33 / 53
第4章 「木星」
プロポーズ
しおりを挟む
さらに6週間が過ぎて、船が木星の方向を向いた。
レーダーにも、木星が確認できる。
「惑星」とはよく言ったもので、レーダー上の木星は右から左へと動き、レーダーの左端あたりに行ったところから、今度は左から右へと動き始めた。
木星を示す光点がレーダーの中央に止まったところで、ぴったり遭遇できる……はずだった。
『2番スラスター、エンプティ。チャージしてください』
コンピュータのアナウンスに、俺たちは息をのんだ。
そういえば、ガキはオートパイロットのトレースに、俺の「操船」だけを入力した。
つまり、スラスターを噴く出力と時間だけ。
が、実際にはスラスター剤の片減りを防ぐため、スラスター噴射のあとにはスラスターリングをローテーションする。
その入力を完全に失念していたようだ。
ペーパー航海士のバージンフリートの限界が、ここで露呈した。
俺にしても、スラスターリングのローテーションは食後に歯磨きガムを噛むようなもので、身体が覚えてしまっている。
特別なこと、言わなければ忘れることなどとの意識すらしていない。
ガキが蒼白になった顔を、はじめて見た。
俺と目が合うと、はっ! と我に返ったように、ライトスーツに手を伸ばした。
「私、スラスター剤の交換してくる!」
「バカヤロウ! スラスター剤の予備なんて積んでないだろう!」
「やから……スラスター剤のカートリッジを1番か3番から抜いて、2番に詰め直す!」
俺は思わず苦笑が漏れた。
「落ち着け。真空無重力でスラスターカートリッジの交換なんて、やったこともないだろう」
「けど……私のせいやし……私が行かんかったらおっちゃんが行くつもりやろ!」
「ははははは」
俺の上げた笑い声に、ガキは信じられないものを見るような目で、俺を見た。
「2番が死んだだけだろう。ローテーションで位置をずらしたら、4番が使える。
1周にスラスターカートリッジ3つなら、残り半周くらいはどうとでもなる」
言われてガキは安堵の溜息をついて、小さく呟いた。
「……ごめん」
とは言っても。
確認しておく必要がある。
木星と遭遇して……遭遇自体は、今となっては間違いないが、そのあとの細かいプランを俺は聞かされていない。
「まず、後ろから木星を追いかける軌道をとって、相対速度40snくらいで木星の重力圏に入るやろ?
んで、スイングバイの応用で、かすめるように木星に近づいて、できるだけ中心から直角に出るねん」
なるほど。
通常のスイングバイでは、重力の影響を最大限得られるように中心を目指して飛び、そこから外周をなでるように、重力の影響を最小にして、さらに遠心力ももらって加速を得るが、その逆をやろうって言う算段か。
「航路の誤差とかもあるけど、それで15snから25snくらいに落とせる……と思う。
あとは、木星の衛星は69もあるから、どれかで同じ事したら10sn以下には確実に落とせる。
木星の重力圏はアホほど広いから、衛星で何度かやったらほとんど止まれるし……確実なんは、木星のリングに突っ込んだら確実に止まれる」
「オーケイ、最後以外は納得した。
木星のリングは磁気嵐の中にあって、そこで止まれても船から出たとたん、電子レンジの中のチキンと友達になっちまう」
俺がそう言うと、またガキは顔を青ざめさせた。
スラスター剤の失敗で、完全に自信を失ってしまっている。
「要は、リングに突っ込む前に止めればいい……というか、多少の無理はするが止められる!」
ガキはようやく安堵の表情を浮かべた。
……とは言っても。
俺の計画では、最悪というか、かなり高い確率でミサイルが飛んでくる。
ただ、今それをガキに言うと、たぶん精神が保たない。
詳細は時期を見てだな。
「おっちゃん、黙ってどうしたん?」
…………っち。
「あー。ちょっとな」
「やっぱりヤバいん? ……ホンマ、ごめん」
俺は大げさにかぶりを振った。
「ああ。オマエのことを考えたら頭が痛い」
「……ホンマのホンマにゴメン!」
涙さえ浮かべるガキに、俺は思わず吹きだした。
