異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第1章:異世界と吸血姫編

第27話:人外の力

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 テレレッテレッテッテー♪
 ハルは人外の力を手に入れた!

 なーんてイベントがあったがそんな軽いノリでは決してない。

 あのメ●ガキが勝手に俺を吸血鬼にしやがった
 何の断りも無しにだ

 元には戻れないと思った方がいい。だってアリシエーゼは神様が大規模な儀式をして戻そうとしたのだ。つまりは人間にそんな事出来る奴いるんですか?いないですよね?って事だ。
 なので今更人間になりたーい何て言っても無駄である。ならば今の状態、出来る事と出来ない事、メリットとデメリットと言い換える事が出来るがそれを把握する事を第一とする。

 まず初めに、吸血鬼としての欠点と言えば、日光、ニンニク、十字架、聖水、後は渇きと言うか吸血衝動とかであろうか。
 アリシエーゼは眷属では無く対等なパートナーと言っていたし、アイツの特性等も受け継いでるとも言っていた。つまりは、今挙げた吸血鬼としての問題はクリアしていると思っていいだろう。一応、後で確認はしよう。
 っと言うか今は朝だ。ちなみに晴れだ。
 日光が力強く降り注いでいる状態な訳だ。
 つまりは日光耐性があるって事だ。デイ・ウォーカーだ。

 あ、それ確認してから屋敷を出るべきだったか
 日光耐性もし無かったら今頃俺は灰となってるな・・・
 危なかった・・・

 だが、そう考えると弱点何てほぼ無いんじゃなかろうか・・・
 あぁ、一つ、デメリットなのか微妙だがあるな。
 不老不死だ。つまりは不老で不死な訳だ。
 不老と言う事は俺は外見的にはこれ以上成長しないし、たぶん筋トレしても筋肉モリモリのマッチョメンになる事は無いんじゃなかろうか。
 多分そうだろう。今の俺の身体能力は自分ではまだまだ伸びると思っている。
 成長は止まっていないだろうし、その伸びしろが無くなったと思うとデメリットとして数えるのも有りなのかもしれない。
 ただ、その程度だ。これは他のメリットを考えれば相殺どころかお釣りが来ると思っているので、特には考える必要は無いか。
 他にデメリットはあるか考えるが、特には思い浮かばない。

「これで陽の光に当たると灰になりますとかだったらアイツぶん殴るところだけどそれは無いっぽいからな」

 吸血鬼最大のネックは、日光と聖属性だろう。日光って聖属性には含まれなのか?と思わなくは無いが、ここでは同一とはしない。
 だが、それも特に問題無さそうなので別にいいか。

「次はメリットか」

 メリットを挙げるとしたら、吸血鬼になった事によるの恩恵、傷の修復機能、不老不死と言ったところであろうか。不老不死はデメリットで挙げたが、これはどちらにも成りうるんだと思う。
 ステータスアップだが、アリシエーゼは、今の始祖を超えた存在になった時、魔力もすんげぇ増えたみたいだし、各種ステータスも大幅に増加したみたいなので、これは俺にも期待出来る。
 魔力以外は・・・
 魔力を抜きにしても、単純に膂力が大幅にアップしましたってだけでもかなりのメリットだと思う。
 つまりは、魔力による身体強化無しで、身体強化使ったくらいの能力が得られると考えれば・・・うへへ
 ちょっと笑っちゃうくらい素晴らしいんでは無いだろうか。
 ただ、どの程度ステータスがアップしているのかは数値が見れる訳では無いので、身体で感じて予想するしかないだろう。

 とりあえず軽く検証してみるか

 そう思って徐に立ち上がって軽く準備運動を始める。
 アリシエーゼはどうしてるかと見てみると、相変わらず玄関前に座って居るが、遠目からなので断言出来ないがたぶんポロンと話している。時折こちらを指差して会話しているが、勿論何を言ってるかは分からない。
 そんな事を確認してる内にも準備運動は済んだのでまずは単純に垂直跳びをしてみる事にした。
 膝を曲げて屈み込み、殆ど力を込めずに真上にジャンプしてみた。

