異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第1章:異世界と吸血姫編

第33話:地球人一行

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 次の日、かなり早い時間帯に皆起床し各々準備を整えていた。
 明莉と篤、標準服の女達もかなり早い時間の起床であったにも関わらず普通に起きていた。

 あ、標準服の二人の名前聞いて無いや
 まぁいいか

 準備が整ってから早速出発して街道を只管進む。
 野盗が使っていた馬車に御者としてアルアレが、幌の中に一応の護衛としてソニとナッズが乗り込み、そして標準服女二人。此方の馬車には御者としてパトリック、幌の中には俺とアリシエーゼ、明莉と篤が乗り込んだ。
 とりあえず転移仲間として色々と話す事があると判断したからだ。

「神様ってのは一旦置いておこう。まずは二人が今後どうするか」

「一緒に行動すれば良いではないか」

「いや、そうはいかないだろ」

「私はご一緒したいと思ってますが・・・」

「・・・私もだ」

「あれ?マジで?」

 勝手に決めちゃうのもあれかなと思ってたんだけど・・・

「私達は言葉が分からないのでそれしか選択肢は無いと思うんです」

「あぁ、それもそうか・・・」

 言葉の壁は確かに高い。言葉が分からない状態で日常生活を送れるかと言われると、別に宿屋などから一歩も外に出る事無く過すなら可能だろうが現実にはそうは行かないだろう。

「うーん、でもなぁ」

「・・・やっぱりご迷惑でしょうか」

「迷惑って事じゃ無いんだけどさぁ」

「別に連れて行ってやれば良いだろう」

「うーん・・・」

 別に一緒に行動する事自体は良い。今の所唯一のである。言葉も俺かアリシエーゼが通訳でもすれば問題無いだろうと思った。
 だが、俺達が今から行くのは魔界、ダンジョンだ。
 この二人が直接的な戦闘力になる特典を貰っていたら別だが、そうでないなら流石にダンジョン内まで一緒にとはいかないだろうが俺達がダンジョンに潜ってる間は街で待ってて貰うという事も出来る。
 ただそれはリスクも当然存在するだろう。
 まず俺達が帰って来る事が出来なかったらどうするのか。それに街で待ってる間も街中に危険が存在しない訳では無いだろうと思う。
 待ってる間の生活はどうするのか、それこそ言葉が分からない状態では厳しいと思う。
 そう言ったリスクを加味して明莉と篤は言っているのか・・・いや、言っていないだろう。
 だから俺はそれらを二人に説明した。
 リスクを含めて考えて貰えたらと思ったから。

「そう、ですよね・・・ですがずっと一緒に居て頂けるとは当然思ってませんし、頑張って言葉を覚られる様に努力します!」

「私も、直接的な戦力にはならないが暫くは一緒に行動させて貰いたい」

 明莉はこの世界で普通に生活して行く為の努力をすると言っている。
 篤は・・・その目的が良く分からないが何かしら考えがあるのだろ。目処が経つまで暫くは利用させてくれと言っている。
 大いに結構。

 言葉か・・・

「のう。お主の力なら双方向に働き掛ける事は可能なのじゃろ?」

「あぁ・・・」

「なら言語くらいどうにかならんか?」

 それは今丁度考えていた所だった。
 只、既に俺はこの二人の頭を覗く事はしないと決めてしまっていた為、どうするか悩んでいる所だった。

「なると言えばなるんだけど、うーん・・・」

「なんじゃ勿体ぶりおって」

「そんなんじゃ無いけどこの二人にも俺は自分の能力使わない様にしようと思っちゃったからさ」

「あぁ、成程・・・」

 俺の能力で俺が持ち得る情報やら記憶を任意に相手にする事は可能だ。
 実際、地球ではその辺りの検証も一通り済んでいる。
 だが、結局はその人の頭と言うか心と言うかを弄る行為には違い無い。
 それをする事でその人の人生が、運命が書き換わる様な事になった場合、俺はそれに責任を負えないし、負いたくは無いのだ。

