異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第4章:偽りの聖女編

第167話:名も無きその魔術

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「お、お前ッ、服はどうした!?」

 真っ裸である事を全く気にせずに腰に手を当てて偉そうにしているアリシエーゼに俺は動揺する。

「ん?あぁ、彼奴ら全く無茶苦茶じゃな。妾も形振り構って居られんかったわッ」

 真っ裸でぷりぷりするアリシエーゼに圧倒され、俺は「お、おう・・・」としか言えなかった。

「アンタとりあえず何か羽織りなさいよッ」

 イリアもアリシエーゼの奔放さに翻弄されつつ指摘をするが、当人はまったく気にする素振りをする事無く、「うっさいのう」とか言ってるが・・・

 そう言うとこだぞ・・・

「それよりもこれはどう言う状況じゃ・・・」

 アリシエーゼは辺りを見渡し眉を顰める。
 俺もアリシエーゼがどう言う状況だったのか気になっていたので、情報共有をしたかったが、今はそれどころでは無い。

「そんな事より彼奴、これ位じゃ死なねぇだろ。トドメを刺そう」

 そう言って俺はアリシエーゼに吹き飛ばされてピク付いているイーグに顔を向けた。

「そうじゃった。おい、アルアレ、何か羽織る物を寄越すんじゃ」

「「「「「・・・・・・」」」」」

 アリシエーゼの何気無い一言にその場にいる者が凍り付いた。
 そう言えば、アルアレはまだ魔法―――いや、魔術を待機状態にしており、光る剣を目の前に携えて身動き一つしていない。
 余程集中しているのかと思ったが、アルアレが自らの生命と引き換えに魔術を行使し、それをイーグにぶち当てようとしているところだったとアリシエーゼへ説明した。

「・・・・・・これは魔術じゃったか」

 そう言ってアリシエーゼはアルアレの元へと歩いて行く。

「・・・もう発動してしまったわ。後はアレを敵に放てばそれで終わりよ」

 イリアの言葉が耳に入っているのか、いないのか分からないがアリシエーゼは無言でアルアレへ近付き見詰める。

「・・・・・・・・・そうか。護りたかったんじゃろうのう。じゃが、魔術とは・・・馬鹿もんが」

 そう言ってアリシエーゼはアルアレの腹に左手をそっと添えた。その表情は窺い知る事が出来なかったが、嫌でも想像出来た。

「今ならソレも当たるだろうけど、アルアレ今はどう言う状態なんだ?全然反応無いんだよ」

 俺の言葉にアリシエーゼは、一度深い溜息を吐き、そしてゆっくりと言った。

「・・・もう死んでおるよ」

 は?

「え、いや、だって・・・」

「・・・・・・・・・」

 アリシエーゼは悲しげな表情で一度アルアレから視線を切り、ナッズが横たわるその場所を見遣る。

「・・・・・・すまん、ナッズも助けられなかった」

「別にお主が謝る事では無いじゃろう」

 いや、俺のせいだ
 ハッキリ言って甘く見ていた

 異世界転生だなんだと浮かれ、アリシエーゼから貰い受けたこの力を過信し、そして俺自身の力に驕った。
 物語の主人公気取りで、ここは異世界でも何でも無い現実の世界だと言うのに俺の身近な者は誰一人として傷の付かず、そして死なない等と思っていたのだ。
 だが、それは口に出来なかった。

「アルアレが残した最後の花火じゃ。盛大に打ち上げてやらねば」

「でも、これどうやって射出するんだ?もうアルアレが、その、死んでいるのなら尚更―――」

「これはそう言った類の魔術では無い。放出系では無いと言ったら良いかのう」

 俺の言葉を遮り、アリシエーゼは一度アルアレの魔術行使の結果である光り輝く剣を見て言った。

「それはどう言う事だ・・・?」

「こう言う事じゃよ」

 アリシエーゼは光る剣の柄に手を伸ばし、そのまま片手でそれを引き寄せる。
 光で出来た剣なのに、カチャリと音がしてからその剣はまるで元々アリシエーゼの物だったかの様にスッとアリシエーゼに引き寄せられ、そして発する光りが一段と激しさを増した。

「魔術とはの、神や悪魔の力を代償を用いて行使する代物じゃ。代償が大きければ大きい程、より強大な神の力を行使出来る。アリアレがどうやって、何時この魔術行使に必要なを行ったのか分からんが―――そうじゃのう。これは言うならば、神の怒りの一撃と言った所かのう」

「魔術名など無いがの」と悲しそうに笑ってそう付け加えたアリシエーゼは、光の剣を携えてイーグに向かってゆっくりと歩きながら語った。

 契約・・・

 魔術を行使するには事前に契約と言う物が必要なのかと思ったが、口には出さない。
 それよりも光の剣を携え歩くアリシエーゼが神々しく見え、まるで神の使いである天使に見えたのだ。