「!!!」

 しゅ、しゅごい・・・

 たぶん二メートル程飛び上がった気がする。
 成人男性平均の約四倍と考えると凄まじい・・・しかも殆ど力を込めずでだ。

 明らかにステータスアップしてるだろ

 他もアップしている事は間違い無さそうだが、とりあえずは全ての限界値を知っておきたいと思った。

 まぁとりあえず他も確認してみるか

 次は瞬発力かなと思い、特に障害物が無い事を確認してこれも一割も力を込めずにボクシングのファイティングポーズの様なものを取った。

「ッ!」

 呼吸を止め下半身から足の裏へ、足の裏から地面に力を伝えて行き、地面は伝えられた力を溜め込み、限界まで達すると溜め込んだ―――と言っても一割にも満たないが―――力を一気に吐き出すかの様に勢い良く地面が爆ぜる!

「―――ッ!!」

 しゅ、しゅごい・・・

 一瞬で数メートルを移動していた。
 短距離走では無く、敵の攻撃を一瞬で避ける事を意識しての動きだったにも関わらず二メートルから三メートルを一気に移動したのである。
 イメージとしてはボクシングのサイドステップの動きで数メートル移動とは一体・・・
 だが実際の戦闘で敵の目の前まで一気に間合いを詰めると言った場合、距離が近いと相当意識して使わないと相手にぶつかったり思っていた位置に移動出来なかったりとかはありそうだ。
 相手を抜き去り一瞬で後ろを取るなんて事も出来そうだが。

 これ、百メートルを走ったら一体何秒で走り切れるんだろうか・・・

 ただ、今の検証で一つ気になる事があった。
 それは物凄い風の抵抗を身体に感じたと言う事だ。
 座っていた大きな木を背に百メートル程の離れた所まで軽く走って行き、そこから一割以下の力で大きな木までダッシュして見ようと考えた。
 全力まではいかなくとも五割も力を込めたら身体が不味いと感じた為、流し程度にしてみようと思った。

 よーい、スタート!

 心の中でそう呟いて、一気にダッシュする。
 自分では流し程度と思っていてもかなり強い力で蹴り進んでいるからであろうか、地面は爆ぜ続け、二、三秒でゴールの木まで辿り着いてしまった・・・
 百メートルを二、三秒程である。驚異的な数値だった。しかも流しでだ。
 ただ、やはり、抵抗が凄かった。

 風の抵抗凄過ぎて目を開けるのがやっとだ
 これはやっぱり――

「魔力で障壁作らないとダメって事だろうな」

 そう、傭兵団の面々やこの世界の魔力有る人々は敵からの攻撃の防御だけで無く、こう言った事の身体の保護にも使用しているはずだ。

 後で確認は取るけどたぶんそうなんだろうなぁ

 腕力や脚力は追々確認するとして、とりあえずはこんなものだろうと思い、大きな木に再び背を預けて座り込む。
 ふとアリシエーゼが居る方を見ると、まだポロンと思しき人物と何やらこちらを見たり指差したりしながら騒いでいるのが分かる。
 承諾も無しにいきなり吸血鬼にするとかマジでどうしてくれようと思ったが。

 結果的に良い仕事したと言わざるを得ないかな

 俺はそう結論付けてアリシエーゼに向かって手を振る。
 アリシエーゼは直ぐにそれに気付いた様だ。俺はそのまま手招きをした。
 するとアリシエーゼはその場でピョンと立ち上がり、ダッシュでこちらに向かって来た。