 明莉と篤を見ると、俺とアリシエーゼの会話を無言で聞いているが、明莉の方は不安そうな表情だった。篤は感情が読み取り辛い。

 まぁ流石に言葉が分からないのは可哀想か・・・
 って言うかここは神様がどうにかするべき領域の話じゃねぇのかよッ

「言葉はどうにかなるよ。俺の能力使えばさ」

「ほ、本当ですか!?」

「・・・・・・」

 俺の発言に明莉は驚き、篤は無言だが反応した。

「うん。俺の能力を使って、この世界の言語をんだけどどうする?」

「直接植え付ける、ですか・・・?」

「直接的な言葉を使えばそうだね。一瞬で済むし、勿論痛みやその後の後遺症と言うかデメリットは存在しないと思う」

「そうなんですね、だったら――」

「一つ聞きたい」

 明莉は不安だが納得した様であった。篤は俺に聞いて来る。

「うん、何?」

「キミの能力は人の脳を、なんと言うか弄る事が出来る能力と言う事でいいのだろうか」

「うん、まぁそう、かな。そう思って貰って構わないよ」

「そうか。なら君が有しているこの世界の言語と言うデータを私にコピーして来ると言う事で理解した。その際、私の記憶や知識が引き抜かれると言う事は無いのか?」

「出来るか出来ないかで言えば出来るよ。ただ俺はやろうと思っていない。そこはまぁ、信用して貰うしか無いかな」

 敢えて言わなかったが、相手から情報、記憶を抜き出す時、脳のどの辺りにどんな情報や記憶があるかだとかは一瞬で把握出来る。
 把握した状態でどの情報を抜き出すかを選択している訳だがこれは勿論全選択も出来る。
 普段は選択と言うワンクッションを置いている状態な訳だが、それでも物理的にも仮想的にも繋がってる訳では無いが敢えて繋がると表現するそれはその瞬間、為人と言うか、魂も否定派の俺が言うのもおかしな話だが、敢て言葉にするなら魂の輪郭的なものを認知してしまう。
 此奴は悪人だな善人だなとかそう言った曖昧な感覚ではあるが。
 それを説明すると当然拒否反応を示す者も居る為、面倒臭いのでここでは言わない事にした。

「そうか、理解した。ちなみにそのキミの能力はどう言う原理でその様な事を可能としているんだ?その辺は自分自身で把握しているのか?」

「んー、その辺はノーコメントで」

「・・・そうか、分かった。有難う。それなら私もお願いして良いだろうか」

 篤はそう言って俺に頷いた。
 明莉を見るとこちらも頷いて同意を示して来た。

「分かった。じゃあこの世界の言語を二人に入れ込んじゃうよ」

「お願いします」

「頼む」

 っと言ってる間に二人にこの世界の言語をデータとして脳に挿入し終えた。

「終わったよ」

「えぇ!?もうですか!?」

「うん」

「「・・・・・・」」

 二人とも驚愕の表情を浮かべていた。明莉は第一印象はなんと言うかとてもクールな印象を持っていたが、話してみると意外に表情をコロコロ変える。面白いなと思った。
 繋がってみた感触でも概ね善人であろう事が伺えた。
 ただ、篤と繋がった瞬間思った。それは至ってシンプルな思いだった。

 ―――何だ此奴

 これしか思い浮かばなかった。

 何だ此奴は
 何なんだ此奴は

 接してみた印象は寡黙な感じだ。実際、あまり自分から進んで発言をしている感じはしないが、全ての事に対して一通り考えている感がある。
 きっと頭が良いのだと思う。
 だが、繋がった瞬間にその認識は間違いでは無いが間違っていると矛盾した認識に俺の頭は混乱していた。

 たぶんもっと深く繋がれば分かると思うが繋がりたく無い
 こんな気持ちになったのは初めてだ

 怖いとかそう言う事では無い。理解したく無いのだ。
 陳腐な言葉になってしまうがきっと大きな闇を抱いている。そう思えて仕方無かった。

 腹に一物を抱えている
 そう思う事にしよう

「・・・分かるでしょ?」

 気を取り直して俺は二人にでそう話し掛けた。

「本当だ・・・何だか不思議な感覚です。今まで分からなかったと確かに記憶しているのに何の前触れも無く分かっているこの感覚。上手く表現出来ません」

「まぁ説明しなくてもいいんじゃない。もう言葉で不利になる事は無いと言う事実がある。それだけだよ」

 そう言って俺は苦笑を浮かべて明莉に言った。

「そう、ですね・・・ありがとうございます!」

 明莉はそう言って屈託の無い笑顔を俺に見せた。

「有難う。言語の習得を行う時間が省けたよ」

 篤も異世界語でそう言って少し笑った。

「さて、言語の問題は解決したけれどこれからの事をちょっと話そう」

「はい」

「あぁ」

 俺の言葉に明莉と篤は頷いた。

 俺達は魔界に行って、俺がこの世界で魔力無しでも傭兵としてやって行く為の方法を探しに行く
 具体的に言えばすんごい装備を探しに行く
 今のアリシエーゼから与えられた力が有れば、人間同士の争い事に介入する傭兵家業なら何の問題も無くこなす事は可能だろうと思う
 だが俺はもっとこう、ファンタジーな生活を送りたい。つまりは魔物退治とかしながら世界を回って、面白い事に首を突っ込んだりしながら生きて行きたい
 只、それにこの二人を巻き込む訳にはいかない
 アリシエーゼ達はガッツリ巻き込む予定ではあるが・・・

