スペーストレイン[カージマー18]

瀬戸 生駒

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第3章「小惑星パラス」

臨検

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 !!!

 それまで流れていた緩い空気が一変する。
「リンドバーグ!」
 っち。失言だ。
 俺はガキを呼び寄せ、頭を1発殴った。
「だから名前をでっち上げるんならポチでもタマでも、テキトーなのにしとけって言ったんだ!
 ほら。軍人さんが困ってるぞ!」
 その様子にグラント軍曹から溜息が漏れる。
「あぁ、あっちのリンドバーグ。自称がつく方のリンドバーグ様か」
「ああ。自称リンドバーグ様だ」
 殴られたガキが不満そうな表情を浮かべるが、バカな名前を名乗ったコイツの自業自得だ。今度は謝らないぞ。
 パラスにとってリンドバーグ家とは、小惑星を狙っている仮想敵の筆頭だ。

 そんなことをやっている間にも、軍曹の元には通信が集まってくる。
 かすかに漏れる声に耳を澄ませる。
『C1削岩機。Lライト。クリア!』『C2同じく。Lライト。クリア』『C3番同じく』
『C9粘土ブロック。Lによれば発破で間違いないでしょう。成分分析します』
『C10同じく。成分を確認します』
 ……?
 うん?
「間違いないって何だ? 発破だけじゃねえ、削岩機の方もだ!」
 軍人というのは、役人の中でももっとも正直な部類に入る。
 数字をごまかせば、場合によっては部隊の全滅、最悪のときは国家が滅びるから。
 ただ、バカ正直に過ぎても不利益が生まれるから、略称や符丁を多用するが、少し話せば見当はつく。
「C」はカーゴだろうが「L」とは? それで間違いがないというのは?
「何だ? って、積み荷情報オープンにして飛んでたんじゃないのか、アンタら。
 リストが先に届いていたから勝手にやらせてもらっている」
「どこのバカがそんなマネするか!」
「てっきり、最近はこういうのが流行っているのかと思ったぞ」
 そういうと、俺の怒声をかわして、真顔で尋ねてきた。
「削岩機はともかく、発破は信管さえあれば使えるな?」
「信管挿して爆発しなかったらただの粘土だ。
 そんなモンに大枚はたいてトレイン飛ばす酔狂なヤツがいるなら紹介してくれ。次から上客にする」
 軍曹は鼻で笑ったあと再び真剣な顔に戻った。
「悪いが、物が物で時期が時期だ。宇宙港では軍の桟橋に入ってもらう」
 俺はまた舌打ちをした。
 何かがおかしい。

 軍曹は機関士席に座ると、伍長に顔を向けた。
 席は総て埋まってしまった。では、彼はどこにいてもらうべきか?
 目で問う軍曹に、俺は捨て鉢に応えた。
「ああ。伍長が変な趣味を持っていないんなら、壁際のどこにいてもらっていい。
 趣味人なら……ガキの後ろ以外のどこでも、だ」
 吹き出すグラント軍曹にフーバー伍長は口をとがらせて言った。
「5年間はストライクゾーンを外れています。低めも低め、ワンバウンドですよ」
「だとよ、ダンナ?」

 あえてフレンドリーに振る舞おうと繕う2人に、俺は真顔で尋ねた。
「あのボートを動かしていたのは誰だ?
 アンタだったら舵を預けてもいい。別人だったらアンタはナビゲートだ」
 軍曹は肩をすくめて言った。
「残念ながら専従の操舵士がいて、ボートの中だ。舵はアンタが執ってくれ」
 俺は何度目かの舌打ちをした。

 とはいえ、これからほとんど一日顔を合わせておいて、ギスギスしているのもつまらないし、さっきから感じる違和感の正体、あるいは目星くらいはつけられないだろうか?
 俺が考えているのを知ってか知らずか、ガキが脳天気に、ストレートに尋ねた。
「なんでそんなにピリピリしてるん?」

 軍曹は目を閉じて間を置き、どう表現すべきか、だれに応えるべきかを考えていたようだが、独り言を装って語り始めた。
「パラスも、少し前までは暢気なコロニーだったが、最近はデモやストが頻発しててな。
 テロの不安も出てきたところに、発破を積んだアンタらの船が来るんだ。
 そりゃぁ、上もピリピリもするさ。
 信心深い奴らなんて、神様に事故を祈ってたほどだ」
「アンタは信仰を持たないのか?」
 俺の問いに、軍曹は相好を崩した。
「どこかで落としたのか拾い損ねたのか、残念ながらな。
 むしろ船乗りとしては、神様よりシップクルーの方を信じている。
 俺もフーバー伍長も、見張りを兼ねた事故予防のお守りだと思ってくれ」
 ……なるほどな。
 軍曹達が乗っていなければ、「不慮の事故」もあり得たって事か。
「強力なお守りだな。頼りにしてるぜ」
「一本線に星2つの頼りないお守りだ。期待しすぎないでくれ」
 二人して顔を見合わせ、同時に失笑を漏らした。

 舵は俺が執るとは言ったが、桟橋への最終ラインはグラント軍曹に任せることにした。
 下手な動きを咎められて、なんならでっち上げの難癖をつけられて宇宙港に留め置かれたのでは、何のための寄港かわからない。
 その点、身内であるグラント軍曹の操船なら、文句はつけられないだろう。
「さすがに年の功だな、ダンナ。隙がない」
 俺の内心を見透かして苦笑するグラント軍曹に、こちらは感心混じりに呟いた。
「あんたの腕もたいしたもんだ。トレインなんざ飛ばすこともないだろうし、それも後ろ向きでこの操船だ。
 アンタがよかったら、この船の機関士にスカウトしたいくらいだ」
「ありがたい。退役後の人生計画の候補に入れておくよ」
「バカヤロウ。アンタの退役より、俺が人生を退役するのが早そうだ」
 自嘲気味に言う俺に、軍曹は親指をガキに向けて言った。
「あのリンドバーグ様、船長様の退役には間に合うと思うぜ」
「伍長じゃなくて、アンタの方が趣味人だったか」
 そういうと、お互いに声を上げて笑い合った。
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