異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第159話:神速

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「な、何ぃ!?」

 俺が何の躊躇いも無く、ちょっぴり幼女なアリシエーゼに恥も躊躇いも一切無く助けを求めた事にイーグは驚く。

「ははははッ!テメェ瞬殺してやるからよ、覚悟しろや!!」

 俺の予想では、イーグと同じ様にシューザとスロイはアリシエーゼの基に行っていて、既に殺されている筈なのだ。

 あの暴走覚醒モードに突入すればアリシエーゼなら可能だし、使い所はアリシエーゼなら間違えない筈!

「テメェ、あんなチビに頼って恥ずかしくねぇのか!?」

「全然?」

「何だと!?」

「だから全然恥ずかしく無いっての。圧倒的戦力で徹底的に!迅速に敵戦力を叩く!獅子はな、兎を狩るにも全力なんだぜ?」

 俺はそう言ってニヤリと嗤うが、この未来の地球に獅子や兎が居るのかは知らない。

「グヌ・・・」

「アンタ、相当恥ずかしい奴ね・・・」

 イーグはぐうの音も出ない様だったが、イリアは俺に軽蔑の眼差しを向けて呆れていた。

 勝ちゃ、いいんだよ

 アリシエーゼもそろそろやって来るだろうと俺は、その場で準備運動を始める。
 アリシエーゼが来れば、例えこの周囲にいる魔物とイーグが一斉に襲って来ようとイリアを護りつつ戦えると予想していた。
 また、一飛びに魔物の群れを超えやって来るか、それとも魔物を薙ぎ払いながら猪突猛進と此方にやって来るかどっちだろうな等と思いながらイーグと対峙するが、一向にアリシエーゼは現れなかった。

「・・・・・・」

「・・・ちょっと、来ないじゃない」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・ねぇ、どうなってんのよ?」

 知らねぇよ、そんなの俺が聞きたい

 何かあったのかと思うが、ここからでは何も分からない。
 合流したい所だが、目の前のイーグをどうにかしないとそれは無理だろう事は分かっている。

「なんだ、来ねぇじゃねぇか?」

「待ってろ。もう来るからよ」

 マジかよ・・・
 どうすんだよ・・・

「焦らせやがってッ、テメェはもう終わりだ!」

 いきなり戦闘モードに突入するイーグに俺は焦った。
 この状況を打開するには、俺がイーグを相手取っている間イリアに周囲の魔物の相手をして貰わないとならない。
 なので俺がどれだけ早くイーグを倒せるかに掛かっているのだが・・・

 イけるか?

 分からないが、やるしか無い。
 後、一か八かだと俺はイリアに口早に指示を出す。

「イリアッ!絶対防御魔法を発動しろ、早くッ」

「え、何言って・・・もうッ!」

 俺の指示にイリアは文句を言おうとしたが、それ所では無いと言うのは分かった様で、直ぐに詠唱を開始した。

「させるかよッ!テメェらッ、殺せ!!」

 イーグは周囲の魔物へそう命令し、それを受けて魔物の群れは一斉に此方に飛び掛って来た。

「リテヤード・ダルセイド・モイステ・ハリ・イクイトス・アル・エル―――」

 イリアの魔法詠唱が始まる。多分、イリアのあの魔法さえ発動出来ればその間にイーグの撃破、出来なくても此処からの離脱は可能だろう。
 なので、俺はイリアを護る事だけに集中する。

「ふぅ・・・フッ!」

 但し、迎撃体勢で防御、カウンターに全振りはしない。
 三百六十度、全てから敵はやって来るので、待ちの体勢では直ぐに突破されてしまう。
 なので此方から出る!!

 目の前のオーガへ障壁を最大にして張り、飛び込み殴りを行い、胸を一撃で穿ちそのまま胸に突き刺さった右腕を思い切り横に振るう。
 既に絶命しているオーガは数匹の魔物を巻き込み吹きた飛ぶが、俺はその間に右脚を踏ん張り、瞬間、力を解放する。
 爆発的に地へ力を伝えてまるで弾丸の様に左手の魔物へ詰め寄り、そのまま膝蹴りを頭部に当てて、着地と同時にイリアの左側に迫っていたオークに飛び込んでの後ろ回し蹴りを当てて吹き飛ばす。
 着地と同時にその場でクルリと回転しながら、すぐに前に出て来た別のオークの顔面にバックハンドブローをぶち当てる。

