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異世界編
アルゼの村防衛戦
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小屋に1度戻りたかったが、ロゼッタは村人を助けてと言った。正直言って、村人は俺にとっては大事な存在ではない。ただ師匠やエイダなど世話になった人や、うるさい奴だがギルのように親しくしてくれる人もいる。ここで恩を返しておく事は、必要に感じた。
「ユーゴ、お前ロゼちゃんどうしたんだ?」
ギルが聞いてきた。
「家で留守番だ」
「おいおい、大丈夫かよ。
あんな小さい子1人にして。
村に連れて来た方がいいんじゃないか」
「ロゼは皆を助けてほしいと言った。
しっかりした娘だ。
だから俺はちゃんと村を救ってから帰る。
あいつと約束したからな」
「いい子だなあ。
俺も娘が産みたくなってきたぜ」
とギルは言った。
「ああ。
だが産むのは、無事夜が明けてからにしてく れ」
「いや、突っ込めよ」
下らない事を、言いながら俺たちはまず柵の修繕に取り掛かっていた。壊されていたのは南側の柵だった。ゴブリンは、ここから侵入したらしい。柵なんて気休めでしかないが、何もしないよりは安心できた。
ゴブリン達は、夜行性だ。おまけに夜目がきく。夜は圧倒的に不利だ。ゴブリン達は、執念深い為、今日か明日には再び襲撃してくる可能性が高い。だからと言って、昼間に素人が森に入ってゴブリンの巣を見つけ、駆除するのはリスクが高い。仮に運良く見つけたとしても、巣に何百体とゴブリンがいると最悪返り討ちにあったり、取り逃がすとまた繁殖する事もある。こういうのは専門の冒険者に任せるのが一番良い。
今回は防衛戦だ。俺はあまり経験した事はない。俺に出来る事は3つだけだ。
1つは俺の前に来るゴブリンを殺す事だ。ただ懸念がある。魔物の方が、敵の強弱を見分ける目を持っている。俺に向かってくるゴブリンなどいないかもしれない。そうなると、かなり難しいように思えた。
もう1つは中級土属性魔術によるゴーレムの作成だ。俺は土魔術で粘性を持った土を生み出し、5体人形を作り上げた。人形は掌に乗るサイズで、自分で村の中を歩き出した。4体は村の広場の四方を守らせ、一体は一箇所に集まった村人を守らせるように作った。
「何だそりゃ」
と柵の修繕が一通り終わったギルが言った。
「ゴーレムだ。
夜までには、土や石を吸収してデカくなる」
「へえ、魔術師って何でも出来るのな」
俺たちは夜に備えて、少し休むことにした。俺は酒場のエイダの所に行き、2階の部屋を借りる事にした。ゴーレムを作成した事で、少し魔力を使ってしまった為、エイダに何かあったら起こすように頼み、俺は仮眠を取る事にした。
◇
目を覚ますと、夜だった。魔力は十分に回復している。エイダが起こしに来なかったと言う事はまだ襲撃はないのだろう。俺は酒場になってる、階下へ下りた。
「よく眠れたかい」
「ああ。
久々に真面目に魔術を使って疲れたみたい だ。まったく年には勝てないな」
「アンタ、私より若いでしょ。
喧嘩売ってんの」
エイダが本気で怒りそうだ。エイダは綺麗だしモテるが、年齢には過敏に反応した。冗談のつもりだったのだが。
「わ、悪かった。そういうつもりじゃ無かった んだ」
肝が冷える思いだった。寝起きは最悪だ。
「冗談よ。
それより何か食べる?」
「あ、ああ、軽くつまめる物とエールを頼む」
俺は緊張を和らげる為、酒も頼んだ。戦いの前は、飲めるときはいつも軽く飲むようにしている。緊張しすぎると動きが堅くなる、エールを飲む事でいい緊張感が保てるような気がした。ジンクスというやつだ。
「アンタ、勇者なんでしょ」
「元勇者だ、今は勇者じゃない。
ただの父親だ」
