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第6章:迷宮勇者と巨人王編
第243話:同類
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「始まったよ、これだから・・・」
「流石勇者様だなぁッ!お前達以外の命はどうだっていいってか!?」
「やっぱり噂通りのクズだな」
「そうだな、だからどこの傭兵団にも所属してないんだろ・・・」
おー、おー、すげぇ言われ様だな・・・
俺達は現在、十三層のボス部屋へと続く通路にある小部屋の一つに居る。
この通路は、小部屋が両サイドに多数並ぶ、小部屋通りなのだが、片側十程の小部屋が等間隔で並んでいてボス部屋への休息地としてはうってつけなので傭兵達が占拠していた。
各傭兵団が物資を置いたり何なりしており、大体の小部屋を埋めていて、基本的には二十四時間何処かしらのパーティが常駐している。
なので魔物に部屋を荒らされる事無く、前線基地を維持しているのだ。
俺達は十三層へと進むと変わらず先ずは迷宮を適当に周り前階層の魔物の変化等を体感し慣らしていった。
特段、十二層と魔物の強さ等は変わらなかったのだが、今まで見なかった種類の魔物と二度程出会う事が出来た。
「あのレイスって魔物、俺でも倒す事が出来たって事はさ、身体強化の魔法を纏っていれば倒せるって事だよな?」
十三層で初めて現れたレイスと言うアンデッドモンスターに付いて思い出しながらドエインに話し掛ける。
最初見た時は本当に人かと思ったのだが、丈の長い外套の様な物を羽織り、フードを目深に被ったその姿に騙されると痛い目を見るが、動きは人のそれでは無かった。
ユラユラと揺らいでいて、なんと言うかまるで幽霊の様な動きなのだ。
足音を立てずに忍び寄る様は不気味で、実際顔も怖い。
ゾンビみたいな顔だったなぁ・・・
後から聞いた話だが、レイスは実体が有るけど無いと言う正に曖昧な存在で、物理攻撃が粗効かない。
知らずに初見はビビって蹴りを喰らわそうとしたが、俺の蹴りが当たった瞬間、感覚としては何か雲や霧の塊を蹴った様な、そんな感覚でまったくノーダメージだったのだ。
だが、篤特製の手甲で障壁を展開して殴り付けると確りとした感触を感じる事が出来て、実際その攻撃でレイスを倒す事が出来たのだが、これは展開した障壁の魔力が干渉か何かしているのでは無いかと推察した訳だ。
つまり、身体強化で身体に魔力を纏わせても同じ結果になるかもなと思いドエインに聞いたのだが、俺の問い掛けにドエインは顔を顰める。
「旦那・・・そんな言葉今聞くか?」
「だって気になるじゃねぇか」
「あっちの方、止めた方がいいんじゃないか・・・?」
そう言ってドエインは先程から盛り上がる一団の方へと視線を向ける。
俺も釣られてそちらを見ると、複数の傭兵パーティと、例の勇者パーティが何やら揉めており、大分収集が付かなくなりつつある状況である事が分かった。
「嫌だよ、勝手にやらせておけよ。何で揉めてんのか分かんないけど」
勇者パーティのハーレム要因こと戦士ちゃんと僧侶ちゃんが、厳つい男達に食ってかかっているし、傭兵パーティの連中も、こんな可愛い女達に護られながらヘラヘラしている勇者くんに、嫉妬が多分に混じったやっかみや文句を、戦士ちゃんと僧侶ちゃんを飛び越して勇者くんに言っている。
「でもさー、もう何ヶ月もここ越えられて無い訳でしょー?だったら、そろそろ皆本気出しちゃってもいいじゃなーい」
ウェーイとか言い出しそうな勢いの勇者くんに、傭兵達は更にはヒートアップする。
「だからそれをテメェが言うなって言ってんだよ!」
「そうだッ、何だその作戦はよ!?って言うか作戦にすらなってねぇぞ!」
よく分からないが、ひょこり現れた勇者くんが、今まで散々頑張って十三層の攻略を行っていた奴らに何かとんでもない事を提案したのだと思ったが、ハッキリ言って関わりたく無いので、俺はそっと小部屋の外に出ようかと思っていると、左腕を突然引っ張られる感覚を感じてそちらに顔を向ける。
「何やってんだお前・・・」
見ると、モニカが俺の左腕にしがみついてブルブルと震えていた。
「た、助けて下さい・・・」
「だから何なんだよ?」
「コ、コレですッ」
