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ヘビを使った殺人は可能か?
さわらぬ男女にたたりなし(英二)
しおりを挟むはぁ~あ・・・
これから山に行かなきゃいけないのか・・・
英二はグゥ~と鳴る腹を抑え、竹見通りをとぼとぼと歩いていた。
今頃酒井さんは聞き込みか・・・
俺はこれから山でガサガサ、ゴキとヘビの巣窟へ・・・
イヤだ!去年と比べて今年はやなことばっかだ!
おみくじなんかその場の空気で引かなきゃよかった・・・
それで大凶2連続引いたからこんなことになったのだろうか。
どうにかして山ガサガサを逃れることはできないだろうか?
逃げ道を捜したあげく、英二は思いついた。
俺も聞き込みをすればいいんだ!聞き込みだって『探す』にはいるよな。
綾根山の湖まで行けば人も観光客で多いだろう。
よし、バスの時間、バスの時間・・・
ちなみに英二は車の免許をもっていない。
よって、移動はバスか電車だ。
現金は雀の涙程しか持ってないためバス専用の金券を使った。前にバスに乗る際、お釣りの代わりにこの金券をもらったのだ。
こんなものどんなときに役にたつんだッ!
昔は嘆いていたが、こんなときに役にたつんだ
なぁ~としみじみとバスの外に流れる景色を眺めながら感じた英二だった。
英二はバスに乗り、綾根山にある綾根湖が見渡せる『綾根湖観光センター』というバス停に移動した。
とりあえずこの辺で聞いてまわればいいだろう。
この湖は水がきれいで透けて見える。運が良ければとても大きな魚を目視できる。夕方になれば夕日がきれいでデートスポットとして有名だ。
「え~と、確か尻尾の先がシンゴジラみたいで
近くにいたらカラカラカラと音をたてるヘビ・・・いや、シンゴジラみたいは言わなくていいか」
ベンチに腰かけ、ボソボソと聞き込みの練習を始めたが・・・
グゥ~っと腹の虫がおさまらない。
そんなときだった。
「あの、お腹がすいているんですか?」
視線の先には白いワンピースを着た年下らしい女性が。身長は英二より少し低いが、英二はベンチに座っていたため少し見上げていた。
記していなかったが、今は三月だ。まだ少し肌寒いのに、ワンピースで寒くはないのだろうか?女性って丈夫だな~・・・
つい他人事になっていたけれど、今の状況をようやく理解し始めたようだ。
ハッ!
周りを見てみると、動いていないのは自分だけだ。後ろに人はいないし、ということは・・・
「今、お腹、なりましたね?」
話しかけられているのは・・・俺だ。
「え!?あ、アハハ・・・聞こえてました?」
ちょっと気が動転して始めは声が裏返ってしまった。
「よければ、これ余ってしまったので、どうぞ」
差し出されたのは・・・納豆巻き。
どうやら英二と納豆は切っても切れぬ、ゴキブリをもってしても壊れない縁らしい。
「え!ホントにいいんですか!?ホントに!?嘘じゃない!?」
英二は歓喜の声をあげた。
「ええ、どうぞ。こちらも助かります。ありがとうございます」
何が『ありがとう』なのかわからないが、腹ペコな英二は気づかなかった。
わずか数分で納豆巻きをたいらげた。
「ごちそうさまでした!」
「いえ、スーパーで買ったものだったのですが、美味しくいただけたのなら幸いですわ」
ふぅー、と落ち着くと、ふと聞き込みをしようと思った。
「ところで、カラカラカラ、という音を聞いたか、あるいはそんなヘビを見ませんでしt・・・」
質問の途中で、この状況の奇妙さに気がついた。
なぜ俺は見知らぬこの人に納豆巻きをごちそうになったのか、この人はどうして見ず知らずの俺に納豆巻きをごちそうしたのか、そして、どうして当然のように会話しているのだろうか。
英二が眉をひそめたので、相手の女性は怪訝な顔をした。
「どうしたのですか?わたくしヘビは苦手ですわ。そのような音も聞きませんでしたが・・・どうしてそのようなことを?」
一応質問は伝わったらしい。
