った感じだ。
 他にも色々とあるが、念願の異世界飯を前にはまずはその肉にかぶりつく。
 コース料理の様に色々な料理が目の前にあるが、フランス料理の様な料理毎のナイフ等は用意されておらず、スプーンとフォークのみが置いてあるだけなのでフォークで肉をぶっ刺して、かけられているソースと一緒に口に運ぶ。

「うまッ」

「そうじゃろう、そうじゃろう」

 アリシエーゼ嬉しそうにしながら自分も猪肉を頬張って料理を堪能している。

「猪肉って言うからステーキだと臭みがあるんじゃないかと思ったえど全然そんな事ないんだな」

「猪と言っておるが、猪みたいな何かじゃ。ここではワイルドボアと呼ばれておるからまあ、猪なのじゃろ」

 野生の猪か・・・
 そのまんまだが、何で異世界なのに英語で・・・
 いや、辞めよう
 ここは異世界・・・
 ここはファンタジー・・・

「それにこのソースも凄い美味い。何を使ってるんだ?少しニンニクっぽい感じもするけど」

 肉にかかっているソースは少し甘みと酸味が有り、肉自体は塩コショウでシンプルな味付けとなっているが、その塩味と合わさり、更にはスパイスもと、肉とソースを一緒に食べれば思わず笑みが零れてしまう美味さだった。

「詳しくは知らん!美味いから良いでは無いか」

 本当に残念な奴だな、コイツは・・・

 そんな事を思いつつも俺も残りの料理が気になり次はどれを食べようかと目移りしてしまっていた。
 猪肉の他にも、レタスっぽい葉物とトマトっぽい赤い実のサラダに、人参っぽい何かと豆が入った色味的にはミネストローネっぽいスープ物に、白いパン、後は何かボトルに入った水だろうか、そんなものが置いてあった。

「そのボトルには何が入ってるんだ?」

「これか?これはここで作ってるワインじゃ」

「えッ!?お前何飲酒なんてしてんだよ」

「何を言っておる、この国では貴族の女は13で成人と認められておる」

「嘘付くなッ」

「嘘では無いわッ」

「そんなバカな話があるか――」

 と言っている途中で、そう言えば平安時代とか鎌倉時代とかその辺って女性は十三とか十五とか早く成人として認められると言う様な事をどこかで聞き齧った事があるなと思い直した。

「――まあ、貴族だしそういう事もあるか」

「そうじゃ。妾は十四まで実家におったからの。十三の時に成人の儀は終えておる」

 貴族ともなると政略結婚や色々と政略が絡む事柄が多分にあるのだろう。
 そんな影響で女性の成人年齢も割と低くなっているのかもしれない。
 それだけではもちろん無いと思うが。

「男性は十五なのか?」

「そうじゃ。お主は幾つだ?」

「十七になった」

「えぁッ!?同い年くらいだと思っておったぞ」

「お前な・・・」

「すまんすまん。ではお互い成人していると言う訳じゃな?」

「この世界基準で言えばな」

「今更あっちの基準を持ち出す意味はあるのか?」

「いや、無いな」

「そうじゃろ」

 そう言うとアリシエーゼは、ボトルの横に置いてあったグラスを俺の前にスッと寄せてワインを注いだ。

「俺は飲まないぞ」

「何でじゃ、良い子ぶるのはよせ」

「そうじゃなくて、思考が鈍る事はしたくないんだ。おれの能力で判断力が鈍るのは不味い」

「なるほど。じゃが、もし酒を飲んで酩酊したとして、お主が掛けた制約は解除されてしまったりするのか?」

「いや、一度使えば俺が認めない限りずっとそのままだ。例え俺が死んでも」

「だったらここにいる間くらい良いではないか」

「何が起こるか分からんだろ・・・」

「なんじゃお主、つまらん奴じゃの。どうせ飲んだ事無いからビビっておるんじゃろうが」

「違うって言ってんだろ・・・」

「あー、はいはい」

 コイツ・・・

「では妾は寂しく一人で飲むかのー」

 そう言ってアリシエーゼはもう1つのグラスにワインを自ら注いでコクリと一口飲む。

「あー美味いのー、これはガキには分からぬ大人の味じゃのー」

 二チャリとアリシエーゼは笑いながらもう一口呑み込む。

「・・・はぁ、分かったよ、飲むよ」

 挑発に乗せられた様で納得いかないが、ここで飲まなかったら一生それをネタにバカにしてきそうだし、何よりアリシエーゼが言う様に、ここにいる間は傭兵団も居るし安全ではあるのだろうと言う思いもあった。
 それはつまりコイツらを信用してきていると言っても良かった。
 あっちの世界では無理であったが信頼のおける仲間と言うものが見付かるかもしれないなと少し、ほんの少しだけ期待してしまっている自分が居るのも確かだろう。
 そんな思いが気恥ずかしく、それを酒精で誤魔化そうと言う打算もあったのかもしれない。