「前も話したけど、俺達はこの世界では魔界と呼ばれる所謂ダンジョンに向かってて、そこでお宝を手に入れようと思ってる。だから今はその魔界があるホルスの街を目指してるんだ。そこでお宝を手に入れたらそこからは傭兵家業をこなしながらこの世界で生きて行くつもりだ。別に二人をそれに巻き込むつもりは毛頭無いから、どう行動して貰ってもこちらは全然構わないんだけど、まぁ何も分からない状態だから今後の事なんて考えられないと思うけど、二人はどうするつもり?」

 俺はそう話して二人を見る。
 明莉は難しそうな顔をして下を向いて何か考えている様であった。
 篤は特に表情を変えずにいたのでもう既に何か考えがあるのかなと思って聞いてみた。

「篤さんはもう何か考えていたりするんですか」

「・・・そうだな。只、ちょっと聞きたいのだが、君達が傭兵団を目指す理由を聞いていいか?」

「傭兵になる理由か・・・」

「それはあれじゃろ、楽しそうじゃろ!」

 アリシエーゼはあの二チャリ顔をしてそう言った。

「まぁぶっちゃけ言っちゃえばそうなのかな」

 俺は苦笑しながらアリシエーゼに同意した。

「楽しい、か・・・」

「そう。やった事ある?ファンタジー世界を冒険したり英雄として悪の魔王を楽したりするゲーム。剣や魔法、スキルを使ってモンスター倒してレベル上げてさ、世界中を旅して回るんだ。ワクワクしない?」

「無論だとも」

 おや?

「少年少女の心は常に持っておくものじゃぞ」

 俺とアリシエーゼの言動に表情を動かす事なく篤は頷いた。

「まぁ、そんな心の話は置いておいて、俺は強くなりたい。それはこの世界ってさ、強い傭兵団って国から自分の国に留まってくれって言われるんだって」

「国からですか」

「そう、国から。それはさ直接的な金が動いたり、様々な特権が与えられたり。つまりさ、強いが正義みたいなところがあるわけ。だからさ、強くなれば我が通せる」

「やりたい事がやりやすくなる、と。」

「そう言うこと」

 俺はそう言ってニヤリと口角を上げる。
 ぶっちゃけ言ってしまえば俺の能力を使えば別に思い通りに生きて行く事は簡単だ。でもやっぱりそれではつまらないと考えてしまう。

「成程、分かった。暫くキミ達に着いて行ってもいいかな」

「それは構わないけど、理由を聞いても?」

「・・・私にはこの世界でやりたい事と言うか、そう言うものがある。その為、と言う理由では駄目か」

「うん、いいよ」

「即答か」

「まぁね」

「・・・では、宜しく頼む」

「あ、あの!私もッ」

「うん?一緒に来る?」

「は、はい!お願いします!」

 そう言って明莉はガバッと頭を下げた。

「俺達が魔界と言うかダンジョンに行ってる間は一人・・・まぁ篤さんも居ると思うけど、サポート出来ないけど」

「はい、それでも構いません」

「とりあえず理由を聞いても?」

「行きたいんです」

「うん?」

「一緒に行きたいからです!」

「え、いや、何で行きたいかを・・・」

「い、一緒に行きたいから、じゃ駄目ですか・・・?」

 そう言って明莉は首まで赤くして俯いた。
 真っ白な絹の様な肌だからかその赤みは余計に強調されている様に感じた。

 何なのこの子・・・

「まぁいいや・・・とりあえず宜しく」

 そう言って俺は明莉と篤に微笑んだ。
 その後アリシエーゼを含め四人で色々な話をした。
 一応、俺とアリシエーゼが吸血鬼?なのは内緒にしておいた。
 そうして夕日が完全に地平線に隠れる前に宿場町まで到着した。
 街の出入口は南と北に一箇所ずつあり、俺達は南側から中に入った。