「じゃあ尚更だ。
今日教会で子供が死んでるのを見た。その子の親も。口に出したくもないけど、弄ばれた後があった。あんな事あって言い訳がない。
私はもう子供が死ぬのは見たくない。
どうかこの村を、救って下さい。
勇者様」
エイダは感極まったのか、涙ぐんでいた。何か過去にあったのかもしれないが、俺には知る由もない。そう言えば、ロゼの事も可愛がってくれていた。じゃあ、俺は期待に応えてやるだけだ。
「ああ、必ず守ってみせる」
俺は食事を済ませ、酒場を出た。広場には村中から人が集まっていた。広場は灯火で明るい。村長や師匠、ギル、酒場から遅れて出てきたエイダ、ハンターのドーラたちも揃った。
俺の作ったゴーレムは3m近くの巨体になっていた。こいつはゴブリンが何体組み付こうが、倒されないだろうが、敏捷性は低くゴブリンの速度には追いつけない。居ないよりはマシという程度だ。だが村人には安心感を与えたようで、ゴーレムの後ろに集まっていた。村長もゴーレムにべったりだ。
「今から、ゴブリンからの防衛作戦を開始す る。作戦は今から夜明けまでだ。ゴブリンの習性上、今日の夜明けまで襲撃の可能性が高い。
まずユーゴのゴーレムが広場の四方でゴブリ ンの襲撃に備えている。俺やユーゴ、ハンターの皆はゴーレムを盾に、ゴブリンの進行から守る。もし俺たちが守ってる場所とは違う方向からゴブリンが来たら、誰でもいい俺たちに伝えてくれ。
戦えない人はここでゴーレムと一緒に集まっ ていてくれ。なるべく皆離れないように。
司祭様は皆を守ってください」
ギルは村の衛兵らしく、防衛作戦について村人に説明した。
「ユーゴ、頼む」
「ああ。
オーバーレイ」
俺は最後にギルに相談していた通り、光魔術で光球を作り出し、村上空へ打ち上げた。光球は空に薄く広がっていった。上級光属性魔術オーバーレイ、今回は魔術で上空から地面を照らし続けるだけだ。村全体が明るければ、奇襲対策になるはずだ。村人たちにも安心感を与えたようだ。
実際には広範囲だと威力は落ちるが、本気を出せば村ごとドロドロに溶かす事も可能だ。
◇
ゴブリンは、夜明け前になって来た。普通は皆寝静まってる時間だ。早起きのロゼもまだ寝てるだろう。もう今日の襲撃はないだろうと油断していた。俺はゴブリンが前日に襲撃した南側を守っていた。
「ユーゴ、北、北側からゴブリンが」
エイダは走って、伝えに来た。
「クソ、逆かよ」
北側から来たと言う事は、ドーラたちとゴーレムは抜かれてしまったのだろう。俺は広場の北側へ走った。広場ではゴブリンが村人を襲おうとしていたが、ゴーレムが意外と役に立っていた。ゴブリン達を、まとめてなぎ払い、その重量から繰り出される打撃は一撃でゴブリンを絶命させる。師匠は初級光属性魔術シャイニングアローでゴブリンと戦っていた。光の矢はゴブリンの身体を焼き貫く。俺の出番は正直無かった。
「案外余裕だったな」
エイダに呼ばれて東側から駆けつけたギルが言った。ドーラも広場に戻ってきて、戦いに加わっている。
「油断するな。
逃したら、また村を襲われる。
今回で禍根を断つんだ」
俺も戦いに加わり、村に現れたゴブリンは倒す事が出来た。ゴブリンの死体は広場に数十体倒れている。戦いが終わった頃には、怪我人は出たが、奇跡的に死者は出なかった。俺はロゼとの約束を守れたと思いひとまず安心した。
◇
お父さんは夜になっても、帰ってこなかった。私は心配になり、迎えに行こうかと思ったが、外は暗く1人で行くのは躊躇われた。夜の森は暗く、ほとんど光源が無かった。私は諦めて、今日は寝ることにした。明日朝早くに、お父さんを迎えに行こうと思った。
