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二十九話
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雅が店に来てから一カ月が経とうとしていた。この一カ月、雅は晴翔やラティーヌと接する事が多い事もあり、自然と冬馬と話す事も増え、気づけば4人で行動する事が普通になっていた。
周りからも4人組と括られて言われるくらい、職場では一緒にいる事が多い。
雅は晴翔の言う通り、素直で可愛くて仕事もよく出来た。冬馬もそんな雅に心を許していたが、ラティーヌと雅が話す時だけはどうしても胸がざわついた。しかし、この胸のざわめきが何なのか冬馬は分からず仕舞いだった。
最近はグイグイ自分に迫ってくるラティーヌ。冬馬はなんとかそれをはぐらかし、交わす毎日だ。その度に寂しそうな顔をするラティーヌ、それを見ると受け入れたい気持ちが湧くが、中途半端に受け入れてしまい、ラティーヌと一線を越えるのは冬馬自身まだ怖かった。
俺は一体どうしたいんだ?
そう、最近何度も自問自答してきた。ここ一カ月で自分の感情と向き合うことに冬馬は疲弊しきっていた。
この日冬馬は仕事が終わった後控え室にいた。普段は晴翔やラティーヌも一緒だが、この日2人はまだホールにいた。冬馬が帰り支度を整えていると、控え室のドアが開く。見ると雅が入ってくる所だった。4人でいる事は増えたが雅と2人っきりというのは何となく冬馬を落ち着かない気分にさせた。
「あっ、冬馬さんお疲れ様です。」
「あぁ、お疲れ。」
屈託のない笑顔で挨拶をする雅に冬馬も笑顔で返す。
「・・・。」
「•••。」
しかし、その後の会話が続かず、2人の間に無言が続く。すると、雅が言いにくそうに口を開いた。
「あのー、冬馬さんってラティーヌさんの事が好きなんですか?」
その質問に冬馬は目を丸くする。
「あっ!ごめんなさい。急にこんな失礼な質問をしてしまって。でも、僕ラティーヌさんが、その、気になってて・・・でももし、冬馬さんとラティーヌさんがそういう関係なら僕は諦めるしかないと思って•••」
顔を真っ赤にしながら冬馬に言う雅は誰がどう見ても可愛らしい。そんな雅を直視出来ず目線を逸らしながら冬馬が答える。
「いや、栄さんに言われて一緒に住んでるけど、別にそういう関係とかではないよ。」
そう言いながら、何となく冬馬は罪悪感を感じていた。
「そうですか。よかったー。あっ!でもラティーヌさんは冬馬さんの事大好きですよね?」
ラティーヌは冬馬が好きなことを周りに隠そうとしないので、雅が知っているのは仕方のない事だった。
「もし、冬馬さんがその気持ちに応える気がないのなら、僕に協力してくれませんか?」
「はっ?協力?」
雅の急な提案に冬馬の頭がついていかない。
「いや、すみません。変な事言ってるのは分かってるんですけど•••でも、冬馬さんもラティーヌさんの気持ちに応えられないのに、いつまでも好意を持たれるのは大変だと思うんです。ラティーヌさんだってずっと片思いし続けるのはしんどいと思うし。ラティーヌさんの気持ちを思うと、何だかすごく可哀想で・・・」
その雅の言葉に冬馬は動揺を隠せない。自分が煮え切らない態度を取るせいで、ラティーヌを振り回している事を冬馬自身が十分理解しているからだ。「いや、でも・・・」
「僕だったら、ラティーヌさんに悲しい思いや苦しい思いをさせません。本当にラティーヌさんが好きだと胸を張って言えます。だから冬馬さん、ラティーヌさんの事何とも思ってないなら、ラティーヌさんの為にも僕に協力して下さい。」
痛い•••胸が痛い•••
雅の言葉に冬馬は無意識に手で胸を押さえる。自分がラティーヌに対して出来ないと悩んでいることを、雅はいとも簡単に出来るという。その事に少なからずショックを受けた。本当は協力なんてしたくない。しかし、冬馬自身いつまでも煮え切らないままラティーヌの好意を受け続けるのはしんどいし、何よりラティーヌの事で悩むことに冬馬は疲れていた。冬馬は雅の顔を見る。少し赤くなった顔で口を引き結び、真剣な表情で自分の答えを待っている。
雅の方がいいかもしれないな•••
いつまでも答えが出せない自分より目の前にいるラティーヌを心から愛してる男の方がラティーヌは幸せになれる気がした。
冬馬は自嘲気味に一度笑うと、
「あぁ、わかった。」
と短く返事をした。途端にパァっと顔が明るくなり、雅は冬馬に抱きついてくる。
「冬馬さん!嬉しい。ありがとうございます!」
抱きついてきた雅の体は女性のような甘い香りがした。
周りからも4人組と括られて言われるくらい、職場では一緒にいる事が多い。
雅は晴翔の言う通り、素直で可愛くて仕事もよく出来た。冬馬もそんな雅に心を許していたが、ラティーヌと雅が話す時だけはどうしても胸がざわついた。しかし、この胸のざわめきが何なのか冬馬は分からず仕舞いだった。
最近はグイグイ自分に迫ってくるラティーヌ。冬馬はなんとかそれをはぐらかし、交わす毎日だ。その度に寂しそうな顔をするラティーヌ、それを見ると受け入れたい気持ちが湧くが、中途半端に受け入れてしまい、ラティーヌと一線を越えるのは冬馬自身まだ怖かった。
俺は一体どうしたいんだ?
