異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第129話:魔核

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「アリシエーゼ!そっちは任せる!」

「任せんしゃーいッ!!」

 しゃーいて・・・

 俺とアリシエーゼは只管ダンジョンを走り回り、立ちはだかる魔物を瞬殺して行く。
 今相手にしているのは、屍食鬼グールの群れだ。
 この階層で初めて見る魔物だが、これが結構強い・・・
 先ずはすばしっこい。全力では無いにしろ、俺の攻撃を時々避ける。
 次に数が多い。地球では卵から孵るなんて話も聞くが、こっちの世界では絶対に違いそうだと思ってしまいそうな程、ウヨウヨといる。

 絶対魔界ってかダンジョンが生み出してる産物だろ!これ!

 もう大分倒しているのだが、まだ残っている屍食鬼に舌打ちをして残りと対峙する。
 鋭い爪の横薙ぎを上体を逸らして交わしつつ、左脚を前蹴りの様に屍食鬼の身体にぶち当てる。
 少し浅く入ってしまった為、身体を破壊するまでには至らなかったが、物凄い勢いで後ろに吹き飛んで固まっていた屍食鬼の集団を巻き込ませる。
 その間に態勢を立て直してそのまま勢い良くボーリングのピンの様に倒れた屍食鬼の群れに飛び掛る。
 降り立つ勢いと体重を乗せて倒れている屍食鬼の頭に膝を合わせて頭部を破壊し、そのまま近くに倒れている屍食鬼の頭に連続で倒れ込む様に肘を合わせてこれまた頭部を破壊する。
 倒れ込んだ俺に態勢を立て直した屍食鬼が三匹群がるが、俺は仰向けに倒れている状態から後方に逆立ちをする要領で腕の力を使って飛び起き、着地の瞬間に右脚がカタパルトの軸になる様な形で地に降りる。

「―――シッ」

 着地と同時に右脚を爆発的に蹴り込み、エネルギーを左脚に伝えつつ上体も前へ持って行く。
 左脚にエネルギーが伝わった瞬間にまたその脚で地を蹴り、人間では出す事が不可能と思われる領域の速度で加速して屍食鬼に迫る。
 通り抜け様に一匹の頭部を左手で破壊し、右脚で着地すると同時にその脚を軸足にして左回転して左脚の踵でもう一匹の屍食鬼の左テンプルを蹴り抜き鼻から上を吹き飛ばす。
 蹴りの勢いをそのままに振り抜いた左脚を今度は軸足にして浴びせ蹴りの要領で最後の一匹の頭部を後頭部側から刈り取った。

 ――彗星脚――

 フッ、決まった

「どーだッ!アリシエーゼ!今の流れる様に美しい三連脚で構成する彗星脚を見たかッ」

 ワッハッハと笑って今考えた技の名前を得意気に発してふんぞり返る。
 丁度アリシエーゼも残りの屍食鬼を全て倒し終わった所で、盛大に鼻を鳴らして此方を振り返る。

「なーにが彗星脚じゃ!ダッサい名前を付けおって!それに三連脚じゃと?お主最初の一撃は左手を使っていたではないかッ」

「・・・うッ」

 痛い所を突きやがる・・・

「う、五月蝿ぇ!お前のは美しくねぇんだよ、何時も何時も!毎回怪獣が暴れたみたいな跡を残しやがって!」

「だ、誰が怪獣じゃッ!!」

「お前だ、お前!!」
  
「あ、あのぉ、魔物が寄って来てしまいますし、もう少し静かにした方が・・・」

 俺とアリシエーゼの低レベル―――放っとけ!―――な言い争いにオズオズとミーシャが入って来る。
 つい先程まで、普通だったミーシャの話し方が今では何故か敬語になっているが、俺達の戦いぶりを見て、尊敬の念を抱いたのだろうと気にせずに対応した。

「ん、まぁそうだな。打ち漏らした敵そっちに行かなかったか?」

「え、えぇ・・・一匹も来ませんでした」

「そりゃ良かった」

 そう言って俺は今し方倒した屍食鬼の群れを一瞥する。
 この屍食鬼、見た目は人型でゲーム等ではゾンビっぽく描かれるが、こちらの世界ではちょっと肌が浅黒く、爪が鋭く尖っており、口には何故かギザギザの噛まれたら痛そうでは済まなそうな歯が二列に並んでおり、黒目が無く、白目だけの人間そのものの様な見た目をしている。

 うん?そんなの人間には見えないって?

 爪と歯を隠し、目を瞑っていれば人間に見えなくも無いので人間で問題無いだろう。
 ただ一点、人間的で無い部分があるとすれば―――

「何で此奴ら真っ裸なんだ?」

 そう、全員服を着ていないのだ。
 屍食鬼には雄雌がちゃんと別れているが、雌の個体も全て真っ裸なのだ。

「何でとは何じゃ?魔物なんじゃから服なんぞ着ないであろう」

 アリシエーゼはそう言うが納得いかない。

「いやいや、ゴブリンだってちゃんと腰布くらいは装備してるだろ」

「・・・確かに言われるとそうじゃな」

 二人でウンウンと唸っていると、死体から素材を剥ぎ取っていたナッズ達から声が掛かる。

「姫ぇ・・・マジで素材が取れねぇよ、何で毎回こんなグチャグチャにすんだよ。ハルは毎回、素材残して綺麗に殺すのによ」

「うッ」

 ナッズの小言を受けてアリシエーゼが呻くが、俺はそれを聞いて勝ち誇った。

 どうだ!参ったか!ワッハッハ!

