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第4章:偽りの聖女編
第177話:作戦
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「はぁ?どう言う意味よ、それ!?」
俺の言葉にイリアは食って掛るが、此奴は何故いつもこんなにイラついているのだろうか・・・
「そのままの意味だよ、お前はもう聖女なんてやらなくて良くなったんだ。その上でまだ神への信仰はあるかって聞いてんだよ」
「・・・・・・別に、今は聖女と言う肩書きが無かったとしても、これまでやって来た事が全て無くなる訳じゃないでしょ」
「ごもっとも」
俺は肩を竦めてそう嘯くが、全くもってその通りだ。聖女であったイリアがやって来た行いは、例え教会に強制されたものだったにせよ、それにより救われた者も居ただろうし、イリアの功績と言うのは変わりない。
「何が言いたいのよッ、教会がやっている事と神の考える事が必ずしも一致しない事くらい分かっているわ!教会に愛想は尽きても神への愛に変わりは無いわよ!」
そうか・・・
まぁ、逆なんだが・・・
「分かったって。そんな怒るなよ」
「アンタが変な事言い出すからでしょッ」
俺はイリアを宥めつつどうするか考えるが、そんな事今更考えるまでも無い。
例えイリアに嫌われようと俺はもうこれしか無いんじゃないかと思っている。
だが、イリアに事前に覚悟はさせておくべきかと続けた。
「俺に一つ作戦があるんだ。皆も聞いてくれ」
俺は周囲を警戒している仲間達にそのままでいいからと切り出した。
「何よ、作戦って?」
「まぁ、そんな大した事じゃないんだけどな・・・フェイクスの目的は、俺と言うか俺が扱える能力にある。これはこれまでの奴や、その仲間の悪魔達の言動で分かってはいる」
「そうじゃの。明莉が攫われたのも、お主を誘き出す為じゃしの」
そう、明莉は囮に使われたのだが、フェイクスは明莉の能力も多分、重要視している。
だが、明莉とアリシエーゼは魔人には至る事が出来ないとも言っていた。
俺と二人で何が違うのかは分からないが、やはり最も重要なのは俺と言う事には変わりないだろう。
「あぁ。彼奴はどうやら、俺のこの能力を自分に使わせたいと思っている節がある。だから俺に協力しろなんて言って来たんだが、俺は常に突っぱねてた訳だ」
「あんな奴に協力なんてするかよッ」
「そうだな、俺は絶対にごめんだ。例え殺されようと俺は絶対に奴には手を貸さない、貸したくは無い。気持ちの上ではだが」
イスカがまるで自分が協力を求められた様な口振りで怒り出すが、その気持ちは十分分かる。
例え協力した所で、俺や仲間達が無事に此処を出れる確証も無い。
「そもそも彼奴はハルの力を利用して何をしようと言うんだい?」
フェイクスは、この地を煉獄化しようとしている悪魔の一端だ。
神々が住まう、所謂天国は煉獄を通して地上と、ひいては地上に住まう全ての生物と繋がりを持っている。
だが、地獄と地上の間には煉獄は存在せず、悪魔達は人は疎か、神々との接点も一切見出すことが出来ないのが現状だ。
これは推測になるが、悪魔達の行動原理は共通して神々への反逆なのでは無いだろうか。
その一点の為に存在している者達、悪魔にとっては地上の生物は皆、そこに至る為の道具であり、糧であり、餌であり、燃料であり、素材なのだ。
「元々は人間が生み出す膨大なエネルギーを貯めておくのがこの地の役割で、そのエネルギーを元にこの地を煉獄化しようって事だったんだと思う」
俺は自分の推察を交え考えている事を話した。
「ダンテか」
篤が独り言の様に呟く。
