異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第273話:主人

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それは余りにも唐突だった。

「その周りのゴミ達は誰だ、お前の奴隷か?」

「・・・は?いや、って言うかお前が誰だよ」

「???」

今目の前にいる、一見普通の―――いや、普通では無いのだが、それは置いておくとして顔や身体は普通の人間の女性に見えるこの女は、俺の元に来るや否や、開口一番に仲間達を見てそう言った。

「何惚けた顔してんだよ。いきなり現れて俺達の獲物を横取りした挙句、俺の仲間をゴミ扱いたぁ、どう言う了見だコラ」

「仲間・・・?」

未だに惚けている謎の女は俺の言葉に今度は首を傾げて更に惚けた表情をするのだが、そもそもこの女は何処から来たのだろうか?
俺達の状況はハッキリ言おう、最悪だった。
地上を目指し進んでいた俺達は元々居た十八層から十七層に上がり、割と早い段階で気付いた―――

『アレ?道変わってね・・・?』

あの時の衝撃は忘れない。
十四層からは未知の領域となる為地図等は無い。
なので俺達は探索ついでに簡易的なマッピングを行いながら進んでいたので、その地図は殆ど埋まって無いながらも上層と下層を繋ぐ階段の在り処は示されている。

十七層に上がり地図通りに進むも早々に地図との食い違いを発見するも、当初はマッピング間違えてたかな?程度であまり気にしなかった。
だがそんな思いも十六層と思われる階段に到着した時に覆される。

階層主が復活していたのだ。

十八層から十七層へと上がった際は特にそんな事は無かったのだが、十七層の迷宮通路が変わり、十六層の階層主も復活している。
その事実に只々困惑した。十七層から階段を上がると開け放っていた筈のボス部屋と階段を繋ぐ扉が閉まっていて違和感を覚えつつ俺が扉を開け放つと、目の前には大量のスケルトンと昨日十八層で戦った髑髏騎士が入り交じる大軍団がボス部屋に所狭しと立っていたのだ。

一瞬、自分の目が何を映し出しているのか分からず固まった。
ドアに手を掛け固まるが頭が混乱していて、後ろに控える仲間達を首だけ後ろに回し見た。
当然ながら仲間達も全員目を丸くして固まっていた。

結局その後、一斉に此方を振り向く骸骨共に恐怖を感じてソッと扉を閉じた。
直後に閉じた扉をガリガリと引っ掻く音や、ガンガンと激しく叩く音が響き渡るがダグラスやデス隊も手伝って扉を固く閉じて凌いだ。
その後一旦自分自身も仲間も落ち着かせ状況を整理する。
と言っても何故迷宮の通路が行きと違っているのか、一度倒した階層主は復活しないし、その階層主の部屋には階層主が居ようが居まいが関係なく魔物は入り込まないと言った常識を覆す様に、何故ボス部屋に魔物が大量にいるのか、そんなものは欠片も分からない。
分からないが地上に帰還する為には十六層のボス部屋に湧いていたその魔物を殲滅しなければ成らず、皆何が何だか分からない状態で結局はその場をやり切る事になるのだが、本当に意味が分からなかった。

十六層ボス部屋に居た百体以上の骨野郎共を皆、悪態を付きながら殲滅して行き、終わった頃には全員がクタクタになっていたのを思い出す。

結局今も何だかよく分からず迷宮を彷徨ってるけどな・・・

そうなのだ。何故の答えが出ず、だからと言ってその場で留まっていても議論していても答えは出ない。
なのでとりあえず進むしか無く、明らかに異常事態であるのだが早く地上に帰りたい、その一心で誰も文句も言わずに脚を身体を動かし続けていた。
十六層のボス部屋を出るとそこは十七層と全く変わらず事前にマッピングした地図が役に立たなくなっていた。
絶対におかしいとは思っているが、嫌でもホルスの事を思い出す。
だがホルスでは一晩中地鳴りの様な物が響いていて魔界の構造が変わっていた。
しかしここではそう言った事は感じないのだが、それがホルス以上に厄介だと思わざるを得なかった。
そして十六層も何とか上の階への階段を見付けるがここでも十五層のボス部屋へと繋がる扉が閉じられていた。
扉の奥からは咆哮が聞こえてくるし明らかに魔物か何かが居る事が分かったし、これで迷宮の構造と言うか通路が変化し、更に倒した筈の階層主が復活基、別のものへと置き換わり再度出現している事が確定と言っても良かった。

