異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第313話:再会?

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「あー、長閑だなぁ・・・」

 本当に戦争なんてやっているのかと思える程、静かで穏やかな時間が流れて行くのを馬上から感じ俺は天高く輝く陽の光を浴びて目を細める。

「・・・いや、気を抜き過ぎだろお前」

「そうか?」

 俺の隣りに馬を寄せながら直哉がジト目を送ってくるが、今は秋口で少し肌寒く感じる季節だがこの辺りは農耕が盛んなのか野菜などの収穫時期に入っていた為、広大な畑が辺り一面に広がりその畑で汗を流す人々を散見する。

 って言うか、俺がこっちに来てまだ季節が移り代わってもいないんだなぁ・・・

 ちょっとしたノスタルジーな気分に浸っていたが意識を戻し直哉に問い掛ける。

「首都までまだあるんだよな?」

「あぁ、馬を飛ばせば数日って所だが、どれくらいのペースで行くつもりだ?」

「んー、まぁもっと急ぐか、な・・・?」

 そんな話をしていると、馬に乗る俺の腹辺りがゴソゴソと動くのを感じる。

「・・・ハル、ツマラナイ」

「いや、馬上じゃ危ないし何も出来ないだろ・・・」

 俺の股の間に座っていたユーリーが眠そうな眼で俺を見上げながらそんな事を言う。
 俺達は戦場から離れ最初に行き着いた村で馬を調達した。
 食事を軽く済ませ、ゴリアテに置いて来てしまった美品等を買い、そして馬も買ったのだが、人口がそこまで多くない村なので俺達人数分の馬を直ぐに用意するのは厳しいと言われてしまったのだ。

 まぁ、どうにかして貰ったからいいけど・・・

 村人が個人で所有していた馬を数頭掻き集めて貰ったお陰でユーリー以外は皆、一人一頭の馬を買う事が出来たのだが、既に直哉の能力使用による何かしらの力場の影響から俺の能力が制限される事は無くなっていたので心置き無く能力を使用し円満に馬に関する問題を解決した。
 直哉はそれを見て、最初は何がなんだか分かっていなかった様だが一応仲間になつまたのだからと軽く俺の能力については説明をした。
 人を意のままに操るその力はやはりかなりの戦闘力を能力により獲得した直哉にとっても異質で脅威の様だった。
「マジでありえねー、チートっすわ、チート」とか言っていたが、俺からすれば戦術核の様な威力の攻撃を繰り出す直哉の方がチートな気がしてならなかった。

 能力で思い出したが、俺の能力を妨げる力場の様な存在が今でもイマイチ発生原因やそもそもの理由等が不明であるが、リリ曰く直哉の使う能力が原因であると推察される為、俺と行動している時は極力直哉自身の能力は使わない、または俺に先ず判断を仰いで貰う様にした。
 最初は渋っていたものの、俺の能力の汎用性の高さを目の当たりにして考えを改めた様で、「俺には絶対に使うなよ!?」と念押ししてから了承してくれた。

 何でそんな化け物みたいに扱うんだよ・・・

 今に始まった事では無い俺の扱いではあるが、魔法などが存在するこの世界でも俺の能力は異質で歪で最悪と言う事なのだろうと無理矢理自分を納得させた。

「――じゃあ、俺の所来るか!?」

 ユーリーの要望に俺が答え無いと見るや、直哉はまるで自分の子供と一緒に遊ぼうと言っている親の顔を作って笑いかける。

「・・・ウン」

「そうかッ、じゃあこっちにおいで!」

「お、おいおい、今は騎乗中だぞ!?」

「へーきへーき」

「・・・ハルハビビリスギ」

「・・・・・・」

 ユーリーのビビり君発言に閉口してしまうが、その間に当のユーリーは鞍の上に危なっかしくヨロヨロと立ち上がろうとしており、俺は慌てて身体を支える。

「ちょッ、ユーリー危ないって!?」

「・・・・・・ダイジョブ」

 いやいや、大丈夫じゃ無いですって・・・

「ハハハッ、よし今もう少し馬寄せるから待って―――」

「・・・トウッ!」

「「ッ!?」」

 笑いながら馬を俺達の方に寄せようとした直哉を無視してユーリーは突然ジャンプをした。
 馬から馬へと飛び移ると言うスタントマン顔負けのアクションを突然実行したユーリーに俺と直哉は度肝を抜かれる。

「うぉぉいッ――――危なッ!?」

 突然のユーリーの奇行に直哉が素早く反応して、飛び移って来たユーリーを何とかキャッチして事なきを得た。

「ユーリーッ、お前危ないだろ突然!?」

 俺が咎める様にユーリーに言うとそれを華麗にスルーしたユーリーは今度は直哉の股の間にチョコんと座り、前方を指差す。

「・・・ナオヤ、イケ」

「ハハッ、ユーリーちゃ―――ユーリーくんは元気良いなぁッ、よし、捕まってろよ!」

 そう言って少しだけ気合いを入れた直哉が馬の腹を蹴って加速する。

「お、おいッ、気を付けろよ!?」

 まるで単車でタンデムするからの様に二人で「うほほーい」とか言って走り出すのだが、危なっかしくて見ていられず遂口を出してしまう。
 だが、二人は俺の言葉など聞いてはおらず、もう既に豆粒の様に小さくなりつつあった。

