異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第5章:帝国と教会使者編

第206話:情報

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「アンタ、マジで言ってんのか・・・」

「えぇ、大真面目ですよ」

 ニコリと笑顔を俺に向けてそう言うガバリス大司教を、有り得ないものでも見るかの様に見詰める。

 この眼は嘘を言っている様には見えないな・・・

 乾杯の後に俺達―――主に俺だけだが―――はガバリス大司教の真意を探るべく料理をそっちのけで話を進めた。

「それって帝国にとっては裏切りに取られるんじゃ無いのか・・・?」

「何故ですか?エル教会と言う組織はどの国にも属していません。どちらかに重きを起き活動すると言う事は無いのですよ」

「・・・それは表向きだろう。帝国領にある帝国所有の魔界の攻略を依頼と言うだけで、帝国からして見れば裏切りと捉えられても可笑しくは無いんじゃないか?」

「ですから、どの国にも属しておられないアナタ方に攻略して頂きたいのですよ」

「・・・・・・」

 依頼内容は当初語っていた通り、帝国にある魔界の調査、攻略が主だった事ではあるのだが、聞けばその理由は―――

「それにしたって帝国が何か良からぬ事を魔界、そこに居る悪魔と行っていてそれは世界の為に阻止しないとならないからって・・・・・・」

 そう、ガバリス大司教基、エル教会は帝国が魔界で悪魔達と結託して不穏な動きを見せている事を察知しており、兼ねてよりその同行を探っていたらしい。
 ガバリス大司教は帝国にエル教会の大規模な流布を目的として赴任しているのだが、裏の顔は帝国側の動向を探り、エル教会の指示があればそれらを阻止すると言う密命を帯びている人物と言う事だった。

 ちょっと判断が付かない・・・

 ガバリス大司教が語った内容が全て真実なのか、それとも一部真実を交えて嘘も含めて語っているのか、はたまた全体のほんの一部だけを語っているのか。
 そう言った判断が能力を使っていない俺には判断が付かなかった。

 能力を使用していなくてもある程度真贋を見極める事は出来ると思っていたんだが・・・

 地球―――ここも地球なんだろうが―――での経験から凡百嘘吐きを見て来て、その嘘を能力を使って暴いて来た俺だからそう言った自信があったのだが、このガバリスと言う人物は少し特殊であった。

 嘘は言っていないと思うが、心根と言うか、この男自体があまり見えない・・・

 語っている事は真実でも、それがガバリス大司教が本当に望んでいる事なのか、語った事の裏に何かがあるのかが分からなかった。

「帝国が行っているのは、悪魔と取り引きを行い、物資や技術その他を取り入れると言う事です」

 物資は分かる。ホルスの魔界に居た一部の魔物や悪魔は何かしらの装備品を所持していたりした。
 勿論それは魔界へやって来る人族が装備していた物を強奪したりした場合もあるのだが、現在の人族では作り出せない魔道具や武具を所持している場合もあり、それは俺の予想ではだと思われる。
 その地獄産の武具などを悪魔と取り引きして優先的にかつ安全に入手していると言われると、そう言う事も可能かもなと思う。
 しかし、技術とは何の事だろうかと首を傾げた。

 「技術ってのは何だ?悪魔が作っている魔道具等の製造技術と言う事か?」

 「そうではありません。帝国は、魔術行使を行う際に伴う代償の減少や行使の簡略化を可能にする術式を秘密裏に入手していると思われます」

 術式・・・
 何処かで聞いた覚えが・・・

 「ほへはあへひゃろ。もひーへはふはっておっははゃほ」

 「あ?」

 今迄夢中で出された料理を貪っていたアリシエーゼが急に口を開いて聞き取り不可能な言葉を口にする。

 「―――んぐッ、ほれ、ゴブリン軍団を任せておるモリーゼの舌に術式があったじゃろ?アレの事では無いかの」

 モリーゼか・・・
 確かにゴブリン達を操るモリーゼの舌には見た事の無い魔法陣の様なものが直接彫られて?いた。
 アリシエーゼ達はそれを見て術式と言っていたが・・・

