異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第3章:雷速姫と迷宮街編

第112話:収納魔法

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 アリシエーゼを見ると苦笑いを浮かべて此方を見ていた。
 俺はとりあえず、アリシエーゼから目を逸らし、ドエインを見る。

「・・・はは」

 ドエインもアリシエーゼと同じく苦笑いを浮かべていた。

 え、何なの今の音は?
 まさかなの?
 ねぇ!?まさかなの!?

「お、おい、今の音は何だ・・・?」

「う、うむ・・・」

 アリシエーゼはポリポリと頬を掻いて言葉を濁す。

「い、いや、何?何が起こったんだ?」

「・・・ちぃとばかし魔力を込め過ぎてしもうた」

「・・・それはどう言う意味だ。まさか壊して無いよな?」

 俺は恐る恐るアリシエーゼに問うと、アリシエーゼは俺の顔を見て舌を出した。

「てへぺろ♪」

 んぁぁあああああッッ!!!!

「テメェェェッ!!何してくれてんだぁぁぁ!!」

「し、仕方無いじゃろ!?もう少しイケると思ったんじゃが、ちと魔力を込め過ぎてしもうたんじゃ!態とじゃないんじゃ」

「当たり前だろぉぉおお!!!態とだったらお前は今この場で息をしてる訳ねぇだろ!!」

「え、怖ッ!?」

 クソッ!何が、てへぺろ♪だ!!

「どうしてくれんだよ!!」

「も、もう一度何処かに同じのが売って無いか探して見るのじゃ・・・」

「・・・売ってると思ってんのかよ」

「それは・・・じゃが、これ程の魔力回路を直せる者は多分人間には居らん。少なくとも、ここには居らんじゃろうから、そっちを探すよりも確率は有ると思う・・・のじゃ」

 アリシエーゼは眉を下げてしょぼくれながらそんな事を言うが、とても同じ物が売っているとは思えない。

「・・・折角、これで少しは楽しくなると思ってたのに」

 俺は何だか急にやる気が無くなってしまい、フラフラとベッドの方へと歩いて行った。

「じゃ、じゃからもう少し待っていて欲しいのじゃ!妾が必ず―――」

「もういいよ」

 俺はアリシエーゼの言葉を遮ってそう言って、そのままベッドに倒れ込んだ。

「すまなかった!ゆ、許して欲しい―――」

 あぁ、もうどうでもいい

 アリシエーゼの言葉を敢えて耳に入れずに俺はベッドでうつ伏せになったまま目を閉じた。
 暫く、アリシエーゼは何か言っていたが、俺が反応を示さないので、一度自分の部屋へと戻って行った様だった。
 穢人の俺でも使える様な魔導具マジック・アイテム等、中々無いのは確かだろう。
 考えて見ると、もしそんなものがほいほい見付かって、市場に流れるのなら、穢人でも魔力持ちと同じ様な事が条件付きになるかも知れないが出来る様になるはずだし、そうであるならば今のこの世界の穢人の扱いはもっとマシになっている筈だ。

 そんな貴重なアイテムをアイツ・・・

 思い返すとまた怒りが込み上げて来るので、俺はそれ以上は考えない様にした。

「・・・旦那、その、残念だったな」

 俺の状態を見兼ねてか、ドエインがベッドの傍に寄って来て声を掛けて来た。

「・・・」

「・・・でもよ、旦那はあんな物が無くてもすげぇ強ぇじゃねぇか。だからそんな気落ちするなよ。きっと姉御も態とじゃないんだろうしさ」

 んな事分かってんだよ

「とりあえず皆そろそろ食堂に集まってる頃だろ。だから下に行かないか?」

「・・・俺はいい」

「・・・」

 暫く無言であったドエインが、アリシエーゼが置いていった魔力回路が壊れた手甲を持ったのが、カチャリと言う音で分かった。

「・・・これ、回路は壊れてるけど、装備はするだろ?」

「・・・しないよ。少し力を込めて殴ったら壊れる物なんて装備するだけ無駄だ」

 俺は相変わらずベッドにうつ伏せで寝転り、ドエインの方は見ずにそう言った。

「・・・そうか」

「・・・捨てといてくれ」

「あ、あぁ・・・」

 俺の言葉にドエインは言葉を詰まらせながら同意してベッドから離れた。
 金属音がするので、言われた通りあの手甲は捨てるのだろう。

「それを捨てるのはちょっと待ってくれ」

 それまで無言であった篤が突然そんな事を言ったので、俺はつい気になって耳を傾けてしまった。

「・・・何でだ?」

「きっと、それは役に立つ」

「でも、回路は壊れてるし、旦那の言う通り、これを旦那が装備した所で役には立たないだろ。アレか?他の奴に装備させれば良いって話か?」

「違う。だが、私には確信がある。きっと今後これは役に立つと」

 篤の言う役に立つとは、篤の能力を使って今後あの手甲を再利用出来ると言う事であろうか?