「・・・・・・」

 とりあえずユーリーは直哉に任せておけば敵から護ると言う意味においては問題無いだろうと判断し、俺は小さく溜息を付いてから後ろを振り返った。

「とりあえず少し速度を上げて―――――――うぉッ!?」

 そう言いながら仲間達の方に振り返ったが、いつの間にかかなり接近し、左右で俺を挟み込む様に顔を近付けるモニカとリリに俺は危うく馬から落ちそうになる。

「・・・何なんですかあの男は」

「マスター、そろそろ私の中のマスター成分が足りずスリープモードに入りそうだ」

「何って―――ってか、リリ何だよその成分って!?」

「何でユーちゃんにあんな馴れ馴れしくしてるんですかッ、あの男が変態だったらどうするんですか!?ユーちゃんが危険じゃないですかッ」

「マスター成分とは、マスターの私に対する変質的で、欲情しきった滾るパッションを主成分とする感情の一種だ。それをマスターが醸し出し私が冷たくあしらう事で徐々にマスターの私に対する想いが募って行き、悶々として夜が眠れなくなる事で夜這いを掛けやすくすると言う、言うなれば私のマスターに対する思い遣りが詰まりに詰まった計らいと言う事に他ならないが―――」

「すみませんッ、リリさん、すみません!とりあえず黙って下さい!」

 モニカの言葉に何か返そうと思っていたが、リリの怒涛の意味不明な言葉に気を取られてしまいそれ所では無くなってしまった。

「――む、そうか?」

 そうだよッ
 何だよパッションって!?

「とりあえずモニカ、ユーリーなら心配無い。寧ろお前の方が変態なんだからこれで良かったんだよ」

「なッ、何ですとぉ!?」

「何ですとじゃねぇよ!ユーリーだって何か良く分からんが直哉に懐いてるじゃねぇか!」

「た、確かにその節はありますけど・・・あれですかね?あのナオヤさんと言う方はハルさんとドエインさんを足して二で割った様な人だからですかね?」

「・・・ぇ?」

「はい?」

 此奴は何を言い出すのだろうか・・・

 直哉と俺が似てる?
 あのオッサンと?

 詳しくは聞いていないが、直哉は四十代だそうだ。見た目的にはそうは見えないが、精々良くって三十代と言った所なのだが、そのオッサンと俺が似てるとは聞き捨てならなかった。

「お前・・・どこが俺と似てるって言うんだよ?」

「んー、雰囲気と言うかなんと言うか」

「マスターはもっと私に対しては積極的だぞ?」

「リリ・・・何時俺がお前に対して積極的になった?」

「何時もだが?」

 それが何か?と言いたげなリリを見て俺は頭を抱える。何で此奴の言う事に一々ツッコんでしまうのだろうと自己嫌悪に陥ってしまう。
 それからモニカとリリに何故か色々と詰められ、解放された時には直哉とユーリーが離れてから十分程経っていた。

「もう良いだろッ、何なんだよお前ら!モニカも何か言いたい事あるなら直哉に直接的言えよ!リリはもう黙れ!シャットダウンすんぞ!」

 俺の言葉にモニカとリリはまたしても何か言い出すが、もう聞きたく無いと耳を塞ごうとした時、遠くから直哉の物と思われる声が聞こえて来て声のする方を見る。

「――――――――――ぃ、すげぇぞぉ」

「あ、なんだ?」

「ぉおいッ、ちょっとコレ見ろよぉ」

 手を振りながら帰って来る直哉とユーリーだが、直哉が何やら手に何か持っているのが分かった。

「お前、何処行ってたんだッ、あんまり遠くに行くんじゃねぇよ!」

「んな事よりコレ見ろよ!何だか強そうだぜッ」

「はぁ?強いって何だ―――ッ!?」

 直哉が持ち帰って来た物を見て俺は固まる。
 その手に持つ物に俺は見覚えがあったからだ。

「お、お前、それどうしたんだよ・・・」

「ん?あっちの方に落ちてたんだ。何か商人か傭兵か分からんがどうやら馬車が襲われたみたいでさ。死体は無かったけどコレが落ちてたんだよ」

「・・・・・・」

「どした?何か顔色が悪いぞ」

 かなりの驚きっぷりから急に黙り込んだ俺を不思議に思い直哉が眉を顰める。

「だ、旦那ッ、ソレって!?」

「ちょっとソレって!?」

 ドエインとイリアも馬を操り近付いて来て直哉の持っていた物を見て驚くが、やはり俺の勘違いでは無さそうだった。

「あぁ・・・」

 二人には振り向かず俺は直哉の持つに語り掛ける。

「アザエル、どう言う事だッ!?」

 どうなってやがる!?
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