探偵はじめました。

砂糖有機

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ヘビを使った殺人は可能か?

後日談

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奥山市。
それは日本のどこかに存在する町だ。
名前の通りド田舎で、山と海に囲まれている。
山と海の自然の香りに包まれて、というと聞こえはいいが、要するに生臭い変な匂い。特に雨上がりは最悪だ。
この町では、事件が起こることが少なく、殺人事件なんて尚更だ。
しかし、確かにこの町では『ヘビを使った奇怪な殺人事件』があった。あまり、昔の話ではない。つい最近の話だ。
そんな事件があったのだから、不気味がって客足が無くなり、観光業で食いつないでいるここは破産し(市が破産するなんて聞いたことないが)、奥山『市』から奥山『町』へと降格するかと思いきや、お金にがめつい大人達は逆に、このことを売りに出している。しかも、それがまあまあ成功しているのだから驚きが隠せない。
ちなみに、あの刑事二人組は交番勤務同然の扱いを受けなくなった。彼らにとって、事件があったことを喜ぶわけにはいかないが、その点には喜びを感じているようだ。英二と共に行動していたあの少女は、新聞で、この事件が記載された際、跳び跳ねて喜んでいたらしい、名探偵さんと友達になれたと。ちなみに、納豆嫌いで有名だったらしい。
そんなことがあり、事件自体はそこそこ有名になったものの、事件を解決へと導いた探偵の存在を知っている者は数少ない。それに、その探偵が結果タダ働きしてしまったことを知っている者はもっと少ない。
その探偵と弟子が生息しているのは、奥山市にある商店街で見つけることのできる喫茶店っぽい探偵事務所だ。

「・・・しっかし、驚きましたよ!酒井さんが名探偵っぽくて」
「おい、『ぽい』じゃないだろ『ぽい』じゃ」
上でぐるぐる回っているファンを目で追いながら英二はふと思い出した。
「ところで気になっていたんですが」
「何だ?」
「どうして酒井さんは、えっと、あのガラガラヘビに詳しかったんですか?権藤からもらったメモ用紙以外のこともすらすらと」
「偶然、事件の前日にアニマルプラネットでヘビ特集を見たのが印象に残っていたからね。あぁ、面白かったなー、ネズミの丸呑みとか」
「ウゲェ、想像したくねぇ・・・」
英二は吐くまねをする。
「ガラガラヘビって外来種なんですよね?」
「そうだけど」
「あ、だからですか~。権藤と高原が俺らに依頼したのは」
「そうだね。税金ドロボーにお願いしたら捕まるもんねー、ははっ!」
・・・その様子を見て英二は苦笑いをしている。
「あ、あと、高原さんの動機は一体なんだったんでしょうか。嫌いだったのは分かるんですけど、何もあそこまで面倒なことをして殺人までしなくても・・・」
「それはね、きっと高原さんが極度なヘビ愛好家だったからかもしれないね。ほら、依頼しに来たとき、ヘビのことを一言も『このヘビ』と呼ばずに『彼女』と呼んでいた。結婚する!とかも言ってたしね。つまり、高原さんにとっては人間とヘビは平等だったんだよ。まぁ取り調べの時は場所が場所だったから『ペット』って言ってたけど。で、そんな大事な『彼女』に手を出そうとした権藤に怒りを覚えて、わざわざ『彼女』を使って殺したんじゃないかな」
「なるほど。世界には変わった人がいるもんですね~」
・・・と言いつつ、酒井のことを見た。
「なんだ?僕が変わった人だと言いたいのか?」
「しーらない」
酒井と英二は、考えをまとめて話してリラックスしていた。しかし、そんな平和な時間はことごとく破られるのだった。
ガチャンッ!カランカラン・・・ 
ハッとして酒井が入り口を見ると仁王立ちをした女性が。
「ななな、成美サン・・・」
「さて、酒井さぁーん、今日こそ今月の家賃、頭揃えて払ってちょうだい!」
この時の酒井の慌てようは面白いものだった。
「いいいい、いやー、その・・・あッ!そうだ、殺人事件の解決に忙しかったから家賃どころじゃ・・・」
「嘘おっしゃいッ!」
ピシャリといい放ち、一気に畳み掛ける。
「さぁ!今月の家賃払ってもらいましょうかッ!」
「そそそ、そんなぁ!英二君助けてくれ!」
英二は応じずに部屋へ戻っていく。
「俺しーらない」
「こ、コラ!師匠を見捨てるのか!」
「はて?師匠?なんのことだか・・・」
英二に伸ばし続けた手はことごとく断ち切られる。
「あなたと話しているのは私でしょうッ!払えないのなら、あなたの車を売却してでも払ってもらいますからねぇ!」
「どっひゃー!」

酒井浩一。天才なのか天災なのか。大物なのか大馬鹿なのか。
探偵としてのずば抜けた推理力の高さ。
人間としてのずば抜けたレベルの低さ。
大きな一つのマルと小さな大量のバツ。
そんな男とこれからも暮らしていくと思うと先が思いやられるのだが、なんだか面白そうな気もする・・・


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