そして今に戻るのだが、ハッキリともう一度言っても良いだろうか・・・

え、マジで意味分かんねーんだけど・・・

何も分からない状況にイラついていた俺は、十五層のボス部屋を本気で蹴破って乗り込み、新たに出現していた新ボスである獅子の頭部、山羊の胴体、蛇の尾を持つまるっきりキマイラを視認するや否や飛び掛った。
因みに行きの十五層のボスはこの魔界で初お目見えとなった悪魔のアークデーモンだった。
三体で登場したのだが、特に語るべき点は無い。
俺とアリシエーゼで瞬殺だったからだ。
それはさて置き、俺が飛び掛って来た事を察知したキマイラが咆哮を上げ、獅子の頭部がその口から炎を吐き出そうとしていた正にその瞬間、何処からとも無く颯爽と現れた今この目の前に居る惚けた女が、横から獅子の頭部を殴り付けて破壊し、ヘビの尾を引き千切り、残った山羊の胴体を魔法なのか何なのか詠唱も行わずに手を触れて爆散させたのだ。

「だから惚けた顔してんじゃねぇよ。誰だよテメェは、脳天かち割るぞッ」

完全に魔界に、もっと言えばその魔界の管理者とも言うべき存在に踊らされている状況に我慢の限界を迎えつつあった俺が、そのやり場の無い怒りの矛先をキマイラに向けたにも関わらず横からその手段を奪われたのだ。
そうなると当然、怒りの矛先はこの女に向けるしか無い。

「何て口が悪いんだお前は。私のマスターならもっと知的で品のある言葉を選んで使え」

「あぁッ!?口が悪いのはお前の―――ん、マスター・・・?」

今度は俺が惚ける番だった。
謎の女から放たれたその言葉に思わず開いた口が塞がらなかった。

「お前は私のマスターだろう、確りしろ」

「いや、待て―――ちょっとマジで何言ってんだお前は」

ダメだ・・・
ちょっと展開に着いて行けない・・・

勿論それは仲間達もそうだった。
俺が突然キレて扉を蹴り破り一人でボス部屋に突入して行った時から完全に置いてけぼり状態となっていたが、それに加えて謎の女が現れキマイラを殺し、更には俺と知り合いかの様な会話をしている。
そんな状態だからか無言だったのだが、謎の女の発言で「何よあの女?」だとか「また女ですよ」とか「誰じゃッ、その女は!」とか後ろから聞こえ始めていた。

「記憶の混乱が見られるな。相変わらず時折抜けているのだなお前は。どれ、ちょっと頭を見せろ―――」

謎の女はそう言って、俺に音も無く近付き、両手を俺の頭に添える様な仕草をした。

「ッ!?」

瞬間、俺は後ろに飛び退いた。

「???」

そんな俺の行動を見て、またしても謎の女は首を傾げて不思議そうな表情をする。

「何だ、恥ずかしがり屋め。あの頃は毎晩私と触れ合っていた癖に童貞みたいな反応するな」

「なッ!?」

「毎晩じゃと!?」

「ちょっとどう言う事よッ!?」

「あー、あー、やっぱりクソエロいガキじゃないですか」

俺は謎の女の発言にまた目を剥く。同時に仲間の主に女性陣からも驚きの声が上がるが今はそれどころじゃない。

「ちょっとマジで待てッ、俺はお前なんか知らないし今日初めて会ったばかりだろう!?何なんだよマスターとかって―――」

「はぁ、本当に記憶障害が起こっているのか・・・」

謎の女は俺の言葉に今度は不機嫌そうな表情となり溜息を付く。

「記憶障害なんて起きてねぇよ!俺はお前なんか―――」

瀧田暖たきたはる、お前は私のマスターだ」

俺の否定の言葉を遮る様に謎の女は俺の名前を口にした。

「・・・・・・」

マジで誰だよお前・・・
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