朝早くに起きると、森の木々が揺れる音や急いで走る足音が複数聞こえた。お父さん達かもしれないと思い、私は小屋の玄関を開けた。森の木々の間を分け入ってまるで逃げるように、ゴブリンの集団がいた。朝とはいえまだ暗く、見えにくいが、他のゴブリンとは違い、一際大きなゴブリンが先導していた。ゴブリンは村の方向から北方の森深くへと消えていった。
「ユーゴ、お前ロゼちゃんどうしたんだ?」
ギルが聞いてきた。
「家で留守番だ」
「おいおい、大丈夫かよ。
あんな小さい子1人にして。
村に連れて来た方がいいんじゃないか」
「ロゼは皆を助けてほしいと言った。
しっかりした娘だ。
だから俺はちゃんと村を救ってから帰る。
あいつと約束したからな」
「いい子だなあ。
俺も娘が産みたくなってきたぜ」
とギルは言った。
「ああ。
だが産むのは、無事夜が明けてからにしてく れ」
「いや、突っ込めよ」
下らない事を、言いながら俺たちはまず柵の修繕に取り掛かっていた。壊されていたのは南側の柵だった。ゴブリンは、ここから侵入したらしい。柵なんて気休めでしかないが、何もしないよりは安心できた。
ゴブリン達は、夜行性だ。おまけに夜目がきく。夜は圧倒的に不利だ。ゴブリン達は、執念深い為、今日か明日には再び襲撃してくる可能性が高い。だからと言って、昼間に素人が森に入ってゴブリンの巣を見つけ、駆除するのはリスクが高い。仮に運良く見つけたとしても、巣に何百体とゴブリンがいると最悪返り討ちにあったり、取り逃がすとまた繁殖する事もある。こういうのは専門の冒険者に任せるのが一番良い。
今回は防衛戦だ。俺はあまり経験した事はない。俺に出来る事は3つだけだ。
1つは俺の前に来るゴブリンを殺す事だ。ただ懸念がある。魔物の方が、敵の強弱を見分ける目を持っている。俺に向かってくるゴブリンなどいないかもしれない。そうなると、かなり難しいように思えた。
もう1つは中級土属性魔術によるゴーレムの作成だ。俺は土魔術で粘性を持った土を生み出し、5体人形を作り上げた。人形は掌に乗るサイズで、自分で村の中を歩き出した。4体は村の広場の四方を守らせ、一体は一箇所に集まった村人を守らせるように作った。
「何だそりゃ」
と柵の修繕が一通り終わったギルが言った。
「ゴーレムだ。
夜までには、土や石を吸収してデカくなる」
「へえ、魔術師って何でも出来るのな」
俺たちは夜に備えて、少し休むことにした。俺は酒場のエイダの所に行き、2階の部屋を借りる事にした。ゴーレムを作成した事で、少し魔力を使ってしまった為、エイダに何かあったら起こすように頼み、俺は仮眠を取る事にした。
◇
目を覚ますと、夜だった。魔力は十分に回復している。エイダが起こしに来なかったと言う事はまだ襲撃はないのだろう。俺は酒場になってる、階下へ下りた。
「よく眠れたかい」
「ああ。
久々に真面目に魔術を使って疲れたみたい だ。まったく年には勝てないな」
「アンタ、私より若いでしょ。
喧嘩売ってんの」
エイダが本気で怒りそうだ。エイダは綺麗だしモテるが、年齢には過敏に反応した。冗談のつもりだったのだが。
「わ、悪かった。そういうつもりじゃ無かった んだ」
肝が冷える思いだった。寝起きは最悪だ。
「冗談よ。
それより何か食べる?」
「あ、ああ、軽くつまめる物とエールを頼む」
俺は緊張を和らげる為、酒も頼んだ。戦いの前は、飲めるときはいつも軽く飲むようにしている。緊張しすぎると動きが堅くなる、エールを飲む事でいい緊張感が保てるような気がした。ジンクスというやつだ。
「アンタ、勇者なんでしょ」
「元勇者だ、今は勇者じゃない。
ただの父親だ」
「じゃあ尚更だ。
今日教会で子供が死んでるのを見た。その子の親も。口に出したくもないけど、弄ばれた後があった。あんな事あって言い訳がない。
私はもう子供が死ぬのは見たくない。
どうかこの村を、救って下さい。
勇者様」
