せっかく異世界から帰ってきたのに、これじゃあ意味がない

乙藤 詩

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四十四話

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「本当にそんな奴を栄さんの家に住まわすつもりですか?」
栄の車に乗り込み大事そうに冬馬を抱えたラティーヌが鋭い視線で栄に話かける。
冬馬は少し目を覚ましたものの疲れ切っていたようで車に乗り込むとまた直ぐに寝息を立て始めた。見たところ、そこまで重症な傷はなさそうで、そのことだけはラティーヌを安心させた。しかし所々に散らばるアザや傷跡は痛々しい。本人は重い体を引きずりながら
「大丈夫だ。」
と気丈に衣服を身につけたりしていたが、おそらく精神的なダメージも相当なものだということは容易に想像できた。その原因の1人でもあるクロノを栄が助けたことにラティーヌは不満を隠せなかった。
「仕方ねぇだろ。こいつを野放しにしてまた他人様に迷惑かけちゃ堪らないし。こいうい馬鹿は手元に置いとくのが1番安心だ。監視にもなるしな。」
栄の言葉を聞いてもラティーヌには納得いかなかった。更にラティーヌが詰め寄ろうとすると、栄が静かに口を開いた。
「俺もこいつのことは許せないが、でもお前を見てると、コイツも変われるかもって思っちまったんだよ。」
栄の言う事にラティーヌが目を見開いた。確かに自分もクロノと同じような事をして、冬馬に拒絶されたが、栄や晴翔が認めてくれたことで今こうして此処にいる事が出来ていた。その話をされるとラティーヌも反論できなくなってしまった。
クロノはそんな2人の話を聞いているのかいないのか、窓枠に肘をついてひたすら外の景色を眺めていた。
晴翔は珍しく泣いたり怒ったりしたためか、疲れ果てて、栄の助手席に乗り込むなり直ぐに寝てしまった。口には出さないが、晴翔自身も自分が雅を信頼してしまったことを強く後悔しており、心に傷を負っていることは傍目から見ても一目瞭然だった。
「先に冬馬とお前を送っていくぞ。お前ももう冬馬の家に戻るだろ?」
ラティーヌが晴翔の家に転がり込んでいる事をどこで知ったのか、当たり前のように栄がラティーヌに聞いた。
「はい。よろしくお願いします。」
一言返すと、それっきり車内は静まり返った。クロノはわからないが、車内はそれぞれの後悔で溢れかえっていた。
雅や尊を店で雇った栄。雅を信用してしまった晴翔。冬馬のことを冷たく突き放してしまったラティーヌ。そして自分の気持ちに素直になれなかった冬馬。それぞれの後悔を抱えて車は真っ暗な夜の道を静かに走り続けた。
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