「ッふ、はぁッ」

 ここまで一息で動いたので、一旦短く呼吸をしつつ目だけで状況を確認して、イリアの後ろ、右側から迫る魔物を連続で屠っていった

「―――ツスーサス・イダ・マーゾラ・ハ・ウルテ・ロス・エル・ホー・サクス・ハイ・キク」

 イリアは目を閉じ、詠唱を続けており、それは澱み無く行われている。
 きっと、俺が絶対に魔物を寄せ付け無いと信じているのだろうと思うと、こんなに切羽詰まった状況にも関わらず口の端が自然と上がるのを感じた。

 イリアの右側の魔物とその隣から飛び出して来たゴブリンにミドルキックを食らわせて吹き飛ばしてから俺はもう一度、両脚に力を込めて踏み込みの準備をする。
 グッと意識して深く地を蹴って、爆発的な踏み込みを行って前方へ飛び込んでの掌底をオークの胸にぶち当てると、肉体から出た音とは思えない様な爆発音が鳴って、そのオークは弾け飛んだ。

「クッ!」

 もう一度右脚で踏み込み対角線の魔物へと肉薄するが、無理をして踏み込んだ為、太腿を痛めてしまった。
 が、直ぐに治る事を想定して、目標の手前でクルリと空中で前転して、浴びせ蹴りを放って目の前の魔物の脳天をかち割る。

 って言うか、一々、オークだのゴブリンだのめんどくせぇ

 犬だの豚等と考えるのも面倒臭いので魔物で一括りだ。
 そんな事を考えながら着地してそのまま足払いを行って周囲の魔物の足を纏めて払う。

「シャッ!!」

 足払いをして直ぐに立ち上がり、転げた魔物を一体蹴り飛ばしてイリアの直ぐ近くまで迫っていた奴にぶち当てる。

「っと、やべぇ」

 俺は跳躍してイリアの背後から迫っていた奴の頭上に飛び出し、空中で踏み付けて頭を割る。
 その反動で次の魔物へと飛び、目の前に飛び降りつつまた頭を叩き割る。

「―――マサリク・スハヤー・ド・ルカ・エル・ライ・オルト・テル」

 ま、まだ前半部分なのか!?

 流石は防御系究極魔法の名は伊達じゃないなと思いつつ、舞う様にイリアの近くで魔物を次々に屠った。

 ん?何で防御系究極魔法なんてこと知ってるのかって?
 そりゃあれだ
 イリアがペラペラとそんな事を喋っていたからだ

 聞き流しているとそれに対して激しいツッコミが来るし、魔物を倒しながらお喋りする様を見て、何だコイツと思ったものだ。

「どけぇッ!!!」

 そんな事を何故か考えつつ、目に付く魔物を殺し回っていたが、それでも徐々に包囲網が狭まりつつ有り、若干の焦りを感じ始めた時、魔物の包囲の外からイーグが怒声を上げながら突っ込んで来たのを捉える。
 周囲の魔物を吹き飛ばしながら突撃をして来るイーグを目で追いつつ、イリアの近くも確認する。

 クソッ!!
 やはり同時は無理だ!!

 焦りが頂点に達しても俺は考え続けた。
 イーグの突進を停めてその反動で反対側に飛んで彼処の奴を―――

 駄目だ、間に合わない

 先ずはイーグを停めるしか無いかと、その場で腰を落とした時、左手からイケてる声が響く。

「神速一閃!!」

 声がしたと思ったら、その瞬間、俺の前に―――正確に言うと、イーグの真横に移動して来たファイが魔物の群れを神の如き速さで切り裂きながら、そのままイーグをも巻き込み、全てを一閃した。
 俺はそれを見つつ、色々と言いたい事も考えたいこともあったがそれらを置き去りにして、イリアの目前に迫っていた魔物を突き飛ばし、後続も退けた。
 そうこうしている間にファイが切り開いた道を雄叫びを上げながら進み出て来る集団があった。

「ファイ様に続けぇ!!」

「「「「「「「「オオオオオオオオオオッッ!!!!」」」」」」」」

 ファイがこじ開けた所を一点突破し、見知った顔の者達がなだれ込んで来た。
 ディアナとミーシャを先頭にファイの中隊の面々と俺の仲間達を見て俺は心の中でガッツポーズをする。

 よしッ!