「グッ―――グゥァアアオオオオッ!!!」

 アリシエーゼの不意打ちを喰らい地面に転がったイーグが決死の形相で立ち上がる。
 上半身の半分以上が吹き飛んでいたのだが、それは既に修復されている。
 が、元々、活動限界も近付いていたイーグは力の大半を修復に注ぎ込んだのか、立ち上がったは良いものも、フラフラとしており足元は覚束無い。

「テ、メェ・・・スロイ達は、どうしたッ!!」

「喰った」

 ただ一言、アリシエーゼはそう言ってそれ以上の問答は無用とでも言う様に一歩一歩、力強く地を踏み締めてイーグに近付いた。

「喰っただとッ!幻幽体アストラルボディである俺達を物質体マテリアルボディに取り込んだってのかッ!?」

「・・・・・・」

「テメェ、ふざけんじゃねぇぞ!」

「・・・・・・」

「な、何なんだテメェはッ!?」

「・・・・・・」

 アリシエーゼは何も答えない。ただ、イーグに確実に近付いて行き、まるで余命宣告を行い、カウントダウンをしている様だった。
 俺達も動けなかった。ただ、アリシエーゼがこの後行おうとする事を固唾を飲んで見守る事しか出来なかったが、それでも、傍から見ているだけの俺でもこれだけは分かった。

 イーグは終わった

「何なんだよぉぉおおッ!!」

 狂った様に喚き散らしてイーグは文字通り命を燃やして渾身の一撃をアリシエーゼに放とうと構えを取った。
 一瞬で大気を震わせ、立っていた地面に罅が入り、魔力の無い俺でも目視出来る程濃密な悪意そのものがイーグの身体から吹き出し、中腰状態のイーグは両掌をバッとアリシエーゼに向ける。

「死ねぇぇええああッッ!!!」

 イーグの掌が深紫こきむらさきに染まったかと思うとその瞬間、その光がボーリング球程の大きさまで極限に圧縮される。

「アリシエーゼッ!!」

 俺は思わず叫んだ。あの攻撃は撃たせてはいけない。ソレが放たれれば俺達は確実に死ぬと直感してだったが、アリシエーゼは全く動じていない様だった。

「地獄まで送り返してやる。なに、心配するな他の塵芥どもも纏めて送ってやるでな。それに―――」

 片手で持っていた光の剣を両手に持ち替え、そのまま上段に構えながらアリシエーゼは静かに言った。
 直後にイーグが深紫の光を解き放つ。

「死ぬのはお前じゃッッッ!!!!!」

 イーグの其れが放たれた瞬間、アリシエーゼは上段に構えた剣を振り下ろす。
 眩い光が広がり直ぐに剣へと収束していき、アリシエーゼが振り下ろすと同時にその収束した光が解き放たれる。
 その光の奔流はイーグが放った深紫の光球をあっという間に、いとも簡単に飲み込み、イーグのみ成らずその後方の魔物の群れも大量に巻き込む。

「ハハ・・・ヤバ過ぎでしょこれ」

 光が眩しくて一瞬目が眩んでいた俺は、耳を劈く様な爆発音と、押し寄せる熱風と、それに乗りやって来る肉や他の何かが焼ける様な臭いを感じて無理矢理目を開くが、入口から向かって左手前に居た俺達の位置から一番奥に聳えていた神殿の様なものに向けて超巨大なビームが照射されている光景に目を疑った。

 ビームと言うよりこれ・・・

 明らかに、エクスカリバーとか名付けられそうなその圧倒的な殲滅魔術はアリシエーゼの目の前に居たイーグを断末魔の叫びすら許さず一瞬で消滅させ、その後方に展開していた魔物を纏めて殲滅していた。
 一直線に伸びたその破壊光線の様なものは、直線だった為にその左右に居た魔物は難を逃れていたが、そもそも光自体が直径で十メートル以上は有りそうだった為、それだけでもかなりの数の魔物が巻き込まれた筈だ。

「・・・・・・」

 剣を振り下ろしたアリシエーゼは少しの間、振り下ろしの態勢から動かずに居たが、暫くすると背を伸ばし解放した魔術が起こしたその結果を録に確認もせずにその場で踵を返して戻って来た。

「アルアレよ・・・お主が命を賭したこの魔術、きっと妾達の生還の一縷の望み、光となるじゃろうよ」

 アルアレの元まで戻って来たアリシエーゼは立ったまま事切れているアルアレの腹に飛び込み、その身体をギュッと抱きしめながらそう言った。

 俺の仲間、家族は、死亡がナッズ、アルアレ二名。生存不明がパトリック、モニカ、ユーリーの三名。

 攻略参加の全体数から見れば微々たる数なのかも知れないが、俺はそれを良しとしない。絶対に。
 不明の三名は何としても見付けるし、フェイクスは絶対に許さない。
 どんな手を使っても必ず殺してやると腸が煮えくり返る思いを必死に押さえ込みつつ、この黒い炎は決して絶やさぬ様、同時に頭は常にクリアにしておく事を考えてアリシエーゼを出迎えた。
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