 とドヤりたかったが、そうするとまたギャーギャーとアリシエーゼが喚くので止めておいた。

「・・・屍食鬼の魔核がこんなに。これだけで一財産なんだが」

 今にも卒倒しそうなファイだが、屍食鬼はコボルトなどと違い、爪や牙は素材とはならない。
 代わりに、全ての魔物に存在する魔核と言う、所謂魔石を剥ぎ取る事になる。
 魔核は基本的に心臓に癒着する形で存在しており、ゴブリンやコボルトにオーク辺りの魔核は例え上位種でもあまり大きな物では無いらしく、価値が無いらしい。
 何で種族により大きさが違うのかなどは一切分かっていないが、一説によると人間も魔物も脳で魔力を生成するが、その魔力循環を効率化、増幅その他諸々を行う為の装置の様な働きをするんじゃないって事なんだね、これが。
 じゃあ、人間に魔核を取り入れたら、すんごく強くなるんじゃないかって?
 ノンノン!それがそうでも無いらしい。
 結局、人の事も魔物の事も何も分かっていないから、どの説も正しいとは言えないみたいで、魂がどうとかと言う頭の可笑しい奴らまで居るんだとか。
 小さい魔核が何故価値が無いのかは、単純に小さいから。
 魔核は現在の人類側の技術では、使い捨ての燃料電池の様に使うしか利用出来ない様で、一度使ったらポイだそうだ。
 後は単純に小さい魔核を扱える技術力が無いって事らしい。
 現在開発されている物の代表例としたら、魔核エネルギーを使ったランタンとかが有名で、この屍食鬼の魔核、親指の爪くらいの大きさだが、このくらいの大きさでランタンなら丸一日くらいは持つらしい。

 なにそれ!欲しい!

 兎に角、小さい魔核は現在の所利用価値が皆無らしいが、いつかは利用出来る日が来るんじゃ?その時が来る迄に小さい魔核を集めまくっておいて、時が来たら売り払うと言う事をすれば一攫千金も夢では無いのでは?と思ったが、別に金に困っている訳では無いので考えるのを辞めた。
 こうやって素材を集めているのは単に篤が欲しがっているからだ。
 なので、コボルトの爪や牙は篤が別に欲しがらなかったので、ファイ達に集めさせてそれを譲っている。
 この屍食鬼の魔核は篤が欲しいと言うので、仲間に集めさせている。
 当然全て俺とアリシエーゼが倒しているので、独占しても文句は言われない。

 強制転移と思われる事象に見舞われて、そこから上層を目指して駆け出したはいいが、彼此一時間以上走っているが、まだ階段は見付からない。
 このフロアがどれ程の広さがあるかは分からないが、一応、ファイの所のマッパーにマッピングを頼んでいるので一度それを確認する事にした。

「フロアが広がっているとすればこの先か、先程の分岐を右かだけど、右は無い様な気がする」

 ファイは地図を見ながら予測をするが、根拠を聞くと何となくと言う事だったので、あまり充てには出来ないが、これ迄も魔界で活動していた奴が言う事だから、完全素人の俺達よりは勘で動くにしても良いかも知れない。

「妾はあの道を右じゃと思うがの」

 アリシエーゼは完全にファイに対抗しているだけなので信じるに値しない。

「よしッ、真っ直ぐ進もう」

「な、何故じゃ!?」

 俺達はとりあえずの進路を決めて走り出した。
 まだ一層も上がれていない事に内心焦りを感じるが、それを表に出す事はしない様に努めて普通に振舞った。

 もしここが百層とかなら・・・

 そんなに階層が有り、しかも一層上がるのにも時間が掛かるとなってくると、食料もそうだが非常にマズい事になるなと思い、更に焦りが生まれた。

「あまり抱え込むな。今は兎に角脱出する事だけを考えるんじゃ」

 並走していたアリシエーゼが突然そんな事を言い出したので驚いて横を見る。

「・・・何じゃ?」

 俺の視線に気付くとアリシエーゼはいきなり不機嫌そうな顔付きになるが、先程からの悪ノリも俺の心情を汲み取って、アリシエーゼなりに考えての言動だったのかもと考えると妙にしっくり来て笑いが込み上げて来た。

「な、何を笑っておるんじゃッ」

「ハハ・・・いや、すまん。お前やっぱ良い奴だな」

「・・・ふんッ、そこは良い女、じゃろ」

「・・・・・・あぁ、そうだな。良い女だよ、お前は」

「そうじゃろう、そうじゃろう」

 走りながら、満面の笑みを浮かべてウンウン頷くアリシエーゼを妙に愛おしく感じながら、気合いを入れ直して前を向く。

 絶対地上に出てやるからな
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