異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第5章:帝国と教会使者編

第213話:護利啊照

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「な、ななッ、なんじゃこりゃあ!?」

「ダァッハッハッハ!見よ!これが世紀の大天才、武田篤考案の移動要塞、ゴリアテだ!!」

 篤が指し示す場所に聳えるのは、数日前にドエイン達から報告のあった納期が遅れていた馬車だった。

 いや、馬車と言うには余りにも―――

 そう、余りにも大き過ぎるのだ。今は真後ろから見ているのだが、横幅は二メートルちょっとくらいあるだろうか、大人四人くらいは横に並べても普通に入りそうなくらいあるし、高さも二メートルあるか無いかくらいだが、それが重なっている。
 そう、つまり二階建てなのだ・・・
 そして奥行は三メートル程あり、全体として見ればプレハブの様な二階建ての建築物の様に見える。
 と言うか、建築物を無理矢理馬で牽かせているのだ。

 個人の準備が整い、後は馬車が用意出来れば出発と言う形になったのだが、篤が馬車を改造すると宣言してから丁度三日目の夜、遂に完成したと報告があった。
 なので翌日―――つまり今日から帝国にある西魔界へ向けて出発だと朝一でホルスの外、帝国側の出入口の一つの前に集まって、完成した馬車のお披露目となった訳なのだが・・・

「え、いや、何これ?」

「ゴリアテだが?」

「いや、まぁ、ゴリアテと言われるとしっくり来ると言うかなんと言うか、名前自体は妙に合ってるなとは思うんだが・・・」

 ちょっと頭が追い付かないので、先ずは深呼吸をして辺りを見回す。
 篤以外の者を見ると、その想像を絶する大きさの馬車に皆天を見上げる形で口を開けて呆けていた。

 これが普通の反応だよな・・・?

 出入口に皆で向かうと、篤がドエインを連れて、馬車を取りに行くからと残りの者は少し待たされたのだが、暫くすると軍隊の行軍でも始まったのかと思う様な馬の蹄の音が近付いて来たので何事かと皆辺りを警戒すらした。
 しかも蹄の音は単体では無く、複数が同時に聞こえて来てバカリバカリと段々とその音が近付いて来る。
 そして誰かが言うのだ。「あれは何だ!?」と。
 皆その方向を見ると、段々と近付いて来るゴリアテと呼ばれる有り得ない大きさの馬車。
 そのゴリアテはあの黒王の様なこれまたバカデカい馬が四頭で牽いていて、ズンズンと向かって来るのだ。
 その様はまるで小山が此方に迫って来る様であり、その場にいる者は恐怖すら感じたかも知れない。
 そして、冒頭に戻る訳だが―――

「お前、マジで何やってんの!?」

「何と言われても、移食住を兼ね揃えた完璧な移動要塞だ。弓矢をも通さぬ要所要所に金属板をはめ込んだ外壁、ムキムキのあの馬四頭で牽かせる事で馬力は十分だし、食事の為の必要器具等は外側の隠す収納部分にある。因みに、この収納部分は扉を開くと中に格納式のテーブルを展開出来る様になっていて、外で容易に食事が出来る様になっている。そしてなんと言っても内装だ」

 そこまで早口で捲し立てた篤は徐に馬車の後方に設置されている扉を開いて、これまた備え付けられた階段を上り中を俺達に見せる様に立つ。

「横向きのベンチが両サイドに付いてるが、これは分解出来てな、ものの数十秒で何と!二段ベッドになるのだよ!!」

「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」

 篤のテンションに圧されたと言うのもあるが、その無駄に豪勢でこの世界ではたぶん存在しないであろう物に全員が無言だ。
 しかしそれでも篤のプレゼンは続く。

「ベンチ自体は一階部分に計四脚あるから、これをベッドとして展開すれば八人が寝られるスペースが出来上がるのだ!二階も同じ物が二つあるから、全部ベッドとして展開すれば同時に十二人寝れる事となるのだよ!!」

 そこまで一気に話すと篤は、「とうッ!」と飛び上がって地面に降り立つ。

「因みに、屋上も二階からと、右側のサイドにハシゴがあるからそれで上がる事が出来てだな―――ふふふ、これは凄いぞ、何があるか分かるか?」

 篤はグシシと笑い俺に聞いて来るのだが、もう何が何だか俺には分からなかった。

「い、いや、分からん・・・」

「なんと!屋上でバーベキューが出来るのだよ!!」

 篤曰く、屋上にも固定式の簡易ベンチと、床下から展開出来る机があり、そのテーブルに専用の焚き火台と鉄板等を展開すればバーベキューが出来るとの事であった。

「要らねぇよッ、そんな無駄機能!!」

「な、なにッ!?無駄だと!?」

 意味が分からない・・・
 何故、こんなキャンピングカーみたいな物を作ったのであろうか・・・

 確かに、速く便利な移動手段が無いこの世界では馬車を快適にする事は必須なのかも知れない。
 そうなのだが、これはいくら何でもやり過ぎだし、頭が可笑しいとしか思えない。
 それに、これを三日で仕上げる業者や職人も頭が可笑しいし、一体幾らこれに注ぎ込んだのか、もう怖くて聞けない・・・

「・・・オォー、スゴイ」

 だが、そんな事を気にしていないユーリーは、ゴリアテと言う名のキャンピングカーを見上げて、キャッキャキャッキャと嬉しそうにはしゃいでいた。

「そうだろう、ユーリーくん!まだまだ説明していない驚異的な機能が存在しているんだ。案内しながら説明しようじゃないか」

「・・・ウン」

 そして篤とユーリーはキャッキャしながらキャンピングカーの中に消えて行った。
 それを見てモニカが「あッ!」と言って追い掛けて行き、そうすると他の者も続いてどんどんと中へ入って行った。

「「「・・・・・・」」」

 残された俺とドエイン、そしてダグラスは暫く無言でその場に佇んでいたが、篤と一緒に馬車を取りに行っていたドエインが口を開く。

「完成品は俺もさっき見たんだが、久しぶりに腰を抜かしたよ・・・」

「だろうな・・・」

 篤は篤で頭が可笑しいのたが、他の皆は何故そう簡単にコレを受け入れる事が出来るのだろうと考えるが、いつまで経っても答えは出なかった。

「おーい、何やっとるんじゃ、中は中々快適じゃぞ」

 いつまで経っても中に入って来ない俺達にアリシエーゼが入口から顔をひょいと出してそう叫ぶ。

「・・・とりあえず行くか」

「・・・あぁ」

「う、うむ」

 まだ頭が混乱しているが何時までも此処に居る訳には行かないので出発する事にしたが、最初の御者はドエインとダグラスに任せた。
 後々、御者の順番も決めないとなと思いながらゴリアテに乗り込む俺はそんな事を考えている辺り、この状況に俺ももう順応して来ているんだろうなと思って一人笑う。

 とりあえず出発するか
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