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混沌を極める2学期
百九話
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帰り道、正木と寮までの道を歩きながら姫川は柏木の事を考えた。
姫川にとって柏木は元々友人でもなんでもない。どちらかというと煩わしい存在だし、今などは怖くて、出来れば関わり合いたくもない。
歳明治の話を聞いて、少しは同情もするがそれ以上柏木に何かしてやりたいと思う気持ちはなかった。
むしろこのまま無かったことにして平穏に卒業までの時間を過ごしたい。
しかし正木はどうだろうと姫川は自分の隣を歩いている男を見た。
正木は先程からずっと何かを考え込んでいるようだった。
正木だって柏木に裏切られた事には変わりないが、それでも姫川よりはずっと親密だったので思うところがあるのだろう。
姫川は敢えてそんな様子の正木に声を掛けることはせず、ただ隣に寄り添うように黙って歩くしかなかった。
「じゃあ、また明日。」
「あぁ。」
無言のまま寮に着き、短い会話の後それぞれの部屋に入る。
その後、姫川はテストの為に勉強しようと机にノートを広げたが、集中することは出来なかった。
それから暫く経って、姫川の部屋の扉をコンコンと叩く音が聞こえた。
晩御飯を食べた後、また勉強道具を机に広げたままボーッとしていた姫川はゆっくりとドアの方へ顔を向けた。
「姫川、まだ起きてるか?」
正木の声がドア越しに聞こえる。
姫川は返事の代わりに立ち上がると直ぐに部屋のドアを開けた。
「あぁ、でもこんな遅い時間にどうしたんだ?」
時計の針は23時を回ったところだった。普段なら考えられない時間の訪問に姫川も首を傾げる。
「いや、今日聞いた葵の話が頭から離れなくて・・・。お前は葵に酷いことをされたし、こんな事を相談するのは間違ってるとは思うんだけど、どうしても一人じゃ煮詰まって答えが出ないんだ。」
バツが悪そうにそう言う正木にやはりそうかという思いが湧いた。
姫川はこれから正木がどんな話をするのか想像して、緊張で心臓が音をたてた。
「話を聞くくらいなら構わない。此処に座ってくれ。」
先程まで勉強道具を広げていた場所へと正木を誘導し、2人でソファへと腰掛けた。
「それで?相談って何だ?」
「あー、うーん、そうだな・・・」
いつになく歯切れの悪い正木だが、姫川は急かすことなく話の続きを待つ。
「葵が俺たちにしたことは許される事ではないし、今でも腹が立って仕方がない。でも、歳明治の話を聞いて、本当にこのまま葵を放っといていいのか分からなくなったんだ。」
正木はそう言うと一度言葉を切り俯いた。そして再び口を開く。
「あの事件の後、俺が葵を教師に突き出す前にあいつ俺に言ったんだ。親父の力を借りるのだけは絶対に嫌だって。それだけあいつも歳明治の事を恨んでるってことだろ?でもあいつは本当の事をまだ知らない。全部の事情を知らずに親父さんを恨んでいるんだ。そんな状態で放置して終わりでいいのかって。今、あいつを放置したら、あいつは闇を抱えたまま一生生きていかないといけない。それはあまりにも残酷だと俺は思ったんだ。」
姫川は正木の話を聞いて思わず額に手を当てた。
正木の言いたいことは十分理解出来たし、柏木を救ってあげたいと思う正木の優しさもわかる。
しかし、姫川の気持ちはそれとは裏腹に2度と柏木と関わりたくないと思ってしまう。柏木にされた事を考えるとどうしても正木のように考えることは出来なかった。
「それは、柏木を探して話をするということか?」
姫川の問いかけに正木が首を縦に振る。
「あぁ、出来れば歳明治も一緒に親子で話ができる場を設けられたらと思っている。」
「そうか・・・」
それ以上の返事を姫川はする事が出来なかった。
「悪い・・・やっぱり気分悪いよなこんな話。葵のこと考えるだけでまだしんどいだろうし、そんな奴を助けたいだなんて・・・すまない。今の話は忘れてくれ。」