俺の腕にしがみつきながらモニカはプルプルと震わせた左手の人差し指を俺の右側に向ける。
「あぁ?」
何故か怯えきったモニカは、「ひぃぃッ」と短い悲鳴まで上げているが、ちょっと密着具合が半端無い・・・
色々とけしからんモニカにそんなに密着されると変に意識してしまう等と思いながら、モニカの指指す方へと顔を向けた―――
「ひぃぃぃッ!?」
その瞬間、俺もモニカと同じく小さく悲鳴を上げてしまったのだが、俺の右側、本当に触れるスレスレに、勇者くんパーティのエルフちゃんが居るじゃありませんか。
もうかなり近い。ここまで接近されて何故気付かなかったのかと思うと同時に、何で俺越しにモニカを見ているのか理解出来なかった。
このエルフちゃん、俺にめちゃくちゃ近いのに、俺を一切見ずにモニカをガン見している。
ただ、何も言わずにモニカを見ているだけなのだが、そう言えばこの前ステーキの件があった時もモニカと見つめ合っていたなと思い出す。
「な、なんだよお前ッ!?」
「・・・・・・」
俺は動揺しながらエルフちゃんに言うが、当のエルフちゃんは俺の言葉が耳に入っていないのか、一切身動ぎせずにモニカを見詰めるだけだった。
「え、何コイツ・・・?」
「わ、分かりませんよッ、この前からずっと私を見てくるんです!何も言わずに!」
俺は思わずモニカに聞いてしまったが、モニカも訳が分からないと言った様子で目に涙を浮かべながら俺に訴えて来る。
モニカ曰く、この前からずっと自分を無言で見詰めて来ているらしく、何を聞いても答えてくれず、今も自分を見るや否やもの凄い勢いで近付いて来てこの調子らしい。
え、マジで怖い・・・
何なの、この子・・・
ただ、観察してみると何も言わず、特に危害を加えるつもりでも無さそうなので実害無いから無視してろと言うと―――
「当事者じゃないからってあんまりですッ、ずっと護ってくれるって言ってたじゃないですかぁ!」
「んな事言ってねぇよ!?」
と、泣き出したのだ。
とりあえずこのままだと面倒臭いので、エルフちゃんとどうにかコミュニケーションを取るしか無いかと再度エルフちゃんを観察してみる。
俺が身体でモニカを隠すと、エルフちゃんもそれに合わせてモニカが見える位置に顔だけ動かす。
更に見えない様にすると、スッと音も無く移動してモニカが見える位置に移動したりする。勿論、無言で、俺の方を見ようともせず。
「・・・お前、何なんだ?モニカに用でもあるのか?」
「・・・・・・」
「用があるなら話せばいいだろ。黙ってちゃ分からんぞ?」
「・・・・・・」
「おい・・・」
「・・・・・・」
「・・・ぺちゃんこ娘」
「・・・・・・」
む、これでも反応を示さないか
このエルフちゃん、モニカに比べると色々と控えめだ。何がとは言わないが。
透き通る様な金髪のロングヘアが見る者全てを魅了するが、もしかしたら俺の思い描くエルフ像はこうだったかもと思わせる。
モニカが例外で規格外なだけか・・・
そんな事を考えつつ、問い掛けに一切反応を示さないエルフちゃんに困り果てる。
「どーすんだよ、コレ・・・」
「わ、私だってどうにかして欲しいですよぉ」
未だに俺の腕にしがみつき震えるモニカを尻目に色々と考えるが、会話と言うコミュニケーションが取れないとそもそも何も始まらない。
「あッ、ラルファくんが殺されそうだ!」
そう言って、ビシッと勇者くんを指差しても全く反応を示さなかった。
これでダメなら無理だろと諦め掛けたその時―――
「何やっとるんじゃ、お主達は・・・」
呆れた表情をしながらこちらに近付いて来たアリシエーゼに俺は「助かった!神様!」と状況を説明する。
「―――そんな訳で、このエルフちゃんちょっと頭がイカレてて怖いのよ」
「何言っとるんじゃお主は?」
俺の説明に更には呆れ顔をするアリシエーゼ。
「え?」
「さっきからブツブツ何か言っとるでは無いか」
「「えッ!?」」
俺とモニカは驚いて顔を見合わせる。そして直ぐにエルフちゃんに顔を向けるが―――
「いやッ、何も話して無いだろ!?」
「無言ですよ!」
「たぶん、常人には聞き取れんくらいの声量じゃ。妾もちゃんと聞こうとしなければ分からんッ」
えぇ・・・
アリシエーゼの言葉に半信半疑になりながら、耳を澄ませてみるが、全く分からなかった。
「全然聞こえねぇよ!?ってか、口も動いてないじゃねぇか!」
「わ、私も全く聞こえませんよ!?」
