異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

文字の大きさ
上 下
102 / 335
第3章:雷速姫と迷宮街編

第102話:言伝

しおりを挟む
「あー、頭痛ぇ・・・」

 目を覚ますと、そこは知らない部屋で、俺は昨日と同じ格好で寝かされていた。
 辺りを見回すが、六人部屋でベッドも六つある部屋は誰も居らず、窓から外を覗くと、日が中天とは言わないが、少し高くなってきているのが確認出来た。

「・・・寝坊したかな」

 俺は頭をボリボリと掻きながら徐にベッドから起き上がり洗面所へと足を運ぶ。
 鏡が無いのでどんな表情をしているか分からないが、きっと禄でも無い顔なんだろうと思った。
 とりあえず歯を磨き、支度を整えようとしたが、着替えが入った袋が見付から無かったので諦めて部屋の外に出た。
 窓から外を覗いた時に分かったが、部屋は二階にあり、二階には横長の廊下が続いていて、結構な間隔を空けて全部で八部屋あった。

「リラが確保してくれた宿だよな、ここ?」

 キョロキョロしながら俺は一階へと木製の階段を使って降りた。
 一階も二階と同じ様に廊下があって部屋が並ぶが、廊下の中間に右へ曲がる事が出来る様だったので俺は其方に歩いて行った。
 廊下を曲がると短い廊下がまた現れ、その先は大きなドアがあり、開け放たれたドアの先には沢山の人が食事をしているのが確認出来た。

 食堂かな?

 そう思って俺はその中へと入って行き、仲間が居ないか確認した。
 すると、部屋を入って右奥に見慣れた顔が並んでいたので其方に向かい、空いている椅子に座って言った。

「すまん、寝坊した」

「おう!俺達も今注文したところだぜ!早く頼んじゃえよ」

「絶対起きないと思って起こさなかったんだけど、ちゃんと起こしてあげれば良かったね」

 ナッズとパトリックは笑顔でそう返した。

「無理はしない方がいいんじゃないですか?」

「先ずは水を持ってこさせましょう」

 アルアレとソニは俺を心配してくれて、ソニは厨房の方へ水の注文をしに行ってくれた。

「昨日は皆大丈夫だったのか?」

 暗に酔い潰れ無かったのかと聞いたのだが、ドエインは不機嫌そうに答えた。

「大丈夫な訳ないだろ。顎砕けてたんだぜ!?誰も治してくれないし、夜中に痛みで目覚めてそれから寝れないしで散々だったよ」

 そりゃお前が悪い

「あんな絡み酒してたら、俺だったら顎砕くんじゃなくて、首へし折ってるけどな」

「え、マジ?」

「うん、マジ」

「・・・・・・」

 ドエインは俺の言葉に何か考える事でもあったのか、黙って俯いてしまった。

「・・・キノウタノシカッタ?」

 ユーリーがモニカの膝の上に乗りながら俺に聞いて来たので、俺はそちらを向いて答えた。

「んー、まぁ楽しかったかな?」

「リラさんもすっごい楽しそうでしたよ」

 俺の答えに明莉はニコニコと笑顔を浮かべて言って来るが・・・

 こ、怖い・・・

 何でそんな満面の笑みを浮かべているんだ何て聞けないので俺は平静を装い、明莉に聞いた。

「明莉は楽しく無かったのか?」

 明莉はそんな反応、質問をされるとは思っていなかったのか、驚いて目を開いた。

「えッ!?私ですか?」

「うん、あそこ料理結構美味かった気がするんだよね」

「え、あ、そうですね・・・確かに美味しかったです。最後にデザートも出て、何かゼリーみたいな物だったんですが、すっごい甘くて、こっちに来てからそんなお菓子とか食べれると思って無かったので・・・その、嬉しかったです」

 そう言った明莉は、最後の方は恥ずかしそうにしてたが、満足出来た様なので安心した。

「そっか、なら良かったよ」

 俺はそう言って笑った。
 俺の顔を見て明莉は目を丸くしたが、暫くすると何か自分の中で考えが纏まったのか、溜息を一つ吐いて言った。

「はぁ・・・もういいです」

 そう言って明莉はそっぽを向いてしまったが、あの不気味な雰囲気は霧散していたので、俺はホッと一息付いた。

 あんな雰囲気醸し出されながらの旅なんて嫌だしね

「ふんッ、浮かれおってこのエロガキがッ」

 そんな俺と明莉のやり取りを見ていたアリシエーゼは嫉妬なのか何なのかよく分からない感情を剥き出しにして俺に吠える。

 って言うかエロガキって・・・

 面倒臭い奴が残ってたと俺は辟易しながらアリシエーゼの方を向く。

「お前だって昨日は飯と酒を堪能したんだろ?」

「あんな物じゃ満足出来んかったわッ!」

「嘘付くなよ、最後の方はナッズに食えない物押し付けてたじゃねぇか」

「んなッ!?何故知っとるんじゃ!?」

 アリシエーゼは顔を赤くしながら言うが、あの食い散らかしぶりはリラも引いていたと思う。

「満足したなら満足したって言えよな」

「うッ、五月蝿いわい!昨日はちょっとお腹の調子が悪かっただけじゃ!本来の妾の実力は―――」

「分かったって。もういいっての」

 俺は、はいはいと手をヒラヒラとさせてそれ以上言い訳を聞く気が無い事をアリシエーゼに示した。

「ぐぬぬぬッ、今に見ておれよ!」

 って言うか、誰と張り合ってんだよ此奴は・・・

 それでもギャーギャーと喚いて、時折、隣のナッズに八つ当たりしているアリシエーゼを余所に、俺はモニカを見た。
 モニカは膝にユーリーを乗せて、何やら二人でコソコソと話しているが、俺に背を向ける形のモニカを俺は静かに見詰めた。

