せっかく異世界から帰ってきたのに、これじゃあ意味がない

乙藤 詩

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四十二話

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クロノがラティーヌに事の成り行きを説明しようとした時、栄と晴翔も遅れながら雅の別荘に到着した。
「どういうことだ?これは。」
ガクガクと震える尊。下着をつけず床に転がった雅。ラティーヌのコートを掛けられ気を失っている冬馬。知らない男と対峙しているラティーヌ。そのどれもが栄の頭を混乱させた。
しかし、冬馬の状態を見て、冬馬が何をされていたのかは何となく想像ができ、栄は目を釣り上げた。
晴翔も冬馬の姿を見て、両手を口に当てると、涙を流し始めた。
「丁度よかったです。私もコイツに何故こんな事になったのか話を聞くところだったので。」
底冷えするような低い声を出して、ラティーヌが振り向く事なく2人に言う。
「なんだよ。お前1人じゃないの?ったくめんどくせえな。」
クロノが頭をボリボリと掻きながら特に悪びれる様子もなく言い放つ。
その様子に栄が片眉を上げた。
「てめぇは勝手に話すんじゃねえよ。俺の質問だけに答えろ。」
聞いた事のないようなラティーヌの口調に晴翔がビクッと体震わせる。ラティーヌの怒りがビリビリと体に伝わってくるようだった。
クロノはそんなラティーヌの態度にも怯む事なく、一度肩を竦めるとはいはいと適当に返事をした。
雅が冬馬に語った内容を今度はクロノがラティーヌに話す。その話を静かに聞いていたラティーヌだが、全部聞き終える頃には怒りで体が沸騰しそうだった。少しでも職場で雅を受け入れていた自分が許せなかった。
少しの沈黙の後、急に雅が笑い始めた。
「はははっ!そんな真剣な顔して。たががこんな男1人に何必死になってんのさ。大した男でもないくせに、僕のプライドを傷つけようとするからこんな目に遭うんだよ。」
余りの雅の暴言にラティーヌはカッと目を見開いた。わなわなと拳が震えこのままでは雅を殺してしまいそうだった。
「このクソ野郎!」
ラティーヌが拳を振り上げようとした時横から晴翔が雅を殴りつけた。普段温厚な晴翔の暴挙にラティーヌは少なからず驚きを見せた。
「くそっくそっ!こんな奴を俺は信じて・・・冬馬をまた危険な目に・・・ふざけるな。冬馬はお前がこんなことしていい男じゃないんだよ!」
泣きながら、顔をグシャグシャにしながら、晴翔は雅に馬乗りになりひたすら殴り続けた。
雅の口が切れ、鼻血が出る。それでも晴翔は殴るのを辞めなかった。
「ごめっ!もうやめて!」
雅が自分の顔を庇いながら必死に懇願する。段々と雅の抵抗が弱まった頃、ラティーヌは晴翔の腕を掴んで止めに入った。
「う“ぅぅぅー」
晴翔はラティーヌに腕を持たれたまま泣き崩れた。晴翔の怒りを前にラティーヌは少し冷静さを取り戻した。
「異世界とか女神とかマジで意味がわからんが、それは取り敢えず置いといて、警察に連絡するか?」
栄がクロノの話を聞いて混乱したようにラティーヌに提案すると、ラティーヌは首を横に振った。
「いえ、警察に連絡したら、冬馬も話を聞かれるでしょう。それは避けたいです。それに警察も全部の話は信じないでしょう。」
ラティーヌは栄の提案を軽く否定した。
冬馬のされたことを思うとラティーヌの心は張り裂けそうなくらい痛んだ。冬馬の体には性的な痕跡だけでなく、殴られたような痣も複数見られた。事切れたように眠る冬馬を見て、ラティーヌはその眼差しをスーッと尊に移動させた。ラティーヌの冷ややかな視線を受けて、尊の体が大袈裟なくらい跳ねる。
「いや、俺はこいつらにやらされていただけで。」
此処にきて、尊は見苦しい言い訳を始める。そんな尊に栄も黙っていなかった。
「散々迷惑かけて、その言い訳は何だ?覚悟はできてんだろうな。尊。」
栄の言葉に尊は顔を真っ青にした。
「こいつだけは警察に突き出します。」
ラティーヌが白けたように言うと、栄が首を縦に振った。
「待ってくれよ。栄さん。俺、また頑張るからさ。頼むから見捨てないでくれよ。」
見苦しく栄の足に縋って頼み込む尊を冷めた目で栄が見下ろし、払いのけるように足を振った。
「ぐえっ!」
栄の足に飛ばされた尊が変な声を上げて床に転がった。その時突然、尊の周りに円陣が出来、そこが光り始めた。
「はっ?えっ?」
あまりの現象に尊が惚けた声を出す。ブワッと光が強くなると、そこから風が吹き上がり尊の髪を揺らした。
「まさか・・・」
クロノとラティーヌには心当たりがあるのか、驚いたように尊を見つめる。
「僕も・・・僕も連れてってー!」
突然雅が上に乗っていた晴翔を押し退けて走るとその円陣の中に飛び込んだ。その直後一気に部屋全体が青白く光る。
冬馬を除いた3人は激しい眩しさに思わず目を瞑る。
シーン・・・
一気に静まりかえる部屋ラティーヌ達が目を開けると、そこに雅と尊の姿はなかった。
「おい、こりゃどういうことだ?」
さっきから訳のわからない事を聞かされたり見たりした栄が困惑した声を上げる。
「まさか異世界に飛ばされたのか?」
クロノの言葉にラティーヌも同意せざるを得なかった。
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