せっかく異世界から帰ってきたのに、これじゃあ意味がない

乙藤 詩

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十四話

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「お前、あいつらの仲をとりもてよ。あれじゃあ、店の雰囲気が重くて敵わん。」

久々にオーナー室に呼ばれて、何の話かと思えばどうしようもなく重たい要件をサラッと押し付けられた。

はぁぁぁ・・・

晴翔はオーナー室から出ると、深いため息を吐いた。

「仲をとりもつって一体どうやって・・・」

冬馬とラティーヌが一緒に暮らし出して2週間。
その間、冬馬はラティーヌと会話らしい会話をしていない。
冬馬のラティーヌへの怒りは相当なようで、ちょっとやそっとじゃ状況は打破できそうにない。
加えて、一緒に住むためにラティーヌとした約束事によって、ラティーヌも冬馬への接触はもちろん話しかけるのすら躊躇っている様子だ。
最初に会った自信満々のラティーヌは鳴りを潜め、今は吹いたら飛びそうなほどその表情は弱々しい。
そのような状態で2人とも働くものだから、何となく店の雰囲気もよくない。
それを気にした栄が晴翔に白羽の矢を立てたのだ。

確かにラティーヌが冬馬にしたことは許せない。
冬馬の話だと、異世界で何度か男の人に襲われたようだった。
そしてラティーヌと会った時の2人を見て、襲った中にはラティーヌも含まれていたことは容易に想像できた。
冬馬の気持ちを思うと、仲をとりもつことに躊躇いを感じない訳ではないが、それでも今の状態を放置することは出来ないと晴翔は思った。

オーナー室を出た後、晴翔は着替えをすべく控え室に入った。
しかしそこには間の悪いことに、冬馬とラティーヌしかいなかった。

「よぅ!晴翔。」

冬馬が笑顔で晴翔に挨拶をする。
その様子をラティーヌが暗い顔で眺めていた。

「冬馬。もう来てたんだね。」

そんなラティーヌの視線が気になりつつ晴翔は冬馬とその後2、3言交わすと化粧台の椅子に腰を下ろした。
冬馬は支度を終えた様子で、すぐにホールの方に姿を消した。

「・・・。」
「・・・。」

お互いに無言の時間が続く。
その空気に耐えきれなくなって、晴翔が口を開く。

「こっちの世界には慣れた?初めのうちは大変だろ?何か大変なことがあったら何でも言ってくれよ。」

自分がラティーヌに嫌われているのがわかっているだけに、晴翔は口がカラカラになるくらい緊張していた。

「いつもそうやって誘っているのか?」

不意に返ってきたラティーヌの言葉が理解できなくて晴翔が首を傾げる。

「誰にでもそういう言葉をかけて懐柔して男を誘っているんだろう?」

余りの言葉に晴翔は衝撃を受けた。
こいつは何を言ってるんだと本気で殴りたくなる。

「さっ、誘ってなんかない!そっそういうことを簡単に言って相手が傷つくとは思わないの?ラティーヌは人の気持ちを考えられない人なんだね!」

怒りに任せて一気に捲し立てた。
只、普段から人に声を荒げたりしない晴翔の口調は辿々しかった。
気づけばラティーヌが晴翔ををじーっと見たままだ。
晴翔は急に恥ずかしくなって顔がカーッと赤くなるのを感じた。

「な、なんだよっ。」

視線を逸らさないラティーヌに晴翔は顔を赤らめながら言い返す。

「冬馬にも同じことを言われた。」

「はっ?」

急にポツリと返ってきた一言が晴翔には理解できなくて間抜けな声を出す。

「だから冬馬に言われたんです。俺の気持ちなんてどうだっていいんだろうって。」

なるほどそういうことかと晴翔は納得した。

「私はわからないんです。相手の気持ちを考えるとはどういうことなのか。相手の想いなんて自分ではないのだからわかるはずがない。」

ラティーヌの言葉に晴翔は目を丸くした。

「えっ?じゃあラティーヌの国では、好きになった相手とどうやって付き合ってたの?」

「付き合うとは何だ?体の関係を持つということですか⁇」

晴翔はラティーヌの答えに眉を顰めた。

「私の国では強いものが全てです。体の関係は自分がいいと思った相手を負かす事で始まります。」

「そこに気持ちはないって事?」

「気持ち⁇特定の相手とずっと関係を続けることはほとんどありません。私も冬馬が初めてです。」

晴翔は頭が痛くなった。
この世界とラティーヌの世界とでは、根本的な考え方が違いすぎる。

「あのね、ラティーヌ。この国では自分だけじゃなく人の気持ちも大切にするんだ。それが好きな人なら尚更だよ。」

ラティーヌが困惑したような表情を浮かべる。

「人の気持ちを大切に?」

「そう。相手が何を考え、どうすれば喜ぶか想像する事。嬉しい時には一緒に喜んで、悲しい時は一緒に悲しむ。そうやって関係を築いていくんだよ。」

「•••。」

ラティーヌは考え込むように沈黙した。

「ラティーヌは冬馬の事好き?」

晴翔が聞くと、これには真顔で即答した。

「好きです。ずっと一緒にいたいし、冬馬がいない世界は考えられません。」

「だったらまずは冬馬を知るところから始めてみない?」

本当に意味がわからないというようにラティーヌが首を傾げる。

「難しく考えなくていいよ。冬馬は何が好きで、どんなことをして過ごしているのか。冬馬の喜ぶことや、嫌いな事。なんでもいいから冬馬について知っていく事が大切だと思う。新たな一面が見えて、ますます好きになるかもよ。」

「晴翔もそうやって冬馬の気持ちを物にしたんですか?」

物にしたという言い方に晴翔は苦笑する。

「そうだね。たくさん会話を重ねたり、会って一緒に過ごす事で少しずつ仲良くなっていったんだ。でも、僕と冬馬はラティーヌが思っているような関係じゃないよ。」

「でも、冬馬の事が好きなんでしょう?」

「うん。とっても好き。でもそれはラティーヌの好きとは違う。僕たちは友達なんだ。」

「ともだち•••」

ラティーヌにとっては聞き慣れない単語だったのか、小さく復唱する。

「ラティーヌにとって冬馬は愛する人だけど、僕とラティーヌはこれからなれると思うんだ。友達に。」

真剣に晴翔の話を聞くラティーヌ。
その目は心なしか穏やかになったような気がした。

「晴翔は意外と良い人なんですね。また、話を聞いてもらってもいいですか?」

角がとれたラティーヌはとても素直で晴翔は驚いた。

「いつでもどうぞ。でも僕も冬馬は大切な友達だから、冬馬を傷つけたら許さないからね。」

晴翔の言葉にラティーヌは苦笑する。

「傷つけたつもりはなかったんだ。でも2度と冬馬が嫌だということはしない。」

強い意思を持ったその言葉に晴翔は安心した。




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