「そう、ダンテの神曲だ。あれは煉獄山を罪を清めながら登って色々あるが、その後に天界へと昇天して最終的に神々が住まう地へと達するって話だ。要約するとな」
「うむ、つまりは煉獄は天界へと続いていると本気で思っている訳だな、あの悪魔達は」
「そう言う事。これは推測だが、彼奴らはここを煉獄化する事で、天国側と同じ状況の地上、人間へと介入が出来る様になる。そして天国側の煉獄と繋がる地上の俺達人間を介して悪魔は神々へも干渉しようとしてるんじゃないのかと俺は思う」
そんな会話を篤とアリシエーゼに対して行っていた事に気付き周囲を見ると、皆、こちらに顔を向けてはいるが、かなり困惑した表情をしていた。
しまった・・・
神曲とか言っても皆分からないんだった
「あ、あの、神曲って、あの神曲ですか・・・?」
明莉が気まずそうに俺に話し掛けてくるが、そう言えばこの話をしていた時、まだ明莉はフェイクス達に捕まっていて合流していなかったんだと思い出す。
「・・・そうなんだけど、その話は帰ってからにしよう。今は彼奴らがここを煉獄化しようと永い間チマチマとやって来たみたいなんだが、状況が変わったって事だ」
「暖の能力だな?」
「・・・そうだ」
俺の力は神々には勿論、悪魔達の間でも知れ渡っているらしい。
何故かは分からないが、俺の力の一端を見聞きしてフェイクスは考えたんだ。
俺がさっきイリアにやった様に、俺がフェイクスに力を使い繋がった時に、逆に俺を介して神々に到れるのでは無いかと。
俺の能力がどんなものなのか、その根本と言うより、殆ど俺自身が知らない。
だが、先程イリアと繋がった際に、人の脳を直接弄れるとかそういう能力では無いと言う事は確信した。
もしかしたらフェイクスは、この能力を俺と繋がっているスキルと言う概念的なものは神々に繋がる、関係のある何かでは無いかと考えているのかも知れない。
だから、俺と繋がればそれは俺とスキルの、その先にある神々へとも繋がれる、またはその神々が存在する何処かに至る事が出来ると考えている?
「ハルに何をさせようって言うんだい?」
「・・・分からないが、恐らくここでチマチマと煉獄化計画なんてやってるよりは余程効率が良い何かなんだろうぜ」
「さっきから本当に何言ってるのよアンタ達・・・」
イリアは困惑した表情のままそんな事を呟くが、俺は本題へと入るかと少し気合いを入れた。
「イリアはもう分かってると思うが、俺の能力は言ってしまえば他人を意のままに操れる能力だ」
「・・・えぇ、本当に最悪よそれ」
「な、何ッ!?そんな力が・・・なんて凶悪なッ」
ダグラスを含む何も知らない者達はそれぞれ驚きの声を上げるが、ダグラスは俺の力のせいで漏らしてたなと思い出すが、それは言わないでおいた・・・
「それをあの悪魔は手に入れようとしてるって事よね?」
「そう言う事だ」
「でも協力はしないんでしょ?」
「あぁ、だけど今この状況を考えた時、彼奴を残った俺達で殺せるか?このまま逃げて地上に無事に帰れるか?」
「そ、それは・・・」
「ふんッ、妾が万全であったならあんな奴に遅れは取らんわッ!」
皆が俺の言葉に押し黙る中、アリシエーゼだけは何故かプンスカ怒って地団駄を踏み鼻息を荒くした。
「まぁ、そうかもな。でも実際は?あの力もう少しすれば使える様になったりするのか?」
「・・・・・・無理じゃ。ここに居る全ての魔物を喰らっても、もう一度やれるかどうか・・・たぶん無理じゃからこれで無理して使えば妾は存在自体が消滅するかものう」
やっぱりそうか・・・
「だから考えたんだけど、本来の姿である幻幽体に直接俺の能力を使っても上手くいく保証が出来ないんだけど・・・」
「・・・アンタ、まさか」
そう、そのまさかだ
今のフェイクスは受肉した状態であり、肉体が物理的に存在する。
それならば当然、脳も存在するのでは無いだろうか?
