異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第6章:迷宮勇者と巨人王編

第253話:侵入

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「お前らッ、すぐ下がれ!!」

 アリシエーゼの一撃で地に沈んだ巨人を目で捉えつつ、後ろのアギリーとラルファ達に叫ぶ。

「――む、無理です!ラルファ様は既に入神状態に入っています!!」

 入神?
 トランス状態って事か?

 アギリーの更に後ろにラルファと共に控える僧侶ちゃんのリルカが目に涙を浮かべつつそんな事をを言う。
 ラルファを確認するが、俺の声にも一連の巨人強襲に関しても一切動じず―――と言うか、まるで気付いて居らず今もまだ目を瞑り、只管祈りを捧げていた。

 誰に何のお願いをしてるか知らねぇが、コレでお前がやられちまったら何の意味もねぇじゃねぇか!

 俺は心の中でそう叫びながら舌を弾く。

「じゃあ、一体何時まで掛かんだよ!?」

「わ、私に言われても分かりませんよッ、それよりこの巨人をなんとかして下さい!」

「あぁ?」

 何とかってどう言う事だと、俺は若干イラ付きながらも話の続きを促す。
 その間も既に巨人は動き出しており、腕の力で上半身を起こそうとしていた。

「ラルファ様は今、集中していて動けないんですッ、こよ巨人を何処かにやるなりして下さいって言ってるんですよ!こんな近くに居られたんじゃ、ラルファ様も集中出来ません!」

 何でこんなにも偉そうなんだと思いつつも、ラルファをもう一度見るが、やはり目を瞑り集中していてこのやり取りすら耳に入っていない。
 だがそもそも約束が違うのだ。

「お前らがそもそも五分だけ時間を稼げって言うからこっちは必死こいてやってんだぞ?五分なんてとっくに過ぎてんだろうがッ」

「こ、細かい時間までは知りませんよッ、一々そんな事言ってないで早くどうにかして下さい!」

 この野郎・・・

「そんな事はどうでも良いじゃろ!どうするんじゃ!?」

 俺とリルカの不毛なやり取りに業を煮やしてアリシエーゼの一喝が飛ぶ。
 確かに今はこんな言い争いをしている場合じゃないんだが、どうにも納得がいかない。

「・・・・・・撤退する」

「「えッ!?」」

 俺の撤退判断にアギリーとリルカは驚き目を見開く。
 ラルファが何時までこの状態なのか、それまで俺とアリシエーゼでこの巨人を抑え込む事をは出来るのか。そう言った事を加味して考えた結果が撤退なのだが、別に悪い判断では無い気がする。
 十三層のフロアボスであるこの巨人についてもある程度分かったし、ここで撤退して準備を整えて再挑戦と言うのは寧ろ最善策とも言えると思った。

「では、とっととずらかるとするかの」

 アリシエーゼは俺の判断を聞くや否や踵を返して出入口へと歩いて行く。

「ちょ、ちょっと!?何言ってるんですか!?」

「まだラルファくんが覚醒して無いだろ!?」

 そんなの知らねぇよ・・・

「担いで行けよ、何言ってんだ」

「そんなッ、今ラルファくんは動けません!もうすぐなんです!」

「だからあとどれ位だって言ってんだよ」

「そ、それは・・・」

 結局、後どのくらいでラルファのその覚醒とやらが成されるのか分からない以上、それを頼りに作戦を立てる事など出来やしない。
 巨人はもう立ち上がる寸前だ。片膝を付いて頭を降っている巨人を見て俺は決断する。

「時間切れだ。次のチャンスを待つ」

「ちょっとッ――――」

 俺はそう言ってアギリーが何か反論しようとしているのを影移動を使って振り切る。
 影移動の先は巨人の頭上。移動から落下へと瞬時に切り替わる中、俺は落下しながら右腕を振り上げ叫ぶ。

「もういっぺん寝てろやッッ!!」

 今まで、全力で巨人の相手をしてなかったかと言われれば、そんな事は無い。していたと答える。
 が、その全力とはやはり身体が壊れないギリギリの限界を定めての全力だった。
 フェイクスを喰らい、身体が変容し強靭な肉体を手に入れようとやはり俺自身は身体強化も魔力障壁も使用出来ない為、どうしても肉体自体の限界は存在する。
 なので、今迄はその身体的限界を超えない範囲で戦っていた訳だが、そんなものではこの巨人の鎧に傷一つ付ける事は出来なかった。
 それを踏まえてと言う事もあるが、今、この瞬間はそんな肉体的限界を突破し、篤の作り出した手甲へ最大限、ありったけの想いを込める。

 落下速度も合間り、俺の渾身の一撃が巨人の脳天へと突き刺さる。
 バギンッッと凄まじい衝突音と共に巨人の頭部が垂直に地面へと落ちる。
 叫び声を上げる暇も無く巨人が再び地にめり込むのを確認してラルファの前へと移動した。