 すっげぇ速いな・・・

 辺りに突風を吹き荒れさせながらアリシエーゼは嬉々として向かって来て、数秒で俺の前に辿り着く。

「なんじゃ!」

 アリシエーゼに尻尾があったならきっと左右に激しく振られている事だろう。
 そんな幻視を見た様な気もするがそこには触れず、俺は確認したい事を聞いていく。

「何かさっき俺は普通の眷属じゃないとか言ってたけどあれどういう意味?」

「そんな事か。この世には吸血鬼会の掟と言うものが存在する」

「きゅ、吸血鬼会?」

 え、いきなり何言ってんのコイツ
 しかも吸血鬼会?
 同好会みたいなものなんだろうか・・・

「そうじゃ。吸血鬼になった者は必ずそこに所属しなくてはならず、この会は全世界に会員がいる超巨大組織なのじゃ!」

「は、はあ」

「国毎に会員は管理されておるが、大元は始祖である3人の吸血鬼が元締めじゃ。会員は吸血鬼会に入ると、色々な特典を得られるんじゃ」

「と、特典?」

「そう、例えば血液の供給が受けられる。これはクエストの報酬であったり、有料で売られていたりする。吸血鬼に成り立てでしかも主人である親の吸血鬼から教育を受けられない者も一定数存在するし、力が弱い者も存在する。そう言った者達にとってはこのシステムは生命線とも言えるのじゃ」

 まあ、吸血鬼は自身が得る血液を確保出来ないとなると死活問題なのは分かる。
 分かるんだが・・・

「更には通常、吸血鬼にした者とされた者には明確な差が存在する。それは格の違いとも言えるものじゃが、主従関係を強制するものじゃ。魂に作用して破る事は容易では無い。だがしかし!吸血鬼会にはランクと言うものが存在してじゃな、このランクは吸血鬼会が発行する正規の依頼を熟す事によってどんどん上げられるんじゃ。ブロンズから始まり、シルバー、ゴールド、最後はプラチナとなり、プラチナになると何と!その主従関係の魂の契約を無効にして貰えるのじゃ!」

 うわぁ・・・
 それもう、完全に冒険者ギルドじゃん・・・

「・・・・・・」

「つまりはプラチナ会員になる事で晴れて自由な吸血鬼になれるんじゃ!」

「そうか・・・」

「なんじゃ?何か言いたい事でもあるのかの」

 そりゃ沢山有りますよ・・・

「・・・いえ、無いです」

「うむ。んで、何の話じゃったっけ?」

「おいぃッ!俺は普通の眷属じゃないとしたら何なんだって話だよ!」

「あぁ、そうか。妾とお主の関係は、そうじゃのう・・・うーん」

「??」

「例えて言うと、妾から見ても、お主から見てもじゃの」

「はあぁぁぁ!?」

 何言ってんだコイツ、マジで

「お前と婚姻契約を結んだ覚えは無いぞ!?」

「じゃから例えと言うておろう。言葉にするならそれは、仲間であり同志であり戦友であり恋人であり夫婦であり友人であり家族でもあるのじゃ」

「いや!キリッとして言ってるが、恋人とか夫婦って何だよ」

「細かい奴じゃのう。そんな事どうでも良いでは無いか」

「良くねぇよ!」

 俺の同意無しに何でそんな関係になってんだよッ

「まあ冗談じゃ」

「冗談なのかよッ」

「敢えて言うなら、妾は見返りを求めずお主に妾と同じ能力を授けたと言ったところかの」

「・・・マジで?」

「マジじゃ」

 何だそれ
 何でそんな事するんだ?
 俺と同じ能力を与える事が出来るとしても俺は絶対に与えたりしない
 それは俺にとってマイナス要因に成り得るからだ

「何でだ?」

「うん?何がじゃ?」

「何で俺にそこまでするんだって事だよ」

「うーん、昨日お主が言っていたでは無いか。強くなりたいと」

「そりゃ言ったが・・・」

「この世界で魔力が無いと言う事はある意味、詰みじゃ」

「・・・」

「じゃが妾の能力があればお主はそこそこやっていけるのではと思ったから与えたまでじゃ。何か、妾が力を与えてやったが強くなっておらんか?」

「・・・いや、なってるよ。強く」

「そうじゃろ、そうじゃろ」

 そう言ってアリシエーゼは破顔する。

 あーッもう!