「俺が頭を悩ませているのは航路の話じゃない。オマエだ」
「え?」
きょとんとするガキに、俺は噛んで含めるように言った。
「オマエが『リンドバーグ』なんて名乗ってるから……パラスでさえグラント達がああだったんだぞ」
そう。パラスにとってリンドバーグ家とは仮想敵の筆頭で、グラント軍曹達は名前だけで身構えた。
「木星でそんな名前名乗ったら、不敬罪で八つ裂きにされるか、勘違いで祭り上げられたあとでバレて……やっぱり八つ裂きだな。
まあ、勘違いされている間は美味い物も食えるだろうから、結果が同じならあとの方がマシか……」
「最後の晩餐ゆーやつ?」
「それで、だ。しばらくは俺の『クワジマ』を名乗らせようかとな」
俺がそういうと、ガキは左手をこちらに伸ばし、指も伸ばして手の甲を見せた。
「なんだ?」
「プロポーズやろ? 『俺の姓に入ってくれ』って。緊急事態やし、特別に妥協してあげる」
「バッ、バカヤロウ! 20年早い! それとも『ケイ=ポチ』とか『ケイ=タマ』にしてやろうか!」
俺が怒鳴ると、ガキはようやく声を上げて笑い出した。
…………だがな。
俺だって全くの朴念仁じゃない。
維持には失敗したが、一応結婚の経験もある。
ガキの冗談が……あの手の冗談は、決して好意を持たない相手に使われないことくらいはわかる。
むしろ、わかっていないのはガキの方だ。
異性として俺を見ているのか、父親代わりとして俺を見ているのかの区別ができていない。
だからこそ、区別のつく俺がけじめをつけなければならない。
「ま。どこかのバカがそんなリスキーな名前で登録してしまってるんで、船の照会をされたら一発だがな。
もっとも、俺がつけいるチャンスも、そこがキモなんだが」
「え?」
戸惑うガキに、今度は俺が笑いを浴びせた。
「問答無用でミサイルが来たらそれまでだ。
切り抜けられたら、その時に種明かしをしてやる」
そう言って煙に巻いた。
◇ ◇ ◇ ◇
それから3週間。
木星はレーダーの中央にあり、大赤斑も目視できる距離となった。
相対速度差は39snほどで、カージマーは木星の公転を斜め後方から追いかける軌道を取っている。
そろそろか。
俺はガキに強く言った。
「俺が必要なデータを求めたら5分以内に応えられるように覚悟しとけ。
それで俺のやろうとしていることがわかったら、カウントダウンを始めろ!」
ガキがゴクンと生唾を飲む。
と……言葉の共有が必要だ。
「中央コンソールから見て俺が『0時』、正面が『6時』。オマエの側に90度が『3時方向』で反対側が『9時』。間違えるなよ!」
カージマーというかDD51型そのものは弾丸型というか、船首から見ると円形だ。
そして、スラスターを支える支柱は船体を一巡りするリングから伸びていて、リングごとリボルバーの弾倉のように回転する。
特定のスラスターを「1番」とか「2番」とすると、リングを回したときに誤認が起きかねない。
通常航海時は問題にもならないというか、ディスプレイに表示されているナンバーを見れば間違えようがないが、これから曲芸じみたルートをとるつもりだ。
それも、惑星間航行の4倍という速度で、つまり時間の余裕は4分の1になる。
とっさの誤認、あるいは誤認防止のために視線を動かしただけで脇見事故につながりかねない。
木星に69個ある衛星とそれに貼りつくように回るコロニー、さらに木星のリングや船を勘案するなら、いくら木星の重力圏が大きいといっても高密度だ。
ましてこちらは、ただでさえ小回りのきかないトレインで、しかもスイングバイのため、わざわざ衛星をかすめる軌道をとろうとしている。
コロニーへの衝突軌道と見なされれば、問答無用で自衛のためのミサイルが来る。
そんな事態を避けるための方法は、航海士教本の一番最初に書いてある。
『早め早めの判断と操作』しかない。
もちろん、カーゴはパージする。
が、「今」ではない。
たとえ生き残れたとしても、コロニーを狙ったテロではなく「事故」だと証明できなければ、俺たちはテロリストとして拷問を受け、その後は「世代間宇宙船」で銀河の果てに飛ばされる。