「もっと集中せえ!エルフなんぞよりも余っ程お主の方が目も耳も良いじゃろ!」
え、そんな超吸血眼力と聴力を使わないとダメなの・・・
訳分からんと思いつつも、今迄戦闘時でもそんなに集中して見たり聞いたりした事無い位の集中力でエルフちゃんの口元を見て耳を傾ける。
「―――あッ、本当だ!何か言ってる!?」
「えッ、本当ですか!?私聞こえないですよ!?」
「だから言ったじゃろ・・・」
アリシエーゼの言う通り、本当に極限まで集中すると、口元が微かに動いており、何かを呟いているのが分かった。
「な、何て言ってるんですか!?」
自分には聞こえないので、モニカは俺に聞き取って教えろとせがむ。
仕方無く、もう一度集中して未だにモニカをガン見するエルフちゃんの口元を見て、周囲の音が聞こえなくなるまで集中した。
「えーと、なになに―――狡い?あんなに可愛い弟を独り占めして?」
「ぇ・・・」
俺が聞こえた事をそのまま口にすると、モニカは固まる。
弟ってユーリーの事だろうかと思いながら更に聞き取ろうと俺は再びエルフちゃんを見る。
「―――あんなの女の子の格好させたら堪らないじゃないですか?それを毎日見れるなんてこのモニカとから言う売女・・・え、売女!?狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い!確かユーリーちゃんって言ってましたね?私もユーリーちゃんを愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でておか―――ッて!おいッッ」
危うく、精神汚染されそうになりそうな所を既のところで回避し、もう何からツッコんで良いのか分からなくなるエルフちゃんの囁きを中断して遂々脳天にチョップをお見舞する。
それでも一切の反応を示さずにモニカをガン見するエルフちゃんに俺を含め、モニカもアリシエーゼも固まった。
非常に恐ろしくなって、俺は思わずユーリーの無事を確認する。
俺とは少し離れた場所でイリアと手を繋いで勇者くん一向と傭兵達のやり取りを見詰めているユーリーを確認してホッと息を吐く。
「・・・とりあえず、お前の変態仲間じゃねぇか」
「何でですかッッ」
何でも何もねぇよ・・・
「流石勇者様だなぁッ!お前達以外の命はどうだっていいってか!?」
「やっぱり噂通りのクズだな」
「そうだな、だからどこの傭兵団にも所属してないんだろ・・・」
おー、おー、すげぇ言われ様だな・・・
俺達は現在、十三層のボス部屋へと続く通路にある小部屋の一つに居る。
この通路は、小部屋が両サイドに多数並ぶ、小部屋通りなのだが、片側十程の小部屋が等間隔で並んでいてボス部屋への休息地としてはうってつけなので傭兵達が占拠していた。
各傭兵団が物資を置いたり何なりしており、大体の小部屋を埋めていて、基本的には二十四時間何処かしらのパーティが常駐している。
なので魔物に部屋を荒らされる事無く、前線基地を維持しているのだ。
俺達は十三層へと進むと変わらず先ずは迷宮を適当に周り前階層の魔物の変化等を体感し慣らしていった。
特段、十二層と魔物の強さ等は変わらなかったのだが、今まで見なかった種類の魔物と二度程出会う事が出来た。
「あのレイスって魔物、俺でも倒す事が出来たって事はさ、身体強化の魔法を纏っていれば倒せるって事だよな?」
十三層で初めて現れたレイスと言うアンデッドモンスターに付いて思い出しながらドエインに話し掛ける。
最初見た時は本当に人かと思ったのだが、丈の長い外套の様な物を羽織り、フードを目深に被ったその姿に騙されると痛い目を見るが、動きは人のそれでは無かった。
ユラユラと揺らいでいて、なんと言うかまるで幽霊の様な動きなのだ。
足音を立てずに忍び寄る様は不気味で、実際顔も怖い。
ゾンビみたいな顔だったなぁ・・・
後から聞いた話だが、レイスは実体が有るけど無いと言う正に曖昧な存在で、物理攻撃が粗効かない。
知らずに初見はビビって蹴りを喰らわそうとしたが、俺の蹴りが当たった瞬間、感覚としては何か雲や霧の塊を蹴った様な、そんな感覚でまったくノーダメージだったのだ。
だが、篤特製の手甲で障壁を展開して殴り付けると確りとした感触を感じる事が出来て、実際その攻撃でレイスを倒す事が出来たのだが、これは展開した障壁の魔力が干渉か何かしているのでは無いかと推察した訳だ。