 街に入る時に税金とか取られるイベントは発生しなかったな・・・

 とりあえず俺達は街の中に馬車で入り、入口から入ってすぐが大きな広場になっていたので人の邪魔にならない端の方に馬車を停め、標準服二人を保護して貰える様に入口の兵士に話に行く事にした。
 ただ、大人数で行っても無駄との事だったので、代表でアルアレとナッズで行く事となった。
 ナッズは野盗共の首持ち係って事らしい。
 この世界、ファンタジーよろしく、野盗や山賊の類いの人権は無いに等しいらしい。
 見付けたら、悪・即・斬ばりに討伐が推奨されており、例え襲われて居なくとも、確実に野盗や山賊であるのならば殺しても構わない様であった。
 襲われていないのに野盗だってどうやって分かるんだ?と思ったが、その辺の事は俺は問題無いので深くは聞かなかった。
 今回は標準服二人が証人となり、生首も持ち込みなので問題無く処理されるし、しかも報奨金と言う名の金一封まで出るのだとか。
 これが賞金首の野盗や盗賊なら更にその懸賞金も手に入るらしい。
 棚ぼた的に手に入るであろう金に俺とアリシエーゼはほっこりしながらその説明を聞いた。

「みなさん、本当にありがとうございました!」
「このご恩は一生忘れません!」

 そう言って衛兵を伴った標準服の二人は此方の馬車の中を覗き込んで来た。

「キミみたいな若い子が盗賊を退けたのか。協力感謝する」

 衛兵はそう言ってその場から去り、標準服二人と別れの挨拶を済ませ、俺達はその場を後にした。
 時間も時間と言う事で今日はこの町に泊まると言う事で早速宿屋探しからとなった。
 この宿場町には馬車を預けられる宿屋が三件程ある様で南の広場に近い所から空いているか聞いて回る事にした。
 ソニとパトリックがそれぞれ御者台に座り宿屋まで馬車で移動した。

「町中って馬車とか馬走ってもいいんだな」
「それ前提で街づくりをしておるからの」

 アリシエーゼ曰く、基本的にはある程度大きな街などは大通りや目抜き通りは馬車や馬等と歩行者両方が安全にすれ違える様な作りにして、基本的には各種店舗はこの大通りや目抜き通り沿いに建てるそうだ。
 そこから住宅地や工房等に通じる道を作って行くとの事で、そちらの道に関しては基本的には馬車や馬は入らないらしい。
 また、貴族や金持ちの屋敷に続く道は大通り程か少し狭いくらいの道幅を確保するとの事だ。
 この世界と言うかこの国ではこの様な作りの街が殆どで、馬車や馬が通る様な大きな道では歩行者は両端、馬車等は道路中央をそれぞれ左側通行でと言う交通ルールがある様だ。
 只この交通ルールは法律で決まっているとかそう言うのでは無く、暗黙の了解的な扱いらしい。
 なので歩いていて道を挟んで反対側の店に行きたい場合は普通に道を横断するし、そこに信号機や横断歩道なんて物は存在しないので、馬車が通る時にだけ歩行者は端に寄る様だ。

 そんな話をしていると直ぐに一件目の宿屋に到着して、ソニが空き室と馬車の預けが可能か聞きに行き直ぐに帰って来た。
 空き室が有るとの事なのでそのままここに宿泊が決まった。

 全然イベント発生しないな・・・

 宿屋はかなり大きい建物に、これまた結構大きな厩舎が隣接している作りで、宿自体は一階二階併せて五十室くらいはあるんじゃないだろうかと言う程の大きさだった。
 馬車を厩舎に預けて中に入ると食事処も兼ねている酒場は既になかなかの賑わいを見せていた。
 酒場はそこまで大きくないがカウンターに十席、六人程が囲める丸テーブルが六つ置いてあった。
 それを確認している間にソニが受付けを済ませていた。

「四人部屋を一室と二人部屋を二室取りました」
「うむ、ご苦労」

 そう言ってアリシエーゼは二人部屋の鍵を二つ受け取った。
 どうやら部屋割りは、四人部屋に傭兵四人、二人部屋の一つはアリシエーゼと明莉の女性組、もう一つに俺と篤となる様だった。