脳を直接操作する力では無いと今は思ってはいるが、脳を操作するイメージ自体は誰よりも出来ている。つまりは使い慣れている筈だ。
だったら、今の状態のフェイクスになら使えるのでは無いだろうかと俺は考えた。
「たぶんだが、彼奴が本来の姿を取り戻す前が勝負だ。どれくらい抑えられるかなんてやってみなきゃ分からないから出来れば俺が彼奴を抑えている間に一斉に掛かって一瞬で仕留めたい。だからお前達の協力が必要だ」
俺の作戦とも言えない提案に皆黙り、それぞれが今ある情報で自分自身で判断をする。
「あの悪魔が本来の姿となったらハルの言う通り私達に勝ち目は無いよ。だったらその前にどうにかするのがセオリーだと思う」
「そうだな、我々に残された道は進むか死ぬかのどちらかだ。だったらどちらを取るかなど聞くまでも無い」
「まったく・・・結局最後は特攻って事か。別に嫌いじゃねぇけどな」
「暖、忘れるな。角だぞ」
「そんな事せんでも妾だけでどうにかしてやるわいッ」
皆、それぞれ思い思いの事を口にするが、概ね了承してくれたと思っていいたのだろうか。
他にも不安を口にする者はいるが、結局は何もせずに死ぬのか。その一点に尽きる。
なので、やるしか無い訳で俺がどうにか出来なければその瞬間終わり。皆、死ぬのだがそれなら最後に一華と思っている奴は多い。
「あ、あの、私は・・・」
「うん、明莉と篤、それにモニカはユーリーと待機で良い。明莉には何かあったら例の奇跡を頼むと思うけど」
「す、すみません・・・」
「何で謝るんだよ。明莉が居るから俺達は大胆な作戦を取れるんだし、ドンと構えてなって」
俺は務めて明るく明莉にそう言うが・・・
それにしても篤よ・・・
角って・・・
お前どんだけブレないんだよ
「アンタ、本気で大丈夫なんでしょうね?」
「さぁ、やってみないと分からないだろ」
「なッ!?それじゃ困るでしょ!」
「分かってるけど、本気で分からないんだから仕方無いだろ・・・でもまぁ、任せろよ」
イリアの言う事は最もだし、分かる。が、物事に絶対は無いのと同じで、ここで断言する事は出来ない。
それでも俺は此奴らに嘘でもいいから任せろと、絶対に成功すると言うべきだっただろうか。
きっと、ファイとかならそうするし、上に立つ奴ってのは自然とそう言う選択をするんだろうな・・・
だが、俺はそんな器では無い事は自分自身良く知っている。なので、俺は事実を伝える事で仲間への信頼を示す。
「はぁ・・・もういいわ。お互いやれる事をやりましょ。それはそうと最初に戻るけど、アンタの質問の意図は何なの?信仰心はまだあるかだっけ?」
そう、これは伝えて置かなければならないのでは無いかと考えてイリアに質問したのだが、今更になってどうしようかと悩んでいたりした。
「さっきも言ったけど、フェイクスの野郎はたぶん、俺の能力を逆に利用して神々へと、またはそれ等が居る地なのかなんなのか、そこへのアクセスをしようとしてるんだと思う。そうであるなら、俺がフェイクスに対して力を行使すると言う事はそれは―――」
そう、これは神々を危険に晒す行為であり、神々を利用すると言っても良いだろう。
別に俺は無神論者だが、魔法やら悪魔やら、篤や明莉の能力を見てきて、アリシエーゼや他の者の話を聞いてきた中で、流石に神など存在しないとは言えない。
神様ってのはきっと人間の味方なのだろう。そんな神様に危険が及ぶかも知れない行為はきっと、やってはならない事であり、それを行えばもしかしたら神の怒りに触れる事になるかもしれない。
その怒りは人類を滅ぼす事になるかもしれないし、正直どうなるか分からない。
そんな神への反逆にも等しい、悪魔とやる事が変わらない事を今から俺がやり、その結果、人類が神に見限られる様な行為を、神々を信仰するこの世界の人々、特にこの場ではイリアだが、赦してくれるのだろうか。
アルアレがこの場に居たのなら、全力で止められるんだろうな・・・
そんな思いが一瞬過ぎり、鼻を鳴らす。
「―――神を危険に晒す事に他ならない。それをお前は、この世界の者達は許容出来るのか?」
俺の能力も何も分からない者達からすれば、それは何故?と思うだろう。
アリシエーゼと篤は分かっては居るが、他の者は俺の懸念をあまり理解出来ずに困惑した表情を浮かべる。
「・・・何言ってるのよ、アンタ」
「神々の怒りを買う覚悟はあるのかと聞いてるんだ」
悪魔を殺す事は巡り巡って神々にも利が有る事だと思う者達からすれば必死に其れこそ命を張ってこの場に居る者からすればそんな事許容出来る筈は無い。
「・・・アンタ、分かって無いわね」
「え?」
俺は懸念は伝えた。後はそれを聞いた者達がどう判断するだけなのだが、イリアは笑った。
「そんな事で神様が怒る筈無いじゃない」
「い、いや、それはあくまで人間の価値観で考えた時だろう?たかが人間如きが神の手を煩わせるってだけで―――」
「違うわッ、神様の愛はね、無限なのよ!!」
ッ!?
