異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第297話:帰投

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「どう判断してんだこれ・・・」

 アリシエーゼとリリを追い掛けながら二人が進んだであろう進路を進んで行くと、周囲には無惨に殺されているストレガンド人が目に付く。
 二人は帝国軍の兵士や傭兵には攻撃を仕掛けずストレガンド人のみを攻撃している様に見える。

 実際どれ程正確に判別してるのかは不明だけど・・・

 勿論、周囲には帝国側の人間の死体も多く転がっておりそれをやったのがアリシエーゼとリリでは無いとは言い切れないが、進む毎に帝国軍の生き残りの数が増えている事もあり、俺の想像はそこまで的外れで無いと確信出来た。
 そこからそう掛からずにリリを見付ける事が出来たが、腕章等の所属を識別するものを身に付けていない俺は帝国の連中にもストレガンドの連中にも目の敵の如く攻撃を仕掛けられたのは言うまでも無い。
 帝国兵達の攻撃は華麗にスルーしつつ、ストレガンド人だった場合は問答無用で殺すとやっていたが正直面倒臭かった。

 アリシエーゼ辺りは面倒臭くて癇癪起こしてそうだな・・・

 そんな事を思いつつリリを目視出来る距離まで来て俺は叫んだ。

「リリィィッッ!!」

 その間もリリ達が取りこぼしたストレガンド人を狩る。
 前方でドッカンドッカン鳴り響いていたリリの暴れる音が一瞬止み、暫くするとリリがもの凄い速さで俺の元までやって来た。

「何だ?」

「いや、ちょっと緊急―――」

「パンティか?」

「要らねぇよ!!」

 何で急にパンツが欲しくなると思うんだよ!?

「なら何だ?それ以外マスターが急いで私を呼び戻す理由が分からない」

「このポンコツがッ」

 何故か戦場のど真ん中でそんなやり取りを行っていたが、それまで焦っていた気分が若干落ち着いた気がした。

「そんな事より一体何だ?」

「この野郎・・・」

 ちょっぴりぶん殴ってやろうかと思わなくも無かったが、俺は何とかそれを押さえ込んで先程入手した情報を伝える。

「兎に角ッ、さっきストレガンド人から得た情報だとやっぱりここには王国と公国の奴は居ない。全部ストレガンド人だ。帝国の奴らーー首都からの大幅な増員をさせてここに誘き寄せて出来るだけ多くの帝国兵を殺すのがストレガンド人の目的だ」

「陽動と言う事か?」

「あぁ、後は時間稼ぎだ」

「何の時間だ?」

 ストレガンド人は王国と公国からなる連合軍と契約をした事に間違いは無い。
 その数凡そ三万程で此処には二万程やって来ているのだが、帝国軍を誘き寄せ足止めし、ついでと言わんばかりだが敵の人数も減らして打撃を与える。
 それが今この場に居るストレガンド人の役目だった。

 ストレガンド人は大規模戦闘を得意としており、アリシエーゼだかが言っていた儀式を用いた大規模魔法を使える。
 なのでそれらを駆使する作戦だった様で、その作戦はまんまとハマった事になる。
 今は混戦となっているが、これも作戦と言うかストレガンド人にとっては有利に働く要因でもあり、帝国軍としては個と戦っていた様で実は群も戦っている様なものでつまりはすべてがストレガンド人の思い通りだったと言う事だ。

 そして―――

「―――本当の連合軍の本隊の編成時間と移動時間だよ」

 ホルス周辺での電撃的な国境突破やホルス占拠は主に連合軍の先鋭部隊が行った様だが、そこから大胆に帝国領に切り込んで行ったのはストレガンド人達だ。
 連合軍はその間に軍を編成して本当の帝国攻めの部隊を整えた。
 そして今正にその本隊がここに向かって来ている筈だと俺が情報を抜き出したストレガンド人は記憶していた。

 戦いを始めたと言う事は、予定では本隊が合流するのも間も無くだからだ

「数は?」

「・・・・・・二十万だ」

「・・・ほぅ」

 連合軍はかなり本気だ。恐らく此処に合流するのが半数だと考えてもう半分は別ルートだろうかと考えるがそこまではあのストレガンド人も情報を持っていないので分からない。

「一旦、あっちに置いて来た仲間達と合流した方がいい」

「分かった。で、あっちで考え無しに暴れてる彼奴はどうする?」

 リリが指差す方を徐に見ると、かなり遠くの方で火柱が上がっていたり、何かが光っていたり、そして時折雷鳴の様なゴゴゴゴと言う腹に響く音が鳴ったりしているが、どうやらアレはアリシエーゼが暴れているサインの様だった。

「・・・・・・あれは放っておいていい」

「分かった」

 そうして俺とリリはドエイン達の待つ場所まで戻ってから急いでゴリアテた共に待つ仲間の元へと急いだ。
 道中、ドエインとダグラスには得た情報を伝える。

「おいおい、じゃああのストレガンド人達は囮か?」

「そうとも言えんだろ。現にストレガンド人達は帝国よりも優勢に戦っていた。数は違えどこのまま勝利していた可能性さえあるのだから一概に囮とは言えん」

 恐らくダグラスが言う事が正解だ。
 あのストレガンド人達はあくまで帝国を殲滅する事を目的に作戦行動していた様だし、俺が情報を入手した奴は本隊と合流したのならこの辺り一帯は好きに出来ると思っていた事からもそう言える。

「本隊の数は二十万って言ってたか・・・?」

「ん?あぁ、その中に残りのストレガンド人も混ざってるみたいだけどな」

「そうか・・・」

 ドエインはそんな事を言って考え込む仕草をする。

「・・・・・・なんだよ?」

「いや、二十万って数はかなり多い。王国側かどれ程の数を出してるか分からないがこの件に教会が関わっていない訳は無いと思う・・・」

「「・・・・・・」」

 ドエインの言葉に俺とダグラスは黙り込む。
 教会がこの件にどれ程関わっているのかほ分からないが、それよりも何よりも教会が関わっていると言う事は今ここにやって来ようとしている本隊に教会関係者はどれくらい集まっているのだろうかと思う。

「ダグラス、教会の騎士はダグラスが居た騎士団とは別の騎士団と言うか所属の者達も居るのか・・・?」

「・・・勿論だ。私はイリア様―――聖女付きの騎士団所属だったが、他にも色々とある。教皇直轄からその他治安維持の団まで様々だ」

「・・・・・・もう少し急ぐぞ」

「・・・いや、旦那は先に行ってくれ」

 俺とダグラスの話を聞き、ドエインも俺達が何を危惧しているのか気付いた様で、俺一人でも先を急げと言った。

「・・・分かった。リリ、ドエイン達と一緒に行動してくれ」

「・・・はぁ、分かった」

 リリは短く溜息を吐いてから「その代わり今夜は寝かさんからな」と恐ろしい事を口にした。

「・・・考えておくよ」

 一応、リリに無理を言っている手前ハッキリと拒否するのは憚られた為濁して返答し俺は影移動を発動した。

 もし本隊に教会関係者が居たら・・・


 イリアの正体がバレる可能性があるッ
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