異端の紅赤マギ

みどりのたぬき

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第7章:愚者の目覚めは月の始まり編

第331話:気付き

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「何でお前が居るんだよ・・・?」

「何じゃ、居たら悪いのか?」

「いや、そうじゃねぇけど・・・」

 俺の隣に座っていたドエインを何時もの如く蹴り飛ばして退かしたアリシエーゼが俺の顔を見て不満そうに言う。

「お主が妾を助けんからのう、あの男に助けられたのじゃ」

「それはそうなんだろうけど・・・」

 助けなかった訳では無いと反論しようとしたが、どうせ怒り出すので敢えて言わずにおいた。
 店の店員に直接注文をして商品を受け取った光が空いている席へと座る。
 それを見て俺は光に話を振る。

「とりあえず・・・説明しろよ」

「何をだい?」

「いや、コレだよ・・・」

 席に着くなりテーブルにあった料理が乗った大皿を自分の側に引き寄せたムシャムシャと下品に食い散らかし始めるアリシエーゼを顎で示す。

「アリシエーゼさんがピンチみたいで、キミ達が助け出す手立てが無いと思ったから、僕が頑張ったんだよ?」

 そんなの分かるでしょ?とでと言いたげな光だが、そんなのは分かっている。
 光自身の能力は本人曰く、識りたい事を識る能力なので、俺達の現状を識ろうと思えば何時でも識れるし、アリシエーゼの救出方法も分かったりはするのだろう。
 だが俺が聞きたいのはどうやってアリシエーゼを助け出したかだ。

「んな事を聞いてんじゃねぇのは分かってるだろ。直哉も自分で良く分かっていない空間に閉じ込められてたんだろ?」

「うーん、空間って言えばいいのかな。そんな閉鎖されたものでは無いんだよね、なんて言うか次元がちょっと違う感じ?」

「はぁ?次元が違うって何だよ?」

「それすらもちゃんと説明出来てる訳じゃない。ちゃんと説明は出来ないかな?」

 マジで意味が分かんねぇぞ・・・

 意図して情報を隠そうとしているのか、それとも本当に言葉では説明出来ないのか。
 分からないが、いくら問い詰めてもそれ以上の情報は出て来なかった。

「はぁ・・・まぁ、とりあえず礼は言っておく」

「何じゃお主は。役立たずの癖に偉そうじゃな?」

「ぐッ・・・」

 口をモグモグと動かしながらアリシエーゼが言ってくるが、アリシエーゼの救出に関しては本当に俺達は何も出来てないので何も言い返せない。
 アリシエーゼが帰って来た事自体はとても喜ぶべき事だが、何とも釈然としないまま俺は食事を行いつつアリシエーゼと光に一応、現在までの状況や経緯を話す。
 結局、最終的に「知っとるわ」と一蹴されてしまったのでまたしてもアリシエーゼに言い負かされる事になってしまったが・・・

「――それで光、ガバリス大司教は何時ザルドレイクに到着するんだ?」

「え、そんなの識らないよ?」

「うん?」

「???」

 光の言葉に咄嗟に言葉が出て来ず、俺は光の顔をましまじと見つめてしまった。

 識らないって何だ?

 お前は何でも識っている、識る事が出来るのでは無いのか?と訝しむが、目の前の光は逆に俺の言葉に何で自分に聞くんだと言う様な表情をしており、本当に識らない様だった。

「い、いや、お前だったらそのくらい識ってるか、識ろうと思えば分かるだろ・・・?」

「だからそんなの識らないんだって。そんな細かい事まで識れたら僕がパンクしちゃうよ」

 失敬な、とでも言う様な表情をして俺の言葉を否定する光だが、此奴の能力を見誤っていた事に気付く。

「お前、本気で言ってる?嘘付いてねぇよな・・・?」

「だから本当に識らないんだって。キミも執拗いなぁ」

「・・・・・・」

 あれ・・・
 どうしよ?