 「そのモリーゼと言う人物は何方ですか?どう言った魔術を行使しておられたのでしょうか」

 若干食い付いて来たガバリス大司教の言葉への回答を俺は持ち合わせていない為、アリシエーゼを見ると、マッシュポテトの様な物を取り分け用のスプーンで掬って大口を開けて食べていたアリシエーゼは面倒臭そうにしながらも答える。

 マッシュポテトをモグモグしながらだが・・・

 「どんな魔導回路なのかは詳しく分からんが、舌に直接術式を書き込んでおり、それにより低位の魔物を意のままに操る事が出来るんじゃ」

 「意のままですか・・・」

 そう言ってガバリス大司教は少し考える素振りをする。
 その間、アリシエーゼは残りのマッシュポテトを取り分けスプーンを使ってバクバクと頬張る。

 自分のスプーン使えよな・・・

 「な、成程・・・低位の魔物に限定する事で代償を極力抑えていると言う事でしょうか・・・」

 「多分そんな所じゃろうの。しかし低位と侮るで無いぞ。モリーゼは数万のゴブリンを操っておる」

 「す、数万ッ!?」

 アリシエーゼの言葉にガバリス大司教は若干声を荒らげてガタリッと音を立ててその場で立ち上がる。

 「そうじゃ。まぁ、何年も掛けてそこまで大規模に準備したようじゃから、一度に操れる数等も制限されておるのかもしれんの」

 「そ、そうなのですね・・・」

 突然立ち上がってしまった事に恥じらいを覚えたのか、ガバリス大司教は身嗜みを整える仕草をして椅子に座り直すが、まぁ低位のゴブリンと言えど、あの数を目の当たりにしたら一般の人は腰を抜かすだろう。

 それに言葉を話すゴブリンもいるし・・・

 モリーゼが教え込んだと言っていたが、それも術式が関連しているのだろうかと思案して、今度その辺りも聞いてみようと思った。

 「モリーゼは元々、帝国の間者だ。それは知っているだろう?」

 「・・・はい、そこは調査させて頂きました」

 まぁ、そうだろうな

 帝国の間者、或いはエル教会の間者だかはデス隊を見れば分かるが相当質が良い。
 俺がこの世界にやって来てから、何処から何処までを此奴らが把握しているのかは分からないが、色々と知られていると思って良いだろう。

 「そこで最初に戻る。アンタらは何を何処まで知っている」

 俺は意識してほんの少し凄む。同時に鼻を鳴らすが、辺りに動きは殆ど見られない。
 その殺気とも取れる雰囲気を感じ取り、ガバリス大司教は一度ゴクリと喉を鳴らす。

 「・・・魔界での出来事はある程度知っています」

 「それはどうやって情報を入手した」

 「・・・帝国側からの情報提供です。恐らく帝国側は自分達の懇意にする悪魔から情報を得たと思われます」

 成程ね

 「帝国やエル教会は俺達の魔界攻略に、直接的或いは間接的に関与していたか?」

 「・・・し、していないかと。そこまでの力は有りませんし、少なくとも私は関与していません」

 「分かった。これについては信じよう」

 俺の言葉にガバリス大司教はホッと小さく溜息をつく。
 アリシエーゼは口をモグモグさせながら俺を見上げて「良いのか?」と言う目を向けるが、これについては信じても良さそうだ。
 少なくともガバリス大司教本人は関与していないと見ても良いだろうと思った。

 「後は?」

 「は、はい?」

 「後何を知っている」

 俺は更に目に力を込めてガバリス大司教を睨む。無意識の内に何やら身体中からただならぬ何かが醸し出されていた様で、音も無く入口のドアを開けてサリーが部屋へと入って来るが俺は構わず続けた。

 「もう一度だけ聞く。お前は何を知っている」

 これは最終忠告だ。魔界での出来事を知っている以外も色々と情報は持っているだろうが、ここで白を切るつもりならここまでだし、今後ガバリス大司教個人は勿論、エル教会も帝国も全て敵とみなして行動する。

 俺の覚悟を悟ったどうかは定かでは無いが、ガバリス大司教はたっぷりと時間を掛けて何かを思案してから口を開いた。

 「・・・サリー、大丈夫です。下がって下さい」

 「・・・・・・はい」

 ガバリス大司教に言われ、サリーはそのまま部屋を後にする。
 それを俺達は見もしなかったが、ガバリス大司教は確認を行った後で俺達を見て言った。

 「・・・何処からと言う事でしたが、ハルさん、貴方についてはに来た時から、エンフェンフォーズ家のご令嬢で在られるアリシエーゼ様に関してはそれよりも前の情報からです―――」