「私とパトリックはアルアレ達と一度合流して来ます」

 ソニとパトリックはアルアレとナッズに宿屋の事を伝える為、南門まで一度戻るとの事であった。

「うむ、頼むぞ。戻って来たら声を掛けてくれ。そうしたら皆で食事にしよう。今から八人が入れる食事処を探すのはちと難儀しそうじゃし、ここでいいかの?」

 そう言ってアリシエーゼは俺を見て来た。

「うん、それでいいと思うぞ」
「うむ、ではその様に頼む」
「畏まりました」

 ソニはそう言ってパトリックを伴ってカウンターに向かった。

「では妾達は一度部屋に行くかの」

 アリシエーゼはそう言いながら明莉に二人部屋の鍵の一つを手渡す。

「??」

 鍵を受け取った明莉は何故自分が鍵を手渡されたか分かりず混乱していたが、アリシエーゼはそんな事はお構い無しとばかりに俺に腕を絡ませて言い放つ。

「部屋は二階じゃ。鍵に部屋番号が書かれておるから分かるじゃろ。飯を食いに行く時に声を掛けるからそれまでは部屋で寛いでおれ」

 そう言ってアリシエーゼは俺を伴って二階に向かおうとする。

「待て待て待て」

「うん?なんじゃ?」

「いや、そんな、どした?みたいな顔しても駄目だぞ。ってかお前ブレねぇな・・・」

「何を言っておるんじゃ。妾とお主の仲では無いか」

「え・・・そう言う仲だったんですかお二人は・・・」

 明莉はそう言って愕然とした顔をする。
 それを見てアリシエーゼは何故かうんうんと頷いていた。

「いや、どういう仲だよ。違うから。アリシエーゼと明莉が一緒の部屋ね」

 そう言ってアリシエーゼが持っていた鍵を奪った。

「あっ!何をする!」

「何をする!じゃねぇよ!皆勘違いするじゃねぇか。辞めろよ」

「勘違いも何も妾達は将来を誓いあっ――」

 言わせねぇよッ

 アリシエーゼの頭を軽く叩きアホな発言を未然に防ぐ。

「痛ッ!」
「マジで辞めろって。此奴の冗談は気にしないで――」

 言いながら明莉の方を見ると、明莉は感情が欠落した能面の様な顔で俺を見ていた。

「え、どうした・・・?」
「暖さん、流石に子供に手を出すのはマズいのではないでしょうか」

 能面の表情のまま明莉は俺に言った。

「こッ、子供じゃと!?」
「わはははは!ざまぁ!お子様はちょっと黙ってましょうねー」

 俺は爆笑しながらアリシエーゼの背中をバシバシと叩いた。

「ぐぬぬぬ!明莉!妾はもう成人しとる!」

「え?そんなまさか・・・」

 明莉は切れ長の目をめい一杯広げて驚愕の表情を作って言った。

「まさかでは無いわッ!ここ世界ではちゃんと成人しておる!」

「え、でもどう見ても小学生にしか・・・」

「な、なにをぉぉぉッ!!」

「ブァッハッハッハ!!」

「笑うで無いッ!!」

 いやー
 笑わせて貰いましたわ

「篤さん、俺達は203号室です。行きましょう」

「あぁ」

 俺とアリシエーゼ、明莉のやり取りを遠巻きに見ていた篤に声を掛けて二階に上がる階段に向かう。

「あッ!待て!待つのじゃ!!」

 後ろから何か聞こえて来たが無視して二階まで上がり、203号室の前で鍵をドアの鍵穴に差し込んで回す。
 カチリと音がして解錠されたのを確認してドアを開けて中に入った。
 続いて入って来た篤に声を掛ける。

「あ、鍵閉めておいて貰っていいですか?アイツが入って来ると厄介なんで」

「わかった」

 そう言って篤は内側からドアに鍵を掛けた。
 鍵は棒鍵の様な形をしており、外側から差込み回すと内側の小さな閂の様な物が上がったり下がったりするタイプの簡素な物で、内側からはその小さな閂の様な物を下ろせば施錠される仕組みの様であった。

「とりあえず飯まで少しゆっくりしてましょうか。あ、ベッドは窓側と通路側どっちがいいですか?」

「どちらでも構わない」

「じゃあ俺、窓側にさせて貰いますね」

 俺は窓側のベッドに腰掛けながら篤を見る。
 篤は部屋をキョロキョロしながら色々と何か確認していた。
 一頻り確認が終わると篤が言った。

「この部屋、風呂は無いがトイレは付いているのだな。水洗のものが」

「え、マジ?」

 それを聞いた俺はトイレを確認してみる。
 篤が言った通りら水栓便所がそこにはあった。

「ホントだ・・・これ、下水だけですかね?上水はどうなんだろ」

「たぶんだが下水だけでは無いだろうか」

「その心は?」

「先程一階の酒場のカウンターの奥を軽く見たが、樽から水を汲んでいる様子が確認出来た」

「なるほど・・・」

 それならば篤が言う通り、上水は整備されてはいないのだろう
 ただ、下水がちゃんと整備されているのは地味に嬉しい
 っと言うかその辺に着目するってやはり・・・

「篤さん、異世界転生ものや転移ものって好きですか・・・」

「・・・・・・紳士たる者、そのくらい嗜んでいるよ」

 篤は右手で髪を掻き揚げ得意げにフンッと鼻で笑って笑ったその顔は―――


 はいーッ
 二チャリ顔来ましたぁ!
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