それを回避するための「言い訳」には、相手に見える場所でカーゴをパージし、「事故を防ごうとした」というアピールが求められる。
幸か不幸か、拿捕さえしてもらえればセンサーやジャイロがおかしくなっていることも、スラスターが1器使い物にならないことも立証できる。
そう。俺の目論見は「船を止める」ことではなく、軍か警察に拿捕してもらい、相手の船に乗り移ることだ。
最低限、それができれば生き延びられるし、証拠としてこの船も拿捕した側が止めてくれるだろう。
「だろう」とは楽観的に過ぎるかもしれないが、希望の1つや2つくらい持っていい……というか、持たないとメンタルが耐えられない。
「木星の北極方向から垂直に突入する。180度回ったところでエスケープ。
270度方向に脱出して木星衛星の公転平面に乗せる」
俺の言葉にガキは3Dモニターを見ながら手元のキーボードを叩き、ルートを算出した。
「270度」とか「180度」というのは難しそうに聞こえるかもしれないが、実際にコンピュータに入力するときは、なまじ「右から」「上へ」なんて言われて数字に変換するより楽だし、間違いもない。
「X軸とY軸はわかったけど、Z軸はどうするん?」
問うガキに、俺はムリして笑顔を作って応えた。
「ガリレオ衛星はコロニーや船が多いから避けろ。
それさえ避けられたら……そうだな。適当な衛星をオマエが見繕ってカウントしろ。
4時から8時の間なら行ける。
そこでもう一度スイングバイをかけたらゴールは見える。
今度はガリレオ衛星に近づくコースで、木星からは十分な距離をとれ」
木星の巨大重力は岩でできた衛星、たとえばイオですら歪ませる。
その重力を利用して減速を試みるが、突入時に引っ張られすぎると、速度を失ったこの船が脱出できる保証はない。
木星圏でもっとも危険な天体は、木星そのものだ。
レーダーにも、木星が確認できる。
「惑星」とはよく言ったもので、レーダー上の木星は右から左へと動き、レーダーの左端あたりに行ったところから、今度は左から右へと動き始めた。
木星を示す光点がレーダーの中央に止まったところで、ぴったり遭遇できる……はずだった。
『2番スラスター、エンプティ。チャージしてください』
コンピュータのアナウンスに、俺たちは息をのんだ。
そういえば、ガキはオートパイロットのトレースに、俺の「操船」だけを入力した。
つまり、スラスターを噴く出力と時間だけ。
が、実際にはスラスター剤の片減りを防ぐため、スラスター噴射のあとにはスラスターリングをローテーションする。
その入力を完全に失念していたようだ。
ペーパー航海士のバージンフリートの限界が、ここで露呈した。
俺にしても、スラスターリングのローテーションは食後に歯磨きガムを噛むようなもので、身体が覚えてしまっている。
特別なこと、言わなければ忘れることなどとの意識すらしていない。
ガキが蒼白になった顔を、はじめて見た。
俺と目が合うと、はっ! と我に返ったように、ライトスーツに手を伸ばした。
「私、スラスター剤の交換してくる!」
「バカヤロウ! スラスター剤の予備なんて積んでないだろう!」
「やから……スラスター剤のカートリッジを1番か3番から抜いて、2番に詰め直す!」
俺は思わず苦笑が漏れた。
「落ち着け。真空無重力でスラスターカートリッジの交換なんて、やったこともないだろう」
「けど……私のせいやし……私が行かんかったらおっちゃんが行くつもりやろ!」
「ははははは」
俺の上げた笑い声に、ガキは信じられないものを見るような目で、俺を見た。
「2番が死んだだけだろう。ローテーションで位置をずらしたら、4番が使える。
1周にスラスターカートリッジ3つなら、残り半周くらいはどうとでもなる」
言われてガキは安堵の溜息をついて、小さく呟いた。
「……ごめん」
とは言っても。
確認しておく必要がある。
木星と遭遇して……遭遇自体は、今となっては間違いないが、そのあとの細かいプランを俺は聞かされていない。
「まず、後ろから木星を追いかける軌道をとって、相対速度40snくらいで木星の重力圏に入るやろ?