 ガバリス大司教が知っている情報としてはかなりのものがあった。
 俺や明莉、篤がこの世界―――未来の地球だが―――にタイムリープと言えばいいのか転移と言えばいいのかは微妙なところだが、そう言った経緯でこちらに飛ばされて来た事。
 俺と明莉の能力についての概要的な情報も知っていた。篤の能力については不明と言っていたが、俺の能力は他人を意のままに操る能力、明莉の能力は部分欠損すら治す魔法とは違う力として認識していた。
 また、アリシエーゼと俺に関してはヴァンパイアの上位種であり、デイウォーカーであるが、人族に害意は示しておらず要観察扱いらしい。
 ここに関してはエル教会も情報を共有しており、知られている事に心の中で舌打ちする。
 アリシエーゼの過去、ヴァンパイアになる前の情報も調査で明らかになっているとの事だった。

 「「・・・・・・」」

 殆ど知られてないか・・・?

 俺とアリシエーゼはガバリス大司教が語る内容を黙って聞いていたが、実際は動揺で声が出せなかっただけかも知れない。

 「―――この辺りでしょうか、わたしが知り得ている情報は」

 ここまで話して、ガバリス大司教は一度言葉を区切る。
 俺達の出方を待つと言う事だろうかと考えたが、俺は率直な疑問を口にする。

 「アンタ、その情報は何処から入手したんだ?」

 アリシエーゼの実家だとか、俺や明莉の能力については張り付いて観察していたり、過去の調査を行えばある程度は分かるのかも知れないが、俺や明莉、篤がこちらに転移して来ただとかそこは分かる訳が無い。
 突然この世界に現れたとしても、それが転移だとこの世界の住人が結び付けられるだろうか。

 「・・・情報提供者が居ります。その者はありとあらゆる事象を知っていて、全てに答えを持ち合わせています」

 は・・・?
 何言ってんだ、此奴

 「ちょっと意味が分からない。全てを知っているってどう言う事だ?それは魔法か何かを使っているのか?」

 「どう言った手法でそれを知るのかは私にも分かりませんが、その者の力は本物です。ですので、貴方の力も知っていますし、それを防ぐ手立ても教えて貰いました」

 「あぁ?」

 「か、勘違いしないで下さいね!?別に敵対行動を取るとかそう言った事では無いんです。ただ・・・貴方の力はあまりに強力過ぎる。凶悪と言ってもいい」

 凶悪・・・
 まぁ、人間にしたらそうなのかも知れないが、俺が忌避されていると思うとちょっぴりだが傷付く・・・

 それにしても―――

 「俺の能力を防ぐだって?そりゃ聞き捨てならねぇぞ」

 「助言を行った者は貴方の力についても教えてくれました。詳しい事は言っても分からないと教えて貰えなかったですが、防ぐ手立ては、その・・・」

 「ほぅ、じゃあ試してみようじゃねぇか」

 俺はそう言ってすぐさまガバリス大司教へと繋がる―――

 「んぎゃッ!?!?」

 その直後、バチンッとまるで極大の静電気が発生した様な音と衝撃が襲い、座ったままの俺は後ろに吹き飛ばされる。

 「ハルッ!?」

 吹き飛ばされて二度程床を転がり倒れる俺にアリシエーゼが駆け寄って来るが、久しぶりの衝撃に俺は目を白黒させて意識が一瞬飛びそうになったが、頭を振り直ぐに体勢を立て直す。

 「大司教様ッ!?――――あら?」

 結構な音がしたのだろうか、サリーが慌てて部屋へ駆け込んで来るが、倒れている俺とアリシエーゼ、そしてガバリス大司教を見て何かを悟り、「うふふ」と怪しい笑いを口から漏らしながら何も言わずに部屋から出て行った。

 チクショー!何なんだ!?

 「・・・・・・決して敵対行動を取っている訳ではありませんよ」

 申し訳無さそうにそう言うガバリス大司教を軽く睨み俺はフンッと鼻息を荒くして返す。

 「な、なかなかやるじゃねぇかッ」

 どうなってんだ!?
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