「いや、意味が分からねぇよ」

「暖、今すぐでは無い。あともう少し素材が必要だが、イけると思うのだ」

 寝ている俺に篤は語り掛ける。

 もし、篤が言う事が本当なら―――いや、こんな事で篤は嘘は付かないだろう。
 俺はそこまで考えてガバリと身体を起こして、勢い良くベッドの上に座り直した。

「・・・分かった。それは篤に預けるよ」

「うむ。任せてくれ」

 そう言葉を交わし、俺達はニッと笑いあった。
 其れを見てドエインは訳が分からないと言う顔をしていたが、俺はドエインにも感謝の気持ちを伝える。

「ドエインもありがとう」

「・・・あ、あぁ、元気になったんならいいんだ。ただ、姉御の事は余り怒らないでやってくれよ」

「分かってるよ」

 俺は笑ってそう言ってベッドから立ち上がる。

「とりあえず飯食いに行こう」

 俺の言葉に二人は頷いた。
 俺達が食堂に着くと、傭兵達と、アリシエーゼ達は既に席に着いていた。
 俺は敢えてアリシエーゼの隣に座り、怯える様に俯き、時折此方をチラチラと見るアリシエーゼの顔を覗き込んで言った。

「よぅ、よくもやってくれたな」

「・・・ぅッ」

 俺の剣呑な雰囲気を感じ取り、周りにも緊張が走るのを感じるが俺はそのまま続ける。

「・・・許してやるよ」

「・・・ぇ、え?」

「だから許してやるって。お前だって態とやった訳じゃ無いってのは俺も分かってるしな」

「・・・そ、そうか。良かっ―――」

「―――ただ、ちゃんと償いはして貰うぜ?」

「な、何をさせる気じゃ・・・」

 俺の意地の悪い笑みを浮かべる顔を見て、アリシエーゼは自身の腕で身体を抱き、キュッと締め付けて怯えた。

 いや、お前みたいなガキは趣味じゃねぇよ・・・

「とりあえず、お前完成させろ」

「な、何をじゃ?」

「収納魔法」

「へ・・・?」

「だから、収納魔法をお前習得しろよ。そうしたら許してやるよ」

 俺の言葉が理解出来ずにアリシエーゼは固まるが、暫くその言葉の意味を理解して驚愕する。

「し、収納魔法じゃと!?そんなもの不可能じゃ!」

「何でだよ?」

「言ったであろう?収納魔法も転移魔法もかなり試行錯誤したが無理じゃったんじゃ!」

「俺はイけると思うんだよなぁ」

「な、何故そう思うんじゃ?」

「あのクソ犬だよ。彼奴、転移魔法使ってたじゃないか。つまり、この世界には転移魔法が存在するって事だろ」

 クソ犬とはモニカとユーリーの村で戦ったスーパーコボルト―――飯島隼人の事だと直ぐに理解したアリシエーゼだが、俺の考えを否定する。

「そ、それは特典で得た能力じゃろ!?」

「あの転移魔法は魔力を使って無かったのか?」

「・・・そ、それは」

 俺と明莉には魔力は存在しないが、篤には存在する。
 明莉はイレギュラーだった可能性があるから、それなら隼人には魔力が存在している可能性があり、そうであるならばあの転移魔法は魔力を使っている可能性を考えた。
 実際俺は魔力を感知出来ない為、憶測ではあったが、アリシエーゼの反応を見る限り、間違ってはいなさそうだった。

「あの転移魔法を魔力を使ってやってたなら、魔力を使って出来ない道理は無いだろ。そう考えると、収納魔法も何だかイける気がするんだよなぁ」

「・・・言わんとしている事は分かった。じゃが、そんな簡単に出来るとは思えんぞ」

「俺も簡単に出来るとは思って無いよ。でも出来る可能性があるならアリシエーゼしか居ないだろ?」

 ニヤリと笑った俺を見て、アリシエーゼは直ぐに諦めたのか、溜息をついて頷いた。

「分かったのじゃ・・・とりあえずやってみよう」

「さっすがアリシエーゼ!頼むよ!完成するまで買い食いは無しだからな」

「な、なにぃぃぃッ!?」

「そりゃそうだろ。これはお前の償いでもあるんだからさ」

「ぐぬぬぬッ」

 そう言われると何も言えないのか、アリシエーゼは押し黙った。
 それから俺達は食事と情報共有を済ませて解散した。
 アルアレとパトリックは今日一日情報収集を行っていて、明日はその情報を元に魔界の地図で良さげな物を購入すると言う事であった。
 また、ナッズとソニも買出しを行っていたが、明日も引き続き、買出しは続けるとの事だったので、金に一切の糸目は付けるなと言っておいた。

 だっていっぱいあるしねぇ

 残りの面々はまだ装備品を揃えられていない為、明日も引き続き探すと言っていたので、俺も明日はそっちに着いて行く事にした。

 まだクソ聖女は到着しないだろうし、明日もホルスの街を満喫しましようかねぇ
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