んで、スイングバイの応用で、かすめるように木星に近づいて、できるだけ中心から直角に出るねん」
なるほど。
通常のスイングバイでは、重力の影響を最大限得られるように中心を目指して飛び、そこから外周をなでるように、重力の影響を最小にして、さらに遠心力ももらって加速を得るが、その逆をやろうって言う算段か。
「航路の誤差とかもあるけど、それで15snから25snくらいに落とせる……と思う。
あとは、木星の衛星は69もあるから、どれかで同じ事したら10sn以下には確実に落とせる。
木星の重力圏はアホほど広いから、衛星で何度かやったらほとんど止まれるし……確実なんは、木星のリングに突っ込んだら確実に止まれる」
「オーケイ、最後以外は納得した。
木星のリングは磁気嵐の中にあって、そこで止まれても船から出たとたん、電子レンジの中のチキンと友達になっちまう」
俺がそう言うと、またガキは顔を青ざめさせた。
スラスター剤の失敗で、完全に自信を失ってしまっている。
「要は、リングに突っ込む前に止めればいい……というか、多少の無理はするが止められる!」
ガキはようやく安堵の表情を浮かべた。
……とは言っても。
俺の計画では、最悪というか、かなり高い確率でミサイルが飛んでくる。
ただ、今それをガキに言うと、たぶん精神が保たない。
詳細は時期を見てだな。
「おっちゃん、黙ってどうしたん?」
…………っち。
「あー。ちょっとな」
「やっぱりヤバいん? ……ホンマ、ごめん」
俺は大げさにかぶりを振った。
「ああ。オマエのことを考えたら頭が痛い」
「……ホンマのホンマにゴメン!」
涙さえ浮かべるガキに、俺は思わず吹きだした。
「俺が頭を悩ませているのは航路の話じゃない。オマエだ」
「え?」
きょとんとするガキに、俺は噛んで含めるように言った。
「オマエが『リンドバーグ』なんて名乗ってるから……パラスでさえグラント達がああだったんだぞ」
そう。パラスにとってリンドバーグ家とは仮想敵の筆頭で、グラント軍曹達は名前だけで身構えた。
「木星でそんな名前名乗ったら、不敬罪で八つ裂きにされるか、勘違いで祭り上げられたあとでバレて……やっぱり八つ裂きだな。
まあ、勘違いされている間は美味い物も食えるだろうから、結果が同じならあとの方がマシか……」
「最後の晩餐ゆーやつ?」
「それで、だ。しばらくは俺の『クワジマ』を名乗らせようかとな」
俺がそういうと、ガキは左手をこちらに伸ばし、指も伸ばして手の甲を見せた。
「なんだ?」
「プロポーズやろ? 『俺の姓に入ってくれ』って。緊急事態やし、特別に妥協してあげる」
「バッ、バカヤロウ! 20年早い! それとも『ケイ=ポチ』とか『ケイ=タマ』にしてやろうか!」
俺が怒鳴ると、ガキはようやく声を上げて笑い出した。
…………だがな。
俺だって全くの朴念仁じゃない。
維持には失敗したが、一応結婚の経験もある。
ガキの冗談が……あの手の冗談は、決して好意を持たない相手に使われないことくらいはわかる。
むしろ、わかっていないのはガキの方だ。
異性として俺を見ているのか、父親代わりとして俺を見ているのかの区別ができていない。
だからこそ、区別のつく俺がけじめをつけなければならない。
「ま。どこかのバカがそんなリスキーな名前で登録してしまってるんで、船の照会をされたら一発だがな。
もっとも、俺がつけいるチャンスも、そこがキモなんだが」
「え?」
戸惑うガキに、今度は俺が笑いを浴びせた。
「問答無用でミサイルが来たらそれまでだ。
切り抜けられたら、その時に種明かしをしてやる」
そう言って煙に巻いた。
◇ ◇ ◇ ◇
それから3週間。
木星はレーダーの中央にあり、大赤斑も目視できる距離となった。
相対速度差は39snほどで、カージマーは木星の公転を斜め後方から追いかける軌道を取っている。
そろそろか。
俺はガキに強く言った。