そう、最近何度も自問自答してきた。ここ一カ月で自分の感情と向き合うことに冬馬は疲弊しきっていた。
この日冬馬は仕事が終わった後控え室にいた。普段は晴翔やラティーヌも一緒だが、この日2人はまだホールにいた。冬馬が帰り支度を整えていると、控え室のドアが開く。見ると雅が入ってくる所だった。4人でいる事は増えたが雅と2人っきりというのは何となく冬馬を落ち着かない気分にさせた。
「あっ、冬馬さんお疲れ様です。」
「あぁ、お疲れ。」
屈託のない笑顔で挨拶をする雅に冬馬も笑顔で返す。
「・・・。」
「•••。」
しかし、その後の会話が続かず、2人の間に無言が続く。すると、雅が言いにくそうに口を開いた。
「あのー、冬馬さんってラティーヌさんの事が好きなんですか?」
その質問に冬馬は目を丸くする。
「あっ!ごめんなさい。急にこんな失礼な質問をしてしまって。でも、僕ラティーヌさんが、その、気になってて・・・でももし、冬馬さんとラティーヌさんがそういう関係なら僕は諦めるしかないと思って•••」
顔を真っ赤にしながら冬馬に言う雅は誰がどう見ても可愛らしい。そんな雅を直視出来ず目線を逸らしながら冬馬が答える。
「いや、栄さんに言われて一緒に住んでるけど、別にそういう関係とかではないよ。」
そう言いながら、何となく冬馬は罪悪感を感じていた。
「そうですか。よかったー。あっ!でもラティーヌさんは冬馬さんの事大好きですよね?」
ラティーヌは冬馬が好きなことを周りに隠そうとしないので、雅が知っているのは仕方のない事だった。
「もし、冬馬さんがその気持ちに応える気がないのなら、僕に協力してくれませんか?」
「はっ?協力?」
雅の急な提案に冬馬の頭がついていかない。
「いや、すみません。変な事言ってるのは分かってるんですけど•••でも、冬馬さんもラティーヌさんの気持ちに応えられないのに、いつまでも好意を持たれるのは大変だと思うんです。ラティーヌさんだってずっと片思いし続けるのはしんどいと思うし。ラティーヌさんの気持ちを思うと、何だかすごく可哀想で・・・」
その雅の言葉に冬馬は動揺を隠せない。自分が煮え切らない態度を取るせいで、ラティーヌを振り回している事を冬馬自身が十分理解しているからだ。「いや、でも・・・」
「僕だったら、ラティーヌさんに悲しい思いや苦しい思いをさせません。本当にラティーヌさんが好きだと胸を張って言えます。だから冬馬さん、ラティーヌさんの事何とも思ってないなら、ラティーヌさんの為にも僕に協力して下さい。」
痛い•••胸が痛い•••
雅の言葉に冬馬は無意識に手で胸を押さえる。自分がラティーヌに対して出来ないと悩んでいることを、雅はいとも簡単に出来るという。その事に少なからずショックを受けた。本当は協力なんてしたくない。しかし、冬馬自身いつまでも煮え切らないままラティーヌの好意を受け続けるのはしんどいし、何よりラティーヌの事で悩むことに冬馬は疲れていた。冬馬は雅の顔を見る。少し赤くなった顔で口を引き結び、真剣な表情で自分の答えを待っている。
雅の方がいいかもしれないな•••
いつまでも答えが出せない自分より目の前にいるラティーヌを心から愛してる男の方がラティーヌは幸せになれる気がした。
冬馬は自嘲気味に一度笑うと、
「あぁ、わかった。」
と短く返事をした。途端にパァっと顔が明るくなり、雅は冬馬に抱きついてくる。
「冬馬さん!嬉しい。ありがとうございます!」
抱きついてきた雅の体は女性のような甘い香りがした。
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