花間の高手

きりしま つかさ

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第0042話 生まれ変わり

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どこにいても、生まれ持った美しさが林雪珊を注目の中心に押し上げる。

特に男性からの視線は熱い。

その傍らで控える秋羽は、その輝きに比べて影薄く映えた。

ある男の嫉妬が芽生え、秋羽の粗布ジャンパーに冷たい眼差しを投げかける。

内心では「あの田舎者め、何だか運が良かっただろ?こんな美女と一緒なんて……」と罵声を浴びせた。

秋羽はその嘲讽的な視線を感じ取ったが、表情を変えずにいた。

「どうでもいいけど、触るなよ。

それだけだ」という言外のメッセージを放ちながら。

林雪珊は優しい人物で、秋羽の田舎っぽさに距離を置くこともなく、「弟とショッピング」のようにそのまま男性コーナーへ向かった。

十数人の販売員は二十代前半の女性ばかり。

白い短袖シャツを黒パンツにインし、ネックレスで華やかさを演出。

細腰が強調され、全体的に見栄えの良いプロフェッショナルな姿だった。

林雪珊のようなファッションアイコンと田舎少年が並ぶ光景に、販売員たちは首を傾げた。

「一体何ごと?」

という好奇心で二人を見つめる。

秋羽は藍白ストライプのTシャツ、少しフィットしたデニムパンツ、メッシュスニーカーを選んだ。

林雪珊が「試着室へ行ってサイズ確認して」と促すと、秋羽は驚きを隠せない様子で「本当に僕のために?」

と尋ねた。

林雪珊は微笑んで「当然だよ。

それこそ何のためかしら」と返した。

秋羽は心から「さーんちゃん、本当によかった!」

と感謝の言葉を述べた。

「お待ちなさい……」と林雪珊が呼び止めた瞬間、販売員の一人が近づいてきた。

「何かご用ですか?」

林雪珊は秋羽の方に指差し、「あの子に一箱の綿製ソックスと……内着も二枚」と頼んだ。

最後は声をひそめて「履き心地の良い、通気性のいいもので」と続けた。

頬が赤らまり、頬まで染まる様子が可愛らしい。

販売員は一瞬驚いたがすぐに悟り、「分かりました」と笑顔で答えた。

「サイズは?ブランドは?」

と尋ねると、林雪珊は「分からないのでお任せして。

とにかく着心地の良いもので」と付け加えた。

販売員は頷き、指示通りに商品を準備しに行った。

彼女は内心で「この二人は何者だろう……」と不思議そうに首を傾げていた。



秋羽はその会話を全て聞き取り、雪珊姐の心配りに胸が熱くなった。

彼女は本当に些細なことまで考慮する人物だ。

売り場のスタッフが田舎の少年の体型を測ると、奥へと向かい一束の靴下とショートパンツを持って戻ってきた。

別のスタッフと共に秋羽を試着室の前まで案内し、手渡されたバッグ類を相手に「おやじさん、中でお召し替えください」と優しく促す。

「はい」

秋羽が荷物を持ちながらドアを開けると、室内は狭く正面に鏡があった。

彼は隣の低い棚に荷物を置き、着替え作業を始めた。

間もなく試着室の戸が開き、秋羽が出てきた瞬間に雪珊姐とスタッフたちが目を見張った。

思わず口走る言葉「人は服馬は鞍」が脳裏を駆け巡る。

間違いなく、秋羽が雪珊姐が厳選したこのコーディネートに身を包むと、彼の印象は一変した。

合体感のある品のある服装で、以前の田舎っぽさは影も形もなく、スマートな若者へと生まれ変わった。

人々の視線の変化を感じ取った秋羽がため息をついた。

「なるほど、都会の人たちは服にこだわるんだね。

着るものって本当に大事なんだ」

右手に余分な靴下やパンツ、そして着替え前の衣服を持ちながら、彼はそう呟く。

雪珊姐の視線が向けられた瞬間、「お見事! かっこいい子になったわ」とほめ言葉が口をついた。

秋羽が笑みを浮かべると白い歯が覗いた。

「これはすべて雪珊姐のお陰です。

選んでいただいた服と靴は本当に私に合っています」

「誉めてばかりじゃ困るわ、次はスポーツウェアも買ってあげよう」

「いいえ、これで十分です。

それにバッグの中にも私の旧衣服があるんです。

それがあれば十分でしょう」

雪珊姐が驚きの表情を浮かべた。

「そうなの? あの古着をまとめて持ってきたの?」

「ええ、服だけじゃなく靴も全て保管しました」秋羽は当然のことのように答えた。

雪珊姐はため息混じりに笑ったが、その顔色が急に変わった。

腰を曲げて苦しそうに手を当てた瞬間、隣から優しい手が伸びてきた。

秋羽はさっと悟った。

雪珊姐の痛経が始まったのだ。

彼は昨日と同じように右手を差し出すと、温かい気流が雪珊姐体内へと流れ込んだ。

正午の日光が氷河に当たるような感覚で、痛みが和らいだ。

「雪珊姐、体調不良だから帰宅すべきです。

もうこれで十分でしょう」

「でも……おやじさんの服はまだ買い足し中よ」

「急かす必要はないわ。

私は制服もあるの。

それで十分」

雪珊姐の眉間から徐々に緊張が解けた。

「そうね、次回にするわ。

帰ろう」

秋羽が笑みを浮かべる。

「でも痛み止めのために手を繋いで歩くしかないわ」

腹痛が緩和されると雪珊姐はその少年への信頼感が増した。

頬を染めながらうなずき、抵抗しなかった。

秋羽の掌に包まれた柔らかな手の感触に喜びが込み上げる。

二人は来た道を戻り始めた。

スタッフたちの驚愕の視線が向けられた。

この若者と女性の関係性は一体何なのか? その謎めいた光景が彼らの興味を引きつけていた。



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