異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第6章:迷宮勇者と巨人王編

第229話:勇者

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「じゃあ、出発しようか」

一層のボス部屋近くの小部屋で休憩していた俺達は一旦の今日の方針を話し終えた所で俺はそう言って出発を促す。
俺が立ち上がると皆、それぞれ片付けを行って出発の準備を始める。

「モニカ、行くぞ」

「私の休憩はどうしたんですか!?」

「え、いや、そんなの無いだろ」

「え?」

周囲を警戒と言っても、俺もアリシエーゼも時折自分の嗅覚を駆使して索敵は行っている。
なのでモニカに入口を見張らせてはいたが、格好だけだし、何なら入口に座り込んで時折こちらを恨めしそうにチラチラ見ていたのは休憩では無いのかと思ったり思わなかったり・・・

「え、じゃねぇよ。さっさと準備しろよ」

「ひ、酷いです!私だって一生懸命やってるのにッ」

そう言って、よよよと泣き崩れそうになるモニカだが、今の所その一生懸命と言うのが見られている気はしない。
ここまでは後衛の位置でユーリーと手を繋ぎながら、欠伸をしつつ散歩をしているだけだ。

「ちょっと次は弓使って連携とか確認した方がいいんじゃないか?」

「嫌です」

「え?」

俺の提案にモニカは考える事すらせずに即答してくるが、何で嫌なのかが全く理解出来なかった。

「え、じゃないですよッ、こんな閉鎖された迷路みたいな通路で早々射線が通る訳無いじゃないですか。それに―――」

此処ぞとばかりにモニカは俺に対して捲し立てるが、モニカはゲーム等のジョブシステムで例えるなら、レンジャーのジョブだろうと思える立ち回りをする。
基本的に普段は大弓で遠距離からの攻撃を行い、接近戦では腰に刺したショートソードに持ち替える。
この世界の大弓の構造によるのか、それともモニカがこう見えて怪力の持ち主なのか、大弓で矢を番え腕を引いた状態を維持しながら、飛び跳ねたり大きな動きをめちゃくちゃするのだが、その弓の威力は凄まじい。
前に聞いたが、飛距離自体は一キロ程いけると豪語していた。
一体どうすれば所謂ロングボウでそんなに飛距離が出せるのかと思ったが、どうやらモニカもユーリー程では無いが、精霊との親和性は元々高く―――と言うか、エルフ自体が元々そう言う精霊とのシンクロ率はもの凄く良いみたいだが―――精霊魔法を使う訳では無いが、弓を使用する際に精霊に色々と手伝って貰っている様だった。
俺にはその辺りは詳しく分からなかったが、ユーリーが精霊魔法を使う際に呪文詠唱をしないでしているのと同じ様な感覚なのだとか。
そんな、普通なら弓の引きを保つ事にもの凄い膂力が必要なロングボウだが、モニカに掛かればコンポジットボウの様な短くて軽くて取り回しがし易い弓の如く扱う事が出来、かつ放った矢は精霊の加護付きなので、最大飛距離一キロ、有効射程五百から七百メートル程、しかもある程度ロングボウでも連射が可能ととんでもない娘なのだ、モニカと言うのは。

弓?ミドルレンジとかでチマチマやってる雑魚やろ?とか思ったキミ!!

違うからな・・・
モニカの弓の腕とその威力などを目の当たりにしたらそんな事一ミリ足りとも口からは出て来ないと断言出来る。

かなり距離の有るオークの頭とか平気で吹き飛ばすし・・・

今回、事前の情報収集から魔界内は迷路の様に入り組んでいる事は分かっていたので、モニカは普段使っているロングボウでは無く、取り回しのし易いコンポジットボウを装備している。
基本的には通路内と言う事を考えれば、飛距離、連射性、速射性、勿論威力に関しても申し分は無い。
なのに特段連携の確認が要らないと言った事に疑問を浮かべるが―――

だからこそいざと言う時の為に今から色々と試しておくべきじゃ・・・

「―――こんな雑魚相手に矢なんて勿体無いですッ、矢だってタダじゃないんですからね!?毎回購入して財布からお金が消えていくこっちの身にもなって下さいよッ」

確かに矢は上手く射れば戦闘後回収して何回か使う事は出来る。
それも確りと整備等をすればだが、それでも何回か使えばもう使い物にならなくなるので、金は飛んで行くと言えば飛んで・・・いく・・・・・・うん?

「何自腹で毎回矢を買ってるみたいに言ってんだ!全部毎回ッ共同の金から捻出してるじゃねぇか!」

基本的に仲間が必要な物は全て部屋に無造作に置いてある大袋に入った金貨、銀貨を使っている。
何か欲しい物が有ればそこから無造作に金貨を掴んで取り出し、皆遠慮無く使っているので、当然モニカのそう言った消耗品の類もその共同資金から出しているのだ。

「みみっちい男ですね・・・」

俺の叫びにモニカがボソリとそんな事を口にするが―――

「テメェッ、聞こえてるぞ!」

「あー、やだやだ。甲斐性のない男程醜いものはありませんよ?」

「この野郎・・・」

最近どうにもモニカが出会った当初のキャラとは全然違くなった様に感じる事がある。
最初の印象的には超絶美女のお淑やかなお姉さんキャラだった筈が、今ではユーリーを変態的に愛している面倒臭がり屋の残念な変態と印象に変わっている。

まぁ、素を出してくれているって事なのかな

そう思ったりするのだが―――

ソレとコレとは別の話だッ!!

まだ皆、出発準備をしていて小部屋から出ていないが、モニカは特に何も無い様で、「全く、もっとちゃんとして下さいよねッ」とか理不尽な事をブツブツと言いながら、小部屋の入口から通路に早々に出ようとしていたので俺は一言文句でも言おうとモニカを追い掛けた。

「暖ッ!!!」

一歩踏み出した瞬間、小部屋の真ん中辺りに居たアリシエーゼが俺の名を叫ぶ。

「――ッ!?」

刹那、俺は鼻を鳴らして同時にモニカへと一瞬で肉薄し、入口を出ようとしていたモニカの腕を強引に引っ張り抱き寄せる。

「きゃッ!?」

突然の事にモニカは短い悲鳴を上げるが、俺は構わずに抱き寄せたモニカを片手で抱える様にしながら後ろへと飛び退いた。

「な、何だ!?」

「ハル様ッ!?」

アリシエーゼの突然の叫びに反応した俺を見て、ドエインもマサムネも皆動揺し、同時に警戒体制を取る。
俺もモニカと仲間の傍まで寄りながら、あのアリシエーゼの一言だけで良く反応出来たなと自分を褒めつつ小部屋の出入口を睨む。

「あー、先客がいるのかー」

そんな言葉を発しつつ、出入口から顔をヒョコリと覗かせる男を目にして俺は軽い衝撃を受ける。

あれ、此奴って・・・

男は顔を一旦引き、直ぐに姿を表して小部屋の入口に立つと、それに続いて三人その後ろから小部屋を見る様な形で顔を覗かせた。
男以外は全員女で、一人は金属製のプレートメイルを装備していて背中に大剣を背負った戦士風の女、もう一人は丈の短い外套を着込んでいて、手にはコンポジットボウを持つエルフの女、最後は神聖な雰囲気を纏い、聖職者が着る様な服に少し細めの両手杖を持つ僧侶風の女だった。

ホルスの大癒館で会ったハーレム勇者パーティじゃねぇか!?
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