俺はその言葉に衝撃を受けた。何者も信仰していない俺は正しくその信仰と言うものを理解出来ていなかった。
「・・・・・・そ、そうなの、か」
「そうよ!だからそんな事は気にしなくていいの!アンタは出来る事をやる。私達も出来る事をやる。その結果何か間違いを犯してしまったとしても、後で神に赦して貰う。それでいいのッ」
イリアは腰に手を当てて偉そうにそんな事を言った。それを見て俺は、何でこんな事を考えていたのだと馬鹿らしくなってしまった。
「・・・そうかよ、聖女様のお墨付きが出たんだ。これで憂いは無いって事だな」
俺もイリアを見て不敵に笑い返す事で感謝を示す。
「元、じゃがの」
アリシエーゼッ
めッ!そう言う事言わないのッ
「作戦会議は終わったかな」
俺達の話し合いに区切りが付くのを見計らったかの様に、それまで離れた位置から傍観していたフェイクスの声が聞こえる。
俺達はその声の方を睨み付け無言で返答した。
「・・・では進みたまえ。折角お前達の為に用意した舞台だ。我々も、そしてお前達の仲間も首を長くして待っているのだから」
そう言ったフェイクスは、そう言えばお前達の仲間は殆ど首から先は無かったなと思い出したかの様に呟き、くつくつと嗤った。
「・・・・・・上等だよ」
俺はブチ切れそうになるのを必死に抑え、拳を硬く、それこそそれだけで自らの骨が粉砕しそうなくらい硬く握り込む。
仲間達も思いはきっと同じだろう。
今に見てろッ!!
必ず殺してやる!!!
俺の言葉にイリアは食って掛るが、此奴は何故いつもこんなにイラついているのだろうか・・・
「そのままの意味だよ、お前はもう聖女なんてやらなくて良くなったんだ。その上でまだ神への信仰はあるかって聞いてんだよ」
「・・・・・・別に、今は聖女と言う肩書きが無かったとしても、これまでやって来た事が全て無くなる訳じゃないでしょ」
「ごもっとも」
俺は肩を竦めてそう嘯くが、全くもってその通りだ。聖女であったイリアがやって来た行いは、例え教会に強制されたものだったにせよ、それにより救われた者も居ただろうし、イリアの功績と言うのは変わりない。
「何が言いたいのよッ、教会がやっている事と神の考える事が必ずしも一致しない事くらい分かっているわ!教会に愛想は尽きても神への愛に変わりは無いわよ!」
そうか・・・
まぁ、逆なんだが・・・
「分かったって。そんな怒るなよ」
「アンタが変な事言い出すからでしょッ」
俺はイリアを宥めつつどうするか考えるが、そんな事今更考えるまでも無い。
例えイリアに嫌われようと俺はもうこれしか無いんじゃないかと思っている。
だが、イリアに事前に覚悟はさせておくべきかと続けた。
「俺に一つ作戦があるんだ。皆も聞いてくれ」
俺は周囲を警戒している仲間達にそのままでいいからと切り出した。
「何よ、作戦って?」
「まぁ、そんな大した事じゃないんだけどな・・・フェイクスの目的は、俺と言うか俺が扱える能力にある。これはこれまでの奴や、その仲間の悪魔達の言動で分かってはいる」
「そうじゃの。明莉が攫われたのも、お主を誘き出す為じゃしの」
そう、明莉は囮に使われたのだが、フェイクスは明莉の能力も多分、重要視している。
だが、明莉とアリシエーゼは魔人には至る事が出来ないとも言っていた。
俺と二人で何が違うのかは分からないが、やはり最も重要なのは俺と言う事には変わりないだろう。