正木はそう言うと静かに立ち上がり部屋を後にした。
その間姫川は正木に声を掛けることが出来なかった。
姫川にとって柏木は元々友人でもなんでもない。どちらかというと煩わしい存在だし、今などは怖くて、出来れば関わり合いたくもない。
歳明治の話を聞いて、少しは同情もするがそれ以上柏木に何かしてやりたいと思う気持ちはなかった。
むしろこのまま無かったことにして平穏に卒業までの時間を過ごしたい。
しかし正木はどうだろうと姫川は自分の隣を歩いている男を見た。
正木は先程からずっと何かを考え込んでいるようだった。
正木だって柏木に裏切られた事には変わりないが、それでも姫川よりはずっと親密だったので思うところがあるのだろう。
姫川は敢えてそんな様子の正木に声を掛けることはせず、ただ隣に寄り添うように黙って歩くしかなかった。
「じゃあ、また明日。」
「あぁ。」
無言のまま寮に着き、短い会話の後それぞれの部屋に入る。
その後、姫川はテストの為に勉強しようと机にノートを広げたが、集中することは出来なかった。
それから暫く経って、姫川の部屋の扉をコンコンと叩く音が聞こえた。
晩御飯を食べた後、また勉強道具を机に広げたままボーッとしていた姫川はゆっくりとドアの方へ顔を向けた。
「姫川、まだ起きてるか?」
正木の声がドア越しに聞こえる。
姫川は返事の代わりに立ち上がると直ぐに部屋のドアを開けた。
「あぁ、でもこんな遅い時間にどうしたんだ?」
時計の針は23時を回ったところだった。普段なら考えられない時間の訪問に姫川も首を傾げる。
「いや、今日聞いた葵の話が頭から離れなくて・・・。お前は葵に酷いことをされたし、こんな事を相談するのは間違ってるとは思うんだけど、どうしても一人じゃ煮詰まって答えが出ないんだ。」
バツが悪そうにそう言う正木にやはりそうかという思いが湧いた。
姫川はこれから正木がどんな話をするのか想像して、緊張で心臓が音をたてた。
「話を聞くくらいなら構わない。此処に座ってくれ。」
先程まで勉強道具を広げていた場所へと正木を誘導し、2人でソファへと腰掛けた。
「それで?相談って何だ?」
「あー、うーん、そうだな・・・」
いつになく歯切れの悪い正木だが、姫川は急かすことなく話の続きを待つ。
「葵が俺たちにしたことは許される事ではないし、今でも腹が立って仕方がない。でも、歳明治の話を聞いて、本当にこのまま葵を放っといていいのか分からなくなったんだ。」
正木はそう言うと一度言葉を切り俯いた。そして再び口を開く。
「あの事件の後、俺が葵を教師に突き出す前にあいつ俺に言ったんだ。親父の力を借りるのだけは絶対に嫌だって。それだけあいつも歳明治の事を恨んでるってことだろ?でもあいつは本当の事をまだ知らない。全部の事情を知らずに親父さんを恨んでいるんだ。そんな状態で放置して終わりでいいのかって。今、あいつを放置したら、あいつは闇を抱えたまま一生生きていかないといけない。それはあまりにも残酷だと俺は思ったんだ。」
姫川は正木の話を聞いて思わず額に手を当てた。
正木の言いたいことは十分理解出来たし、柏木を救ってあげたいと思う正木の優しさもわかる。
しかし、姫川の気持ちはそれとは裏腹に2度と柏木と関わりたくないと思ってしまう。柏木にされた事を考えるとどうしても正木のように考えることは出来なかった。
「それは、柏木を探して話をするということか?」
姫川の問いかけに正木が首を縦に振る。
「あぁ、出来れば歳明治も一緒に親子で話ができる場を設けられたらと思っている。」
「そうか・・・」
それ以上の返事を姫川はする事が出来なかった。
「悪い・・・やっぱり気分悪いよなこんな話。葵のこと考えるだけでまだしんどいだろうし、そんな奴を助けたいだなんて・・・すまない。今の話は忘れてくれ。」
正木はそう言うと静かに立ち上がり部屋を後にした。
その間姫川は正木に声を掛けることが出来なかった。
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