「・・・」

「・・・ナニ?」

 自分が見られていると思ったのだろうか、ユーリーはモニカの肩口からヒョコっと顔を覗かせて俺に言った。

「いや、ユーリーじゃないよ」

「・・・オネエチャン?」

「うん」

 俺がそう答えると、モニカはビクリと身体を震わせた。

「・・・オネエチャン、ハルガヨンデル」

「・・・」

「・・・オネエチャン?」

「・・・」

 ユーリーの問い掛けにモニカは黙って俯いているが、俺はまだ何も言わない。

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 俺とユーリーとモニカは三人とも黙り一言も発しなかったが、遂にはモニカが根を上げた。

「もぉッ!何なんですか!?何ですか!何か言いたい事でもあるんですかー!」

 若干逆ギレ気味に振り向いたモニカを俺はニコリとして見つめ直した。

「・・・」

「うッ・・・な、何ですか」

「いやね、どうしてくれようかなって考えててさ」

 俺がそう言うとモニカは若干血の気を引かせた表情になるが、ユーリーをギュッと抱き締めた。

「わ、私が何かしたんですか!?」

「言いたい事はそれだけか?」

「・・・え?」

「だから、言いたい事はそれだけかと聞いてる」

「・・・ま、まだいっぱいありますよッ、言いたい事なんて!」

 モニカはヤケクソ気味にそう言うが、俺は表情を崩さずに続けた。

「じゃあ、言っておけよ。これが最後になるんだからな」

「ヒ、ヒィィッ!?」

「どうした?お前の最後の言葉は、ヒィィでいいのか?うん?」

「ア、アリシエーゼさんッ!た、助けて下さい!」

 遂に我慢が出来なくなりモニカはアリシエーゼに助けを求めた。

「・・・・・・ぐぅ」

 先程まで喧しく騒いでいたアリシエーゼであったが、モニカが話し掛けたその瞬間、寝たフリをした。

「いやいやいや!!寝るの早ッ!?って言うか寝て無いですよねッ!?助けて!ねぇ!助けて下さいよぉぉぉ!!」

 モニカはアリシエーゼの肩を掴んでガクガクと激しく揺するが、アリシエーゼはあくまで寝ている体で突き通すつもりの様だった。

「モニカ、俺はな―――」

「あうあう・・・」

「やられたら、千倍どころじゃねぇ、万倍にして返して更に死ぬまで殺して、死んでも殺すを信条としてるんだ。お前はどんな死に方するのかな?」

「ああああああッ!!ごめんなじゃぁぁあいッ!!」

 モニカは机に突っ伏して本気で泣き喚いて俺に許しを乞う。

「何でもしますぅッ!ホントに何でもするんで許してくださぁぁいい」

 人目も憚らず、ワンワンと泣き喚くモニカを心優しいユーリーは本気で心配をして俺に言った。

「・・・オネエチャンカワイソウ、ユルシテアゲテ」

 ユーリーは俺の足元に来て、泣きそうな顔で俺に懇願した。

 ・・・チクショウ、可愛過ぎるだろ

「大丈夫。嘘だよ、冗談」

 俺はユーリーに優しく微笑んで言った。

 今日の所はユーリーに免じて勘弁してやる

 そんなドタバタを繰り広げている内に皆が頼んだ朝食が運ばれて来てテーブルに並べられた。

「ハルも何か頼むか?」

 ナッズが俺に聞いて来るが、運ばれて来る料理を見て俺は胸を抑えた。

「い、いや、いい・・・食べれる気がしない」

 俺は断り、皆が食べ終わるのを待った。
 食事自体は滞る事無く進み、食事が終わると俺達は準備を整えて宿屋を後にした。
 街の北側にある門へ辿り着き、ミザウアの街を出ようとした時、走り寄って来た兵士に呼び止められた。

「ドエイン様一行ですよね!?」

「そうだけど何だ?」

 名前を出されたドエインが若めの兵士に答える。

「大隊長からの言伝をお伝えしに来ました!」

「姉貴から?」

「はいッ!ホルスでの用事が済んだら必ず私の元を再度訪ねて来て欲しい。との事であります!」

 そう言って若い兵士は踵をバシッと揃えた。

「・・・嫌だと伝えてくれ」

「・・・え?」

 ドエインがそう言うと兵士は動揺して、何と答えれば良いか迷っていた。

「・・・やめたれや。大丈夫、分かったと伝えてくれ」

「あ、はいッ!ありがとうございます!あッ、ハル様ですか?」

 若い兵士は思い出した様に俺に問い掛けた。

「うん」

「大隊長からハル様へ個別の言伝も頼まれています!」

 嫌な予感がする・・・

「・・・それは聞きたくない」

「狡いぞ!ちゃんと聞いてやれよ!」

 ドエインは先程の意趣返しの様に俺に言った。

「・・・なに?」

「はいッ!次は二人きりで飲もう、そして二人の将来について語り合おう。との事です!」

「・・・・・・」

「・・・完全に狙われてるぞ、旦那。あれからは逃げられないぞ。覚悟しておいた方がいい」

 ドエインの追い討ちに俺は頭を抱えた。
 兵士は「それでは!」と言いまた何処かへ駆けて行った。
 後ろではアリシエーゼがギャアギャアと騒ぎ、明莉の無言のプレッシャーが再開されて俺は肩を落とした。

 ホントいらん真似してくれるよな、アイツ・・・
しおりを挟む

処理中です...