「あぁ。彼奴はどうやら、俺のこの能力を自分に使わせたいと思っている節がある。だから俺に協力しろなんて言って来たんだが、俺は常に突っぱねてた訳だ」
「あんな奴に協力なんてするかよッ」
「そうだな、俺は絶対にごめんだ。例え殺されようと俺は絶対に奴には手を貸さない、貸したくは無い。気持ちの上ではだが」
イスカがまるで自分が協力を求められた様な口振りで怒り出すが、その気持ちは十分分かる。
例え協力した所で、俺や仲間達が無事に此処を出れる確証も無い。
「そもそも彼奴はハルの力を利用して何をしようと言うんだい?」
フェイクスは、この地を煉獄化しようとしている悪魔の一端だ。
神々が住まう、所謂天国は煉獄を通して地上と、ひいては地上に住まう全ての生物と繋がりを持っている。
だが、地獄と地上の間には煉獄は存在せず、悪魔達は人は疎か、神々との接点も一切見出すことが出来ないのが現状だ。
これは推測になるが、悪魔達の行動原理は共通して神々への反逆なのでは無いだろうか。
その一点の為に存在している者達、悪魔にとっては地上の生物は皆、そこに至る為の道具であり、糧であり、餌であり、燃料であり、素材なのだ。
「元々は人間が生み出す膨大なエネルギーを貯めておくのがこの地の役割で、そのエネルギーを元にこの地を煉獄化しようって事だったんだと思う」
俺は自分の推察を交え考えている事を話した。
「ダンテか」
篤が独り言の様に呟く。
「そう、ダンテの神曲だ。あれは煉獄山を罪を清めながら登って色々あるが、その後に天界へと昇天して最終的に神々が住まう地へと達するって話だ。要約するとな」
「うむ、つまりは煉獄は天界へと続いていると本気で思っている訳だな、あの悪魔達は」
「そう言う事。これは推測だが、彼奴らはここを煉獄化する事で、天国側と同じ状況の地上、人間へと介入が出来る様になる。そして天国側の煉獄と繋がる地上の俺達人間を介して悪魔は神々へも干渉しようとしてるんじゃないのかと俺は思う」
そんな会話を篤とアリシエーゼに対して行っていた事に気付き周囲を見ると、皆、こちらに顔を向けてはいるが、かなり困惑した表情をしていた。
しまった・・・
神曲とか言っても皆分からないんだった
「あ、あの、神曲って、あの神曲ですか・・・?」
明莉が気まずそうに俺に話し掛けてくるが、そう言えばこの話をしていた時、まだ明莉はフェイクス達に捕まっていて合流していなかったんだと思い出す。
「・・・そうなんだけど、その話は帰ってからにしよう。今は彼奴らがここを煉獄化しようと永い間チマチマとやって来たみたいなんだが、状況が変わったって事だ」
「暖の能力だな?」
「・・・そうだ」
俺の力は神々には勿論、悪魔達の間でも知れ渡っているらしい。
何故かは分からないが、俺の力の一端を見聞きしてフェイクスは考えたんだ。
俺がさっきイリアにやった様に、俺がフェイクスに力を使い繋がった時に、逆に俺を介して神々に到れるのでは無いかと。
俺の能力がどんなものなのか、その根本と言うより、殆ど俺自身が知らない。
だが、先程イリアと繋がった際に、人の脳を直接弄れるとかそういう能力では無いと言う事は確信した。
もしかしたらフェイクスは、この能力を俺と繋がっているスキルと言う概念的なものは神々に繋がる、関係のある何かでは無いかと考えているのかも知れない。
だから、俺と繋がればそれは俺とスキルの、その先にある神々へとも繋がれる、またはその神々が存在する何処かに至る事が出来ると考えている?