「俺が必要なデータを求めたら5分以内に応えられるように覚悟しとけ。
それで俺のやろうとしていることがわかったら、カウントダウンを始めろ!」
ガキがゴクンと生唾を飲む。
と……言葉の共有が必要だ。
「中央コンソールから見て俺が『0時』、正面が『6時』。オマエの側に90度が『3時方向』で反対側が『9時』。間違えるなよ!」
カージマーというかDD51型そのものは弾丸型というか、船首から見ると円形だ。
そして、スラスターを支える支柱は船体を一巡りするリングから伸びていて、リングごとリボルバーの弾倉のように回転する。
特定のスラスターを「1番」とか「2番」とすると、リングを回したときに誤認が起きかねない。
通常航海時は問題にもならないというか、ディスプレイに表示されているナンバーを見れば間違えようがないが、これから曲芸じみたルートをとるつもりだ。
それも、惑星間航行の4倍という速度で、つまり時間の余裕は4分の1になる。
とっさの誤認、あるいは誤認防止のために視線を動かしただけで脇見事故につながりかねない。
木星に69個ある衛星とそれに貼りつくように回るコロニー、さらに木星のリングや船を勘案するなら、いくら木星の重力圏が大きいといっても高密度だ。
ましてこちらは、ただでさえ小回りのきかないトレインで、しかもスイングバイのため、わざわざ衛星をかすめる軌道をとろうとしている。
コロニーへの衝突軌道と見なされれば、問答無用で自衛のためのミサイルが来る。
そんな事態を避けるための方法は、航海士教本の一番最初に書いてある。
『早め早めの判断と操作』しかない。
もちろん、カーゴはパージする。
が、「今」ではない。
たとえ生き残れたとしても、コロニーを狙ったテロではなく「事故」だと証明できなければ、俺たちはテロリストとして拷問を受け、その後は「世代間宇宙船」で銀河の果てに飛ばされる。
それを回避するための「言い訳」には、相手に見える場所でカーゴをパージし、「事故を防ごうとした」というアピールが求められる。
幸か不幸か、拿捕さえしてもらえればセンサーやジャイロがおかしくなっていることも、スラスターが1器使い物にならないことも立証できる。
そう。俺の目論見は「船を止める」ことではなく、軍か警察に拿捕してもらい、相手の船に乗り移ることだ。
最低限、それができれば生き延びられるし、証拠としてこの船も拿捕した側が止めてくれるだろう。
「だろう」とは楽観的に過ぎるかもしれないが、希望の1つや2つくらい持っていい……というか、持たないとメンタルが耐えられない。
「木星の北極方向から垂直に突入する。180度回ったところでエスケープ。
270度方向に脱出して木星衛星の公転平面に乗せる」
俺の言葉にガキは3Dモニターを見ながら手元のキーボードを叩き、ルートを算出した。
「270度」とか「180度」というのは難しそうに聞こえるかもしれないが、実際にコンピュータに入力するときは、なまじ「右から」「上へ」なんて言われて数字に変換するより楽だし、間違いもない。
「X軸とY軸はわかったけど、Z軸はどうするん?」
問うガキに、俺はムリして笑顔を作って応えた。
「ガリレオ衛星はコロニーや船が多いから避けろ。
それさえ避けられたら……そうだな。適当な衛星をオマエが見繕ってカウントしろ。
4時から8時の間なら行ける。
そこでもう一度スイングバイをかけたらゴールは見える。
今度はガリレオ衛星に近づくコースで、木星からは十分な距離をとれ」
木星の巨大重力は岩でできた衛星、たとえばイオですら歪ませる。
その重力を利用して減速を試みるが、突入時に引っ張られすぎると、速度を失ったこの船が脱出できる保証はない。
木星圏でもっとも危険な天体は、木星そのものだ。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる