異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第131話:過去と現在の狭間

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 その日の野営は魔物の襲来は無く、無事に夜を明かした。
 次の日、皆早くから支度を済ませやる気十分の様子に俺も気合いを入れ直す。
 ファイが傭兵達に出発前の連絡事項のやり取りなんかをしているらのを見て、俺達も仲間内で話しを済ませておく。
 精神的には最高のコンディションでいよいよ出発する。

 先頭を俺とアリシエーゼが務め、上層と階段を隔てる扉の前まで行き、後ろに止まれとハンドサインを出す。
 アリシエーゼと事前に打ち合わせをしていたので、お互い目を合わせて小さく頷いて行動開始。
 アリシエーゼが扉を無詠唱の精霊魔法で吹き飛ばすと同時に俺が中に突入する。

 扉の奥は階段前の広間と同じくらいの広さの部屋であったが、アリシエーゼの放った精霊魔法の衝撃による振動と音が響くだけで、他の物音は全くしなかった。

 フロアボスが居ない。

 肩透かしを食らった俺達は笑いながら同時に安堵し、そのままその階層の探索を行い上層を目指した。
 体感で二時間程で上の階層に続く階段を見付ける。
 ここで少し休憩を挟みそのまま上層に突入するが、ここでも扉がありぶち破り突入してフロアボスが居ない事を確認するだけになった。
 この時点でフロアボスなんて居ないと言う結論を出した。
 探索も、俺とアリシエーゼの探知を使い、今までの経験から魔物の位置による階層を跨ぐ階段の位置を予測して進む。
 それがかなり上手く行った。もう一つ、このダンジョンは螺旋階段の様な構造をしている事がマップを照らし合わせる事で判明したので、次の階層の位置も大まかではあるが予想出来たのが大きかった。
 軽く休憩を挟みながら、スタートから三回階段を上がった時点でその日の探索は終了として野営を行った。
 階段を上りって扉を潜った先は今の所大きな広間に出る事は変わりなく、その広間に魔物が居る事も寄って来る事も無かったのでその広間で野営をした。
 野営時は蒼炎の牙と俺達はダンジョン内では不謹慎であったが少し騒いで食事をしたり語らいを行った。
 まだ数日であったがお互いの隊の間に妙な連帯感が生まれていたのは全員気付いていた筈だ。
 戻ったら一度飲みに行こうだとか、戦闘に関する話だとか、俺から見てもかなり良い雰囲気だったのは分かった。
 ファイはそんな団員達を見て、少し離れた場所から様子を微笑みながら見ていたのがとても印象的だった。

 次の日、上層に上がるとダンジョンの様子が変わっている事にすぐ気付いた。
 今までは、ゴツゴツとした岩肌が剥き出しになっている天然の洞窟の様な通路や部屋ばかりであったが、この階層は苔や蔦がそこら中に生えていて、なんと言うか緑だった。
 深層から下層、または下層から中層に上がったと言う事だろうかと思いながらその日も探索を進め、その日は六階層も上がった。
 勿論、道中には魔物が大量に出現したが、殆どを出会い頭に俺とアリシエーゼが殺し、打ち漏らした奴もファイ達が難無く片付けて行った。
 そう言えば、前の日に初めてレッサー・デーモンと戦ったっけな。
 言われていた様に他の魔物とは全然違ったが、別に一匹なら俺一人でも問題無く倒せた。
 ちょっと障壁が固くてそれをぶち破るのに自分の身体が損傷してしまったが些細な問題だった。

 ほら、すげぇ硬い

 攻撃を避け切るのが難しと判断て、右腕一本持って行かせてかなりの力を込めての左ハイキック。

 通った

 俺の修復能力をファイ達に見られたが今更だし、俺が人外だったからと言って何か言う奴は皆無だった。
 レッサー・デーモンが数匹群れで現れた時はファイが焦っていたっけなと笑いが込み上げて来てここでふと気付く。

 あれ、何で過去形で独白してるんだ俺?

 あの日・・・そう、強制転移させられて次の日―――あれ?
 過去形だよな?
 結局、十三層に転移させられたのが分かったんだ

 何で?