エイダは感極まったのか、涙ぐんでいた。何か過去にあったのかもしれないが、俺には知る由もない。そう言えば、ロゼの事も可愛がってくれていた。じゃあ、俺は期待に応えてやるだけだ。
「ああ、必ず守ってみせる」
俺は食事を済ませ、酒場を出た。広場には村中から人が集まっていた。広場は灯火で明るい。村長や師匠、ギル、酒場から遅れて出てきたエイダ、ハンターのドーラたちも揃った。
俺の作ったゴーレムは3m近くの巨体になっていた。こいつはゴブリンが何体組み付こうが、倒されないだろうが、敏捷性は低くゴブリンの速度には追いつけない。居ないよりはマシという程度だ。だが村人には安心感を与えたようで、ゴーレムの後ろに集まっていた。村長もゴーレムにべったりだ。
「今から、ゴブリンからの防衛作戦を開始す る。作戦は今から夜明けまでだ。ゴブリンの習性上、今日の夜明けまで襲撃の可能性が高い。
まずユーゴのゴーレムが広場の四方でゴブリ ンの襲撃に備えている。俺やユーゴ、ハンターの皆はゴーレムを盾に、ゴブリンの進行から守る。もし俺たちが守ってる場所とは違う方向からゴブリンが来たら、誰でもいい俺たちに伝えてくれ。
戦えない人はここでゴーレムと一緒に集まっ ていてくれ。なるべく皆離れないように。
司祭様は皆を守ってください」
ギルは村の衛兵らしく、防衛作戦について村人に説明した。
「ユーゴ、頼む」
「ああ。
オーバーレイ」
俺は最後にギルに相談していた通り、光魔術で光球を作り出し、村上空へ打ち上げた。光球は空に薄く広がっていった。上級光属性魔術オーバーレイ、今回は魔術で上空から地面を照らし続けるだけだ。村全体が明るければ、奇襲対策になるはずだ。村人たちにも安心感を与えたようだ。
実際には広範囲だと威力は落ちるが、本気を出せば村ごとドロドロに溶かす事も可能だ。
◇
ゴブリンは、夜明け前になって来た。普通は皆寝静まってる時間だ。早起きのロゼもまだ寝てるだろう。もう今日の襲撃はないだろうと油断していた。俺はゴブリンが前日に襲撃した南側を守っていた。
「ユーゴ、北、北側からゴブリンが」
エイダは走って、伝えに来た。
「クソ、逆かよ」
北側から来たと言う事は、ドーラたちとゴーレムは抜かれてしまったのだろう。俺は広場の北側へ走った。広場ではゴブリンが村人を襲おうとしていたが、ゴーレムが意外と役に立っていた。ゴブリン達を、まとめてなぎ払い、その重量から繰り出される打撃は一撃でゴブリンを絶命させる。師匠は初級光属性魔術シャイニングアローでゴブリンと戦っていた。光の矢はゴブリンの身体を焼き貫く。俺の出番は正直無かった。
「案外余裕だったな」
エイダに呼ばれて東側から駆けつけたギルが言った。ドーラも広場に戻ってきて、戦いに加わっている。
「油断するな。
逃したら、また村を襲われる。
今回で禍根を断つんだ」
俺も戦いに加わり、村に現れたゴブリンは倒す事が出来た。ゴブリンの死体は広場に数十体倒れている。戦いが終わった頃には、怪我人は出たが、奇跡的に死者は出なかった。俺はロゼとの約束を守れたと思いひとまず安心した。
◇
お父さんは夜になっても、帰ってこなかった。私は心配になり、迎えに行こうかと思ったが、外は暗く1人で行くのは躊躇われた。夜の森は暗く、ほとんど光源が無かった。私は諦めて、今日は寝ることにした。明日朝早くに、お父さんを迎えに行こうと思った。
朝早くに起きると、森の木々が揺れる音や急いで走る足音が複数聞こえた。お父さん達かもしれないと思い、私は小屋の玄関を開けた。森の木々の間を分け入ってまるで逃げるように、ゴブリンの集団がいた。朝とはいえまだ暗く、見えにくいが、他のゴブリンとは違い、一際大きなゴブリンが先導していた。ゴブリンは村の方向から北方の森深くへと消えていった。
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