「ハルに何をさせようって言うんだい?」
「・・・分からないが、恐らくここでチマチマと煉獄化計画なんてやってるよりは余程効率が良い何かなんだろうぜ」
「さっきから本当に何言ってるのよアンタ達・・・」
イリアは困惑した表情のままそんな事を呟くが、俺は本題へと入るかと少し気合いを入れた。
「イリアはもう分かってると思うが、俺の能力は言ってしまえば他人を意のままに操れる能力だ」
「・・・えぇ、本当に最悪よそれ」
「な、何ッ!?そんな力が・・・なんて凶悪なッ」
ダグラスを含む何も知らない者達はそれぞれ驚きの声を上げるが、ダグラスは俺の力のせいで漏らしてたなと思い出すが、それは言わないでおいた・・・
「それをあの悪魔は手に入れようとしてるって事よね?」
「そう言う事だ」
「でも協力はしないんでしょ?」
「あぁ、だけど今この状況を考えた時、彼奴を残った俺達で殺せるか?このまま逃げて地上に無事に帰れるか?」
「そ、それは・・・」
「ふんッ、妾が万全であったならあんな奴に遅れは取らんわッ!」
皆が俺の言葉に押し黙る中、アリシエーゼだけは何故かプンスカ怒って地団駄を踏み鼻息を荒くした。
「まぁ、そうかもな。でも実際は?あの力もう少しすれば使える様になったりするのか?」
「・・・・・・無理じゃ。ここに居る全ての魔物を喰らっても、もう一度やれるかどうか・・・たぶん無理じゃからこれで無理して使えば妾は存在自体が消滅するかものう」
やっぱりそうか・・・
「だから考えたんだけど、本来の姿である幻幽体に直接俺の能力を使っても上手くいく保証が出来ないんだけど・・・」
「・・・アンタ、まさか」
そう、そのまさかだ
今のフェイクスは受肉した状態であり、肉体が物理的に存在する。
それならば当然、脳も存在するのでは無いだろうか?
脳を直接操作する力では無いと今は思ってはいるが、脳を操作するイメージ自体は誰よりも出来ている。つまりは使い慣れている筈だ。
だったら、今の状態のフェイクスになら使えるのでは無いだろうかと俺は考えた。
「たぶんだが、彼奴が本来の姿を取り戻す前が勝負だ。どれくらい抑えられるかなんてやってみなきゃ分からないから出来れば俺が彼奴を抑えている間に一斉に掛かって一瞬で仕留めたい。だからお前達の協力が必要だ」
俺の作戦とも言えない提案に皆黙り、それぞれが今ある情報で自分自身で判断をする。
「あの悪魔が本来の姿となったらハルの言う通り私達に勝ち目は無いよ。だったらその前にどうにかするのがセオリーだと思う」
「そうだな、我々に残された道は進むか死ぬかのどちらかだ。だったらどちらを取るかなど聞くまでも無い」
「まったく・・・結局最後は特攻って事か。別に嫌いじゃねぇけどな」
「暖、忘れるな。角だぞ」
「そんな事せんでも妾だけでどうにかしてやるわいッ」
皆、それぞれ思い思いの事を口にするが、概ね了承してくれたと思っていいたのだろうか。
他にも不安を口にする者はいるが、結局は何もせずに死ぬのか。その一点に尽きる。
なので、やるしか無い訳で俺がどうにか出来なければその瞬間終わり。皆、死ぬのだがそれなら最後に一華と思っている奴は多い。
「あ、あの、私は・・・」
「うん、明莉と篤、それにモニカはユーリーと待機で良い。明莉には何かあったら例の奇跡を頼むと思うけど」
「す、すみません・・・」
「何で謝るんだよ。明莉が居るから俺達は大胆な作戦を取れるんだし、ドンと構えてなって」
俺は務めて明るく明莉にそう言うが・・・
それにしても篤よ・・・
角って・・・
お前どんだけブレないんだよ
「アンタ、本気で大丈夫なんでしょうね?」
「さぁ、やってみないと分からないだろ」
「なッ!?それじゃ困るでしょ!」
「分かってるけど、本気で分からないんだから仕方無いだろ・・・でもまぁ、任せろよ」
イリアの言う事は最もだし、分かる。が、物事に絶対は無いのと同じで、ここで断言する事は出来ない。
それでも俺は此奴らに嘘でもいいから任せろと、絶対に成功すると言うべきだっただろうか。
きっと、ファイとかならそうするし、上に立つ奴ってのは自然とそう言う選択をするんだろうな・・・