 何でって一層に戻って来れたからだろ

 また此奴かと思いながら、右手の鋭い爪を振り抜くレッサー・デーモンを往なして左ミドルキックからの左脚を戻して地に付け、そこを軸足にして身体に左回転を加えて右ボディブローを放つ。

 また右手が逝った
 ホント、次から次へと

 ん、あれ?
 何だったか?

 登って来た階層から計算して転移させられた階層が十三層だって分かった。
 そう言えば五層から上は二層と同じで石造りの通路で構成された階層だった。
 三日目始まって直ぐに五層で景色が一変して、それで・・・二層でも見た風景だったからもしかしたらもう直ぐ一層かもって思って急いだ筈だ

 筈?

 そう、筈。
 その日の内に一層に到達出来た。
 三日間、俺とアリシエーゼが前線をひた走り、魔物を屠り、強行軍だったがやっと一層に到達して、皆はしゃいで・・・

 あぁ、そうそう
 一層の中間くらいに辿り着いたら、クソ聖女達が居たんだっけか

 あれは少し驚いたな。

 そうだな、驚いた
 聖女側も皆驚いていたな

 生還を喜び合って、クソ聖女に小言を言われながら一度ホルスに帰ろう皆で魔界の中だったが、笑いながら帰った。
 俺も一層まで来たからと確かに気を抜いていた。

 だから皆死ぬんだよ

 ??

 何だよ皆死ぬって?
 死なねぇし
 俺がそんな事させるか

 ファイが少し聖女達と話したいと言うので俺達も前方へと進んで行き、後数百メートル程で出口と言うところで、殿に居た中隊が
 殺気や怒気、叫びや悲鳴が入り交じり一気に俺の耳を肌を突き抜けた瞬間振り返ると殿の中隊の半分くらいが、ゴッソリと消えて―――すり潰されて?押し潰されて?よく分からないが、人の形をしてなくて、姿は見えなかった。

 それで、中隊の前をミーシャの小隊とか他の小隊が入り交じって歩いてたけど―――あれ?
 ミーシャ達が吹き飛ばされて・・・
 瞬時に腰を落として戦闘態勢取って、ミーシャを確認したら・・・

 したら?

 上半身の右半分・・・が・・・
 はん、ぶん?

「―――ッッ!!ミーシャァァァァアアアアッ!!!!」

 ファイの叫びで意識が急覚醒する。
 あまりにも突然の敵の強襲に一瞬脳がバグりながらも、身体が自然と動いて敵に対処していた事を理解する。
 辺りを瞬時に確認しながら、襲いかかって来たレッサー・デーモンの群れの一匹を相手取る。
 右手の振り被りに合わせてサイドステップからの左ボディをお見舞いする。
 途中で相手の障壁にぶち当たって左手の骨が砕けるのが分かるが、構わずに左手を振り抜く。
 バキバキと音を立てて壊れていく障壁は最後までレッサー・デーモンの身体を護る事が出来ずに消滅して、俺の損傷した左手のボディをまともにくらい身体をくの字に曲げる。
 間髪入れずに俺はその場で飛び上がり、ドロップキックの容量で両足をレッサー・デーモンの顔面にぶち当てる。
 首が一瞬であらぬ方向に折れ曲がり、そのまま他のレッサー・デーモンを巻き込んで吹き飛んで行く。
 仲間達は固まっている。
 明莉も篤も無事だ。
 ドエインが片手でロングソードを持ってレッサー・デーモンと対峙していて、攻撃を上手く往なし、斬りこみ、往なし、前蹴りで距離を取る。
 かなり上手い。そう思ったが、直ぐに割って入る。
 ドエインの反撃に一瞬状態が仰け反ったレッサー・デーモンの間合いに素早く飛び込んで空中で身体を回転させる。
 クルリと回って飛び込んで来る俺に気付いてレッサー・デーモンは両腕をクロスさせてガード姿勢を取る。
 本来なら、そのまま頭部へ遠心力を乗せた蹴りを放つ所をドエインを一瞬チラリと見てから行動キャンセルを行ってそのままレッサー・デーモンの懐に降り立つ。
 レッサー・デーモンは攻撃が無かった事に一瞬硬直し、ガードを下げた所へ、ドエインがタイミングを見計らって後ろから首を切り落とそうと飛び込んでの左薙ぎ一閃を放つとレッサー・デーモンは腰を深く落としそれをギリギリ回避した。
 背の大きなレッサー・デーモンが腰を深く落とした事により、元々懐に入り込んでいた俺の目の前に顎が落ちて来る形となったので、下半身に力を蓄え一瞬で解放してガゼルパンチを叩き込んだ。
 障壁をぶち破り、自身の右手を破壊しつつ顎を捉えたので、俺はありったけの殺意を込めてそれを振り抜いた。

