異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第6章:迷宮勇者と巨人王編

第227話:壁破り

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「無茶苦茶だろ、コレ・・・」

 初のオルフェ西魔界へ足を踏み入れた俺達は肩慣らしの意味合いも込めて今日は一層を隈無く探索してみようと話し合い、現在は地図と睨めっこをしつつ探索している。

「このマップ、縮尺が書かれておらんが十分の一だとしても広大な気がするんじゃが・・・」

「今更だ、言うな・・・」

 攻略に乗り出す前、情報収集の最中にマップだけは大枚を叩いてでも良い物を購入しようと皆で話し合い、罠等も色々載っている良質な物をコレまた手に入れた情報から良さげな専門業者の情報を入手して手に入れたのだが、俺が手に持つ広げると卒業アルバムの見開きくらいある地図上にびっしりと書かれた通路やその他付加情報をアリシエーゼと二人で見下ろして溜息を吐く。

「でもよ、この直線の通路なんて地図上じゃ指四本分くらいだけどよ、実際は一時間くらいは歩いたんじゃねぇか・・・?」

 地図と睨めっこをしているとドエインがそれに割って入ってくるのだが―――

 んな事分かっとんじゃ!

 この科学文明の発展乏しい世界の地図に正確無比な完璧地図を求めていた訳では無い。
 評判が良く、かなり正確なこの地図も所々縮尺が違うんじゃないか?と思う箇所はチラホラ見受けられる。
 だが、そこは想定内だったので文句は無い。無いのだが、ただ単に広大過ぎじゃね?って話なのだ。

「イライラするのうッ、やはり壁をぶち破って最短ルートを行こうぞ!」

「やめとけよ、さっき無理だって結論になったじゃねぇか・・・」

 先ずは色々とこの魔界について検証して行こうと言う事で迷宮を構成するこの壁の材質などの話になったのだが、誰もこの石材に見える壁に使われている石の名前を知らなかった。
 何とかと言う石に色などは似ていると言う意見も出たのだが、それが合っているかは分からなかった。
 そんな話し合いの最中、アリシエーゼはいきなり「とりあえず壊してみるかの」とかほざいて右拳を迷宮の壁に叩き付けたのだ。
 結果は罅さえ入らず、欠片がこぼれ落ちる事は無かった。
 その後も「おッ、なんじゃ?やる気かの?」と壁に向かってイキりだし、殴って蹴ってと中々の暴れっぷりだったのだが、結局、ほんの少し欠けた程度で壊す事は出来なかった。
「本気を出せばこんなくらい余裕なんじゃからなッ」と何故か涙目で必死に訴えるアリシエーゼを放置しつつ考えたのだが、壁にイキっていた時のアリシエーゼは結構マジだった気がする。
 途中、本気で迷宮を壊そうとしているんじゃないかと焦って止めに入る位にはマジだった。
 アリシエーゼが言う様に本当の本気でなりふり構わなければ壊せる気もするが、正直そこまでしてショートカットをする気にはなれない。

「ではこのままちまちまと迷路を行ったり来たりするつもりか!?」

「まぁ、今日から暫くは慣らしも兼ねてんだ。それでいいじゃねぇか」

「良くないわッ、このッ」

「ぁ、痛ッ!?八つ当たりすんじゃねぇよ!?」

 この迷宮の壁自体は全て同じ素材の石材が使われており、右へ左へ曲がったり、長い長い直線を只管進んだり、時には罠を解除する為にその辺に転がっている小石を投げてみたり、床をドエインの装備するロングソードを引ったくってツンツンしてみたりとアリシエーゼが言う様にちまちまとやってはいる。
 だが、アリシエーゼに言った通り、暫くはこの環境に全員を鳴らすと言う目的からすれば別に進み具合は考える必要はあまり無い。
 それを分かってはいるのだろうが、アリシエーゼのイライラゲージは溜まって行く一方なのは理解している。
 してはいるのだが、だからと言って俺の鳩尾に肘を結構な勢いで入れてくるのはどうかと思う。

「ふんッ、こんな階層に出る魔物なんぞで訓練しても意味ないじゃろッ」

「お前も分かってるだろ、此処は魔物との直接戦闘だけでどうこう出来る所じゃねぇよ。迷路を彷徨って、用意されてるギミックを解除しながら進んで、各層のフロアボスを倒して降りる。そんなある意味正統派の攻略が必要なんだから、それを全員鳴らしておいた方がいいだろ」

「分かっておるわッ」

 ハッキリ言ってこの魔界は俺が思い描くダンジョンそのものではあるのだが、面倒臭い。
 それは俺も同意だ。だからと言って出来る事をしないで魔界の深層へと足を踏み入れるのほ戸惑われる。
 それにあの何でも識っていそうな男もこの魔界は厄介だと言っていた。
 色々と知っていて対策も立てられそうなあの男が厄介だと表現している以上、本当に厄介なのだろう。
 なので、アリシエーゼが本気で壁をぶち壊そうとしている時、何だか嫌な予感がして止めたのだが、魔界側からしてイレギュラーが発生した際、彼処さんがどう言った対応を取るかが分からなかったのだ。
 壁をぶち破ったら天井が崩れて来ただとか、最悪この迷宮自体が崩れてなんて事も無きにしも非ずである。