つまり、身体強化で身体に魔力を纏わせても同じ結果になるかもなと思いドエインに聞いたのだが、俺の問い掛けにドエインは顔を顰める。
「旦那・・・そんな言葉今聞くか?」
「だって気になるじゃねぇか」
「あっちの方、止めた方がいいんじゃないか・・・?」
そう言ってドエインは先程から盛り上がる一団の方へと視線を向ける。
俺も釣られてそちらを見ると、複数の傭兵パーティと、例の勇者パーティが何やら揉めており、大分収集が付かなくなりつつある状況である事が分かった。
「嫌だよ、勝手にやらせておけよ。何で揉めてんのか分かんないけど」
勇者パーティのハーレム要因こと戦士ちゃんと僧侶ちゃんが、厳つい男達に食ってかかっているし、傭兵パーティの連中も、こんな可愛い女達に護られながらヘラヘラしている勇者くんに、嫉妬が多分に混じったやっかみや文句を、戦士ちゃんと僧侶ちゃんを飛び越して勇者くんに言っている。
「でもさー、もう何ヶ月もここ越えられて無い訳でしょー?だったら、そろそろ皆本気出しちゃってもいいじゃなーい」
ウェーイとか言い出しそうな勢いの勇者くんに、傭兵達は更にはヒートアップする。
「だからそれをテメェが言うなって言ってんだよ!」
「そうだッ、何だその作戦はよ!?って言うか作戦にすらなってねぇぞ!」
よく分からないが、ひょこり現れた勇者くんが、今まで散々頑張って十三層の攻略を行っていた奴らに何かとんでもない事を提案したのだと思ったが、ハッキリ言って関わりたく無いので、俺はそっと小部屋の外に出ようかと思っていると、左腕を突然引っ張られる感覚を感じてそちらに顔を向ける。
「何やってんだお前・・・」
見ると、モニカが俺の左腕にしがみついてブルブルと震えていた。
「た、助けて下さい・・・」
「だから何なんだよ?」
「コ、コレですッ」
俺の腕にしがみつきながらモニカはプルプルと震わせた左手の人差し指を俺の右側に向ける。
「あぁ?」
何故か怯えきったモニカは、「ひぃぃッ」と短い悲鳴まで上げているが、ちょっと密着具合が半端無い・・・
色々とけしからんモニカにそんなに密着されると変に意識してしまう等と思いながら、モニカの指指す方へと顔を向けた―――
「ひぃぃぃッ!?」
その瞬間、俺もモニカと同じく小さく悲鳴を上げてしまったのだが、俺の右側、本当に触れるスレスレに、勇者くんパーティのエルフちゃんが居るじゃありませんか。
もうかなり近い。ここまで接近されて何故気付かなかったのかと思うと同時に、何で俺越しにモニカを見ているのか理解出来なかった。
このエルフちゃん、俺にめちゃくちゃ近いのに、俺を一切見ずにモニカをガン見している。
ただ、何も言わずにモニカを見ているだけなのだが、そう言えばこの前ステーキの件があった時もモニカと見つめ合っていたなと思い出す。
「な、なんだよお前ッ!?」
「・・・・・・」
俺は動揺しながらエルフちゃんに言うが、当のエルフちゃんは俺の言葉が耳に入っていないのか、一切身動ぎせずにモニカを見詰めるだけだった。
「え、何コイツ・・・?」
「わ、分かりませんよッ、この前からずっと私を見てくるんです!何も言わずに!」
俺は思わずモニカに聞いてしまったが、モニカも訳が分からないと言った様子で目に涙を浮かべながら俺に訴えて来る。
モニカ曰く、この前からずっと自分を無言で見詰めて来ているらしく、何を聞いても答えてくれず、今も自分を見るや否やもの凄い勢いで近付いて来てこの調子らしい。
え、マジで怖い・・・
何なの、この子・・・
ただ、観察してみると何も言わず、特に危害を加えるつもりでも無さそうなので実害無いから無視してろと言うと―――
「当事者じゃないからってあんまりですッ、ずっと護ってくれるって言ってたじゃないですかぁ!」
「んな事言ってねぇよ!?」
と、泣き出したのだ。
とりあえずこのままだと面倒臭いので、エルフちゃんとどうにかコミュニケーションを取るしか無いかと再度エルフちゃんを観察してみる。
俺が身体でモニカを隠すと、エルフちゃんもそれに合わせてモニカが見える位置に顔だけ動かす。
更に見えない様にすると、スッと音も無く移動してモニカが見える位置に移動したりする。勿論、無言で、俺の方を見ようともせず。
「・・・お前、何なんだ?モニカに用でもあるのか?」