「・・・」

 ドエインとお互い無言で目を合わせて軽く頷き、俺は明莉の元へと行った。

「・・・大丈夫か?」

「ヒィッ!?」

 明莉の顔には真っ黒で真っ赤な恐怖が滲んでいた。
 明莉にこんな表情をさせただけで彼奴らは万死に値する!!!
 俺は腹の底から沸き立つ殺意を必死に押さえ付け、明莉の肩を抱き、力強く言った。

「頼む、直ぐにミーシャを、助けられる奴だけでいいから救ってやってくれ。頼む!」

「う、ぁ・・・・・・ッ!?は、はい!」

 恐怖に支配されてしまっていた明莉は、俺の声を辛うじて拾って繋ぎ止め、何とか自力で意識を戻す。

 ファイはミーシャを足元に下ろして、鬼の形相で群がる敵に斬り掛かるが、怒りに染まり過ぎて剣筋が鈍い様に思えた。
 他も皆恐怖から普段の動きには程遠い様に感じて俺はアルアレと共にアリシエーゼのサポートに回っているパトリックの元に駆けて行った。

「パトリック!神聖魔法で皆を鼓舞出来るか!?」

「ハルくん!うん、出来る!任せて!」

 そう言ってパトリックはすぐ様魔法の詠唱に入った。

 まずは戦線を立て直す!

 俺はそう意気込んでファイの元へと駆け出した。
 チラリとクソ聖女を見ると、数人の騎士を引き連れ逃げ惑っている様で、本気で殺意が沸いたがすぐに意識から追い出した。
 アリシエーゼは任せていて大丈夫。
 モニカとユーリーも危なげなく捌いている様に見える。

「―――お願いしますッ!!!」

 後ろから明莉の可愛らしい声が聞こえ、そしてあの奇跡が魔界に体現される。
 まるで魔界一帯に広がるかの様な金糸雀色かなりあいろの光が、ブワリと一瞬で広がり、数秒で光が明莉の元に戻って行くと、前線の方で倒れていた者がノソノソと立ち上がり出す。

 よしッ!!

 全員は無理だとしても助けられる者は助けられた。
 ただ、このままだとまた訳も分からず敵にすり潰されてしまう恐れが高い為、俺は前線を引き上げるべく、前へと躍り出た。

 ミーシャは・・・

 チラリと横目で確認すると、流石に助からないかもと思っていたミーシャはゴッソリと持っていかれた半身を元に戻し、ノソリと立ち上がっていた!

 よぉしッ!!

 ただ、上半身の半分が欠損する様な怪我なので、当然身体を覆っていた鎧もインナーも無くなっている為、何がとは言わないが、ポロリしていた。

 何がとは言わないけどね

 高速でミーシャの横を通り過ぎる際に俺は自分の着ていた外套を素早く脱いで、それをミーシャに投げ付ける。

「それを着て早く戦線に復帰してくれッ」

 返事も聞かず、反応も見ずに俺はファイの元まで駆けて行き、未だに半狂乱のファイに怒鳴る。

「落ち着け!ファイ!ミーシャは助かった!」

「―――ッ?」

 俺の言葉が届きファイは目の前のレッサー・デーモンに高速で刺突を二度繰り出して後ろにバックステップをして距離を取った。

 チラリとミーシャを見るファイの目に薄らと涙の様な物が見えたが、今はまだ早い。

「立て直す!前へ出ろッ」

 俺の言葉に呼応するかの様に、動きに精細さが戻ったファイは、「おうッ」と力強く返事をして俺と一緒に前線へと駆ける。

 マジで生きて帰さねぇからな
 覚悟しろ
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