英二はこの時、探偵になって(探偵の弟子にされて)初めてよかったと思えた。ここは少しカッコつけよう。
「申し遅れました。俺は中倉といいます、探偵をしている者です。以後お見知りおきを」
言い終わった後に恥ずかしくなった。
ヘビを探す名探偵もおかしいが、腹をすかせ、見知らぬ他人に差し出されたものを遠慮なしに喰らう探偵はもっとおかしく、何よりカッコ悪い。
しかし、彼女はそうは思わなかったらしい。
「へぇ!探偵さんなんですか!わたくしはドラマやアニメでしかいないものだと思っていました!」
無理もない、英二だって初めて聞いたときはそう思った。
彼女は改まって自己紹介をした。
「わたくしは滝沢理紗と申します」
「へぇ~、滝沢さん・・・滝沢?」
どこかで聞いたことあるような・・・
「わたくし滝沢製菓社長の娘なんです」
「え、えええ!」
滝沢製菓とは、昔『全国のお菓子売り場の顔』と呼ばれたとあるお菓子を製造していた会社だ。
今でも地味であるが、さまざまなところでみることができる。
国内では地味になってしまったが、外国にも売り出していて、大人気のお菓子となっている。
皆さんもぜひ買い物の際探してみるといいだろう。
と、そんなことはさておき、簡単にまとめると、彼女はお嬢様、つまり、お金持ちの箱入り娘だ。
なるほど、どうりで見ず知らずの人にあんなことが・・・
「何か事件があったのですか!?さては殺人事件!?」
・・・ただのヘビ探しとは言いたくないなぁ。
うーん、まぁこの先会うこともないだろうし、嘘ついちゃえ。
英二はその場で嘘とホントのことをごちゃ混ぜにしたことを話した。まったく軽率なやつだ。
「実は、まぁ、名前は言えないのですが、とある金持ちの男性が毒殺されて、そのカギとなるのがそのヘビなのです」
すると彼女は目を輝かせる。
「そうなんですか!わたくしとても興味がありますわ!ぜひご一緒したいのですが」
「え!え、ええ構いませんよ」
しまったぁああ!俺は何て軽率なことを言ってしまったんだろう!
言ってからでは遅かった。唯一の奇跡といえば、自分が軽率だと英二が自覚できたことだろう。
「さぁ中倉さま!ヘビを探しに向かいましょう!」
中倉さま!と、呼ばれたことはなかったのでびっくりしていた。
「え!その前に聞き込みを・・・」
「何をおっしゃるのですか!そのまま探した方が早いですわ!」
「で、でも服が汚れますよ?それに突然ヘビを見つけた時にあなたが怪我でもしたら・・・」
すると、理紗は腕を元気だと示すようにふるうと
「あら、お優しいのですね。でも大丈夫です。だって・・・」
・・・・だって?
「探偵さん、頼りにしてますよ!」
そ、そんな!頼りにしてるったって、俺もヘビ無理だからーッ!
そのまま、さぁ行きましょうと、森林の方へと歩いて、いや、引きずられて向かっていった英二。
はしゃぎながら向かっていった理紗。
英二は理紗に引っ張られながら、考えていた。
しかし、この娘があの滝沢製菓の社長の娘って嘘臭いなぁ。
社長の娘、といったらあの男二人組ほどではないが、何かしらの護衛がつくだろう。それにそんなお嬢様がスーパーの納豆巻きを購入するだろうか?
まぁ、いいや、こんな美女と歩く(?)ことは生涯もうないだろうし、大凶2連続の割にはついていると思う。
どうにかなるだろう、と。
英二は理紗に殺人事件があったと嘘をついたことを忘れていた。
しかし、バレた時どうなるかでハラハラしなくてもいいだろう。
何故なら、ちょっとしたネタバレ、というかこれは一応推理小説なので当然だが、英二の言ったことは一部、もしくは全て、あたってしまっているからだ。
やっぱり大凶2連続は伊達じゃない。
嘘から出たまこと。
そうなるとは、この時の英二は知るよしもなく、口にかすかについたご飯粒に気づくことなく森のなかに入っていったのだった。
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