 光が現れた時、俺は閃いた。此奴が居るのなら一々監視活動など行わずとも、ピンポイントの情報を齎してくれるので余裕じゃないか!と。
 だが、どうやら違ったらしい・・・

「楽出来ると思っておった様じゃが、残念だったの~」

 俺と光のやり取りを食事を頬張りながら静観していたアリシエーゼが、二チャリとしながら笑う。

 なんでそんな他人事なの・・・

「ま、まぁ、最初から光の能力を当てにして作戦なんか立ててねぇし?なんなら、お前も居ないものだと思って作戦立ててるし?」

「では、妾は暫くのんびりと過ごさせてもらおうかのう?」

「いや、駄目だろ。お前も明日から作戦に組み込む。皆と一緒で三交代制だ」

 どうじゃ!とでも言いたそうな得意げな顔でドヤるアリシエーゼに俺は即答する。
 勝手に暴れて勝手に直哉にやられた分際で何を言ってるんだと俺はアリシエーゼを冷たく突き放すと、アリシエーゼは顔を真っ赤にして暴れ出した。

「やッ、やられた訳では無いわ!」

「だったら何だよ?ありゃ、完全に封じられてただろ」

「ひッ、一人でも出て来れたわい!そもそお主が直ぐに助け出せば良かったじゃろうがッ」

 ほら、自分じゃどうにもならなかったんじゃないか

 口には出さなかったがきっと表情がそう物語っていたのだろう。
 先程よりも更に顔が赤くなり、必死に無問題アピールを続けるアリシエーゼに何だかこのやり取りも久しぶりだなと心の中で密かに笑った。

「もう、夫婦漫才は何処か別の所でやってよね。それより明日からの作戦を詳しく教えてよ。ボクも協力するよ」

「誰が夫婦だッッ」

「妾達がじゃよ!」

「お前には言ってねぇよ!」

 遂、俺も久しぶりだったのでツッコミに力が入ってしまったが、そんなやり取りを仲間達は笑った。
 それを俺は何だか暖かく感じた。団欒とでも言うのだろうか、食事を皆で囲み、酒と料理を堪能して笑い合う。
 他人から見たらくだらない事かも知れない。
 でも俺達―――いや、俺には必要な事だと自覚していた。
 ほんの少し人間らしい事をしていれば、まだ俺も人間なのだと思えたのかも知れない。

 光とアリシエーゼに明日からの作戦などを話しながら酒と料理を平らげて行く。
 粗方話し終え、腹も満たされた為に俺達は宿へ戻る事にした。

「――ちょっと待つのじゃッ」

 俺達が席を立ち始めた時、何故かアリシエーゼが座っていた椅子の上に立ち、大声で俺達の行動を制する。

「何だよ・・・?」

 またどうせくだらない事なのだろうなと思い警戒しつつ続きを促す。

「うむ、妾気付いてしまったんじゃがな―――」

 妙に凛々しい表情でそう言いながら仲間達の顔をを順々に見ていくアリシエーゼ。
 そして、ラルファとリルカに顔を向けるとアリシエーゼは二人に指を差して叫ぶ。

「――何故、似非勇者どもが此処におるんじゃ!」

「「「「・・・・・・・・・」」」」

 指名されたラルファもリルカも、そしてアリシエーゼ以外の全員が固まる。

 ぇ、さっき説明したよね・・・?

「え、似非・・・」

「・・・酔っ払ってるんですか」

 確か、今日は封じられていて空腹だったのか酒は飲まず食い物だけを一心不乱に貪っていたなと思い、リルカの指摘は間違っていると何故かそんな事を冷静に俺は考えていたが、きっとアリシエーゼのあまりの阿呆さに現実逃避したかっただけだろう。

「む、じゃがもう二人程足りぬでは無いか?一人はエルフじゃったか。あともう一人は―――」

 ラルファのパーティ編成を思い出そうとしているのだろう。
 そして最後の一人はアギリーの事であろが、本当に話を聞いていなかったのだなと俺は呆れてしまった。

「煩ぇ!この阿呆がッ」

「―――妙にムチムチして――ッぎゃあ!?」

 俺は拳骨をアリシエーゼの脳天に落とす。
 その情け容赦無い仕打ちに仲間達もラルファ達も引いているが俺は構わずアリシエーゼに言う。

「さっき説明しただろうがッ、食い意地だけ張りやがって!」

 もう一発、拳骨を喰らわせてやろうと握り拳を作るとアリシエーゼはそれを察知して素早く立っていた椅子の上かろ飛び降りる。

「な、何するんじゃ!?」

 頭を抑えながら叫ぶアリシエーゼだが、仲間達の反応を見て動きを止める。

「な、何じゃ・・・妾、変な事言ったかのう?」

 全員が同時に溜息をつき頭を振る。

 ホント、残念な奴・・・

「モニカ、とりあえずこの阿呆を宿に連れ帰れ」

 俺はもう一度深い溜息を付いてモニカにそう言うと、モニカは何故だか敬礼をして「あいあいさー」と言ってアリシエーゼを脇に抱えて店を出て行った。

 はぁ・・・
 疲れる・・・
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