 ぷりぷりするアリシエーゼを宥めつつ、俺は他の仲間に声を掛ける。

「まぁ、今日はこの階層で慣らそう。一応、今日の目標は隊列の確認と、この場所が実際どう言うものなのか、それを想定出来る何か情報とかが無いかを探す事に注力しよう」

「まぁ、それでいいんだが姉御は大丈夫か・・・?」

「そこは何とかするよ」

「此処がどう言う場所なのかって、具体的にどうすれば良いの?」

「俺の予想では、この迷宮はフィールドとしては一つしか用意されて無いと思ってるんだよ」

「フィールド?」

 俺の言葉にサリーは首を傾げる。

「何て言うかな。さっきここはもしかしたら別次元だとか別の世界だとかに作られた迷宮で、そこに俺達が入口を潜った瞬間転移してきているのかもって話はしただろ?」

「そうね」

「確かそんな話だったな」

 サリーとドエインが同意するが、他の仲間達もこの会話を聞いており、皆無言だが頷く。俺はそれを確認してから次の言葉を発した。

「別で作られたと想定しているこの場所は一つなんだと思ってるって事だよ。つまり、この一つしか無い場所に入口を潜った奴らはランダムで色々な地点へ飛ばされて、そこからスタートするんじゃ無いかと思ってる」

 この言葉でさらに皆、頭上にクエッションマークを浮かべる事になるが、俺はそのまま続けた。

「これは単純に、パーティ毎にしかも入口を潜った者のパーティ単位でその都度、この迷宮を発生させるーーつまりインスタンスダンジョンみたいな物を生成するより、一つのダンジョンだけ作って、パーティ単位でスタート位置をランダムにしてやる方が製作者サイドとしては面倒臭く無いのかなって思っただけだから、何か確証があったりする訳じゃ無いんだけどさ」

「インスタンス・・・?」

「製作者・・・?」

 イリアもサリーも何言ってんだ此奴と言う顔をして、俺が発した言葉を思い出す様にしながらも、意味不明な単語を口に出している。
 まぁ、これは仲間に説明すると言うよりは俺自身の考えを整理しようとただ単に口に出しているに過ぎない。

「じゃが、お主のその考えはハズレておるかも知れんの」

 ぷりぷりから復帰したアリシエーゼが今の俺の考えを否定するかの様に語る。

「ここに入ってから他のパーティに出会って無いって言いたいんだろ?」

「そうじゃ」

 そう、アリシエーゼの言う事は最もだ。
 幾ら出現場所がランダムだったとしても俺達がダンジョンに入って二時間程である。
 その間、他のパーティには出会っていない。寧ろ、俺やアリシエーゼの嗅覚による索敵にも一度も引っ掛からないでいるのだ。
 ランダムと言えど、嗅覚の索敵範囲に一度も引っ掛からずに偶々、他の何十、何百と言う単位のパーティが一つのダンジョンに集まると言う事は有り得るのだろうか。

「そこなんだよな。ただ、さっきも言ったけどコレは俺の単なる感だよ」

「そうか、じゃが妾達が出現した場所がマップで言う所の出入口と言う事もお主の考えが間違っていると言っていると思うんじゃがな」

「・・・確かにそうだな。偶々、俺達の出現箇所が出入口って確率はどれくらいあるんだろう・・・?もし仮に出現箇所がランダムじゃなくて出入口付近ってなら他の奴らと出会わないって事は無いよな」

「うむ」

 仲間達に説明している筈がいつの間にかアリシエーゼとの談義になってしまっているのに気付き、俺は謝ってから続きを話そうとしたが、別の事を逡巡して止めた。

「とりあえず此処がどんな場所なのかとかは考えずに進もう。この隊列を崩さずに索敵、罠探知などをしながら進んで魔物との戦闘、これを先ず第一でやっていこう」

 俺の言葉に色々と言いたい事がある様な表情を皆がするが、正直この魔界の事については俺も良く分からない。
 そこを今幾ら考えても答えは出ないと言ってとりあえず先へ進む事にした。

「ハル様、先程の話を聞いていて思ったのですが、その出現場所とやらがランダムであって、かつ我々と出会わない理由が一つ思い浮かびました」

「・・・・・・」

「恐らく、この階層が異様に広大なのでは無いでしょうか。其れこそ、果てが見えない程の広大さであれば、何百と言う傭兵のパーティが一つの場所に無差別に散らばっても、被る事の方が少ない。そう考えれば納得出来るかと」

「・・・・・・」

 話した内容に反応を示さない俺にどうしたのかと怪訝そうな表情を浮かべるマサムネだが―――

 やめて・・・
 その可能性と言うフラグは立てないで・・・
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