「・・・・・・」
「用があるなら話せばいいだろ。黙ってちゃ分からんぞ?」
「・・・・・・」
「おい・・・」
「・・・・・・」
「・・・ぺちゃんこ娘」
「・・・・・・」
む、これでも反応を示さないか
このエルフちゃん、モニカに比べると色々と控えめだ。何がとは言わないが。
透き通る様な金髪のロングヘアが見る者全てを魅了するが、もしかしたら俺の思い描くエルフ像はこうだったかもと思わせる。
モニカが例外で規格外なだけか・・・
そんな事を考えつつ、問い掛けに一切反応を示さないエルフちゃんに困り果てる。
「どーすんだよ、コレ・・・」
「わ、私だってどうにかして欲しいですよぉ」
未だに俺の腕にしがみつき震えるモニカを尻目に色々と考えるが、会話と言うコミュニケーションが取れないとそもそも何も始まらない。
「あッ、ラルファくんが殺されそうだ!」
そう言って、ビシッと勇者くんを指差しても全く反応を示さなかった。
これでダメなら無理だろと諦め掛けたその時―――
「何やっとるんじゃ、お主達は・・・」
呆れた表情をしながらこちらに近付いて来たアリシエーゼに俺は「助かった!神様!」と状況を説明する。
「―――そんな訳で、このエルフちゃんちょっと頭がイカレてて怖いのよ」
「何言っとるんじゃお主は?」
俺の説明に更には呆れ顔をするアリシエーゼ。
「え?」
「さっきからブツブツ何か言っとるでは無いか」
「「えッ!?」」
俺とモニカは驚いて顔を見合わせる。そして直ぐにエルフちゃんに顔を向けるが―――
「いやッ、何も話して無いだろ!?」
「無言ですよ!」
「たぶん、常人には聞き取れんくらいの声量じゃ。妾もちゃんと聞こうとしなければ分からんッ」
えぇ・・・
アリシエーゼの言葉に半信半疑になりながら、耳を澄ませてみるが、全く分からなかった。
「全然聞こえねぇよ!?ってか、口も動いてないじゃねぇか!」
「わ、私も全く聞こえませんよ!?」
「もっと集中せえ!エルフなんぞよりも余っ程お主の方が目も耳も良いじゃろ!」
え、そんな超吸血眼力と聴力を使わないとダメなの・・・
訳分からんと思いつつも、今迄戦闘時でもそんなに集中して見たり聞いたりした事無い位の集中力でエルフちゃんの口元を見て耳を傾ける。
「―――あッ、本当だ!何か言ってる!?」
「えッ、本当ですか!?私聞こえないですよ!?」
「だから言ったじゃろ・・・」
アリシエーゼの言う通り、本当に極限まで集中すると、口元が微かに動いており、何かを呟いているのが分かった。
「な、何て言ってるんですか!?」
自分には聞こえないので、モニカは俺に聞き取って教えろとせがむ。
仕方無く、もう一度集中して未だにモニカをガン見するエルフちゃんの口元を見て、周囲の音が聞こえなくなるまで集中した。
「えーと、なになに―――狡い?あんなに可愛い弟を独り占めして?」
「ぇ・・・」
俺が聞こえた事をそのまま口にすると、モニカは固まる。
弟ってユーリーの事だろうかと思いながら更に聞き取ろうと俺は再びエルフちゃんを見る。
「―――あんなの女の子の格好させたら堪らないじゃないですか?それを毎日見れるなんてこのモニカとから言う売女・・・え、売女!?狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い狡い!確かユーリーちゃんって言ってましたね?私もユーリーちゃんを愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でて愛でておか―――ッて!おいッッ」
危うく、精神汚染されそうになりそうな所を既のところで回避し、もう何からツッコんで良いのか分からなくなるエルフちゃんの囁きを中断して遂々脳天にチョップをお見舞する。
それでも一切の反応を示さずにモニカをガン見するエルフちゃんに俺を含め、モニカもアリシエーゼも固まった。
非常に恐ろしくなって、俺は思わずユーリーの無事を確認する。
俺とは少し離れた場所でイリアと手を繋いで勇者くん一向と傭兵達のやり取りを見詰めているユーリーを確認してホッと息を吐く。
「・・・とりあえず、お前の変態仲間じゃねぇか」
「何でですかッッ」
何でも何もねぇよ・・・
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