異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第6章:迷宮勇者と巨人王編

第250話::自動ロボ

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「テメェ何なんだよッッ」

 俺は巨人に向かい吠えた。自分の中に湧き上がる恐怖がおかしな方向に向かい、憤りとなって吹き出ているのを自分でも感じていたが止められなかった。

「・・・・・・?」

 足元で小さき者がキャンキャンと吠える様子を巨人は不思議そうに見下ろし首を傾げる。

「言葉分かるんだろうがッ、テメェは!」

 この巨人は、人語を理解したいたり、俺の能力を知っている或いは危険なものだと本能的に理解している節がある。
 ホルスの巨人は知能は低くただ暴れるだけの存在であった様に思うが、この巨人は違う。

「・・・・・・ニンッ―――」

「あぁ!?」

「・・・ニンッ、ゲンッ」

 ッ!?

「お前、喋れるのか・・・?」

 片言だが、「人間」と言った様な気がする。
 言葉を理解しているのなら、そりゃ喋れるのだろうが俺に衝撃だった。
 俺は足元から巨人を睨み続ける。

「俺はッ、人間だ!お前は何だ!?」

 自分で言っていてどんな質問だとも思った。
 何だと言われても答え様が無いのかも知れない。
 自分が何者なのか、どんな生物なのか、起源は、種族の歴史は。
 この巨人にそんな知識が―――知識があってもそれを人語で答えるだけの知能や知識がこの巨人にあるのか疑わしいし、そんな事を俺が問われても返答に困るなと思いつつも聞かなければならなかった。

「・・・ニンッ、ゲンッ、ハッ、タイコノッ、ムカッシッ、ワレワッレトッ、ドモニイッ、タタカッタ」

 我々と共に戦った?
 共にと言う事はこの巨人の種族達と共に何かと戦ったと言う事か?

 自然と向き合う形で俺と巨人は奇跡的に会話を行う。
 余りにも違う体格差が、傍から見ればまるで人とチワワが会話している様な様相なのだろうが、俺は夢中になった。
 こんな未知の生物と会話が、コミュニケーションが成り立つ事に興奮していたし、訳の分からない状況に混乱も同時にしていたのだと思う。
 だが俺はそれでも心の何処かで冷静な部分もあり、その冷静な部分が現在の状況を見極める。

 仲間達は―――もう大丈夫そうだ
 ラルファは―――まだか

 次いでにアリシエーゼも確認するが、何か詠唱が必要な魔法を発動する動作などはしていない。
 それをすればこの巨人は気付くし、また此方からの攻撃が効かない時間稼ぎが再開されるだけだ。
 今こうして会話をしていると言う事は、時間稼ぎ自体は出来ているし、敢えてリスクを負う必要は無いと判断したのだろう。

 俺はこの状況を視線を向ける事無く、視界に入ったものを情報として意識せずに処理を行う。
 視線を向けただけで巨人に気付かれる恐れがあるので敢えてそうしている。
 戦闘行為中でも行っているソレを行いつつ巨人の言葉を思い起こす。

 太古の昔ってどれくらい前だ?
 いや―――そんな時期はどうだっていい

「人間と一緒に昔に戦った事があるって言いたいんだな!?何と戦ってたんだ!?」

「アグマッ、コロスッ―――――――――ニンゲンッ、モッ、ゴロズゥゥァアアアアアアッッッ」

 まるで入れてはいけないスイッチを押されたかの様に巨人が突如吠える。
 吠えるなんてものでは無い。凄まじい慟哭が巨人から放たれ、それを真正面から受けただけで俺の身体はまるで後ろからもの凄い勢いで引っ張られるかの様に吹き飛ばされる。

「――グァッ!?」

 吹き飛ばされた勢いで転がり、頭を地面に打ち付けてしまった為、一瞬意識が飛ぶ。
 受け身も取れず何の為に嶋崎流を学んで来たのだと自分自身に嫌気が差しながら俺は直ぐに立ち上がる。
 そこでハッとして巨人を見ると、其奴はその大きな身体を丸め、まるでショルダータックルの前動作の様な格好をしていた。

「暖ッ!!避けろッ!!!」

 何故かは分からないが、巨人が纏った甲冑が青く輝いており、それに目を顰める。
 遠くでアリシエーゼの避けろと言う叫びが聞こえて来て、「何だまた、のじゃを付け忘れたのか」と思うと同時に頭の隅で煩い程のアラームが聞こえており、それに俺は無条件で視線を横にやり強制的な影移動の態勢に移行していた。

 俺の能力はかなり万能だと思うし、大抵の人間がそれを知ればチートだと騒ぐだろうと理解している。
 が、別に無敵と言う訳では無い。弱点など探せばいくらでもあると自分自身思っているし、常に能力の向上は考え、レベルアップを目指して一人で試行錯誤したりしている。
 その中で俺は特に意識の伝達の速度と言う観点を重視しているのだが、非常時に咄嗟に行える行動、しかも俺の能力を使ってと考えた時に思い付き、それを円滑に滞りなくどんな状況下でも瞬時に発動出来る様にしていた努力が、今この瞬間に報われたのだと後になって気付く。

 顔を向けると巨人のタックルを躱して多々良を踏むその後ろ姿を眺めている事に漸く気付く頃には俺はに巨人に向かい影移動を発動していた。

 ちょッ!?待――――

 自分の意思に反して、巨人に追撃を掛ける自分自身を止めに入った時には既に巨人の首筋あたりまで移動し終えた後で、自らの右拳を全力で叩き付けていた。

 幾ら鎧が硬くとも、打撃の衝撃自体は生身に響くのか、俺の攻撃を後ろから受けた巨人は片膝を着いた。

 俺が行ったこの動きは所謂、自分自身の自動運転だ。
 自分で危険を察知するよりももっと前、目に情報が映った時点でその情報の解析を行い、その情報から導き出される答えが自分の身に危険が迫ってると判断する前に、勝手に最適行動をする様に自分の脳を弄る。
 言葉にするとそれまでだが、それを瞬きを行うよりも刹那の時間に自らの身体を、能力自体に預けるその行為は、正しく自律制御型のロボットだ。
 意識する前に身体が勝手に全力で動くので、かなり身体に負担が掛かる行為であり、出来ればあまり使いたくは無いので普段は意識して使わない様にしている。

 まぁ、要は全自動キルモードな訳だが・・・

 巨人に一撃を喰らわせた後にそのキルモードを解除してすぐ様その場を離れる。
 片膝を着いていた巨人はゆっくりと立ち上がり、俺を見付けると兜で顔面も覆っている為表情は確認出来ないが、明らかな憤怒とも取れる雰囲気を身体中から醸し出していた。

 うわー、怒ってるよー
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