「主に仇なす者、魔の者、負の者、災い弾くその壁は聖壁、聖門は開かず、守護の耀にて城照らさん!!」

 そうこうしている間にイリアは魔法の詠唱を続け、後は魔法名を口にするだけだった。

「いいかッ!イリアの魔法が切れるまで殺して殺してッ、殺しまくれ!!!」

 それだけ叫び俺はファイに斬られ吹き飛んだイーグの元へと走った。

魔退聖堅護城門カスタメトシルズ!!!」

 イリアは魔法名を力強く口に出し、何者をも寄せ付けない、絶対的な守護の奇跡を発動する。
 瞬間、身体が白藍しらあいに輝き、一瞬で光は収束するが、半透明な何かが身体を覆う。
 イーグの近くまで行くが、辺りの魔物は目を血走らせて一斉に俺に襲い掛かる。
 有像無像の塵芥共はどうでも良いと、俺は更に加速しイーグとの距離を一気に詰めた。
 ファイに腹を一閃されたイーグは地に這いつくばり中から漏れ出る何かを必死に抑えている。
 既に修復は始まっている様だが、此奴らにかける慈悲の心など持ち合わせているものか。

「ッラァ!!!」

「ゴァッ!?」

 イーグの腹を思い切り蹴り飛ばし、吹き飛ばす。
 蹴った瞬間にイーグを追い越す勢いで地を蹴り肉薄する。
 追い越しざまに天井へと蹴り上げてその場で跳躍し、またイーグを追い越す。

「ジャッ!!」

「ブゴゥァッ!?」

 上からイーグを殴り付け、右肩辺りを破壊して地面に叩き落とす。
 そのまま落下の速度と自身の体重を乗せて地面に叩き付けられたイーグの腹に膝を落とした。

「―――ッ!!!」

 身体がくの字に曲がるイーグに跨りマウントを取って一切の躊躇いも慈悲も哀れみも無く拳を叩き付ける。

「―――ブァッ!」

 一発目はいけ好かない鼻っ面に右拳を叩き付けて鼻骨をへし折る。

 無意識に抑えちまったか

「―――ッガ!」

 二発目は右目の辺りの眼底目掛けて左拳を落とす。
 グシャリバキリブチャリと音がして眼底が陥没し右眼が破裂する。

 まだ抑えてる

「―――ァパ」

 三発目はもう一度鼻っ面に叩き込もうとしたが、イーグが暴れた為に少し狙いがそれて左のテンプル辺りに右拳が入った。
 グシャリと一際耳に残る音と共にイーグの頭部の半分がまるでトマトを握り潰したかの様に鮮血を撒き散らしながら潰れる。

 さっきから煩ぇんだよ

 殴り付ける度に漏れ出るイーグの呻きなのか何なのか良く分からないものが異様に癇に障り、俺はその根源を断つ。

「―――ッ!?」

 左拳をイーグの喉元に叩き込み喉仏を砕き、頸椎を砕き、八ツ橋の様に平に叩き潰した。

 そう言えばアリシエーゼは核を潰してたか

 ジミナの核を取り出して潰していたアリシエーゼの姿を思い浮かべて俺はイーグの胸部を見て右拳を振り上げる。

「ッ!?」

 その瞬間、脳裏で何かが囁いた気がした。
 イーグに跨っている状態をすぐ様解除して転がるとズドーンッと爆音を伴った振動が俺を襲う。
 素早く確認を行うと、イーグのすぐ近くに巨大な脚が見え、ゆっくりと顔を上げると全身筋肉質の巨人が此方を見下げて立っていた。

 あの巨人かッ!?

 距離を取る様に後ろ飛び退き、後方をチラリと確認すると、既に仲間の周りに二体、そして今し方三体目が飛び降りて来ていた。

 俺の真似をしたのか?

 俺が巨人から逃げた時に魔物の群れを飛び越えて跳躍したが、それと同じ様に巨人は魔物の群れを飛び越えてここに降りたったので、そう思ったが、魔物を飛び越えてと言うのは語弊があったかも知れない。
 巨人の着地地点には魔物が大量に居たが、それら一切を無視してまるで蟻を踏み潰すかの様に特段気にする様子も無く降り立ったからだ。
 視線を戻す頃にはズドンッともう一体。
 俺の目の前に現れた巨人の後方にもう二体の巨人もすぐにやって来ていた。

「・・・・・・」

 自分の身体を確認すると、既にイリアの魔法効果は切れており、それを認識すると同時に汗が吹き出した。

 七体かよ・・・
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