だが、俺はそんな器では無い事は自分自身良く知っている。なので、俺は事実を伝える事で仲間への信頼を示す。
「はぁ・・・もういいわ。お互いやれる事をやりましょ。それはそうと最初に戻るけど、アンタの質問の意図は何なの?信仰心はまだあるかだっけ?」
そう、これは伝えて置かなければならないのでは無いかと考えてイリアに質問したのだが、今更になってどうしようかと悩んでいたりした。
「さっきも言ったけど、フェイクスの野郎はたぶん、俺の能力を逆に利用して神々へと、またはそれ等が居る地なのかなんなのか、そこへのアクセスをしようとしてるんだと思う。そうであるなら、俺がフェイクスに対して力を行使すると言う事はそれは―――」
そう、これは神々を危険に晒す行為であり、神々を利用すると言っても良いだろう。
別に俺は無神論者だが、魔法やら悪魔やら、篤や明莉の能力を見てきて、アリシエーゼや他の者の話を聞いてきた中で、流石に神など存在しないとは言えない。
神様ってのはきっと人間の味方なのだろう。そんな神様に危険が及ぶかも知れない行為はきっと、やってはならない事であり、それを行えばもしかしたら神の怒りに触れる事になるかもしれない。
その怒りは人類を滅ぼす事になるかもしれないし、正直どうなるか分からない。
そんな神への反逆にも等しい、悪魔とやる事が変わらない事を今から俺がやり、その結果、人類が神に見限られる様な行為を、神々を信仰するこの世界の人々、特にこの場ではイリアだが、赦してくれるのだろうか。
アルアレがこの場に居たのなら、全力で止められるんだろうな・・・
そんな思いが一瞬過ぎり、鼻を鳴らす。
「―――神を危険に晒す事に他ならない。それをお前は、この世界の者達は許容出来るのか?」
俺の能力も何も分からない者達からすれば、それは何故?と思うだろう。
アリシエーゼと篤は分かっては居るが、他の者は俺の懸念をあまり理解出来ずに困惑した表情を浮かべる。
「・・・何言ってるのよ、アンタ」
「神々の怒りを買う覚悟はあるのかと聞いてるんだ」
悪魔を殺す事は巡り巡って神々にも利が有る事だと思う者達からすれば必死に其れこそ命を張ってこの場に居る者からすればそんな事許容出来る筈は無い。
「・・・アンタ、分かって無いわね」
「え?」
俺は懸念は伝えた。後はそれを聞いた者達がどう判断するだけなのだが、イリアは笑った。
「そんな事で神様が怒る筈無いじゃない」
「い、いや、それはあくまで人間の価値観で考えた時だろう?たかが人間如きが神の手を煩わせるってだけで―――」
「違うわッ、神様の愛はね、無限なのよ!!」
ッ!?
俺はその言葉に衝撃を受けた。何者も信仰していない俺は正しくその信仰と言うものを理解出来ていなかった。
「・・・・・・そ、そうなの、か」
「そうよ!だからそんな事は気にしなくていいの!アンタは出来る事をやる。私達も出来る事をやる。その結果何か間違いを犯してしまったとしても、後で神に赦して貰う。それでいいのッ」
イリアは腰に手を当てて偉そうにそんな事を言った。それを見て俺は、何でこんな事を考えていたのだと馬鹿らしくなってしまった。
「・・・そうかよ、聖女様のお墨付きが出たんだ。これで憂いは無いって事だな」
俺もイリアを見て不敵に笑い返す事で感謝を示す。
「元、じゃがの」
アリシエーゼッ
めッ!そう言う事言わないのッ
「作戦会議は終わったかな」
俺達の話し合いに区切りが付くのを見計らったかの様に、それまで離れた位置から傍観していたフェイクスの声が聞こえる。
俺達はその声の方を睨み付け無言で返答した。
「・・・では進みたまえ。折角お前達の為に用意した舞台だ。我々も、そしてお前達の仲間も首を長くして待っているのだから」
そう言ったフェイクスは、そう言えばお前達の仲間は殆ど首から先は無かったなと思い出したかの様に呟き、くつくつと嗤った。
「・・・・・・上等だよ」
俺はブチ切れそうになるのを必死に抑え、拳を硬く、それこそそれだけで自らの骨が粉砕しそうなくらい硬く握り込む。
仲間達も思いはきっと同じだろう。
今に見てろッ!!
必ず殺してやる!!!
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