異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第5章:帝国と教会使者編

第221話:情報

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「旦那、ヤバそうだ・・・」

「???」

 準備期間初日―――

 それぞれが昨日決められた分担通りに動き出した。主に買い物組と情報収集組だ。
 昼辺りにドエインが屋敷に戻って来て開口一番に放った言葉が冒頭の言葉な訳だが・・・

「ここの魔界に挑んでいる傭兵達に話を聞いてたんだが、この魔界一筋縄では行かなそうだぜ」

「そうなのか?まぁ、ホルスの魔界も相当だったろ?」

「そうなんだが、先ずこの魔界、物量で攻める事が出来なそうなんだよ」

 それは大人数で魔界に入れないと言う事だろうかと首を傾げる。

「何か制限とか設けられてるのか?」

「明確にルールが決められてる訳じゃないんだが、この魔界さ、通路が狭いんだ・・・」

 狭い?

「だから大人数で入る事は出来ないって事か?」

「いや、入る事はある程度の人数は可能だろうと思うんだが、壁は硬い石材で出来ていて、迷路みたいになってるらしいんだ。だから、通路の幅自体が先ず極端に狭い。聞いた話だと大人が十も並べないくらいの幅の通路らしいんだ」

 成程・・・
 そんな中で戦闘行為となると―――

「その通路で戦闘になったら、二人並ぶ位が限界か?」

「・・・あぁ」

 ドエインの話では、この西魔界は地下に広大な迷路が続く魔界で有り、通路は先程言った様に大人数での戦闘行為には極端に不向き。
 そんな通路が永遠と張り巡らされており、広間の様に開けた場所もそれ程多くは無いらしい。
 なので、ホルスで行った様に大隊規模で魔界に入れば身動きが取れなくなるし、そんな状況で魔物と遭遇すれば真面に戦う事等出来ずにすり潰されてしまうとの事だった。

「じゃあ、ここの傭兵達は少人数でアタックしてるのか?」

「そうみたいだ。大体どの連中も五人から六人程でパーティを組んでるって言ってた」

「それって一階層だけ迷路になってるんじゃなくて?」

「・・・現在攻略済みの階層は十三。その全てが同じ迷路の構造をしていて、先はどれ程続いているか分からないらしい」

 マジかよ・・・
 迷路が永遠と続くのか

「それにしたって、一層が広大って言っても、ここの魔界発見されてどれくらい経つんだ?数十年?数百年?それ程の時間が経っててまだ十三層までしか攻略出来て無いって遅くないか?」

 ホルスでは二層程しか攻略されて居なかった。
 生活の糧とする素材の入手などは全てこの一層で事足りたからであり、一層が広大だったからだ。
 ファイのように本気で魔界の攻略を考えていなければ奥へと進むメリットが無いのでそれも仕方無いが、この魔界もそう言う事だろうかと考える。

「単純に広過ぎるらしいんだよ。どれくらいの広さか聞いても、皆口を揃えて入れば分かるとしか言わないから詳しくは分からない。だけど、入手出来るお宝は下層に行けば行く程質が良い物になるらしくて、もう何十年も傭兵達は必死に下を目指してるらしいぜ」

 それでも尚、最高到達点が十三層と言う事は魔界が広大で探索に時間が掛かり、難易度もどんどん跳ね上がって行くって事なのだろう。

「帝国の傭兵だってかなり質はいいだろうに。それでもそのくらいしか進んで無いってのは通路が狭くて少人数での攻略を余儀なくされてる以外で何かあるのか?」

「やっぱり最新の情報はなかなか引き出せなかったんだが、各層には門番みたいな奴が居て其奴を倒さないと次の階層に進めないらしいんだ。だから結構手を焼く階層もあるみたいだぜ」

 フロアボス!?

 何でもこの魔界は先ず一層一層が途轍も無く広い。それに加えて通路が狭く少人数でのアタックしか出来ないし、中は超複雑な迷路となっており、更には各階層にフロアボスが居り其奴を倒さないと先へは進めない。
 そんなダンジョンの正しい姿とも言うべき場所がこの西魔界だった。

 しかも一層毎に難易度が跳ね上がるとか・・・

 俺はそう考えると自身から湧き出る高揚感にも似た何かが抑えられなくなってくる。

「旦那・・・?」

「ん、あぁ―――何でも無い」

 俺の様子が少しおかしかったのかドエインが心配そうに声を掛けてきて意識を戻す。

「何でも無くはないだろ・・・何でそんな嬉しそうなんだよ」

「・・・そんなに嬉しそうだった?」

「かなりな」

 そうだったか・・・

 いかんいかんと気を取り直しドエインと会話を続けるが、それ以外では特段報告も無いとの事だったのでドエインには引続き情報収集を頼んで締めた。

「旦那はどうするんだ?」

「あぁ、それなんだけど篤から面倒臭い事頼まれちまってさぁ・・・」

「またか・・・」

 俺は今日の朝いきなり篤に呼び止められた。
 それだけで何となく面倒な事言われそうだなと警戒していたのだが、その警戒虚しく本当に面倒臭い事を頼まれてまったのだ。

「まぁ、それが終わったら俺も情報収集始めるよ」

「りょーかい」

 そこでドエインと別れ、ドエインはまた聞き込みを行う為街中に繰り出して行き、俺は篤と話をする為二階に階段を使って上がった。
 屋敷の二階は客室が数部屋と執務室と言うか書斎が二つ、更に浴室もあるのだが、その二階の客室の一つに俺は扉をノックせずに入る。

「篤、準備出来たぞ」

「む、そうか。面倒な事を頼んですまなかったな」

「まぁ、今更だしいいよ。それに必要な事だろ?」

「あぁ、重要な事だ」

 ならいいとそこに関してはそれ以上は話さなかった。代わりと言う訳では無いが、頼まれていた事に関してどうしたのか、今後どう進めて行くのかと言った事を報告した。

「―――そんな感じで、完成までは暫く掛かると思う。細かい必要物資や人材に関しては建物が完成したら準備始めるよ」

「それで構わない」

 結局、篤から何を頼まれたのかと言うと、作業用の工房が欲しいと言われたのだ。
 俺がホルスで店の工房を強制的に借りるのは迷惑になるからと言った事を気にしていたのか、今回はこの屋敷内に工房を作りたいと言って来た。
 勿論、賃貸なので屋敷を改造する事は出来ないので、庭に新たに専用の建物を建ててその中に必要機材を詰め込んで行く形とした。
 篤は魔界攻略よりもそちらに注力したいだろうし、俺もその方が安心は出来るし、篤の右腕を早くどうにかして欲しいと言う事もあったので協力する事とした。
 先ずは建物の建築関連を全て終わらせようと俺は朝から奔走し、各方面に無理矢理話を通し、更には無理を言ってなる早での作業をお願いしたのである。

「今日から作業は開始なのか?」

「あぁ、これから業者が来るから対応は任せたからな?」

「うむ」

 本当に大丈夫か・・・?

 実際工房が出来た場合、篤はきっと四六時中そこに籠る事だろう。
 俺達は魔界に行く為、篤に構っていられないのだが、その間の事を任せるメイドなりは必要かも知れないなと思った。

「とりあえず俺はやる事あるからもう出るぞ」

「任せたまえ!」

 ハッハッハと高笑いする篤に疑惑のジト目を送るが篤はまったく気にした様子は無かった。

 本当に大丈夫なんだろうか・・・
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