「「・・・・・・」」

 アギリーとリルカは目の前に現れた俺の右腕を凝視して口を閉じる。
 本当に全力で後先考えずに殴り付けた為、俺の右腕は肩口から圧力と衝撃で吹き飛んでいた。
 殴り付け、右腕が吹き飛ぶその瞬間に俺は自身の脳を操作し、痛み等の信号はカットしているので今の所痛みで動けなくなると言う事は無いのだが、右腕が吹き飛んだと同時に右手に装着した手甲も一緒に吹き飛んで何処かへ行きそうだったので咄嗟に左手で手甲だけ掴んでラルファ達の前へと移動した。
 なので、右腕を無くし、装備していた手甲を左手で持つ俺を見て、二人は満身創痍だと思ったのかも知れない。

「さっさと行くぞ」

「・・・ぇ、あ、いや、お前その腕―――」

「・・・・・・」

 肩口から血が吹き出している俺がその事を気にする素振りも見せずにそんな事を言ったのでアギリーは混乱しながら、俺の右腕があった位置を指差し狼狽える。

「ンなもんすぐ治る」

 俺はそれだけ言うとラルファの前へ移動してまだ祈りの体勢のまま動いていない事を確認する。

 マジで此奴使えなぇな・・・

 そんな事を思いながら俺は右脚で目を瞑るラルファに前蹴りをお見舞いする。

「なッ!?」

「何をするんですかッ!?」

 俺の前蹴りを喰らいラルファは受け身も取る事なく吹き飛ぶが、それを見てアギリーとリルカが叫ぶ。
 二人ともラルファに駆け寄り立たせようとするが、ラルファの目は閉じられたままで、身体は力無くダラりとしておりなかなか二人掛りでも起こせそうに無かった。

 これでも目を覚まさないのかよ

「早く連れてくぞ」

 俺はラルファと共に地面に座り込む二人を見下ろしながらそう行って出入口に向かう。
 その際に巨人をチラりと見るともう起き上がりそうだったので舌を弾く。

「チッ、マジでモタモタしてっと置いてくぞ」

「お、お前ッ、なんて事するんだッ―――ぇ?」

「そうですッ、ラルファ様を今動かすなど正気です―――か・・・?」

 ラルファを引き起こそうと必死になりながらも俺に噛み付いてくるアギリーとリルカは俺の喪失していた筈の右腕が既に修復されて元通りになっている事に目を見開き言葉を紡げ無くなった。

「だから、直ぐに治るって言っただろ」

「「・・・・・・」」

 左手に持っていた手甲を右腕に装着し直しなかまら俺はため息混じりにそう言うと、目の端にラルファの神造遺物アーティファクトを捉えた。

 これも仕方無いから持って行ってやるか・・・

 再び大きくため息をつきながら俺は再度踵を返して地面に突き刺さる長剣の前に立つ。

「お前らはラルファをとりあえず連れ出せ。コレは俺が持ってやる―――」

「ば、馬鹿ッ!!触るな!!!」

「駄目よッ!!!」

「―――え?」

 顔だけ二人に振り返りながら長剣の柄に手をかけるのと、二人が叫ぶのはほぼ同時だった。
 二人の叫びが耳に届いた時、長剣の柄を握った左手腕が一瞬でした。

「ッ!?」

 ジュッと短い音と共に左腕が消失し、肉の焼けた匂いが鼻腔を擽る。
 と同時に俺の脳内でけたたましいアラームが鳴り響く。
 其れは俺の身体に危険な異物が侵入した事を示していた。
 一瞬で焼け落ちた左腕の肩口辺りから急速に何かが侵入してくるのを感知する。

「ア、アリシエーゼッッッ」

 その侵入してくる何かに対し俺の脳が急速に防壁を展開し対処しようとしているのを俺は何故か感じ取っていた。
 恐らく、俺の意識外で常に待機状態となっていた緊急時のプログラム、キルモードと同じ対処プログラムが発動したのだ。
 それを持って瞬時に異物を排除、または対抗しようと脳内で電気信号や脳内物質が目まぐるしくやり取りを行う中で俺の本来の意識が、まだ俺が肩口で抑えている間に患部を切り落とせとアリシエーゼを呼んだ。

 俺の叫びよりも前にアリシエーゼは俺の異変に気付いていた様で、アリシエーゼの名を呼び終えると同時に幼女未満少女以下の相棒は俺の懐に飛び込んで来ていた。

「全く、世話を焼かせおって」

 そんな言葉がアリシエーゼの口から出たと認識した時には既にアリシエーゼの右手が俺の心臓付近に当てられていた。

 その刹那、激しい閃光が目を焼く。

 肩口辺りを吹き飛ばしてくれたのだと思ったが、俺はそれ以上の事は考えられずに意識が途切れるのを認識した。

 心臓は吹き飛ばさないで欲しかった・・・かな・・・
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