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異世界編

パーティー

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 ユーゴに見捨てられてしまった。何か嫌われることでもしてしまったのだろうか。無茶をして愛想をつかされたのか。思えば、私は前世でも、お父さんとの仲は良くなかった。帰りは遅いし、全然私と話してくれなかった。嫌な記憶がクルクルと、私の頭に浮かんだ。

 まあ、悲劇のヒロインに浸るのはここまでだ。切り替えて行こう。今の私がやらなければいけない事は、パーティーを作ることだ。何としても、このチャンスを生かさなければ、次はいつ来るか分からない。それにライルなんかに舐められたままなのは癪だった。

 私はギルド内を一望する。冒険者のパーティーは数組いる。奥のテーブルにはフードを目深にかぶった男性がエールを飲んでる。ちょっと怪しい。私は近くの冒険者パーティーに話しかけてみることにした。

「あの、私とパーティーを組んでもらえません か?」

「嫌だね。ガキのおもりをしながら、仕事なん て命がいくつあっても足りねえ」
まだ一言しか喋ってないのに、断られてしまった。

「あの、私に出来る事なら、何でもしますから。水属性と風属性の魔術なら多少できます。アルティナまでの護衛の仕事なんです」
私は負けじと食い下がってみる。

「駄目だと言ってるだろ。
 魔術師ならあいにく間に合ってるんだよ。それにさっき冒険者登録してたのを見てたぞ。F級なんざと組んでも、こっちが損するだけだ。もし依頼に失敗したら、信用もなくなるしな」

「そこを何とか。
 雑用でも何でもやります」
私は頭を下げてお願いしてみた。

「しつこいぞ、クソガキ!
 いい加減にしねえとぶっ飛ばすぞ!
 俺たちはここにダンジョン探索に来てるんだよ。護衛の仕事なんざ、アルティナに戻るときにでも、あれば受ける程度の物だ。実入りも少ねえ。そんなもんの為に、パーティーの時間を割く余裕はねえよ。こっちはお遊びでやってんじゃねえんだよ」
正論だった。ちょっと胸が痛い。私はトボトボとその場を離れ、滲んだ視界をギュッと閉じて冒険者ギルドを後にした。少し頭を冷やそう。







「お前何してんだ」
とデュランが話しかけて来た。

「何って今、娘が成長する姿を観察していると ころだ。邪魔すんなよ」

「今のお前すごい怪しいぞ」
俺はロゼと別れ、ギルドを出ていくふりをして、奥でフードを被って目元まで隠してエールを飲んでいた。ロゼがギルドから出ていくのを見て、追いかけようとした際に、デュランと出くわした。俺は奴を振り切って、ロゼを追うことにする。

「待てよ。俺も行く、何か面白そうだ」

「お前、ギルドに用があったんじゃねえのかよ」

「大した用じゃない。
 それにしばらく、俺らのところは休みにした から、良いんだよ。そう何時までもダンジョンなんかに潜ってられるかよ。それよりどういう状況だよ?」

 こいつ大して関係ない癖に、意地でも介入する気かよ。せっかくロゼの珍しく困ってる姿が、見られるというのに。仕方ないか。

「今日娘が、冒険者デビューしたんだよ。
 それで今パーティーを探してるところだ。
 さっきパーティーに入れてもらおうとしたが、怒鳴られて断られたとこだ」

 まあロゼは涙脆いし、良心が傷まんでもないが、あんなのは冒険者に限らず良くある事だ。

「お前が組んでやればいいじゃないか」

「それじゃあ、あいつの為にならないと思うん だよ。あいつ自身で選んだ道なんだ。困った時には 手助けしてやるが、あいつが自分で解決する機会を奪っちゃいけない」

 俺があいつなら少なくとも、そうしてほしいと思う。







 酒場に向かいながら、私の気持ちは少し落ち着いてきていた。最初から上手くいかないのは当たり前だ。まずパーティーに話しかけたのは良くなかった。私の今回の目的は、4人パーティーを作ることだ。次は1人1人に声を掛けてみよう。