「よしよし、では乾杯じゃ」

「何にだ?」

「妾とお主の運命の出会いに――」

「――運命かどうかは分からないがこの出会に」

「「乾杯」」

 先ずは一口、口に含んでみる。
 苦味が先に来るが、後から葡萄?の甘みが口の中に広がり、かなり美味しいと感じた。

「これをここで作ったって?」

「そうじゃ、凄いじゃろ」

「あぁ、これは大したもんだ」

 この村には色々な畑が数多く見受けられた。
 その中に葡萄を育てている畑もあるのかなと思ったが、葡萄はこっちの世界でも葡萄と言うのだろうかと思いつつ、そもそもこのワインは葡萄から出来ているんだろうかと思うが、飲んだ香りと味は正しく葡萄であった。

「こんな飲みやすいとは思わなかった」

 そう言って注がれたワインを飲み干す。

「ほー、いい飲みっぷりでは無いか、じゃがこの後風呂に入るのであろう?今はこれで辞めておいた方が良いと思うぞ?」

「・・・まぁ、そうだな」

 そう言われ若干物足りなさを感じながらもアリシエーゼが言ってる事も最もだと思い返事をする。
 そんな俺の様子を見てどう思ったのか、アリシエーゼは笑いながら言った。

「そんな顔をするでない。風呂に入った後に飲み直すのはどうじゃ?」

「そりゃいい。そうしよう」

「よしよし、ではそうするかの。もう風呂も湧いておるだろうから先ずはこれを平らげるとしようかの」

「そうだな」

 そう言って俺とアリシエーゼは黙々と残りの料理を片付けていった。
 パンは聖典の数々でよく出てくる黒パンと呼ばれる硬いものでは無く、俺があっちでも良く食べたいたものと同じ様な白パンで、ちぎって口に放り込むとバターの香りがほんのりとしてかなり美味しかった。
 スープも地球で食べたミネストローネと殆ど変わらない味で美味しく、サラダにはバルサミコ酢であろうかその様な酢と油、後はコショウの様なスパイスで作ったドレッシングが掛けられており、どれも大満足であった。
 食べた感想はあまり地球と味の差異は感じられずかなり美味しかった。

「まだ言えばおかわりはあると思うがどうする?」

「いや、もう大丈夫だ、満足した」

「そうか、それなら良かった」

「ありがとう、ご馳走様」

「はい、お粗末様でした」

 俺はそのまま立ち上がり、食器を片付けようと皿を重ねていく。

「片付けはこちらでやるからお主はやらんで良い」

「いや、それだと失礼だろ」

「ここは日本では無いぞ・・・お主は客人じゃ。客人は客人らしく、その辺のソファーで寛いでおれば良い」

「うーん、まあそう言うなら・・・」

 何だか失礼な気がしてしまうがそう言うならいいか。任せよう。

「どうする?風呂にするか?」

「そうだなぁ、お前はどうするんだ?」

「入るに決まっておろう」

「そっか、じゃあここはお前の屋敷だし、一番風呂は譲ってやろう~」

「え・・・」

「うん?どうした?」

「あ、いや、何でもない。気にせず先に入って良いぞ」

「そうか?じゃあ遠慮なく」

 そう言って立ち上がって風呂場へ向かとしてふと気になった事を口にした。

「そう言えば着替えとか持ってないんだった。どうするかな」

「それならあいつらの中にお主と同じくらいの体型とまではいかないが細身の奴がおるじゃろうし、そいつから借りれば良かろう」

「あ、いや、でもパンツは流石に・・・」

「一晩くらいノーパンでも良いでは無いかッ」

「えー?うーん、まあいいか・・・」

「風呂場の脱衣所に洗濯物カゴが置いてあるからそこに突っ込んでおけば勝手に洗ってくれる。明日には乾くじゃろ」

 何か至れり尽くせりだな
 悪い気分じゃないが、ちょっと恐縮してしまう

「じゃあお願いしようかな」

「うむ、着替えは脱衣所に持ってこさせておく。ゆっくりと度の疲れを癒すが良い」

「はいよ。じゃあお先に」

「・・・・・・」

 このやり取りの時のアリシエーゼは何だかちょっと変な感じだった。

 何か良からぬ事を考えているんじゃなかろうか・・・
 まあ大丈夫。だよね?
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