「分かったよ!助かった!ありがとうございます!」

「むふふ~、最初からそう言えば良いのにのう」

「はぁ、その顔は辞めろよ。それより、アリシエーゼと同じ能力ってどこまでが同じなんだ?」

「全部じゃよ?」

「アリシエーゼに魔力が無くなったバージョンと思えばいいのか?」

「そうじゃな」

「つまり、修復機能とかは魔力を使って無くて、身体能力が向上したのも魔力依存では無いって事だな?」

「む、言われてみればそうじゃの」

「おい・・・」

「お前、自分の能力をどこまで理解してるんだ」

「ぜ、全部じゃぞ」

「嘘付けッ」

 こいつ自身あんまり把握はしてないんだろう
 そうすると怪我が一瞬で治るとかどう言う原理なんだろうか・・・
 これについてはコイツを問い詰めてもこれ以上何も出てこない気がするな・・・

「じゃあ、別の話で、例えば敵の攻撃を受ける時以外で魔力障壁って展開してるのか?」

「そりゃするじゃろ。肉体の強度も上がっておるが、それも無敵と言う訳では無い。じゃから防御の時はもちろん、攻撃の時でも何をする時でも障壁は張るぞ。っと言うか妾くらいになると、意識せずとも強力な障壁は常に張り巡らされておるわ」

「つまりは、殴る時は障壁で拳を覆って、殴った衝撃で拳を痛めない様にしてるって事だな?」

「その通りじゃ」

 やっぱりそうか
 だから高速移動時も全身に魔力障壁を張るから、風の抵抗も極端に少なく、風で目が開けてられないなんて状況にはならないって事か

「なるほどね。やっぱり魔力に変わる何かを見付けないとこの能力は十全には使えないんだな」

「ガッカリか?」

「まさか。アリシエーゼのお陰で面白くなりそうだ!」

「そうか!ならもっと褒めても良いのじゃぞ~?」

 そう言ってアリシエーゼは頭をこちらに向けて来る。

「はいはい、分かったよ」

 俺はアリシエーゼの頭を優しく撫でた。
 アリシエーゼは目を細め幸せそうであった。

 コイツ、地球では二十数年生きて、こっちでは14まで人間、その後10年程吸血鬼として生きてるはずだから、精神年齢的には俺よりかなり上のはずだが・・・
 でも言ってたな
 って

 見た目年齢相応の精神年齢なんだろうと自分を納得させ、本題を切り出す事にした。

「この能力は有意義に使わせて貰うよ。それで、今後何だが、俺は 傭兵として各地を旅するつもりだ」

「うむ」

「最終的には自分の傭兵団作って面白可笑しく生きて行くつもりだけどその前に、誰にも負けないくらいの、魔力無くても絶対死なないくらいのを見付ける」

「まあお主は不老不死じゃがの」

「そうだが、別に殺せないってだけで色々やり様はあるだろ」

「例えば何じゃ?」

「そうだな・・・中に入ると一切魔力が使えなくなる様な箱があるとするだろ?」

「うむ、そういう類の魔道具は聞いた事がある」

「だろう?それに閉じ込めて、中から絶対に開けられない様にして海の底に沈める」

「はぇ?」

「だからそうすれば殺せないけど、一生外には出れないんだから脅威でも何でも無くなるだろ」

「・・・お主、外道か何かか?」

「失礼な奴だなッ」

「妾にそれは絶対に辞めてくれ・・・」

「やらねーよ・・・」

 コイツ俺を何だと思ってんだ・・・

「まぁ兎に角、その何かを見付けるまで色々な所を回って、最終的に傭兵団を作るって事だ」

「う、うむ」

「俺はこの世界の情報は基本的に他人から得たものしか無い。つまりはそいつが知らない事は俺も知らないって訳だ。だから、世界各地を周りつつ情報を自分で集めて更には他人からも情報を得る」

「なるほど、そうすれば倍以上の速さで情報が集まるって事じゃな」

「倍どころじゃねぇよ。他人に同じ様に情報集めさせて、それを何百、何千、何万の単位でやったらどうなる?」

「・・・凄まじいな」

「だろう?まあそこまでやるかは分からないが、情報収集に関してはさして問題は無いと思ってる」

「で、あろうな。妾の魔法ではそこまでは無理じゃ。妾から離れれば支配は弱まるし、魔法じゃから解除する方法も無数に存在する」

 それもその魔法とやらのレベルに左右されそうではあるがなと心の中で付け加えるが、それは自分にはあまり関係無い話なので声には出さなかった。

「結局先ずはどうするのじゃ」

「そこでアリシエーゼくんに相談だ」

 そう言って俺はニヤリと笑う。

「なんじゃ・・・気持ち悪い顔しおって」



 ・・・おい
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