 そうと決まれば、私は頬を両手で叩き、嫌な考えを吹き飛ばした。

 あとは話しかけ方だ。緊張からか、今更だけど少し挙動不審だった気がする。明るく、笑顔で話しかけてみよう。その方がきっと、相手も警戒しないはずだ。

 私は酒場の前に着いた。昔から慣れ親しんだ場所だ。村に来ると、たいていここで食事を摂り、泊まる。私は一度深呼吸をして、酒場に入る。すると、酒場からは怒鳴り声が聞こえた。

「おい魔人!
 お前人族の村で何やってんだよ。ここはお前みたいな奴が居る場所じゃないんだよ。出ていけ!」
と修道服を着た少年が、頭に2本の角の生えた青年に言っていた。ギルが2人の間に仲裁に入ろうとしている。この人は本当に、いつも酒場に居るなあ。

「まあ落ち着けよ、ブラザー。静かに飯食ってるだけだろ」

 魔人は1人でテーブルに座り、パンやスープなど質素な食事を食べていた。

「うるさい、お前には関係ないだろ。
 こいつとパーティーを組んだことのある奴が大怪我を負ったり、死んだやつが何人もいるんだ」

「俺は…何もしていない。一緒に依頼を…こなしただけだ」

「信じられるか。魔族のくせに」
 どうやら修道服の少年は魔族に対する差別意識があるようだ。今までは見たことがなかったし、私には縁のないものだった。前にユーゴからは魔族には角がある者が多いと聞いた事があった。魔人の青年は長身でヒョロっとしており、こめかみから数cm程度の角が2本生えている。肌はやや青白い色をしている。

「分かった…出ていく」

 青年はそれだけ言うと出ていこうとした。ギルは何か声を掛けようとしている。

「出ていく必要なんてないよ」
と私は声を掛けた。

「誰だお前は?子供が出しゃばるなよ」
「私は冒険者のロゼッタです。
 弱い者いじめ何て、修道士のする事じゃな  い」
私は青年を守るように立った。

「フレア様は仰られている。魔族は魔物と同じ で、人族の敵であると。お前も人族の敵なの か」

「私はこの人の味方なだけです」
修道士に言った。

「そこまでだ。
 俺は衛兵だ。これ以上、この酒場で騒ぐなら、俺が相手になるぞ」

「そうだぜ。喧嘩ならもっと派手にやれよ」

 ギルや冒険者たちが止めてくれる。ここにはフレアの信徒は少ないようだ。まあ一部騒動を煽るような声もあったが。

「異教徒共め。
 貴様らにはいずれフレア様の天罰が下るぞ」
と言って、修道士の少年は出ていった。

「あなた大丈夫?」
私は魔人の青年に声をかけた。彼は無表情だった。私はなるべく笑顔を作り、警戒を解こうと努力する。出来てるだろうか。

「すまない。迷惑をかけたな」
と言って、酒場を出ていこうとする。

「あ、待って。
 あなた、私とパーティーを組んでくれない」
私は笑顔を作って頼んでみた。

「あ…ああ。」
 やった意外とあっさりオッケーがもらえた。初めてのパーティーメンバー獲得成功だ。笑顔作戦の大勝利だった。何故か怯えているようにも見えるが、やった。

「ロゼちゃん、ずっと見てたけど、大人をいじめるのは良くないよ」
 茶化すような声色だが、何て人聞きの悪い。私は少し打算はあったけど、彼を心配して行動したのに。声の主は、デュランのパーティーの双剣士のリリーだった。収穫祭からもう4年は経っており、少女だった彼女も、大人っぽくなっていた。酒場などで会えば、挨拶もしていた。

「いじめてないです。私今日から冒険者になったので、パーティーを組みたいんです。リリーさんも良かったらどうですか?」
だめ元でお願いしてみる。デュラン商会のメンバーだから無理なのは承知だ。

「うーん、どうしよっかな。
 ロゼちゃんが可愛くお願いしてくれたら、考 えてもいいよ」
と無茶振りをしてくる。可愛くってどうしたらいいのだろう。うーん。

「リリーさんが隣にいると安心する。ずっと一 緒にいてもいい?」
と言って、腕にしがみついてみた。こんな感じかな。

「ずっと一緒にいようね。ロゼちゃん」
と言って、私を抱きしめてきた。これはオッケーという事なのだろうか。中々私は解放されず、しばらくリリーの抱擁が続いた。
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